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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第一章
9/122

1-4


「クゥってさ、手癖悪いよね」

 ミノルさんら開拓隊と行動を共にするようになってから数日、キャンプで木工スキルを使用して木片から矢を作っていると、錬金術スキルで魔法媒体を生産していたアールが話しかけてきた。

 木片を木工用のナイフでなぞると、木片が青い粒子となってバラバラになり、形を組み直して矢へと変換される。

 質量保存の法則を明らかに無視して消費アイテムが目の前に積み重なっていくが、ゲームなのだから気にしない。

 今日の探索で消費したアイテムを補充している間、ぶっちゃけ暇なのでいきなり雑談が始まるのは今に始まったことじゃないが、さすがに手癖悪いとか心外な言葉から始まるのは初めてだった。

「人を万引き少年みたいに言うなよ」

「いや、そういう意味じゃなくてさ。バカスカ物投げるねって」

「ああ、それは俺も思った」

「右に同じ。戦闘後に剣やナイフがフィールドに刺さりまくってて、踏みそうで怖い」

 消耗品の補充を行っていた、すっかり馴染みの顔になったクウガとトルジがアールに賛同した。

 持っている生産スキルの都合上、この面子になるのはしょうがないが、男四人とはむさい。むさ過ぎる。他、周囲でせっせとアイテムを生産しているのも男だけ。なんなのだこの空間。

「アイテムボックスから武器交換するより捨ててから取り出した方が早いんだよ」

「それは分かるんだが、投げるなよ。いきなり後ろから剣が飛んできて、コエーんだよ」

 チッ、前衛のくせに臆病な。

「万が一当たっても、投擲スキルで投げた剣なんて大したダメージにならないだろ。我慢しろ」

 何気にPK上等なこのゲーム、パーティー登録してあるなら味方からの攻撃にダメージは受けないが、それ以外だと普通にダメージを受ける。

 俺はソロで後衛にいるのでその気になればみんなの背に攻撃を加えることができたりする。

 何故俺だけがソロ状態かと言うと、他のパーティーが丁度六人で固まっているからだ。一度パーティーをバラして組み直す案もあったが、ワンランク弱い俺が混ざったパーティーは悲惨な事になりそうなので俺の方から辞退した。

 結果、俺は遊撃兼魔術師組の護衛としてソロで頑張ることになった。

 それなのにこいつらときたら文句を言う。まあ、囮もやって何気に危ない目に合うので共有財産の回復薬を優先してもらえるがな。

「だいたい、どんだけ武器持ってるんだよ」

「俺が見た限りだと中型剣に小型剣の投げナイフ、槍、弓、あとは棍もだな。ああ、盾も投げてたか。他にはどんなスキル伸ばしてるんだ?」

「たくさん。どれを集中してスキル伸ばそうか迷ってるといつの間にかな」

 そのせいでアイテムボックスも武器で一杯だ。

「ねえ、クゥのスキル見せてもらってもいい?」

 見られて困るものでなかったので、スキルウィンドウを開いて他人にも見える表示状態にし、三人に見えるよう横に半回転させる。

「平たッ!」

 第一声がそれだった。あれもこれもと伸ばしているとほぼ横並びになってしまったのだ。

「サブ武器としてメイン以外に一つ二つぐらい伸ばすなら分かるが、全部伸ばすってなんだよ」

 手にしっくり来る武器がなく、根が心配性(自称だ)なので武器とかたくさん持ちたくなる。

「魔法使えるのは知ってるけど、こっちも平たい」

 セールだからと、とある商会のNPC店員に騙されて四属性の魔術書を買わされて、使わないと勿体ので惰性で伸ばしてるだけだ。

「ネタに走ると死――ってこいつ、何気に登山スキル高ぇ!」

 それは前にゴブリンの群をやり過ごす為、崖にしがみついていたら勝手に熟練度が上がった。

「ああ、やっぱりレンジャー系とかもそこそこあるんだな」

 一人暮らし(野外での)が多かったので。

「器用貧乏なやつ」

「普通にネタだろ」

「まあ、でもさ。便利だよね」

 アールの言葉に他二人が素直に頷いた。

「パーティー単位だといらない子だけど、こう大所帯だと役に立つ」

 再び頷かれた。こいつら……。

「戦闘もそうだけど、かゆい所に手が届くよね」

「対人手不足要員だよな」

 どういう要員だよと思いながら、製造した矢を前に積み重ねる。

 ミサトさんのパーティーらと合流したことで二十五人(パーティー四つ+俺)の大人数となった開拓隊は未知のモンスターに時折苦戦しながらも数の暴力で障害を突破していった。

 だが、それでもいくつか問題があった。

 一つは、単純に出現するモンスターが強くなったことでアイテムの消費が多くなったことだ。

 それについては予測していたので消費アイテムやその材料は既に買い込んであったが、やはり節約の為にも出来るだけ材料を現地調達でアイテムを生産している。

 もう二つ目は食べ物だ。このリアルティ溢れるゲームではステータスに影響を受けないものの空腹を覚えるのだ。アールによればそれはそう錯覚しているだけで、現に少しでも何か食べれば空腹は消える。

 だが、空腹がなくなった程度で食事への欲は消えない。食べれるし害は無いと言われても料理の失敗作である“黒い固まり”なんて料理アイテムは食いたくない。おいしい物が食いたいという欲求は満たされない。

 なので料理スキルのあるやつが重宝される。

 最後に三つ目、夜襲だ。

 基本、キャンプを設営してそこに設置した焚き火はモンスター遠ざける効果がある。それでも確実とは言えない上、夜襲なんていう未発見だった特性を持つモンスターは焚き火の効果を受け付けないのだ。

 レッドキャップというモンスターに初めて襲われた時は大分パニックになった。まあ、正面から戦うと弱かったけど。

 そんなわけで今ではキャンプを設営した時は生産組、料理組、見張り組の三つに分かれてそれぞれ自分達の役割を行っている。

 そして俺は、ソロでの野宿が多かったせいか三つとも出来てしまう。出来てしまった。くそっ。

「クゥさん、そちらが終わったら手伝ってくれませんか」

 アクション動作で料理を作っていた女子、ユイに呼ばれた。

「味付けはできないぞー!」

 料理スキルは誰が作っても同じ味だが、アクション動作によって味付けを変える事ができる。これは現実で料理できるやつにしか任せられないことだ。

「サラダ作るだけですから。ソースはこっちで作っていますし」

「あー、はいはい。もうちょっと待っててくれ」

 面倒くせぇ。だが、手伝わないと失敗作の方を食わされる。料理できる女はこれだから。

「…………なに見てんだコラ」

 アール他計三人がじっと俺の顔を見つめていた。

「羨ましい」

「まったくだ」

「なんでだよ」

 意味がわからん。あれか? 女子と一緒に、とかか?

「いいようにコキ使われてるだけだろ。お前らも料理スキル伸ばしたらどうだ? 小型剣の熟練度も上がるぞ」

 料理スキルは小型武器・刀剣、調合、火属性耐性の熟練度も極僅かとはいえ上がるから侮れない。

「違うって、そっちじゃないよ。あれ」

 そう言って、アールが視線でそれを指し示した。

「あー……」

 料理組(女ばっか)の中で一際小柄な女子、アヤネが鍋の様子を見ながらも時折こちらに視線をやっていた。

 なんなのだろうか、あれは。妖怪かなんかか? チラ見妖怪とかそういう感じで。

「詳しいことは聞いてないけど、二度も助けたんだって?」

 二度も助けたっけ? そんな覚えはない、多分。でもイチイチ訂正するの面倒だ。

「俺もそんなイベントやりたい」

 イベントじゃねえし。

 しかし、どうやら詳しい経緯まで話してはいないらしく、危ないところを俺が助けた程度の認識だった。

 まあ、年頃の娘があんな体験を人に話すのは考えにくいし仮に話したとしても、一番話の種にしている女子連中が気をつかって男連中には曖昧にしたのかもしれなかった。

 どっちでもいいけど。

「早く向こうに行ってあげたら?」

「えー」

 嫌だ。だが、料理の手伝いをすると言ってしまった手前、向こうに行かなければならなかった。

 仕方ないので、木工用ナイフをアイテムボックスに仕舞って料理が行われている場所に行く。

「きたー」

「そちらに山菜が積んでありますから、適当にサラダお願いします。レシピは持ってますよね?」

 我ながら小学生以下のような言動に、小さく微笑みを浮かべたユイは気にせず丁寧な物言いで俺に指示を出した。

 見張り組のセナとは大違いだ。

「一昨日もらった」

「なら、よろしくお願いしますね。二人で頑張ってください」

 …………二人?

 まあ、予想できてはいたがな!

 森の中から採取スキルで手に入れた食材アイテム、山菜が積み重なってる場所にアヤネがぽつんと立っていた。

「よ、よろしくお願いします」

「ああ……」

 一体、なにがよろしくなのか。

 とっととサラダを作ってしまおう。

 調理セットをアイテムボックスから取り出して、アクション動作を使用せずに、さっさと作る。

「…………あのっ」

「んー?」

 隣では同じようにアヤネがサラダを作り始める。

 お互いに人数分のサラダが完成するまでの待機時間、手持ちぶさたの状態になっている。このままこの場を離れては料理が中止になって材料が失われてしまうからしょうがない。

「あの時は本当に――」

「いや、もういいって。前にも聞いたし。何度同じこと言うつもり?」

「す、すいません」

 謝られても、その………………困る!

 どーすりゃあいいんだよマジで。女子との会話なんて学校での学級連絡とか業務連絡以外ロクにねえよ。

 ゲームサークルにいた女子? あいつらは女に入らん。なにより内一人はシュウの彼女だからな。

「でも、やっぱり何かお礼をさせてください」

 しかも、オドオド系な感じさせつつ微妙に強引だし。

「お父さんも、借りはすぐに返せって言ってました」

 なんか違う意味に思えるのは俺が歪んでいるせいか?

「何でも言って下さい!」

 なんでも、と来たよ。

 気づいているのだろうか。周囲、自分の仕事に集中するフリをしてこっちに聞き耳立てている連中のことを。

 サバイバル生活とゴブリン達との一人戦争のおかげで<気配察知>や聞き耳スキルが上がっていて、こっちを盗み見ている連中の会話が聞こえてくる。

「あんな美少女がなんでも、かぁ。なんてエロゲ?」

「……陵辱モノ? 俺、ちょっと鴨撃ちに」

「死ねよお前。つーか、ちと幼いだろ。そういう対象に見れんわ」

「今のうちにキープしといて大人になったら、じゃないか?」

「ヒーカールー……ゲンジ!!?」

「ウラヤマ」

 好き勝手言ってくれる。

 そうまで言うのなら、期待に応えてやろう。

「よし、脱いで四つんばァガッ!」

「ク、クゥさん!?」

「や、矢が……」

 アヤネからは影になっているが、矢が頭に刺さった。

 痛い。てか、現実世界なら間違いなく死んでいた。

 加減されていたので大したダメージにならなかったそれを抜いて、飛んできた方向に目を向ければ弓を持ったセナが汚物を見るような蔑んだ視線を寄越していた。

 他にも盗み聞きをしていた女連中が冷たい視線を俺に投げつけ、男連中はそれにビビって見て見ぬフリ。

「チッ……」

 抜いた矢を生産した矢の山の上に放り投げ、何事も無かったかのように俺はアヤネを見下ろす。

 こいつ、あんな事があったくせに俺の発言に対して困ったような顔をしただけで、それ以外の変化が見られなかった。

「………………」

 まあ、他人の心境の動きに俺が気づける筈も理解出来るはずもないのでどうでもいいけどな。

 つか、早くサラダ完成しろよ。こっち、じっと見上げられて非常に居辛い。

「はぁ……とにかくさ、なんでもとか言われても逆に困るから。だいたい、俺は――」

 顔を近づけ、そこから先は誰にも聞かれないよう囁くように声を小さくする。聞かれても俺は困らないが、こいつがどう思うかは別だからな。

「自分の復讐の為にやったんだ。お前は関係ない」

 そう、あの時確かそんな設定だった筈だ。

「…………おい、なに狙ってんだ?」

 顔を上げると、セナが弓に矢を番えて俺を狙っていた。

「セクハラするんじゃないかと思った」

「なんでだよ」

 ああ、顔を近づけたからか。

「ともかく、お前の関係ない事だったから。それでも納得いかないなら、お前の父親のすぐ返せって主義に反するけど、いつか何か困ったことがあれば頼むから」

 いつかなんて訪れる事はないがな。

「でも……」

「でも、もねえよ。とにかくそういうことで分かったな? 分かったなら困らせないでくれ」

「…………はい」

 アヤネの残念そうな、申し訳なさそうな声と同時に丁度人数分のサラダが完成する。

 俺は自分が作った分を料理係のユイに渡し、アヤネに背をむけて逃げるようにしてそこから離れた。


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