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13 ER 常連さん

このところ、いそがしくて全く更新できませんでした。

大変申し訳ないです。

 今日はER、と言われて納得したのは、今朝ERの前の駐車場を通ったから。

 朝6時過ぎだって言うのにその駐車場にはもの凄い数の車が並んでいて、なんとなく嫌な予感はしていたんだよね。

 持っていたランチバッグをブレイク・ルーム(休憩室)において、中身を冷蔵庫に入れてから処置室の方へいくと、目の前にあるスクリーンには3人の患者がいることを示している。

 「もう3人もいるの?」

 「おはよう、チカ。そう、でも1人は書類にサインをもらえば帰るから、実質は2人ね」

 夜勤のナース、ジェーンがそう言いながら、あたしに処置室8を指差してくる。

 何かあたしに見せたいものでもあるんだろうか、そう思いながら部屋を覗くと・・・

 「げっっ、彼女、また来たの?」

 そこにいたのは常連さんと言われているミセス・スミス。

 月に1回はこうやってERにやってくる.それもいつもたいした症状でもないくせに。

 「それで、今日は何だって?」

 「え〜っとなんだったっけ? ・・・そうそう、マイグレイン(頭痛)だったかな?」 

 なるほどね〜、頭痛だったら、レントゲンを撮られることはないし。CTキャットスキャンをして何もでなくても、別におかしくないからねぇ・・・

 「色々と考えてくるみたいだね」

 「そうね。少なくとも腹痛だけは言わないみたいよ」

 「そりゃそうじゃない。だって、ここに朝ご飯食べにきてるようなものなんだから」

 2ヶ月ほど前にここに来た時の、ERに来た理由が腹痛だった。それで、いつものように朝ご飯をだせと要求してきたんだけど、ドクターに腹痛で来ている患者に物を食べさせるわけにはいかないって言われて、すっごく怒っていたのを思い出した。

 「そんなに、病院ここのご飯って美味しいと思わないだけどな」

 思わずボソッというと、ジェーンが吹き出した。

 でもホントに、そんなに美味しいと思わないんだけど。

 「多分無料ただだからじゃないの? ほら、彼女、国の保険で治療費かからないから」

 「それにしても、物好きというか・・・そんなことであたしたちの税金、無駄遣いしてもらいたくないなぁ」

 彼女は、一応精神的に病んでいるということで、国の生活保護を受けている。

 だから、毎月国から生活費をもらって、病院で掛かる費用も国が払ってくれるから、気が向いた時にこうやってERにやってくる。

 「取りあえずドクがいいっていうから、朝食を頼んでおいたわよ」

 「ありがと.レギュラーダイエット?」

 「違う違う、カーディアック」

 「わざと?」

 「ドクがそう言ったから、そうしただけよ」

 そりゃ、わざとだ。

 カーディアック・ダイエットは心臓疾患患者専用の食事なので、塩味が薄い。というか、殆ど感じられないと文句を言う人がいるくらいの、超薄味。

 塩分は体内に水分を溜め込んでしまうので、心臓に負担が掛かるからそうなってしまうらしいんだけど。

 それにしても、塩味大好きのミセス・スミスには嫌みのようなメニューだ。

 とはいえ、今回来た理由がマイグレインだから、仕方ないとも言えるかもしれない。

 だって、マイグレインも、塩分の取り過ぎが原因だと言われるものがあるから。

 でも、いつも何かと理由を付けて月に一度はやってくる彼女の体調その他をドクターが憶えていない訳はないだろうから、おそらくわざとそうしてわざわざここに朝ご飯を食べにこないようにしむけるつもりなんだと思う。

 「でもさ、彼女にはその手、効かないと思うんだけど? 腹痛だから朝ご飯は出さないって言われた時も超怒ってたけど、それでもすぐまた来たじゃない」

 「私もそう思うわよ。でも、ドクがそう言うんだもの」

 はいはい。ま、グッド・ラックってところかな。

 ここは超が付くような田舎にある総合病院だから、ホントに色々な患者がやってくる。

 それも、常連と呼ばれるような患者が・・・・

 結局、ミセス・スミスは朝ご飯を食べて少しして、帰らされていた。

 もちろん、痛み止めを欲しがっていたけど、ドクターは彼女には処方箋を渡さなかった。

 そりゃそうだろう。朝ご飯を食べにきていることも事実だけど、彼女が一番欲しがっていたのは、病院の処方箋がないと手に入らない鎮痛剤なんだから。

 私は試したことがない、というか試す気もないんだけど、病院で処方させる鎮痛剤とお酒を組み合わせると、とてもふわふわした気分になれるらしい。つまり、ドラッグとして使用しているってこと。

 もちろんドクターも彼女がそう言った使用をしているってことを知っているから、それが判っていて処方箋を渡す筈がない。

 そう言った患者には、赤いフラグが付いている。

 彼女みたいなある意味ドラッグ中毒者と言ってもいい人間や、手に入れたクスリを非合法で売る患者のデータには赤いフラグが付けられていて、手違いで処方箋を渡すことのないように病院側としても対処している。

 もし、それで暴れでもすれば、すぐにポリスに連絡をすることにもなっている。

 彼女は派手に罵声をとばして文句をいいながらも帰っていった。

 やれやれ、スタートが悪いなぁ・・・・


 そんなこんなしているうちにランチタイム。

 美味しく持ってきたランチを食べていると、どうも処置室の方が騒がしい。

 「ねぇ、なんかうるさくない?」

 「ん〜、そうだね。なにかあるのかな」

 一緒にランチを食べていたサリーが、あたしと同じように聞き耳を立てている。

 どうも怒鳴り声らしきものが聞こえてくるのだ。

 だけど、処置室からちょっと離れているから、話の内容までは聞き取れない。

 「ま、ご飯済んだから、様子を見に帰るかな」

 そう言って立ち上がるサリーに、あたしは手を振って送り出した。

 けど、本当に1分と経たないうちにサリーが戻ってくる。

 「何か忘れ物?」

 「違う違う、ちょっと心の準備をする時間をあげようと思って」

 あたしが心の準備をしなければいけないことがあるのか?

 「何の事?」

 「今来てる患者・・・ミスター・テイラー」

 「へっ・・・・って、あの、テイラー?」

 「そうそう」

 思わず、うへぇって顔をしてしまったのは見逃して欲しい。

 某有名なアメリカのシンガーと同姓同名、しかし全く似ても似つかない容貌と態度。

 それでも患者だから、文句は言えないんだけど・・・

 「で、今度は何しにきたの?」

 「チェスト・ペイン(心臓痛)、らしいよ」

 それを聞いて、あぁ、と納得する。

 確かにそれはあり得るのだ。彼はうちの心臓担当の先生が疾病持ちと診断した事があるから、あながち嘘とは言えない。

 「もちろん救急車で来たんだよね」

 「そう、ま、ゆっくり休んでから戻ってきてね〜」

 人ごとだと思って、サリーは手を振りながら戻っていく。

 なんか、急にご飯の味がしなくなった気がするのは、あたしの気持ちのせいだろうなぁ・・・・

 そう思いはするものの、いつまでもぐずぐずとここにいるわけにはいかない。

 あたしは気を取り直して、ランチを終わらせた。


 どうやら、ミスター・テイラーは処置室2にいるらしい。

 というのも、その前をリネンを抱えて歩いていると、本人から名前を呼ばれたからだ。

 いろいろな部署で働くあたしの事を憶えている患者さんは、意外と多い。

 もちろん憶えられて嬉しい患者さんもいるけど、私の名前なんて忘れてって思うような患者さんもいるわけで・・・もちろんミスター・テイラーは後者だ。

 「よぉ、チカ、久しぶりだねぇ」

 「ハロー、ミスター・テイラー。体調はどうですか?」

 「心臓がねぇ、痛いんだよ。年だから、もうだいぶ弱ってるらしいからね」

 「そうなんですか? じゃあ、あたしはこれを持っていかないといけないから」

 そう言ってとっとと会話を終わらせる。

 年だから、というミスター・テイラーがあたしより2歳だけ年が上だって言う事は憶えている。

 だから2歳年上のミスター・テイラーが年だから、という言い訳は受け入れたくない。

 なんだ、それ。じゃああたしも年だって言ってるのか?と絡みたくなる。

 ま、長時間話をする理由もないし、大体あたしは忙しいのだ。

 手にしているリネンを患者のいない部屋のキャビネットに入れていく。それから他にも備品をストックしないといけない。

 なぜかうちのERは、お昼御飯時から忙しくなる。

 それまでもぼちぼち忙しいんだけど、さぁご飯食べようって時間になると救急車が患者を運び込んでくるわ、待合室がそこそこ一杯になる程度の患者が待つわ、で大変なのだ。

 特に今日は日曜日。

 ということは、みんな朝の礼拝を終えてから、病院にやってくるという事で・・・・

 これもあたしのカルチャーショックの1つ。

 キリスト教信者が多いのは地域性もあるが、だからといって具合が悪くても日曜礼拝を欠かせないというのはいかがなものだろう。

 「何考えてんの?」

 「あ〜、サリー。今日は日曜日だったな〜って。礼拝が終わった時間だから、これからどんどん患者がくるんだと思ったら、途端に疲れちゃった」

 「あはは。何言ってるんだか。そんなの今更でしょ? 日曜日は礼拝に行ってからみんなここに来るのは今に始まった事じゃないしね」

 それがあたしには判らないんだよね。

 「でもさ、具合が悪いんだったら、礼拝に行かないでとっとと病院に行った方がいいと思うけど?」

 「クリスチャンはそうは考えないのよ。礼拝が大事なの」

 「あのさ・・・キリスト教って、みんなで分け与えなさいって教えてるんでしょ?」

 「そうね」

 「でもさ、いくらみんなで何でも分け与えなきゃいけないって言っても、病気まで分け与える必要はないと思うんだけど?」

 「あははっ、上手い事言うね、チカ」

 いや、別に受けを狙った訳じゃないんだけど。

 っていうか、クリスチャンに対して嫌味?

 「病院で働くまで知らなかったけど、日曜礼拝の方が病気より大切って言う考え方、あたしにはカルチャーショックだよ」

 「チカはブッディスト(仏教徒)だったっけ?」

 「あ〜・・・まぁね」

 ホントは神道なのだが、違うと言ってそれを説明するのもめんどくさいから、いつも仏教徒という事にしている。

 「ま、とにかく、あたしには病気でも礼拝に行くって言うのが判んない。だって、もしインフルエンザとかだったりして、それを押して礼拝に行ってみんなに移したらどうすんのよ。あたしだったら他の人に迷惑をかけたくないから、礼拝を取りやめて病院に行くんだけどなぁ」

 全くよく判らない。

 「そうだよね。でも、それがクリスチャンなのかもね」

 なんだかよく判らない理屈だけど、仕方ない。

 「そういえば、さっきジョーが探してたよ。チカの手伝いがいるんじゃないの?」

 「へっ、そう? じゃ、行かなくっちゃ」

 もっと早く言ってよ、と思うものの、無駄話をしていたのはあたしだから文句は言えない。

 仕方なくナースステーションに行くと、ジョーがあたしを見つけてすぐに手招きする。

 「チカ、ミスター・テイラーが呼んでたぞ」

 「えぇ〜、ジョーが行ってくれてもいいんだけど」

 「俺も忙しい」

 ばっさり切り捨てられて、仕方なく処置室2に向かう。

 コンコンと、ガラスドアを叩いて中に入ると、にこやかに笑うミスター・テイラー・・・・

 「何か用があるって聞いたんですけど?」

 「ああ、なんだったっけな」

 いつものやつだ。この人、用がなくても、ナースコールで人を呼ぶんだよねぇ。

 「そうそう、トイレに行きたいんだけど、歩けないんだよ。手伝って欲しいな」

 「そうですか? じゃあ、このジャグを使ってください。終わったら呼んでくださいね」

 そう言って手渡したのはプラスティック製の屎尿瓶。

 悪いけど、彼の手口は知り尽くしているから、手を貸す事はしない。

 入院となると、彼はよくこの手口で入ったばかりの女の子に手伝わせるのだ。屎尿瓶を使うのはいつもの事だけど、弱っているから自分で持てないと言って、女の子に持たせる。それも自分でできないから、とXXXを女の子に触らせて屎尿瓶に納めるのだ。

 あたしも初めての時はそのトリックに引っかかって、ナースに教えてもらうまで手伝っていた。

 あ〜、今思い出しても腹がたつっっ。

 あたしがERで働くのって、そんなに多くないんだけど、それでも毎回常連さんにかち合ってしまう。

 あたしのタイミングのせいか、それとも常連さんの訪問回数の多さのせいか・・・

 どっちにしてもめんどくさい事には変わりない。

 こんな風に1日に2人も常連が来る事は珍しいけど、それでも全くなかったってこともない訳で。

 どっと疲れを感じながら、あたしはミスター・テイラーがナースコールを押すのを外で待っていた。








 ここで完結と入れています。

 というのも、ちょっとこのところ忙しくてなかなか続きをアップする時間が取れなくて・・・なので一体いつ更新するのかという事になるよりは、取りあえず完結にして、時間のある時にぼちぼち話を書いていきたいな、と思っています。

 もともと1話完結形式を取っているので、それでも支障はでないと思います。

 申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

 そして、何か知りたい事や興味がある点があれば感想にでも書いて頂ければ、その辺りの体験談も書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

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