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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第九章
91/122

9-6


「くくく、ようこそ(くる)える仔羊(けだもの)よ。今宵の円卓会議にて貴方の運命が――あいたっ」

「喧しい」

 相変わらずの魔女スタイルで意味の分からん事をほざいて部屋の前で通せんぼするヘキサの頭を小突く。わざわざ蝋燭の光を下から当ててもちっとも怖くない。

「お前、リュナにスライムやっただろ。オモチャをやるな」

 食事が終わった後、活力を取り戻したリュナは一通り騒ぎやがった。その際、ヘキサがあいつにスライムを渡していたのだ。

「ただのスライムじゃあありません。ちゃんとした使い魔扱いで戦闘もバッチ来い。薄い本的で半固形物的な外見を除けば使い勝手は超良いです」

 確かに、普段はアイテムとしてボックスに収納出来、誰でも簡単に扱える。レシピを見たが、材料は探せば多少の苦労程度で手に入るので量産も楽。使い捨て使い魔としては優秀だ。

 だが、何故スライム?

「お前そういう願望あるのか?」

「形が定まっていない方が楽なんで。それと、ニーズ」

 男性PLがこぞって人造使い魔のレシピを材料セット(販売元:ゴールド)を買って行った手前、同じ男として何も言えなかった。まあ、エロい事できる程器用でもないし、出来るよう弄れる奴なら元から無くても自力でやるだろ。

「だからってアホ娘にやるなよ」

 スライム連れてモモに喧嘩売りに行ったぞあいつ。子分がいるとやる気出しやがって。

「クゥさん、もうそろそろ始まります」

 部屋の中からアヤネに呼ばれ、俺は身長が低くて物理的な障害物にならないヘキサの横を素通りし、部屋の中に入る。

 そこは円形となっている部屋の二階部分で、中央の吹き抜け部分から一階の部屋を見下ろせる構造になっていた。

「クゥさん、こっちです」

 人垣の中でアヤネが手を振っていた。歌姫とか呼ばれているPLである彼女がそうやってると目立ってしょうがないが、幸いにもアールやヤベさんなどの姿もあるので俺の事は気にしないだろう。

「下にいなくていいんですか?」

「僕は実働側だから。タムラさんもこっちには来てないだろう?」

 ヤベさんに声をかけながら後ろから合流してきたヘキサと共にアヤネ達の所に、吹き抜け部分の手摺前まで移動する。俺達以外にも吹き抜けの所に多くのPLが集まり、一階を見下ろしている。

 一階部分には大きな円卓が置かれ、既に今日のパーティーに参加した主なギルドの(リーダー)と補佐が座っている。その中には勿論、タカネとシュウ、ミノルさんとミサトさんのミーミー夫婦。アレス、ジョセフ、アレスに優等生に代わり〈オリンポス騎士団〉の新たな副ギルド長がいた。ギルドだけでなくキリタニさんや海外の救出部隊のPLもいる。

 吹き抜けの手摺りにPLが集まり隙間がなくなった頃、円卓にいたゴールドが仰々しく立ち上がる。

「だいたい集まって来たようなので、会談を始めよう。ところでこの部屋はどう思う? 秘密の会議室っぽくて中々雰囲気が出てるとは思わないかい? しかも色々と仕掛けがあって、例えば――」

 部屋自慢をし始めたゴールドに向かって二階から一斉にゴミが投げられる。かく云う俺も運動会の玉入れの如く元気良く投げた。

「…………司会を代わる。対サイバーテロ課課長のキリタニだ」

 馬鹿に代わってキリタニが立ち上がると皆投げるのを止めた。ゴミまみれになった床と馬鹿は静かに入室してきたメイド達によって回収されて行く。

「今夜、ボス攻略会議後にこうして人数を絞り再度集まって貰ったのは非常にデリケートな話になるからだ」

 四体目の魔王ベルフェゴールの攻略会議は流れ作業の如く淡々と進み終わった。城のマップは既に埋まり、生息するモンスターのデータもあらかた集めた。矢面に立たせるNPC兵士の訓練も終わり、回復アイテムの生産も予定の数を超えた。情報も物質も集め、東西南北を代表するギルドが全て参加するとなれば二の足を踏む必要は無いのだから当然だ。

 なら、これから始まる話は何なのか。まあ、俺も無関係では無いし、アールから既に聞かされているんだが。

 というか、会議の後にまた会議。サラリーマンにでもなった気分だ。現実世界でも社員なんて一度も成った事なんてないけど。というか学校の委員会やらなんやらの会議だってほとんど聞くフリして漫画読んでるか寝ていたかの俺が果たしてここにいていいのだろうか。

「以前よりある話が掲示板などで度々話題に上がっていた死亡した人々と同じ顔をしたノンプレイヤーキャラの事だ」

 随分と前から掲示板などで噂に上がっていたものの、こうやって表沙汰に取り上げられるのは初めてかもしれない。

 リュナを捕まえに行った後にシズネの事で話があるとアールが言っていたのは、今夜こうやって調査結果と見解を発表するためだ。セナと同じ顔を持つシズネをシステム上使い魔にしている俺に関係あることだからとわざわざ教えてきたのだ。

「先に結論から言うと、彼等(NPC)の元になったであろう人物達は間違いなく死んでいる」

 キリタニさんの言葉に二階にいたPLの一部から息を飲む声や、項垂れ嗚咽を漏らし始めた者が出てきた。

 友人、恋人、家族。元となったPLと何かしらの交友関係にあったPLの中には、もしかしてと云う思いでそのNPCを調べていた者は少なくない。そして、本人として扱う奴もいるらしい。

「エノクオンラインにログインする前、我々は被害者らの顔写真を見ている。勿論、全員では無いしうろ覚えの部分もあり正確性は低い。だが、他国の救助隊とも協力して照合を重ねた結果、現実で死んだ被害者と一致した数が偶然で済まされなくなった」

 エノクオンラインのログイン時、不要なプログラムは全て弾かれてしまう。テロリストで世界的な電脳犯であるマステマが電脳世界では中年のアラブ人として変装していたのにここではセティスとして過ごさなければならない事からそのセキュリティの高さが窺える。

 起こった沈黙はまるで通夜だ。

「これについてわざわざ掲示板などにこちらから情報を開示しないが、秘密にするつもりは無い。各自の判断でギルドの仲間に話してくれ。調査情報の提示はできるが個人情報が含まれるのでどうしても確認したい者は各国の部隊に聞いてくれ」

 空気が重すぎにならない内に言葉を続けたキリタニさんが一度言葉を切る。そして僅かな間を置いて続ける。

「彼らは生前のプレイヤーの姿をしているだけのAIだ」

 先と意味の同じ言葉を発し続けられる言葉は――

「なので敵として遭遇した場合は躊躇わず倒して欲しい」

 重い空気を張り詰めさせるには十分だった。

「魔族と呼ばれる高いAIステータスを持つモンスターの中には人の姿をしたものもいるのは知っての通りだが、更にその一部にプレイヤーと同じ顔をした魔族もいる事が発覚した。これについてはマクレーン氏から説明してもらう」

 キリタニさんが座ると円卓に座っていた一人のPLが立ち上がる。

「誰だあのアメリカ人?」

「アメリカがエノクオンラインの事件の対策として作った調査本部の人だよ。他にもここには各国の保安機関の救出隊のメンバーがいるよ」

 俺の疑問にヤベさんが教えてくれた。助けに来て一緒に閉じ込められては世話ないが、中から脱出する目標を明確に持っている分やる気ない奴よりマシだろう。

『人の事言えないでしょう』

 わざわざチャットで口を挟んでくるシズネがウザい。第一、なんだかんだで俺は協力しているし?

『ふっ』

 こいつマジで放棄したろか。

「あの人、昔に見た事あります」

 ロボメイドに殺意を抱いていると、俺とヤベさんの間に立っていたアヤネが不意にそんな事を言った。手すり越しからジョンとか云うアメリカ人を真剣な目で見下ろしていた。

「お父さん…………父の所に会いに来てました」

「なに? お前の父親何かしでかしたのか?」

「あの人、CIAです」

 冗談にもならない冗談を言ったらもっと冗談じゃない単語が出てきた。

 ヤベさんの方を見ると片手で顔を覆っていた。知ってたなこれは。ヘキサの方を見てみれば、平然としている。こいつもか。

映画(ムービー)とゲームじゃあよく悪役やってるけど、実際はどうなんだ?」

「父は塩撒いてました」

「作戦によりますね」

「ノーコメントで。というか君達あんまり不穏な事言わないでね。僕もう胃が痛いよ」

 公務員は大変ですね。というか諜報員が会いに接触してくるアヤネの父親は一体何者なのか。

 …………キリタニさんの実兄だっけそういえば。それで元総理の息子。あれか、血か。

 胃を押さえるヤベさんから視線を一階に向け直してCIAの人の説明に耳を傾ける。CIAという組織が具体的にどういう構図になっているのか全く知らないが、よくもまあ、こんな世界に乗り込んできたものだ。映画だと凄腕エージェントが危険な場所に乗り込んでくるものだけだが、世界的に見ればVIPらしいアヤネの父親に接触してきた事から結構な地位にいると思われる奴が直々にねえ。

「まず、これを見ていただきたい」

 マクレーンが円卓中央の上に画像を何枚か投影させた。ウィンドウは見えない円柱に沿う形で表示されており、全員が見れるようゆっくりと右回転する。

 投影された画像にはそれぞれ人型のNPCが明らかに隠し撮りした感じで写っており、その姿は悪魔だったり堕天使だったりする。その中にはユイもといプリムラの姿もあった。

「………………」

 既にレヴィヤタンの城で見たせいかアヤネは特に反応を示さなかった。可愛げが無いと言うか、逞しいと言うか。

「ここに写っている全てが過去に死亡したPLと顔が酷似しているネームドだ。中には天使型から変異した者もいるが……。彼らは非常に好戦的で単体でも強い力を持ち、中には他のネームドモンスターに協力している個体がいる事もこちらの調査で判明している」

 プリムラ以外にもそんな連中がいるのか。実際、戦うとなれば〈ユンクティオ〉の皆はどうするのだろうか?

 一階の円卓にいるミノルさんを見下ろすが、彼はただ黙って難しそうな顔をしている。何を思っているのか表情から窺えないが、あの人なら大丈夫だろう。クウガやエリザは戸惑い躊躇するかもしれないが、〈ユンクティオ〉にはドライなトルジやヘキサがいる。いざとなれば血の気の多いミーシャの手綱を離せばいい。

「もし、彼らと相対した場合は躊躇する必要は無い。顔が同じだけの所詮データ、ゼロとイチの塊でしかないのだ」

「それは全てに言えるんですけどねえ……」

 マクレーンの言葉に対してヘキサがぽつりと呟いた。

 人間も極端な話、血袋だ。そこから細かく分ければ分子やら原子に、二進数より種類が多いだけで材料がどこにもあるのは変わらない。

 それからマクレーンが注意事項を幾つか話したところで、その場はお開きとなった。



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