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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第十章
96/122

10-4


 マステマに助けられた(?)後、俺達はなし崩し的に行動を一緒にする事になった。

 モンスターの巣と妨害装置を破壊し、見つけてくれる期待はしていない上に無駄になる可能性が大きいものの、クリスタルを破壊した事で通信可能になった範囲から逆算した――計算は俺が勘だけで決めつけたらマステマが代わりに数秒でやってくれた――他のクリスタルの予想位置のメモを残しておいた。

「ファンと一緒に行動してなくていいのか?」

 今回、マステマはセティスとして数人の中堅PL達と行動していた。エルバやネピル、エルが他に紛れているのは知っていたがマステマとは別行動を取っていた筈だ。

「豚共なら真っ先にモンスターの餌になった。まったく、大の男が暗闇なんぞに慌てふためきやがって。おかげで巻き添えを喰らうところだった」

 ああ、それでそいつらを囮に移動したのか。御愁傷様だな。

「ネピルは?」

「教える必要は無いな」

「ああ。何だっけ? ゲームだとカンパニーやらラングレーやら言われてる連中のストーキングでもしてるのか」

「このまま行くとピラミッドだが、貴様はこのまま進むつもりか? マッピングもろくにされていない完全な未知領域だぞ」

 無視かよ。どうでもいいけどさっきから会話してるのが俺とマステマだけで、他三人は俺達の後ろを黙々とついて来て口を挟む気配が一切無いと云うにはどういう事か。

「RPGというか、冒険って本来そういうものだろ」

「未知な物を真っ先に知りたいという欲求は分かるが、間抜けになるのは御免だな」

「じゃあ帰れよお前。何でついて来てんだよ」

「多少の危険程度で怯んでは取れるパイは少なくなってしまうからな。貴様は運は悪いがその分引きが良い。今回は行動を共にさせてもらう」

「まだ脱出できるかも分からないのに、どいつも皮算用が好きだな。ベルフェゴールを倒してもまだ半分だぞ」

「生き残る事など戦士として当たり前だ。肝心なのは成果を手に帰還する事だ」

 キリタニさん然り、そういう事を虚栄でも上っ面でもなく平然と当たり前の様に言える人らは本当に生きてる世界が違うと思う。

「だいたい、ここを出るためには魔王城を通らなければならないだろ」

 この地下空間、どう周りを見ても脱出できる出口が天井を超えて地上に顔を出している魔王城しかないのだ。壁のある果てまで行って別の出口を探すなり壁を登るなり手段は残されているが、わざわざモンスターを囮にPL達をここに落としたのだから前に進むしか道は残していない筈だ。

 分かり切った意味の無い無駄話をしている内に、ピラミッドの姿が近づいてくる。

 ベルフェゴールの城は大小様々な幾つもの四角錐の建造物を積み重ねたピラミッドの集合体だ。けれどこうして近くで見ると一般的なイメージのピラミッドとは違う。階段があったり頂上部分が平らだったり。

 名前はど忘れしたが、エノクオンラインのグラフィック面でのデザインは全て一人の人間によるものらしい。各魔王城の建築デザインも勿論そいつなのだが、一つ一つ気持ち悪いくらい凝っている。

 手抜きや簡略化云々という話では無く、細かい装飾まで針で彫ったかのような繊細さがある程の無駄クオリティ的な意味でだ。

「エジプト産のピラミッドじゃないよなこれ。どこ産?」

「メソアメリカ。それにしたってこの造形は趣味が悪い。ピラミッドと云うのは王家の墓というイメージが一般に強いが、建物ごとに用途は違ってくるものだ」

 頼んでもいないのにマステマが解説し始めた。お喋りしたい年頃なのだろうか? 部下はいても友達いなさそうだもんな。

「この地下の天井を空に見たてる事も出来るが、天文台になる頂上が天を突き破っている。それに九つのピラミッドでピラミッドを造るとか、いい加減な知識で造ったのではないのなら逆に皮肉だな」

「へー」

 うん、意味が分からん。自分に無い知識を持つ奴との会話でのコツは知らん単語や言い回しが出た場合スルーして前後の理解出来る単語で察する事だ。

 シュウやエイトがコンピュータ関連の話を始めた時もだいだいこのやり方で話を合わせている。ゴウなんかはハード専門だからか実物見せながら分かりやすい説明を挟んでくれるのだが。教師に向いてるのがイケメンやリア充でなく強面の大男とはどういう理不尽だろうか?

 ダラダラと歩いている内にもうすぐピラミッドの足元の眼前にまで近づき、警戒を密にしようかと思った直後に目の前にあった地下都市の家屋が爆発した。

「………………」

 爆発の炎の中から砂虫が燃えながら俺達の目の前に倒れた。ついでにマステマ達は爆音と同時に隠れた。速ぇよ。

 燃える砂虫は青い粒子と成って体を崩壊させ始める。それを早めるように砂虫の遺骸を踏み潰して地面に着地する影が一つ。

 四本腕を持った黒い狼頭人体の怪物が立っている――と言うか〈イルミナート〉のヴォルフだった。

「うーわ」

 思わずそんな声が漏れた。

 元々〈獣人の血〉の〈獣化〉による黒い人狼という姿に加えて魔王アモンを倒した際に手に入れた〈炎王を滅し者〉のスキルで四本腕になっている。元々の二本の腕で炎を纏う双剣を持ち、背中から生える腕にはそれぞれ中型武器:刀剣を握っている。

 もうどこのボスだよと突っ込みたい程のモンスターっぷりだ。

 ヴォルフは俺達を一瞥すると興味なさそうに顔を逸らして後ろに戻って行く。破壊された家屋の向こう側では〈イルミナート〉の面々がモンスターと戦っていた。その中には当然レーヴェの姿があり、二体のアバドンを相手に一人で戦っている。

 そして戻って行ったヴォルフは獣の咆哮を上げながら炎を従えて雑魚を一掃し始める。だから怖ェって。

「派手に戦っているな」

 爆発がモンスターの襲撃では無く、PLが戦っている結果だと知るとマステマ達が何事もなかったように姿を現した。

「米国でも有名だったが、まさに怪物(モンスター)だな」

「脳が沸騰してんだよ。比喩じゃなくてマジで」

 さも当たり前のように会話してきたマステマの言葉にこっちも何事もなく返す。

 昔、ゲーム大会でレーヴェ達と戦った時、ヴォルフも参加していた。後にネットで――これゲームちゃう。殺し合いや、なんてネタにされたシオとヴォルフの戦いは結局ドクターストップでヴォルフの途中棄権と云うなんともつまらない終わり方をした。

 ダイヴ装置には装着者のバイタルをチェックする機能が標準装備としてある。それに引っかかったのだ。原因はアドレナリンの過剰分泌。

 体感ゲームでは興奮状態に陥る事はよくある事だが、ヴォルフのはそれを踏まえて尚異常な数値を示したのだ。

 その時だけかと思ったら、どうやらヴォルフは普段の無口な様子からは一切分からないが常に脳がハイな状態らしく現実世界でも薬で抑えていないといずれ脳が熱死するとか言われていたらしい。

 眺めている内に〈イルミナート〉の戦闘は終わったようだ。モンスター達が青いエフェクトを残して消えてゆく中、レーヴェが生物的なデザインをしたあの不気味な剣を頭上に掲げる。

「ぎぃひゃひゃひゃひゃひゃっ」

 装飾に見えなくも無い牙が開いて暗い孔を見せ、そこから下品な笑い声と共に青いエフェクトを吸い込んで行った。

「………………」

 やっぱり普通じゃないよあの剣。おっかねぇ。

 何か反応するかとマステマの反応を伺って見ると、逆にこっちが観察されていた。知ってたってことか。

 残骸全てを回収したレーヴェはこちらを見た後、絵になる――獰猛とも取れる――笑みを浮かべてヴォルフをはじめとした部下達を引き連れピラミッドに向かって行った。

 おっかないもの見ちまったが、おかげでモンスターに襲われる心配は無い。再ポップや巣から量産される前に移動するか。

 その場からそそくさと移動して魔王城に到着すると入口らしい四角い穴があった。戦闘痕があるので、先に行ったレーヴェ達はどうやらそこから中に侵入したようだ。

「それが分かっていながら何故登ろうとする?」

「いや、なんとなく?」

 目の前の入口を無視して隣の階段状の外壁を登っていく。階段状と言ってもこっちの身長の倍くらいはあるので登るのが大変だったりする。

「大鍾乳洞の時も思ったが、ロッククライミングが好きなのか? それとも馬鹿だから高い所に登るのか? ああ、後者か。なるほど。馬鹿なんだな」

「文句あるならついて来んなよ」

 ボロクソ言われた挙句勝手に納得されてもな。

「あっ、なんか通れそうな穴が」

「何故だ…………」

 何か納得していないマステマ御一行を連れて、見つけた穴に向かって登る。

 ピラミッドとピラミッドが食い込むように合体したその境目に横穴があった。近づいて見てみれば四つん這いになって行けば十分に通れるサイズだ。風も流れて行っているので中に通じていると判断していいだろう。

「それでは私が先に行って安全を確保してきます」

「はいはい」

 偵察をシズネが立候補してきたのでアイテムボックスからロープを取り出して腹に結んでやる。

「こんな時に拘束プレイですか」

「首に締めてやろうか? あぁ?」

 メイドロボをとっとと横穴に押し込んでロングスカート故に下着は見えないものの、スカートの布越しからでも形の分かる尻を見送る。

「どうだー?」

「どうやら通路に通じているみたいですね。モンスターがいないようならこのまま先に行って確保します」

「おう。早くし――」

 ふと、嫌な予感がした。

 〈気配察知〉による警告ではない。何のスキルにも依存しない勘が、虫の知らせがヤベェと騒ぎ立てていた。

 勘が外れている事を願って尻から外へと視線を移して周囲を見回す。

「どうした?」

「いや、なんか嫌な感じが…………」

 俺の行動を不審がったマステマに曖昧な返事を返しつつ周囲への警戒を高める。不安はどんどん膨らんできた。

 魔王城から離れた古代都市はアヤネと他のPLが作る火の玉によって明かりを提供しながらリポップしてくるザコモンスターを集めている。高い場所にあるここからでもその詳しい戦況は分からないが、彼女らを守る為にPL達が集まっているようでモンスターの群れが特定の場所から動かない。

 あれ……じゃないな。だとするとここから死角になってる場所か、それとも(そら)か。

 顔を上げる。地下空間の天井からはPLやNPC兵達が落ちた穴が幾つもあり、そこからまだ高い位置にある太陽の光が入ってきている。

 その天井の穴の一つから一つの影が入ってきた。遠くを見る事ができる〈鷹目〉でも逆光で顔は見えない。

 だが、影より濃い黒の色をした片翼に陽光を反射して輝く長い金髪、三日月型の巨大な鎌を見れば十分だった。

「出やがったーーっ!?」

「あれはまさか…………」

 マステマが興味深そうに堕天使の姿を見上げるが、俺は正直気が気ではなかった。

「おい、シズネ。プリムラが来た。急げ!」

 シズネを急かしながら振り返って再び見上げると、光の中から抜け出したメンヘラ天使と目が合った。

 そしてわざわざこっちに方向転換して来る。

「こっち来やがったァーーーーッ!」

 悲鳴を上げながら横穴に飛び込む。

「待て貴様! あいつはお前が目的なんだろ?」

「だから逃げんだよ」

 あんなマゾと見せかけて実はサドっぽくていながら本質はメンヘラとか訳の分からんまるで女心を露骨に顕現させたかのような堕天使の相手なんかしていられるか。俺は逃げる。

「とても酷い偏見を言いませんでしたか?」

「さすがの私もイラっときた」

 動きを止めて首だけで振り返り冷たい視線を売ってくるシズネとあとから横穴に入ってきたマステマから刺すような視線が注がれる。

 だが、そんな事よりも今は逃げる事が先決だ。後門のマステマには嫌がらせで後ろ足による砂掛けを見舞いながら、前門のシズネの尻を思いっきり押し――というか投擲スキルで飛ばし――て横穴の出口から押し出す。魔王城の通路らしき所に落ちたらしきシズネを追って俺も急ぎ進んで出口から顔を出す。

 周囲の確認をせずに横穴から身を乗り出し倒れているシズネをクッション代わりにして着地――しようとして背中に衝撃を受ける。多分マステマの仕業だ。さっきの仕返しだろうか。って、だから格闘スキル使うなって。ダメージ入るだろが。

 結局はシズネを下敷きにして二段、三段、四段と人が座布団のように重なる。……四段?

「何でお前まで乗ってくる、エル!」

「強いて言うならノリかしら?」

 エルバはちゃんと誰もいない手前で着地しているというのにこの女は。他の奴と比べて社交的故に軽そうなイメージはあったが、演技ではなく本当に軽かったとは。いや、そんな事はどうでもいい。

「エルバ、肩貸せ」

 マステマとエルを押し退けて立ち上がり、エルバを踏み台にする。一瞬、ただでさえ強面なのが更に歪んだように見えたが、エルバは何も言わなかった。

 エルバの肩に足を乗せて横穴を覗き込む。

 プリムラがこっち見てた。ホラーか。



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