10-6
「おいおいおいおいっ、俺だけ強そうなのかよ!」
各個に攻撃され他の連中から互いに引き離される中、俺だけが一番強そうな相手なんだが?
唸りを上げて旋回するジェネラルのハルバードを棍で弾くように受け流す。その度に火花が散り、こっちの腕が衝撃で僅かながら痺れを起こした。
棍で何とか凌ぎつつ他の連中を見ると、シズネはアバドンが邪魔して来れず、リュナはスライムと共にアバドンへと立ち向かっている。奇声を叫んでいるからあれは特に何も考えていないな。
マステマ達は一度は分散させられたものの、流石と言うべきか既に連携を取りはじめている。もしかしたら助けに入ってくれるかもしれない。というか誰か助けに来てくれないと死ぬ。
インパクトの瞬間にハルバードが柄を中心にして回転し、俺の棍を刃と柄で挟んで絡め取っていく。
抵抗しても力負けすると判断して俺は棍から手を離し、収納ベルトから新たに盾と片手剣を取り出す。
ああ、クソッ。ステータス差もあるが、これはまたPL並の技量だな。それに戦いやすい人型ではあるが同サイズの分だけ分かりやすい緊張がある。見上げたりせず目の前に存在するせいで圧力が強い。
「くっ、面倒な!」
取り回しの悪い筈のハルバードを自由自在に振り回す技量はPLと比べても上の方に位置するだろう。盾で受け流しつつ懐に入るつもりだったが、回転するハルバードに牽制され機先を尽く潰されていく。
そもそも、攻撃が苛烈だ。気圧される。名前からして特別なんだろうが、それを考慮しなくともおかしい。
「なんなんだお前は?」
なんとなく。そう、なんとなくだが、奇妙な違和感を相手から感じる。最新のパワードスーツを着ているのに拘束されたまま走っていると言うか。押されている立場の俺が言うのもなんだが〈情報解析〉で分かるこいつのステータスと動きを見る限りもっと強くてもいい筈なのに。
加減、されている訳ではない。加減してくれた方が俺は嬉しいんだが、違う。なんか向こうの方に枷があるっぽい。
「……ああ、お前プリムラと一緒か」
こいつがもし元PLだとすると、天使が言うところの解脱をしかかっているのかもしれない。
理屈も原因も意味さえもどうでもいいが、決められた役割との齟齬が生まれ、せっかくの中ボススペックを発揮出来ないのではないだろうか。
この様子なら、隙を突くのは容易だ。いつの間にか部屋に入った時の通路が塞がれてはいたが、シズネやマステマ達のところに逃げ込める。
問題は戦闘中に解脱でもされたらたまったものではないのだが、プリムラの時のように下手な刺激を与えないよう注意すれば――
「がっ!?」
いきなりハルバードの勢いが増した。緩急の差を付けた攻撃ではなくスイッチで出力が切り替わったような変化だった。ギリギリで盾で受け止めたが、ノックバック効果があったらしく後ろに吹っ飛ばされる。
「ア、ガ、ギキ…………」
そしてジェネラルアバドンは呻きながら追撃を仕掛けて来た。苦しむか攻撃するかどっちかにしろよ。
俺はノックバックによる吹き飛ばしの勢いに逆らわず、踵を床に引っ掛けて背中から床に倒れる。鼻先ハルバードの刃が通過していった。
即座に床を転がるとすぐさまハルバードの石突がさっきまで俺のいた場所を貫いていく。
「ガアァァァァッ!」
「情緒不安定過ぎないか?!」
床から立ち上がるとジェネラルアバドンは蘭々と輝く双眸で俺を睨みつけ、今度は雄叫びを上げながらハルバードを振り回して来る。
それに伴い緑色の鎧のような甲皮が段々と赤くなり、大昔の勇気あるロボあたりが合体した時に口部分を覆う装甲のようなフェイスマスクが現れる。なんか、戦闘モードとかバーサーカーモードとかの名称が付きそうな状態になっている。
真紅に染まったそいつの攻撃はより激しくなり、俺は――元から防戦一方だった訳だが――肩や腕を切り裂かれていく。このままじゃ圧し負ける。いや、そんな事よりも気になる事がある。
「お前、その声は…………」
「オオォ、ガ、ガギギ、グウゥ――」
壊れたレコーダーみたいな声が段々とはっきりとしたものに変化していく。明瞭となる声、そして性質は真逆ではあるが技の中に残る癖。そんでもって嫌な予感だけは当たる俺の勘。
間違いない。こいつはあいつだあいつ。いるかもしれないとは頭の片隅程度のは思っていたが。
「ハッ、道理で。フラグどころか俺自身が地雷だったわけだ。なぁ――」
「グゥ、オオ――クゥーーーーッ!!」
「優等生ッ!!」
振り落ちてきた肉厚な刃に向けて渾身の一撃を叩き込む。
優等生もといカイト。〈オリンポス騎士団〉副団長様で地の魔王アスモデウス戦の時に死んだPL。
あいつは現実では俺とタカネ、シュウと腐れ縁だった。幼馴染と言ってもいい。だけど俺とあいつの接点は少なく、むしろタカネやシュウとの方が仲良かった。
自分で言うのもなんだが、俺は不良とまではいかないものの怠惰生活を送り青春時代を無為に過ごしていた自信がある。例え過去にタイムスリップしてもダラけるだろう。そんな俺とあいつは昔からソリが合わなかった。嫌われている自覚もあった。
まあ、無理に仲良くなろうとは思わなかったし、何よりあいつの気持ちを考えれば俺が何を考えどう行動を起こしたとしても怒らせる結果にしかならない。
余計なお世話ながら俺は俺なりにあいつに気を遣っていたのだ。本当に。マジで。悪意なんて欠片も無い。
結局、エノクオンラインでも学生の時と同じく俺達の間には奇妙な緊張感が続いたままあいつは死んでしまった。
死んでしまったが、こうして特撮モノの怪人みたいな姿な上に脳がアッパー入ってる感じになって俺にハルバードを振り回している。
「死んでも俺のことがそんなに嫌いか」
「殺スッ!」
ああ、そうっすか。殺したいほど嫌いっすか。
ハルバードの刃を弾くつもりで放った一撃はこっちの武器が破壊された挙句に胴を袈裟に斬られると云う情けない結果に終わった。
すぐに新しい剣を取り出して第二撃に備える。〈自動回復〉があるので欠損ダメージでなければ時間を稼ぐ限り体力の心配はない。稼げればの話ではあるが。
「クゥ、オ前ダケハ何トシテモ!」
「殺すってか? いくらなんでもぶっ飛び過ぎだろテメェ!」
言葉が流暢になってきた優等生と俺の間に火花瞬く間に散っていく。ハルバードの刃と石突を二刀流で捌いている結果だ。
あくまでクリティカルなどのダメージを防いでいるだけなのでカス当たりはしている。〈自動回復〉とダメージで体力バーの押し合いが行われているが、僅差でこっちが押し負けている。
「タカネノ為ニモ、オ前ハ居テハイケナイノダ!」
あーあーあー、言っちゃったよこの優等生。傍目から丸分かりだったけど、突っ込まないでいてやったのにこんな時に告白ったよこいつ。
「オイオイ、お前まで勘違いか? 別にタカネとはそういう関係じゃねえから。目ん玉磨いて出直せ!」
幼馴染だからって、俺とタカネの仲を勘繰る奴は沢山いた。あいつ美人な上にグラマーだからな。告白とかしょっちゅうされていた。あいつは全部断ったみたいだが、その皺寄せが八割方俺に来ていた。シュウも二割分来ていたが、ハルカと付き合うようになったら俺にやっかみが全部来た。クソッ、リア充めが。
「うおっ!?」
雑念が混じったせいか受け流しをミスってハルバードが顔面のすぐ横を通過し、頬がざっくりと斬られる。これがもう少し上だったら右目がやられていた。
「チッ、だいたいお前は人に当たるような性質じゃあねぇだろうが!」
ハルバードが引き戻される前にこちらから前進し、刺突を繰り出す。だが、優等生は片手をハルバードの柄から離すと半身になって俺の攻撃を避けて逆に俺の腹に向けて蹴りを放ってきた。それを何とか手甲で受け止める。防御したのに全身が痺れた。
「そんな闇落ちするようなキャラじゃないだろ! プリムラと違ってテメェは根っからのクソ真面目野郎なんだしよ!」
プリムラがヤバイ方向に突き抜けたのは俺のせいでも無ければ洗脳とか催眠とかそんな責任転嫁出来るありがちな理由では残念ながら無い。
ユイの時からあの女はそういう方向性があった。PLの時は自覚が無い上にまだモラルや常識が真っ当にあった。こんな社会性の目が無くて縛るものが無い潜在的馬鹿が馬鹿をやらかす世界においてまだまともに機能する良識があいつにはあったから目立たなかっただけ。
死んだ後も清潔純情なイメージと役割がガチガチな天使型に成ったから表に出る事は無かっただけで、ユイもといプリムラは最初からメンヘラが入っていた。その証拠にちょっと突けば化けの皮が剥がれてしまった。
だけど優等生は本当に真面目で人間出来た奴で、正しく聖職者にでもなればいいような男だ。こんな嫉妬や妬み恨みで例え気に食わない奴を殺そうなんて、それこそ洗脳でもされない限りあり得ない。
という事はマジで洗脳でもされているのか?
「――タカネヲ殺ス」
「………………は?」
こいついきなり何言ってやがる。
「オ前ハイツカキット、タカネヲ殺ス」
優等生のスピードが更に上昇する。まるでこいつの感情に比例するように。
激しい攻撃に神経を集中させながらも、俺の耳にはこいつの言葉がしっかりと届く。
「オ前ハ大切ナモノ程壊ス。ソレガ愛情表現ダトデモ言ワンバカリニ壊ソウトスル! ソウダ、オ前ハ昔カラソウダッタ。上手ク隠シテ逃ゲテ来タツモリダロウガ、何時迄モソレデ我慢デキル筈モ無イ!」
とうとう捌き切れなくなってハルバードが俺の右腕を切断し、返しで右脚も太腿から切り離される。続く突きの連続攻撃が俺の身体に幾つも突き刺さった。
「オ前ハイズレ必ズタカネニ危害ヲ加エル。サセルモノカ、ソンナ事ナドサセルモノカァーーーーッ!!」
一閃。
銀色の線が奔り、俺の腹を切り裂く。その衝撃で後ろに吹っ飛ばされる。
胴の半分が切られてそこから霧散する青い粒子が尾を引きながら床と並行になる勢いで吹っ飛ばされ、首を上げずとも天井が見えたかと思うと壁に思いっきり当たった。
シズネが俺の名を叫ぶのが聞こえた。身体が壁にめり込み、瓦礫と共に床に落ちる。視界の端にある体力バーがレッドゾーンに突入していた。
そんな命が危ぶまれる状況下だと云うのに俺は――
「――ハッ」
可笑しくて笑い出しそうになっていた。




