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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第九章
90/122

9-5



 ゴールドが無駄な演出効果(エフェクト)で登場して数分、会場にいるPL達はわざとやって受けを狙ってるとしか思えない成金趣味の格好で喚くゴールドを無視して雑談を再開させていた。奇行に慣れすぎだろ。

 俺はと云うと、厨房で暴虐の限り(勝手な想像)を尽くしていたシズネを呼び出して会場の隅にある休憩用の長椅子を陣取り、テーブルの一つを奪ってそこに料理を並べさせた。俺が喰う訳じゃない。

「はぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐっ」

「はぐはぐ煩ぇっ!」

 俺の隣でリュナがシュレッダーみたいな勢いでテーブルに並べられた料理を平らげ続けている。こいつ、バーバラさんのところで暴食したからモモに追い出されたようだ。ついさっきバーバラさんとタムラさんからメールが届いて知った。

「興味深い子ね」

 隣ではミエさんが一心不乱に口を動かし続ける阿呆の頭を撫でている。男連中から口説かれるのに飽きてこっちに逃げて来たらしい。嫌になったのではなく、飽きたってところが怖い。

「良ければ持って帰って下さい」

 ぶっちゃけ要らん子ですわ。というか面倒な人材は<ユンクティオ>に放り込むのがエノクオンラインの暗黙の了解だと云うのに何で俺が。

「そうね。孫にはまだ早いけどそれもいいかも知れないわね」

 本気で言ってるのだから性質(タチ)が悪い。

 このままフケて一人帰ろうかなと思った時、こっちに歩いて来るPLの姿を見つけた。

 レーヴェだ。黒甲冑とマントがよく似合っており、現代の戦争(マネーゲーム)よりタイムスリップして百年戦争やってろよという感じだ。

「久しぶりだな。息災のようで何よりだ」

「お互いにな」

 レーヴェが俺の隣に座る。いや、あっち行けよお前。

「ゴールドの経営能力には感心させられる。もはや彼の援助無くしてエノクオンライン攻略は不可能だな」

「大企業の社長子息とは思えない言葉だな」

 ただまあ実際、ゴールドが提供するNPC兵士や消費アイテムの供給が無ければボス攻略への難易度は格段に上がるだろう。

 多くのPL達に援助していると同時に攻略にやる気の無いPLを囲って保護すると同時に消費アイテムを作らせている。働かざる者食うべからず、という意図なのかは知らないがともかく素材入手調合が簡単ながら大量に必要とするため時間が掛かる。それを仕事としてやらせているのだ。

 エノクオンラインはゲームであるが餓死も設定されているので食わなきゃ死ぬ。モンスターが蔓延るフィールドよりも安全に手に入る街の食事を取る。だけどその為には金がいる。暖かい部屋でベッドの上で眠るにもマネー。仮にもゲーム内なのに世知辛いな。

 ともかくボス攻略ならまだしも街に篭って外に出たがらない奴向けの仕事をゴールドは用意している。それが噂になって他所の街からヒッキーが更に集まる。生産量が増加し供給が安定する。よくもまあ上手くいったもんだ。

 それに、生産系スキルでも戦闘に使えるスキルの熟練度が上昇する。だから、攻略組に何かあってもいい様に彼らを最低限鍛えておくという考えもあるらしい。保護施設の子供にもそういった事で熟練度を上げさせているようだ。

 ゴールドは最近妙な商売を始めてかなり設けているからどこまで本当か知らないが。

「父から幾つかの事業を任せられてはいたがまだまだ若輩者だ。とてもゴールドのようには出来ぬよ」

 その任されていた事業繋がりで今現在マステマと組んで何かコソコソやっている奴が何を白々しいことを。

 俺の考えを読んだわけではないだろうが、レーヴェは不敵に口の端を釣り上げた。

「…………ん?」

 いつの間にかリュナの行儀の悪い咀嚼音が聞こえなくなっていたので、レーヴェの反対方向に振り向く。決して、おっかないから視線を逸らした訳ではない。

 リュナは手と口を止めてこちらを、正確には俺の体越しにレーヴェの腰の方を見ていた。

「これが気になるか?」

 リュナが何を見ているのか気付いたレーヴェが腰のベルトに装着している赤黒い剣を持ち上げた。

 マントのせいで柄部分しか見えなかったそれは不気味と言うかグロテスクな趣のある剣だった。生物を模したと表現すべきか生物が無理矢理剣の形に凝縮したと捉えるべきか。

 そんなふうに考えていると、鍔の中央部分にある目玉を意識してデザインされたと思われる宝玉が動いた。

「ギハッ、ハハハ、ギャハハハハハハハッ!」

 ――笑った。鍔に牙のような部分が上下に何度も開閉して中からなんとも言えない不気味な嗤い声が響いて届く。

 嗤う剣の宝玉はリュナを見つめている。

「むぐぐ――がう!」

「止めんか野生児」

 俺越しに剣へと跳びかかろうとしたリュナの頭を叩いて撃墜する。それでもリュナは唸りながら俺の膝の上で暴れ、こいつの顔についた食べカスが俺の服に…………あぁん?

「イタいイタいイタい!」

「ギャハハハハハハッ!」

 梅干しをアホに喰らわすと更に剣からの嗤い声がデカくなった。

「レーヴェ、その気持ち悪い剣はどうした?」

 目を回して大人しくなったリュナをミエさんに押し付けながら訊ねる。

「インテリジェンスソードと言うのか? 要はレア物を手に入れたのだよ。品が無いのは認めるが、中々使える奴だよ」

 レーヴェが柄頭を叩くと、剣の口が閉じられて声が止む。それでも瞼の無い宝玉の目が笑っているような気がして不気味だ。

「よくそんなもんを使ってるな」

 ほんと、色々な意味で。

「使えるなら親の仇でも使うとも。君もそうだろう」

「さあな」

 はぐらかし、それからしばし無言になる。こいつは何の用でわざわざこっちに来たのだろうか。もしかしてインテリジェンスソードの自慢がしたかったのでは? 君主国家染みたマクスウェル社の社長息子様であるレーヴェは意外と言うべきか、寧ろオープンにゲーム好きである。こいつだって誰も持ってないレアを手に入れたら、わーいとか言ってはしゃぐのかもしれない。

 …………うん、ないな。俺の脳じゃこれが限界だが、少なくともコレは無いというのは分かる。

「向こうにいるのはタカネだな。隣にいるのは歌姫か」

 レーヴェの声に釣られて顔を上げると会場の中心で雑談しているタカネとアヤネがおり、ついでにセティスもいた。途端にうんざりした。

 居たのは知っていたが、まさかこうも堂々と接触していたとは思わなかった。仮にも姫様プレイしている身としては歌姫扱いのアヤネを無視できないってか?

「歌姫とはあまり話したことはないが、彼女の父上はよく知っている」

 ああ、そうなん? 何か前に話していたような気もするが覚えていない。

「アフリカのアーコロジー計画計画者の一人だな。アフリカ大統領共々何度か暗殺テロに巻き込まれているが、その悉くを生きて帰ってきたと聞いている」

 それどこのハリウッド映画(ムービー)

「最早、彼の命を狙ったところで経済に影響を与える事はないが、暗殺失敗を根に持って多くのテロリストに未だ狙われているらしい」

「へー…………は?」

 多くの、テロリスト? すぐそこでその親玉がアイドル顔負けの営業0円スマイルを浮かべているのだが?

「それはそれとして、なんとも絵になる三人だ」

 お前絶対面白がってるだろう。

 それぞれタイプの違う美人が談笑し合っている――ように見える。実際、はたから見ればそうとしか見えず、男性PLが鼻の下を伸ばしている。だが、事情を知る人間から見ればどうだろう。

 他愛無い会話から家族の事を聞き出そうとしているセティス。それを躱しつつ微妙に距離を取るアヤネ。話の話題に口を挟み方向転換させながら物理的にも割って入るタカネ。怖いわー。

 というか、アヤネとタカネがセットでセティスもといマステマに接触するのはよろしくない。謎の勘で本人も知らない事に気づかれかねない。ああ、何で俺がこんな心配をしなければならないのか。というかキリタニさん、あんたも気づいているんなら何とかして欲しい。

「自分が出てきて藪蛇にならないか心配なのよ」

 離れたところでアールと雑談しながら突っ立っているキリタニさんを恨めがましく見ていると、リュナの看護をしていたミエさんが説明してくれた。

 同時にリュナが起き出し、寝ぼけているのか左右に首を振って周囲を見回した。そしてレーヴェを視界に捉えると歯を剥き出しに威嚇し始めた。

「レーヴェ、用が無いならあっち行ってろ。次こそ噛みつかれるぞ」

「それは怖い」

 そう冗談を宣ってレーヴェが椅子から立ち上がる。

「そうだ。私の城にユリアの墓を作った。暇があれば花でも添えてやってくれ」

 レーヴェは火の魔王アモンの城を乗っ取り自分の物にしていた。城の所有についてはゴールドもレヴィヤタンの城を保有する権利を何故か入手していたが、ジブリエル公国に売り渡して代わりに権益を得ていた。NPCとマジ議論交わすのはどこ探したってあいつくらいだろ。

「意味あるのかそれは?」

「無い。強いて言うならば、意味があると思っている者には意味がある」

「つまり、花をくれてやる理由は無いってことだな」

「そうだな。本人に渡してやるといい。その方が喜ぶだろう」

「おい、それってどういう意味だ」

 からかうような微笑を浮かべ、レーヴェはこたえず立ち去って行く。

「チッ」

 あの野郎…………。

「そもそもあいつに渡したって握り潰されるのがオチだろう」

 わざわざ追って追求する気にもなれず、リュナの前に並んでいる料理の一つ、やけにデカい手羽先を奪う。

「あーっ、それはワタシのだぞ! 返せよー!」

「生憎だが、これは俺が注文したんだ。よって俺の物」

 食い物一つでさっきから威嚇していた相手から意識が逸れるとか本当に馬鹿だなこいつ。

「リュナちゃん。デザートあるけど食べるかしら?」

「食う!」

 そしてミエさんがアイテムボックスから出した何かのタルトに速攻で釣られている。

「あはは、リュナちゃんは可愛いわねぇ。ねぇ、クゥ君、タカネと子供作ってくれない?」

 呆けるにはまだまだ早いですよ、ミエさん。「子供が好きなら自分で作ればいいじゃないっすか」

 昔にタカネ誕生秘話を聞いた限り、作ろうと思えば作れるだろうに。

「それか保護所に行けば?」

 子供が沢山いる。そのせいで掛かっちゃいけないモノを患った連中がうろちょろし出してNPCの警邏(ゴールドのせいで強化されている)に留置場へ放り込まれているけど。

「血の繋がった孫がいいの。クゥ君の血が入れば面白い子になると思うの。それでその子をうんと甘やかすのが今の私の夢」

 恐い夢である。

「何の話をしてるの?」

 未来にいるかもしれないミエさんの孫には健やかに育って欲しいと(無理だろうけど。例:タカネ)心の中で合掌していると、タカネとアヤネがセティスと別れてこっちに来た。

「お前らはこれどう思う?」

 隣で魚のムニエルを頭から食うリュナを指差す。

「無垢で可愛らしいです」

「頭空っぽな感じが面白いわね」

 …………これはもしかして父親側の血に問題があるのでは?


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