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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第八章
85/122

8-10

 第二形態になったレヴィヤタンの特徴はまず、デカい。アスモデウスが最大かと思っていたが体長はそれを超え、巨大な城の各所に巻き付くほどの巨大な龍だ。

 次に動かない。身じろぎしたり首を動かしたりはしているが、基本的に城に巻き付いたままそこから動こうとしない。アスモデウスやアモンが好き勝手にフィールドを駆け回っていたのを考えると怪しいものだが。

 見た目の次は肝心な性能スペックだ。地の魔王アスモデウスは防御特化、火の魔王は攻撃特化に対して水の魔王はなんと魔術特化のようであった。第一形態で散々人を蹴り飛ばしておいて魔術師型とか。

 ともかくレヴィヤタンは魔術と精神抵抗の熟練度が高い。これはあいつから放たれる氷柱やら冷凍ビーム、冷気の攻撃力が高いと云う事と弱点属性の魔術を放っても思うような効果は得られないということだ。やるなら土属性の物理攻撃。

 だから、物理攻撃でまともにダメージが通る頭部を狙わなければならない。けど、それをするには城の壁や魔王の胴体を、氷柱の雨や漂う冷気を避けながら移動する技量が必要だ。

 金属製の武具の損傷値を加速させる酸対策として軽い布装備を多くのPLが装備しているものの、曲芸じみた動きをできる者は限られている。デスゲームとは言え、攻略させる気無いだろ開発者ども。

「猿よりも身軽ですね」

 隣にいたシズネが顔を上げたまま毒を吐いた。

「リアルでもおかしかった連中だからな」

 無駄な事に思考を割いている俺は今、拠点として水路の上に停止している鯱鉾号から戦いの様子を眺めている。こうやって端から見るとオカシイ連中が一杯だ。

 <鈴蘭の草原>のメンバーは言わずもがな。<ユンクティオ>のトルジはバランス型の戦士系だからスピードはそう速くないが動きが洗練されていて、不安定な足場からでもレヴィヤタンにしっかりと攻撃を加えている。ついでに変態のミーシャも獣みたいな動きを見せる。あれは天性のものだな。ミノルさんも重量のある大剣でありながらよく戦っている。どこぞのハンマー野郎とは大違いだ。

「ックショオイ! ――誰か俺の悪口言っただろ!?」

「いいから手を動かす!」

 船の下でモンスター相手にハンマー振り回していたクウガがミサトさんに叱られた。

 <ユンクティオ>だけじゃない。キリタニさんをはじめとした対サイバーテロ課のPL達も凄い。一般人と違って仕事として現実リアルで戦闘訓練をしていたからといって、エノクオンラインで可能なアクロバティックな動きも出来るとは限らない筈なのだが、信じられない事に食いついている人らがいた。特に頭おかしいのが馬で跳ねているタムラさんだ。

 馬で他のPLみたいに跳ね回るとかなんなの? 騎乗スキルの熟練度が高い低いの問題では無いと思う。それとも、あの馬は実は魔導人形みたいな馬型ロボットなのだろうか。

「サイボーグ馬という可能性も微レベルで」

「そういう世界観じゃないだろ」

 ファンタジー物でも古代兵器云々とかでロボが出てくる話はあるが、サイボーグ系となるとさすがにどうかと思う。あってもそれは多分キメラ系だ。

「つーか、お前なにしてんだ?」

 俺の近くにはヘキサが干し肉を齧りながら座っていた。

 船の上には閉め出された時に置き去りにされた物資を回収し集め、休憩する者や射手系のPL達が船の周りに集まるモンスター達を攻撃している。それなのにこの魔女っ娘ときたら何をサボっていやがるのか(自分の事は棚上げ)。

「自分の事を棚に上げて人をサボっているような言い方されてますが、私はちゃんと仕事をしていますよ」

 ヘキサが見つめる先にある船の甲板には色違いのサークルが三つあり、上に座るPLの体力・スタミナ・魔力をそれぞれ回復させていく。

「サボり魔とは違いますから。クゥさんも私を見習って何か働いたらどうですか? アヤネさんも頑張っていますし、ギルドリーダーのタカネさんも凄いですよ」

「魔女や歌姫を見習うかはともかく、お前は俺にアレの仲間入りをしろと?」

 ヘキサから再び視線を上へと向ける。


 城の天辺や胴体を伝って攻撃を仕掛けるPL達。アヤネの歌スキルによる敏捷値上昇の効果を受けた誰も彼もアクション映画ムービーのビックリ人間みたいな動きを見せている。大虎に乗ってるモモの方が非常にまともに思えるほどだ。

 レヴィヤタンの顔を狙って行われる攻撃は足場の関係からヒット&ウェイが基本だ。ミノルさんやゴウのような重量のある武器を使いながら動きが巧みな組は跳んですれ違いざまに一撃加えて離脱する。トルジやミーシャのようなバランス型や手数勝負の奴は更に二撃、三撃と加えていく。

 だが、こんな生死をかけた世界だからか、チート使ってないのにチートな奴の存在が目立つ。ゲームが上手いとかそういうのとは別次元の、なんと言っていいか分からないが、敢えて言うなら変態がいる。

 <鈴蘭の草原>ギルドリーダーであるタカネがレヴィヤタンの角を足場にして蹴り、眉間に槍を突き刺した。それだけならいいが、手足の屈伸で溜めを行った後に四肢を伸ばした反動で槍を引き抜き、宙で縦に一回転する。槍も同様に回し、再びレヴィヤタンの額にダメージを与えたかと思うと、棒高跳びのように龍の後頭部にまで移動した。後に続くシオとエイトの姉弟も得物は違えど攻撃が移動するための支え作りになっていた。

 確かにあれならイチイチ離れなくとも攻撃できる。だが、回復をハルカやクリス、ミエさん任せにしてスリップダメージに対処していてもレヴィヤタンの鱗から氷柱が生えたり噛みつき、宙から雹が降る中であれをやるか普通。できるできない以前の問題だ。

 更に恐ろしいのが、そんな事ができるPLがまだ他にいるということだ。

 それがキリタニさんとタムラさんだ。キリタニさんはタカネ達ほど曲芸じみた動きはしていないが、タムラさんは馬に乗ったままレヴィヤタンの胴体を走り回っている。

 なんというか、老武者のような格好に十文字槍で馬に跨っている姿は時代が違うだろうと突っ込みたくなる。対サイバーテロ課の人全員がそうでないところを見ると、あの二人が特別なようだ。

 そういう感じでビックリ人間ショーみたいな光景が上で繰り広げられている訳だが、見た目の奇抜さに反して戦況は五分五分であった。

 このまま続けていけば勝てるだろう。いや、あれだけのなんちゃって人間がいるのだから勝てる。だが、攻撃の回転が少ない。一部のおかしな連中を除けば基本的にすれ違いざまに一撃を与えるのがせいぜいだ。どうしたって時間が掛かる。時間が掛かれば、体力バーやスタミナバーが残っていても精神的な疲れでミスが生じてしまう。そういう点で油断はできない。

「…………そろそろか」

 俺は立ち上がって船の上から出るため歩き出す。その後ろからシズネがついて来た。

「アヤネー。凍結対策しとけよー」

 船から降りる直前に歌い続けるアヤネの背中に向け、呼びかける。アヤネは歌を止めなかったが、僅かにこっちへ首を動かして目を合わせた。

「そういう事は明確にしてほしいですね。というか、自分で告知して欲しいんですが」

 俺が積極的に忠告する気が更々無い事を分かっているヘキサが後ろで愚痴りながらチャットウィンドウを開き始めた。

 俺はその二人の様子を見て、船から飛び降りた。


 レヴィヤタンに変化が現れたのはそれから十数分ほど経った時だ。全身の鱗が青く輝き出したのだ。

 目が眩むほどの強い光にPL達が攻撃の手を止めて警戒する。

 ボスの体力が減ると強力な攻撃が放たれるのは最早常識。無かったら別の何かを疑う。特に魔王クラスならばとっておきの一つや二つ持っているだろう。

 PL達が、せっかく昇ってたどり着いた攻撃できる位置を放棄して距離を取った直後、レヴィヤタンの体から閃光が放たれた。

 次の瞬間、景色が一変する。晴れ渡った光景から凍り付いた景色へと写真フォトを切り替えたような唐突さでレヴィヤタンを中心にして氷の世界が現れた。

 地面の壁も天井も、城の中までもが凍り付いている。外では吹雪が吹き荒れて氷付けになった世界に白の色を加えていた。

 雪一面の景色を銀世界と言うが、光が雪に反射しているからではなく、金属みたいに冷たいからではないかと思う。

 現にチャットでは寒いと叫ぶPL達の声があった。そして面倒なのが、レヴィヤタンの周囲にだけ起きていたスリップダメージが城の内外にまで及んでいるという事だ。アヤネが肉体抵抗値を上げる歌スキルを発動させて対抗しているが、さてどうなるか。

「こういう時、エアコンが恋しい」

 まあ、宿とか行ったら魔法ですとか云う言い訳で適温に保たれているのだが。

 アヤネの歌スキルと水と風の上位属性である空属性のおかげで俺はこのスリップダメージに抵抗しているが、他の奴は大丈夫だろうか?

 一人だけ城の中を歩いて比較的安全圏にいる時ばかり他人の心配が出来てしまうのは人として考え物だが、今更でもある。

 さて、レヴィヤタンが奥の手を発動した以上戦闘も佳境に入ったということだ。疲労した精神を無視し、終わりが見えたことでPL達は一気に畳み掛けるだろう。

 結果、PL側の勝利は間違いない。だが、僅かなミスで死者が出てしまう可能性がある。

 最前線にいるPL、特にタカネは張り切る可能性が高く、同じくらい危険も高い。

 万が一、という想像をついしてしまう。

「――とてもユニークな顔をしていらっしゃいますよ、クゥ様」

 後ろに付き従うシズネに言われて、俺は鏡のように光を反射する氷付けの壁を見てみる。

 これがユニークだと言えるお前は大したもんだよ。




 ◆


 ――もうすぐレヴィヤタンを倒せる。

 レヴィヤタンの頭部に直接攻撃を加えていたPL達の心中は一致した。それは目標到達が目の前の喜びというより、ようやく終わるという安堵だった。

「みんな、気を引き締めろ! ここからが本番だ!」

 ミノルがPL達に渇を入れる。緊張が長く続けば、集中力が途切れる。終わりが見えれば尚のことだ。

「回復は?」

「まだある。だが、ペースが追いつかない!」

 攻撃組はレヴィヤタンの頭部を攻撃するためのポジションとしてレヴィヤタンの長い胴体を足場としている。

 そこは氷柱が生えることを抜きにしても冷却のスリップダメージがある。徐々に減らされる体力はアイテムや魔法の回復が間に合わなくなりつつある。

 余裕はあるが、楽観視できる状況ではないということだ。

 もう少し、もう少しという焦りを押さえつけながら、PL達は確実にレヴィヤタンに対してダメージを重ねていく。

「あと、一撃で…………」

 プログラマーによって強化された<情報解析>によるレヴィヤタンの情報は共有されている。それによって表示されているレヴィヤタンの体力バーはレッドゾーン、それも後僅かというところまできていた。

 ギルド<鈴蘭の草原>のリーダー、タカネはトドメの一撃を与えるために跳び上がっていた。今までの攻撃でどの攻撃でどれほどのダメージを与えられるかは計算されている。

 レヴィヤタンの頭上に跳んだタカネが槍を振り下ろす。身体を縦に回転させながら半月を描くように槍を振り下ろす攻撃スキルだ。レヴィヤタンの残り体力から考えれば過剰な攻撃力を持っているが、タカネは確実に決着を付けるためにスキルを使用する。硬直は下にいる仲間に受け止めてもらえばいい。

 タカネの攻撃がレヴィヤタンに命中する。直後、スキル使用による硬直でタカネの身体は金縛りにあったように一瞬動きを止める。

「なっ――!?」

 僅かな浮遊感の後、再現された重力に引っ張られるまでの僅かな間に視界に入ったソレが見え、タカネは声を上げる。

 その瞬間を見守っていた他のPL達も驚愕する。

 レヴィヤタンは消滅はせず、城に巻きつく長大な体躯が変わらず存在し、何事もなかったかのように龍の瞳がタカネを見下ろしていた。

「どういうことだっ!?」

 タカネの攻撃は確かに届いた。槍からもその感触は伝わっていた。それなのにレヴィヤタンの体力バーは未だ残っている。

 防御かダメージ軽減のスキルでも使用されたのか。それにしてはエフェクトも発生していない。

 疑問が渦巻く中で、タカネはレヴィヤタンの凶悪な牙の生えた顎からある物が落ちるのを見つける。

 それは半分に砕かれた透明の瓶だった。

「回復アイテム!? いつの間に!」

 見覚えのある瓶の残骸は砕かれていてもこの世界で見慣れた回復アイテム、回復薬の入った瓶であった。

 元から所持していたのか、PLが持ち込んだのを回収したのか分からないが、とにかくレヴィヤタンはトドメを刺される前に回復アイテムを使用することで体力を水増しさせてギリギリのところで命を繋いだのだ。

 しかし、所詮はPLが使う回復アイテム。回復量は魔王にしては微々たるもので、せいぜい寿命が数秒延びた程度。現に、状況を察するよりも早く本能的に動いたタムラが馬を巧みに操り追撃を加えようと跳び上がっていた。

 ――が、タムラの槍が届くよりも早くレヴィヤタンが動いた。

 レヴィヤタンは顎を上げ、天を見上げると飛翔したのだ。

 城に巻きつく長い尾も頭の動きにつられ動き出し、拍子にぶつけた城の壁が崩壊する。

「逃げる気かッ!」

 槍をかわされたタムラが昇る龍の頭に向け槍を投げるが、悪足掻きの投擲は頭に届かず胴体に弾かれる。

 地から天に伸びる巨大な塔、もしく橋のようにレヴィヤタンは質量や重力を無視して天に昇っていく。巨大な生物は少し動くだけでも周囲に大きな影響を与える。胴体を足場としていたPLはその煽りを受けて次々と払い落とされてしまった。

「最後の最後で、これ…………」

 落下途中であったタカネは落下しながら天駆ける龍を見上げ――頭を地に向けた姿勢で言えば見下ろして――苦々しそうに顔を歪める。魔王がこの土壇場で逃げるなど、考えもしなかった。いや、可能性だけならいくらでもあった。だが、この後一撃で決まるというギリギリのところで逃げの一手を打つなど有り得ないという思い込みがあったのは事実だ。

 今までの苦労が水の泡に帰そうとしている。

 そんな悔しさを抱きつつ、頭は冷静に着地の事を考えてタカネは顔を上げて迫る地上を確認する。

 視界の隅に城の一角からこちらを見上げるPLの姿があった。

「――っ! ほんっと、最低なヤツ!」

 悪態をつくと同時に空中で身体を捻りの動きだけで縦に反転させる。

 魔導人形を隣に侍らした変態男が無愛想で無表情な面を上げてこっちを観察するように見上げている。

 長い付き合いだ。どんな顔していようが彼の考えている事ややろうとしている事は一瞬で理解できる。

 だから気張らなくてはならない。タカネの矜持が、想いがかかっているのだ。

「ハルカ、私を撃ちなさい! シュウも準備しなさい!」

 命令を発しながら素早くパーティー登録を解除。

『本気!? ――ああ、もう仕方ない! ハルカ、撃って!』

 シュウがボイスチャット越しに叫んだかと思うとタカネの身体に衝撃が襲う。

 ハルカから撃たれた火属性の魔法だ。威力の低い魔法を撃ったのだろう。あまりダメージは無く、代わりに落下していた勢いが爆発の影響で一瞬止まる。

「タムラさん、ちょっと飛ばして下さい!」

「はぁ!?」

 馬と共にタカネから僅かに遅れて落ちていたタムラが聞き返す。だが、タカネのやろうとしている事を瞬時に理解したのか馬の背を蹴って落下が僅かに止まったタカネに向かって跳ぶ。その手には予備武器の片刃剣が握られている。

「無茶をする――ッ!」

 そう言いつつも老兵は剣の刃の無い方をタカネの足裏に合わせた。

 僅かに眉を顰めた顔はタカネの行動に反対しているのだろう。だが、心情を別にしてわざわざ合わせてくれた。

 タムラが吹き飛ばし効果のある刀剣スキルを使用。タカネを上空へ弾き飛ばす。

 本来ならばそう都合よく発射台のように人を投げ飛ばせるようなスキルではない。しかも互いに空中で足場もない。だが、実際にやってのけた。

 これは純粋にタムラ本人の技術によるもの。現実リアルの時代を考えれば武者姿など時代錯誤ではあるが、タムラの力量そのものが現代社会にそぐわぬ、生まれてきた時代を間違えているとしか思えない。

 吹き飛ばし効果に合わせて跳躍し矢のようにレヴィヤタンを追うタカネもまた普通ではなかった。

「シュウッ!」

 弾きによる飛翔の勢いが弱まる中、タカネがもう一人の幼馴染の名を呼ぶ。

『失敗しても知らないからね!』

 半ばヤケクソ気味な返事の後、斜塔の天辺に陣取ったシュウが矢を放つ。弓スキル最大のの攻撃力と飛距離、そして吹き飛ばし効果のある高速矢は真っ直ぐにタカネへと直進する。

「――フッ」

 短く息を吐き、飛来した矢をタカネは蹴った。風船が割れたような音がし、タカネが更に加速して上昇した。

 細い矢を空中で蹴り、吹き飛ばし効果による吹っ飛びのベクトルを自ら調整したのだ。吹き飛ばす方向を自ら調整するPLは多くいれど、受けた側がそれをするなど、それも空中で行うなど神がかり的なバランス感覚とタイミングだ。

「あと少し…………っ!」

 新たな加速を得て上昇するタカネの目前にはレヴィヤタンの首元がある。ダメージを与えられる頭部まで十分な勢いだ。

 そう思った瞬間、レヴィヤタンが振り向いた。

「なっ――しまった!」

 追ってくる自分の位置を確認するにしては首の動きが大きい。その意味を瞬時に察したタカネは咄嗟に身を捻り、せっかくの勢いを殺しながらも位置をずらす。

 直後にレヴィヤタンがぐるりと首を回して反転、タカネ向かって刃のような凶悪な牙の並ぶ顎を開きながら突進してくる。

 寸前に身を捻り舞うような回転でタカネが回避するが、かわしきれずに左足が噛まれた。

「あっ、ぐ、ぃ――離しなさい!」

 普通なら噛み千切られそうなものだが、足は閉じた龍の牙に挟まった。ダメージが噛まれた瞬間に起きたものの継続してダメージは無く、代わりに拘束された状態だ。

 タカネは手放さなかった槍を逆手に持って牙を攻撃するが、破壊するどころか胴体と同じようにまともにダメージを与えられない。

 その間、レヴィヤタンはタカネを捕らえたまま降下し続ける。

「道連れにするつもり!?」

 昇り龍から降り龍になったレヴィヤタンの速度は速い。地表には時代が時代なら英雄と呼ばれてもおかしくはない戦闘技術を持つ者達はいるが、そんな彼らでも巨体で高速落下するレヴィヤタンを倒すと同時にタカネを救出するのは難しい。

 タカネだけ救出するにしても牙に挟まれた彼女を助けるのは難しく、加速を得て落ちる彼女を落下ダメージから守るのまた困難だ。

「――くっ、あははははははははっ!」

 ――どうするか、と高速で近づく地表を見ながら思考を割いた時、タカネの耳に不意に声が届く。

 過去僅かにしか聞いた事のない声。だが、タカネはそれが誰が発したものかすぐに気付く。

 レヴィヤタンだ。

「せめて一人は道連れにしておかないと魔王の名がすたる。それに――」

 レヴィヤタンの垂直なスリットの瞳孔のある瞳が、左足を噛まれ落下の勢いに煽られるタカネの姿を捉える。

なれの事は知っているぞ。あやつの記録にあった」

 龍の表情は伺いしれない。だが、レヴィヤタンの声には含みがある。

「人は大切な者が消えると悲しむものだ。だが、あやつは? 汝が死んだ時あの男はどうかな?」

「なっ――」

 レヴィヤタンの言う言葉。最初は意図が不明だったが、すぐにタカネはその意味を悟る。

「悲しむか? 泣くかな? ああ、ともかく嘆いてくれるだろう。同時に――――ぷっ、あはっ、ははははははははーーーーっ!!」

 言いかけたところで、まるで耐え切れないとばかりにレヴィヤタンの哄笑が空に響き渡る。

「人間とはなんと愉快な! 見届けられぬのが残念だぞ!」

「あんた、さぁ――私を嘗めてんじゃないわよ!」

 叫ぶと、タカネは逆手に持った槍の刃で自らの左足を切断する。付け根近くまで噛まれていた足を捨てたことで、レヴィヤタンの拘束から解放された。

 そして、鱗の皮膚に沿って自分を見下ろしていた瞳の前にまで移動する。

 本来なら降下する龍の勢いに負けて弾き飛ばされるものだが、切断した足の痛みに耐えながらタカネは身体を回転させることで滑るように移動したのだ。

「――――ははっ」

 レヴィヤタンの瞳にタカネの姿が写る。昇り龍を追う為にパーティー登録を解除して自ら受けた攻撃とレヴィヤタンの牙、今までの戦闘で汚れ果てた黒髪の女はそんな状態でも槍から手を離す事はなく、それどころか構えまで取っていた。

「やっぱり、いいなぁ」

 白刃が煌き、目が切られる。

 タカネが振るった槍の一撃はレヴィヤタンの命を確実に刈り取った。

 直後、罅割れるような音が響く。

 音はレヴィヤタンの身体からだ。虹の光沢を放つ鱗が雪となって散り、その下は氷へと転じ割れていく。

 音を立てて崩壊していく龍の体は重力に従い落下していく。それは頭も同じであり、片目に一本の線が入った巨大な龍頭の氷像はそのまま地上へと衝突し原型を留めることなく砕け散った。

 刹那、城を覆う氷も呼応し崩壊。レヴィヤタンが発していた冷気で地表に届かなかった太陽光が振り落ちる氷に反射し、ガラスのような輝きを見せた。

 大量の氷が砕け落ちたことで白い粉塵が城壁の内部を包む。

 地上にいたPL達は物陰でそれをやり過ごすか、腕で顔を庇って凌ぐ。

 三体目の魔王討伐は成った。

 だが、倒した当人であるタカネは生きているのか。自ら足を切断したことで体力も大きく減り、レヴィヤタンの崩壊に巻き込まれながら落下したならばただでは済まないだろう。もしかするとそのまま地面と激突し死亡したという可能性だってある。

 今までの魔王討伐には犠牲者が出た。今回もまた――という不吉な思いがPL達の頭を過ぎる。

「上だ!」

 誰かが叫んだ。

 その声を聞いたPL達が顔を上げる。僅かに視線を彷徨わせた後、城のテラスに大きな影を見つける。

 大きな虎とそれに乗るモモ。そしてその後ろで自分より小柄な少女の背に寄りかかるタカネの姿があった。

 一拍の間の後、歓声が沸き起こった。PL達がボス戦の疲れなど忘れて叫ぶように喜びの声を上げ、喝采が城中を包む。

「助かったわ。ありがとう」

 拍手が送られる当人は眼下の光景から視線を移し、助けてくれたモモに礼を言う。さすがに疲労の度合いが強いらしく声に力は無いが、顔には微笑みが浮かんでいる。

「んーん。まだ元気だったから」

 主語が抜けているものの、モモが大虎の身体を撫でたことからペットのおかげと言いたいのだろう。クゥに謎の団子を食べさせられた大虎はまだまだ元気のようだった。

「ねえ、ところで…………」

 モモが首だけを動かし自分の背中を見る。背中にはタカネが寄りかかっているので密着し体重を預けていた。

「あ、ごめん。重かったわね」

「違う。おっぱい、凄く大きい」

 なんとも場違いなモモの言葉にタカネが瞬きをする。拍手や歓声に包まれて他の者には聞こえていないが、<ユンクティオ>にメンバーに聞かれれば狂乱するような言葉だ。

「どうやったらそこまで育つ?」

「――ぷっ、あははっ」

 さすがに笑ってしまった。

「ふふっ、そうね…………」

 一度言葉を切り、タカネは城を見上げる。氷が無くなった城の天辺に一瞬だけ誰かの影が過ぎり消える。

「苦しくなったら、かしら?」

 タカネの答えに、モモは首を傾げるのだった。


 ◆




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