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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第十章
95/122

10-3


「さて、と…………」

 上に乗ってた重いメイドロボを横に転がして起き上がり、服に付着した砂を払う。

 浮遊の魔法を連続でかける事で落下ダメージを軽減しながら地面に着地? した俺とシズネ。真上を見てみれば俺達が落ちたと思われる穴が遠くに、巨大な穴だったはずが掌で隠せられる程の大きさになるほど遠くにあった。

 天井には同じような大小様々な穴が無数にあって、そこから太陽の光がスポットライトのように暗い地下へ注がれている。

 どうやらクワガタモドキはおまけで元々はPLをここに落とすのが目的のようだ。

 まあ、連中(モンスター)の目的はどうでもいい。ゴールド達の進行計画台無しになったのも、他のPLとバラバラになってしまったのもこの際しょうがない。

 ただ、これは何というか…………。

「やられたな」

 そう言うしかなかった。

 地下空間の天井に空いた穴。それは魔王城にも及んでいた。だが、魔王城は落下せずに依然同じ位置に存在し続けている。

 当然だ。何故なら土台が元からあるのだから。

 天井から降り注ぐ僅かな光と<暗視>によって見えるそれは巨大なピラミッド。地上で見た建物は頂上部分の一角であり、幾つものピラミッドを積み重ねたようなその巨大な建造物は正に魔王が住むには相応しい。

 そしてピラミッドの足下から都市が広がっており、俺が今立っているのも砂を多少被った石造りの建物だ。後ろを振り向けば更にずっと街は続いており、壁の見えない暗闇の中に消えている。

 多分、世界観的にこの地下は昔存在した都市が砂に埋れたか沈んだかしたという設定なのだろう。

 俺は建物から降りて地面に足をつける。

 周囲を探せば同じく落ちてきた連中を拾えるかもしれないが落ちた高さが高さだ。それなりに距離が離れているだろう。ぶっちゃけ面倒だし放っておこう。何かあればチャットで言えばいい。

「クゥ様」

 城に向かって歩き始めた俺の後ろをついて来ながら、シズネが口を開く。

「皆様と連絡がつきません」

 シズネがずらっと名前が並ぶフレンドリストをこちらに向けてきた。何だ、自慢か?

 メイドロボと比べれば圧倒的に少ないフレンドリストを開いてチャッやトメールを試みる。内容は考えるのが面倒臭いので白文送りまくるが怒りの返事が返ってこず、全体チャットも何もかも反応が無い。唯一、シズネとは出来たがこんな近くにいては大した意味はない。

「どうやらこの地下全体に妨害が働いているようですね」

 ヴォルトの街で暴れていた――名前何だっけ? 忘れた――PKが使っていたジャミングと似たようなものか。PL達を分断させた上でアドバンテージを潰すとか、性質(タチ)が悪いな、オイ。

 その時、暗闇の中から一筋の光が花火のように上がった。それに応えるように方法は様々だが、何かしらの合図が暗闇の中で連鎖して上がっていく。

「クゥ様…………」

「無理だ。遠い」

 離れ離れになったPL達が自分の位置を知らせる為に魔法や火矢などで現在位置を知らせているつもりなのだろうが、それは悪手だ。

 あれでは味方に知らせると同時に敵にも場所を教えてしまっている。

 静寂に包まれた地下に幾つかの音が聞こえ始める。その一つが俺達の頭上を通過した。虫型モンスターの群れだ。それが天に向かって光を飛ばした場所へと一直線に向かって行く。

「これは想像以上にヤバいかもな」

 建物の影に隠れながらモンスターに見つからないよう移動していると、<気配察知>に次々と反応が現れる。

 それらは俺達の存在には気付かずに、音を立てて合図が送られたそれぞれの場所に向かっているようだ。戦闘に入ったらしく、暗闇の向こうに幾つもの閃光が瞬く。

 暫くするとその光も止み、虫の羽ばたきも聞こえなくなった。返り討ちにして逃げ切ったか、それとも…………。

「この方角は魔王城ですよ」

「分かってる」

 通信手段が使えない今、単独行動は危険だ。だからと言って花火でも上げれば群がられる。

 だったらどうするか。この地下空間から脱出出来ればいいのだが、落ちる原因になった穴は高過ぎ、壁伝い登ろうにも果てにあるはずの壁が見えない。もしかすると西方のフィールド程の広さがある可能性もある。

 こうなると、脱出出来る場所は一つしかない。唯一地下空間の天井を突き破って地上に顔を出している魔王城だ。

 多分、他の連中も既に魔王城向かって進んでいるだろう。…………ああ、これってつまり最初の計画と変わらないのか。

「状況が違う時点でもう別物でしょう」

「いや、似たようなもんだろ。まあ、囮となる俺達が散開してるからその分――」

 ――ボス討伐組の負担が大きい、と言おうとしたところで声が聞こえてきた。

 大きな、地下空間全体に響く程の声。怒声やら叫喚などただ声を張り上げているのではない、明確なリズムがあり、メロディがある。

 歌に合わせ、空中に無数の火の玉が現れる。一つ一つは小さいが、数が多く範囲も広く、闇に包まれ<暗視>なくては何も見えない地下空間がぼんやりと照らされる。

「これは…………」

 シズネが驚きで動きを止めた。

 そう、これは歌スキル。しかもこの声はアヤネのものだ。街の中でも高い建造物の屋上であいつは歌っていた。

 闇の中に潜んでいた虫型のモンスターら、そしてアバドン達が一斉にアヤネがいるであろう地点に向かってまるで誘蛾灯に集まる虫のように飛び去って行く。

 火の玉に触れたモンスターが爆発ダメージを受けるがそれで倒しきれる筈もなく、そもそも敵の数が多過ぎる。あのままではいずれ蹂躙されるだろう。

「お前は好きにしろ!」

 シズネにそう言ってから俺は城に向かって駆ける。警戒しながら慎重に進んでいた時とは違い、遺跡となった街の道路を全速力で駆け抜け、障害となる建物を蹴り上がり乗り越え、屋上を足場に真っ直ぐに走る。

 これはチャンスだ。

 アヤネは馬鹿じゃない。少しでも目立てばモンスターが一斉に襲ってくる事は分かっている。それでも遇えてあんな目立つ真似をしたのだろう。自分に注目を集めさせてボス討伐を目指すPL達を動きやすくする為に。

 しかも、わざわざ明かりまで用意してくれた。火の玉自体は城に届いていないが、明かりとして光は十分に届いている。

 アヤネに向かって頭上や地面を進むモンスター達とは逆方向に屋根の上を走っていると、別の場所からピラミッドに向かって走る集団をいくつか見つけた。

 案の定、ボス討伐を任されたギルドの面々だ。あいつらもまた今が好機だと魔王城への距離を詰めて行く。

 そこでふと思った。別に俺が急ぐ必要なくね?

 ヒャッハーって感じで皆が走ってる訳だからわざわざ単独行動の俺がそれに合わせる必要はないだろ。寧ろ足手まといだ。

「よし、ゆっくり行くか」

「冷めるのが早過ぎですね」

 結局ついて来たシズネが半目になって言ってきた。

「周りが盛り上がってる中で一人だけ冷めていて空気を悪くする人いますが、クゥ様は見事にそれですね。冷静なオレ恰好いいですか? 馬鹿なんですか? 恰好つけですねダッサ!」

 俺が魔王城(ピラミッド)に真っ直ぐ向かっている事が不満らしい。なんか非道い中傷を受けた。

 そもそもアヤネとの距離が元より遠いのだし、あいつのファンがそれこそ女の前で恰好つけたい遺伝子を発揮させて守るだろう。

 つまり俺は要らないのだ。

「恥ずかしくないのですか?」

 口煩いメイドを無視して屋根の上を走るなどと云う目立つ真似を中止し、建物の中を横切る形で歩いて移動する。

 俺の判断は正しかったようで、二階から隣の家に移動出来る建物の中を歩いていると窓からボス討伐組のギルド達がアバドンに襲われているのが見えた。

 それでもどのPLも的確に捌いて前進していくのは流石と言うべきか。より俺がいなくてもいいと思える。

「論理武装のつもりでしょうが、ただの言い訳ですね」

 さっきからウチのメイドロボが煩い。未だに歌声が(歌い手が増えたのか合唱になっている)聞こえて来ているので護衛が間に合ったのだろう。だからそう怒る事もないだろうに。しつけェ。

「ところで、先程から何をお探しで?」

「別に探してる訳じゃ――あっ」

 ウロウロと明らかに効率的じゃないルートで進んでいると、とうとう見つけてしまった。

 今まで通ったのが住宅街の家々だとするとここは会議場か集会場。受付のようなロビーがあってその奥にある広い部屋の中央にあるであろうと予想していた物体があった。

 緑色の正二十面体のクリスタルが浮かんでいる。

 おそらくあのクリスタルがチャットメール機能を妨害している原因だ。PKギルドが使っていた妨害装置も道具として部屋に置かれ使用されていたから、何処かにあるとあると思っていた。

 こんな所に一つだけ置かれていると処を見ると、一つだけでは流石に全域をカバーし切れず複数個が散らばって地下空間に存在している可能性が高い。

 これを壊せば少なくともこの周辺での連絡のやり取りは可能になる(かもしれない)。ただ、問題はウジャウジャとモンスターがいる事だ。

 暗闇の中で何処から大量のモンスター達がPLを襲っているのか不思議だったが、どうやら巣から大量発生しているようで、クリスタルはそのど真ん中に存在している。

 さっき出て行ったばかりなのか、数自体は少ない。ただ、肉の塊みたいなグロテクスで卵っぽくも繭っぽいナニカからじゃんじゃん生まれ落ちてる訳で…………どうでもいいから焼き払いたい。

「マジでキモい…………」

 シズネの後ろに隠れる。モンスター達はまだこっち気づいていないが、このままだと時間の問題だ。

「女を盾にするとか最悪ですね」

「お前の方が頑丈だろ。それに、主人の為に犠牲になれ」

 アイテムボックスから瓶に入った毒々しい液体を取り出す。モンスターを引き寄せる誘魔香の材料となる液体だ。見た目に反して甘い匂いを発するそれをシズネにぶっかける。

 匂いに誘われてモンスターたちが一斉にシズネを振り返って見てきた。

「お前囮な」

 虫は気持ち悪いと思いつつも別段苦手ではない。だが、あれだけの数に集られるのは嫌だ。

「…………ふん」

 モンスターの巣の中心に突き飛ばそうとした手が空振り、シズネがこっちに飛びついて来やがった。

「離せ! お前何で抱き付いてくるんだよ! 俺まで狙われるだろうが。使い魔が主人を危機にしていいのかよ!」

 勢いで――というかコイツ重すぎるせいなのだが――床に押し倒されてしまった。

「私と御主人様は一蓮托生ですっ」

「その猫撫で声は虫よりキモいぞ! お前、まださっきのこと根に持ってるのか!? って、来たじゃねえか!」

 主従揃って床を転がっていると、空気も読まずにモンスター達が飛びかかってきた。

 本気でシズネを盾にしてやろうと肩を掴んで押し上げる。

 それよりも早く頭上から、俺達が入ってきた入口側から炎の渦が横を向いて飛び出してきた。

 炎の渦は俺達に襲いかかって来たモンスター達を一掃した。魔法が凄いのか、比較的小柄でしかも火が弱点の風属性だからかそれだけでモンスター達が消滅する。

「お楽しみの最中だったか?」

 知った声に顔を上げるとそこには褐色の少女が、マステマが仁王立ちしていた。その後ろには二人の男女、エルバとエルが付き従う様に立っていた。エルバは相変わらず無愛想だが、エルはウィンク一つして軽く手を振っている。

 いや、そんな事よりも――

「お前がピンクだと?」

 助けられた事云々よりもお前のスカートの中身にビックリだよ。テロ屋風情がなんとも似合わ――

 叫んだ直後顔面を踏まれた。おいコラ。普通にダメージ入ったぞ。しかも格闘スキルで踏まれたからかダメージ共にすっげえ痛ェ。

 マステマは俺の顔を踏んだ後、階段を昇るようにして今度はシズネの後頭部を踏んで(こっちは普通に踏まれただけだった)、俺達の上に立つと火属性の魔法二発目を行使してクリスタル共々巣を焼き払ったのだった。


 


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