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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第七章
72/122

7-6


 デカい海なのか川なのか分からない水溜まりを隔てた北の地方は全てが魔王レヴィヤタンの領土だ。だが、それもPL達によって砦が攻略されていき、人の領域が増えた。解放された街は荒れ果てたままだが、時間が立てばどこからかNPCが移住してきて(商人系のPCがそれに乗じて儲けたり)街としての機能を持つようになるだろう。

 そうやって拠点を確保しながらPL達は最終的に魔王城に到達するのだ。

「俺は何もやってないけどな」

 一応、俺も逃げきれる程度に基礎ステータスと熟練度を上げてから(それでも無謀だと言われた)、北の地方にも行ったけど、そう云ったイベントには一切関わらなかった。

「なにブツブツ言ってるの?」

「独り言だ」

 胡乱な視線をタカネが向けてきたが、よくある事だ。

 俺達は今、平原の上にいる。

 北の地方は起伏の少ない平坦な土地で、視界の障害となる物がないので遠くの景色まで望める。ただ、小さいのから大きいのまでたくさんの川があるので移動は難しい。

 山と言える物も無いので、レヴィヤタンの城を見る事も出来た。その様相は山を城に、いや城と山が一つになったアスモデウスの城と比べると真っ当に豪華な城だった。豪華の上に真っ当とつけると変な感じではあるが。

 城と言われて一般的に思い浮かべられる白い建造物に近くはあるがかなりデカい。それに巨大な川の上に建っているからか城の至るところから水が流れている。尖塔から水が滝のように流れ落ちている箇所もあった。

 <水上走り>が出来るPLを中心として機動力のあるPLを求める訳だ。あんなに広い上に水が流れていてはかなり移動が制限される。タフでも重鈍なPLならモンスターに囲まれて袋叩きにあってしまうだろう。

 その城に向かって、ゴールドがカリスマスキルとラシエムの領主という立場で築いた資金で鍛え上げたNPC兵士が進軍していく。その数二百。

 多いのか少ないのか分からないが、同じ武具を付けて一糸乱れぬ動きで歩いていく姿は威圧感がある。

 アールが言うにはNPCにも個性があって強気な者から臆病な者までおり、更には武器の得意不得意もあるらしいが、遠目から見る彼らの動きを見る限りそうは見えない。ホラ吹いただけなのか、よく訓練されているのか。

 今回、NPCの軍が進軍してる訳だが魔王軍はどうするのか、それを見るついでの演習も兼ねている。

 そして本命は調査隊による城内部のマッピングとモンスターデータの収集だ。開拓隊の頃を思い出すが、さすがに魔王の城へ単身はどうかと思う。まあ、これからやるんだが。

「そろそろ行くか」

「予定の場所までまだ先よ」

 団体様から道を外れようとするとタカネが呼び止めてくる。

 PL達がNPCに同行するのは、強いモンスターと戦っての熟練度上げもあるが、モンスターの攻撃手段を実際に体験する為だ。雑魚の部類に入るとは云え、油断していると何があるか分からない。NPCがモンスターを引き受けると言ってもいざ魔王戦となったら何が起こるか分からない事もあって備えは必要だ。アスモデウス攻略の際も、モンスターが捨て身の突入をしてきたので真面目な話油断できないのだ。

 それに、万が一調査隊が城に取り残された場合の救助隊も兼ねている。もしそうなったら迷子の捜索みたいになりそうではある。

「そんな、よーいドンみたいな気になれない」

「あんたねえ…………」

 タカネは呆れ気味に溜息を吐くが、別に咎める様子は無い。俺が集団行動を苦手としているのは知っているし、それが直らない事は分かっているから。

 ゲームサークルの連中も俺のそういうところは知っているので今更何も言わない。淡泊な連中が多くて涙が出てくる。

「クゥさん…………」

 アヤネがこっちを見上げてくる。前より慣れてマシになっているが、心配性なのは変わらない。

 歌スキルはNPCにも有効だから、今回もアヤネは援護に回る事になっている。

「んー」

 生返事のような声を返して、俺は列から離れる。

 こう、皆がゾロゾロ並んで歩いていく中で一人だけこうして道を外れて別方向に進むのは結構恥ずかしい。否応にも目立つ。それに――

「ちょっと見ました奥さん? 美少女の上目遣いに対してあの反応」

「ええ、見ましたとも。最近の子はだらしないですわあ」

 クウガとトルジがキモい声でヒソヒソ(っぽく)とこっち見ながら話しているのがムカつく。

「マジありえませんね」

「本当、自分本位ですよねー」

「………………クズ」

 女共は女共でマジで容赦がない。

「ボロクソですね」

「それでお前は何で連いてくる?」

 背中に浴びせられるからかい半分の冷たい視線を無視して歩いていると、何故かシズネが後ろにいた。

「お忘れですか? 私はクゥ様のメイドです」

 ああ、そうでしたねー。お前みたいなメイドがいてたまるか。


 ゴールドが意気揚々と率いたNPC隊はレヴィヤタンの城の目の前で停止した。あのまま突っ込めばいいのに、わざわざ止まるとは、悪ノリというか酔っているというか。まあ、頭がお花畑でどこまで本気か遊びか分からないのはいつもの事か。

 だが、問題というか多少予定外の事が起きた。城の門が突如開き、中からモンスターの群れが出てきたのだ。

 NPCの知能は高いので、モンスターが迎撃として出てくる可能性はアールがちゃんと考慮していたし、アスモデウスの城の門でも門番とも言える中ボスが立っていた。

 なら何が問題かと言うと、そのモンスターの群れが隊列を組んできたことだ。

 数はNPC隊より少ない。けれども多様なモンスターが役割別に整列しており、指揮官とも思える人型の魔族の傍には旗持ちまでいる。その様は素人目から見て軍隊、と言った感じだ。

 PL達は驚き、アールを始めゴールドに雇われたプログラマー達やヘキサがウィンドウを開いてデータ収集をするフリをしながら自分達だけ安全圏へと避難する。だが、さすがと言うべきか、馬鹿はひと味違った。

 調子こいてた馬鹿ゴールドは――フフフッ、シミュレーションゲームで鍛えた軍隊指揮の実力を見せてやろう、とかのたまってNPC達に檄を飛ばす。隠しスキルの<カリスマ>があるせいで、NPC兵士もノリノリだ。

 そして、NPC隊はモンスターの群れもとい隊列に突っ込んでいった。指揮能力云々はどうした。

 さて、モンスターとNPC兵士のド付き合いと云うゲーム的に考えると何とも不毛な争いが始まった中、俺はコソコソと城の外壁に近づいていた。

 戦場からとの距離、だいたい五十メートル。離れてるようで結構近い。

「本当、こういうのが本能レベルで得意ですよね」

「うるさい」

 反対側ではなく、敢えて身近な所から侵入を試みるというのは案外悪くないのかもしれない。現に、誰も気づかない。

 本来の計画は、探索隊のPL達は船に乗り城の中心を通る川を使って侵入するというものだ。だけどそれでは狭い船に詰め込まれてしまう。つまり人口密度が濃い。そんなむさ苦しいの御免被る。

 その結果、俺は一人だけ陸地から城の壁を越えようと思っているのだが…………。

「刺さらねえ」

 短剣で軽く壁を突っついてみたのだが、刺さらない。耐久バーも全然減らない。おそらくだが、防衛用の壁などはレベルキャップが外れるのを同じくして耐久値も上がるようだった。

 城の壁は高い。しかも、微妙に反り返っている上にひび割れも無いので<壁走り>や足場となる取っかかりを利用して登ることはできない。魔法で足場を作っても無理だし、鉤縄を投げて届く距離でもない。

「いきなり頓挫しましたね」

「そうだなー」

 仕方がない。遠回りになるが、戦場を迂回して川まで行き、そこから当初の予定通りに城の中に侵入しよう。川から入れるなんてザル警備だと思えるが、道中半魚人が口をパクパクしながら彷徨い歩いているので何気に難しい。あいつらマヌケ面の癖して強いし、集団行動したがるし、水の中にいると上方補正が加わるし。

 あいつらから逃げるのは苦労するんだがな。そんな風に面倒臭がっていると――

「仕方ありませんね。飛びましょう」

 メイドがそんな事を宣った。


 俺はどうやら自分の従者を見くびっていたようだ。シズネはロボだ。アンドロイドでもヒューマノイドでもガイノイドでもなんでもいいが、とにかくロボだ。ステータスの種族(PLだと血脈)も魔導人形となっている。それに魔導人形固有のスキルには腕の一部が変形して大砲みたいのになる。

 もう一度言うが、シズネはロボだ。とてもそうに見えないが人形だ。精神だけじゃなくて体も無機物系だ。

 だからジェット噴射で飛ぶこともできた。なんでやねん。

 思わず地元民じゃないのに方言が出てしまったが、ともかく熟練度が上昇したおかげでシズネは足裏からジェット噴射して飛べるようになっていた。

 さすがに自由自在に飛べず、せいぜい大ジャンプが出来る程度だが、その跳躍が城壁を飛び越えられる程というのなら大したものだ。

 俺はシズネに抱えられて城壁を飛び越して中に侵入することに成功。どう抱えられたかは言わない。男としてあれは恥だ。あれならまだ肩車された方がマシだ。

「殿方と云うのはちっぽけなプライドを大事にされますね」

「女はファンタジーを食って生きるだろ」

「私は人形ですから分かりかねます」

 いけしゃあしゃあと…………。

 従者にしては忠誠心の足りないメイドロボを従えて(?)、俺はレヴィヤタンの城内部を当てもなくさまよう。

 この城はアスモデウスの城の中と比べて全体的に広く、開放的な空間だった。通路も広く、吹き抜けだらけで高い場所も見上げることでよく観察できる。何より特徴的なのが、どこもかしこも水が流れている事だ。

 水の魔王というだけあってダンジョンも水を意識したデザインだ。水の流れる音がせせらぎのように聞こえ、風流だった。

『モンスターの数、少ないですね。さっきから歩いてるんですけど、たま~にしか遭遇しませんよ?』

『結構な数がこっちに流れて来てるんでしょう。ついさっき第二陣が来ましたし。モモさんはどうですか』

『逃走中。蛸が来てる』

『それってヤバいんじゃ――』

『触しきがががががが!?』

『言わせないわよ?』

「………………」

 ワビサビに目覚めそうだったのにチャットがうるさくて無理だった。

 孤立無援でないのは助かるが、喧しい。というか、外でモンスターの部隊と戦っている筈のPL達もチャットに混ざってるのはどういう事か。

「仕方ない、か」

 城とは思えない、内部にいくつも架けられている架け橋。その一つを歩きながら階下を見下ろす。少しすると慌ただしい音が聞こえ、一つの扉を破壊する勢いで一匹の大虎が現れる。

 下の架け橋に跳び移り走る虎の背にはモモが乗っており、後ろから追いかけてくるデカい蛸に追われていた。

「なにやってんだか」

 <情報解析>で見てみれば、蛸は高いステータスを持つものの決して勝てない相手じゃない。強力なペットのいるモモならソロでも倒せる筈だ。

 そんな事を思いつつ、袈裟に巻き付けた収納ベルトから弓矢を取り出していると破壊された扉から続々と同じ蛸型のモンスターがゾロゾロと現れた。

「…………電車ごっこ?」

 だとしても先頭車両が虎で後続が蛸とはシュールだ。

『違う』

『トレインしちゃってるんですか!?』

『フィールドだったらスゴい迷惑でしたね。というか、もしかして城に残ったモンスター全部引き受けてるんじゃないですか?』

『ほほう、全て、か』

『なんというか、けげぼぁ、ゴホッ、ゲホッ! ――ま、まだ何も言ってないだろうが!』

『いいから口開かず手を動かせ男共。あっ、ほらまた兵士が死んだ』

『あんたらのせいよ。お詫びに突貫して来なさい』

 内も外も余裕あるな。

 呆れながら、俺は弓の通常攻撃でストーカー蛸を頭上から攻撃する。何体かはターゲットをこちらに向けたようで方向転換して壁を昇ってくる。

「残りは自分で処理しろよ」

 モモにチャットでそう伝え、俺はポーチから瓶を一つ取り出して捨てるようにして投げる。

 瓶は登ってくる先頭のモンスターの眼前で中から破裂し、強烈な光と音を発生させる。

 それによって怯んだモンスター達が動きを止める。モモの方にも投げても良かったが、互いにソロなので下手したらあいつも目と耳をやられるかもしれないので頑張って貰うしかない。なんだかんだで調査隊に参加できるほどの実力はあるから問題ないだろう。

 俺とシズネもモンスターが動きを止めている間に橋を渡りきり、策敵範囲内から急いで逃れる。

 その時、ふと視線を感じて頭上へと顔を向けてみれば、吹き抜けの上からこちらを見下ろす三つの影がある事に気づいた。

 ついイラッと来たので駆け足で走りながら中指を立てて見せる。すると真ん中に立っていた、アスモデウスの城で見た女が微笑を返して踵を返すと他二人と共に姿を消した。

 女の名前は知らない。ただ、エルバやネピルと一緒にいたことからしてセティスの部下、当然マステマとしての顔を知っている腹心なのだろう。

 …………俺、後ろから撃たれたりしないよな?



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