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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第七章
68/122

7-2


「タカネ、こっちで一緒に飲まないか!?」

 一度投げ飛ばされたにも関わらず、広い食堂のテーブルの一つでミーシャがタカネに向かって手を振り、隣の席をバンバンと叩く。

 ミーシャというアメリカン(多分)は両刀、バイセクシャルである。どっちもイケる女はタカネに一目惚れしたらしく、いきなりプロポーズをかました。そして玉砕した。

 クウガ曰く――二番煎じな上に変態王子と一緒、らしい。変態王子とは、おそらくエリザから聞いたことのある魔族を指すのだろう。ちなみに、シズネがその事についてアヤネに聞いたところ、十秒を時を要してそんな生物がいた事を思い出していた。

 ミーシャがあまりにしつこいので、最初は適当に聞き流していたタカネも我慢の限界にきて投げ飛ばしたのだが、バイは未だに懲りていない。

「うちのギルドメンバーがすまない」

 ミノルさんが本当に申し訳なさそうに謝罪する。ほんと、ミノルさんは苦労性だ。

「別に気にしてないわ」

 本当に気にしていないように言って、タカネは席につく。当然、ミーシャの隣ではない。そもそもテーブルが違う。

 不満を露わにしたハスキーな声が聞こえてきたが、ミサトさんの注意する声がしたと思ったらハスキーボイスも止まった。

「皆揃ったようだ」

 上座に座るゴールドが立ち上がり、大仰に食堂内を見回す。雑談していたPL達が口を動かすのを止めて、ゴールドを注視する。

 闘技場で訓練したり騒いだり、イロモノ武器の使い勝手を確認したりしているとすっかり日が沈み、飯時になっていた。

 そしてゴールド主催で食事会が開かれる事になった。皆で飯食うの好きだよな、お前。別にいいが。

 場所は城の馬鹿広い食堂だ。長テーブルを並べ、その周りをグルッとPL達が囲んでいる。<ユンクティオ>、<鈴蘭の草原>、対サイバーテロ課、ゴールドの関係者等々が集まっているので結構な人数だ。

「固い話は抜きにして、食事を楽しみ、交流を育んでくれ! ――乾杯!」

 奴にしては珍しく勿体ぶらず簡単に音頭を取った。

 そして、全員がグラスを持って――乾杯ッ、と続けた途端、食堂は再び喧噪に包まれる。

「これ、美味しいです」

「私はもうちょっと濃い方がいいわ。エイト、あんた作ってみなさいよ」

「別にいいけど、姉貴が好きなのは辛いのだろ。これにどうやって味付けすればいいんだよ」

「なら、今度私と一緒に作ってみる? 多分、味付け変えれると思うわよ」

「えっ? ミエさんとですか? そ、それは、まあ…………」

「そこのメイドさぁ~ん、ビールお代わりー」

「クリス、ペースが早いぞ」

 <鈴蘭の草原>は変わらずマイペース。

「うんまぁあああいぃぞぉおおおおっ!」

「もっと普通に感想言えないのか!?」

「ほおぐ、もごほららはほほ」

「汚ねえ! クウガ、食いながら喋るな!」

「未来嫁がこっちに反応しない件について。癒しが、癒しが足りねェ。エリザちゃーん、そしてモモちゃーん、お酌してくれよォ」

「こっち来ないでくれません?」

「――フシュッ」

「コラッ、もっと行儀良く出来ないの貴方達は! そこ、暴れない!」

 そして<ユンクティオ>は相変わらず混沌としている。

「毎度思うけど、この本物同様の味覚には驚かされる」

「メインシステムのスペックの資料見たことあるけど、五十年以上は先に進んでいたわね」

「それはいいんだが、白米ないのか? 白米。あと味噌汁」

 対サイバーテロ課の人らはさすがに真面目だった。タムラさんがちょっとホームシック拗らせているようなこと口走っているが、日本人なら誰でも白ご飯と味噌は恋しくなる。茶漬け食べたい。

 そしてこっちはと言うと。

「ゴールド、先程練兵所でNPCのステータスを確認したが、防御力をもっと上げる事はできないか?」

「今、懇意にしている鍛冶職人に彼らの防具を作らせている。もし良かったら明日にでも一緒に見に行かないかい? そろそろ試作品が出来上がっている頃だ」

「皆さん、見てください。またまた新魔法作りましたよ。褒めろ」

「ネタ魔法混ぜるのは止めて欲しいなあ。なにこの、カッコイイポーズで目眩ましにする魔法。まあ、詠唱じゃなくてアクションで魔法を発動させるって所は面白いけど」

「アール、済まないけど選別してくれないかな。私達の中じゃヘキサが一番そういうの詳しくて。巧妙に隠されてることがあるんだよ」

「何やってんのさ、君は」

「つい、イタズラ心が。テヒッ」

「ねえ、いくつか実戦に使えるオリジナル魔法を作ったって聞いたんだけど、良かったら魔術書を作ってくれないかしら? お礼ならするわ。シュウが」

「タカネ、ギルドリーダーなんだから共有財産の管理は自分でして欲しいんだけど」

 領主のゴールド、対サイバーテロ課のキリタニさん、各ギルドのリーダーとそこの頭脳が揃っていた。

 何で俺がこいつらと同じテーブルで飯喰ってんだ? というか、似たような事が前にもあった。あれは確か…………そうだ、レーヴェがゴールドに会いに来た時だ。

 電子ドラック云々でヴォルトの街を潰す為の会談。結局、あの時は逃げきれずにヴォルフに捕まったんだっけ。

「………………」

 嫌な予感しかしない。

「何で俺ここにいるんだ?」

「逃げるからでは?」

 独り言を、ゴールドの所の魔導人形と給仕をしていたシズネに突っ込まれた。

「――この中で水面すいめんと書いて水面みなもの上を走れる人ッ! 手ェ挙げてえ!」

 突然、馬鹿ゴールドが奇声を発した。そして誰も手を挙げない。が、俺は隣に座っていたシュウに手を掴まえて無理矢理挙げさせられた。

「うん。知っていたからクゥはいいよ」

「あぁ?」

 いきなりそんな事聞いてどうするつもりなのか。

「食事をしながら、エノクオンライン内における状勢を整理してみようか。まあ、雑談だと思って軽~くでいいんだよ」

「えー」

「アスモデウスとアモン、二人の魔王を倒して一月が経過した訳だが――」

 俺の精一杯の抗議の声は速攻で無視された。皆、俺の扱いに慣れ始めている感じがする。

 それよりもさっきの質問に何か意味があるのか。<水面走り>は名前の通りに水の上を走るスキルだ。覚えるのは簡単だが、狙って取る奴は少ない。何故なら、似たような魔法がある上に<水面走り>は走り続けなくてならないのでスタミナがかなり消費されるから人気がないのだ。

「熟練度の限界、二つ解除されたレベルキャップの限界が見え始めた頃なんじゃないかな?」

 ゴールドの言葉に、ミノルさんとタカネが自分のギルドで熟練度が極端に上がりにくくなったPLの大凡の数を伝える。

 一ヶ月の期間、現在行けるダンジョンはとうに探索し尽くされた後なのでPL達は武具の強化素材集めか熟練度上げ、中には少数ながらオリジナル魔法や武具の開発などに明け暮れていた。

 <ユンクティオ>では一つ以上のスキルのレベルキャップが見えたのがミノルさんを含め数人。<鈴蘭の草原>は全員(俺除いて)だ。

「キリタニ達の熟練度も前線組に追いついた。魔王レヴィヤタンの城を目視できる所まで活動範囲は広げた。そろそろ、本格的に水の魔王討伐の計画を立てたいと私は思っている。その際には各ギルドに協力を頼みたい」

 アスモデウスを倒した直後に起きた三つの魔王軍による進軍。北方ではPLの犠牲者を出さなかった上に、逃げ帰る魔王軍に追撃をかけ、敵の拠点である港まで制していた。

 新聞でも大々的に報じられ、ゴールドがドヤ顔で写真に写っているのを見て思わず燃やしてしまった。

 実際に防衛だけでなく反撃までして拠点を落としたのはジブリエル公国のNPC将軍なんだけどな。

「そろそろ来ると思っていたよ。私達の方は問題ない。元々参加させてもらおうと思っていたからね」

「私も。前はできなかったから、今度は参加させてもらうわ」

「魔王討伐経験のある<ユンクティオ>、魔王軍を退けた<鈴蘭の草原>。二つのギルドが協力してくれるのは非常に心強い。実に頼もしい」

 極普通に喋っているが、ワイン片手に余裕シャクシャクとした態度のゴールドが言うと社交辞令以前に胡散臭さが際だつ。

 皆慣れてきたのか無視しているが。

「他に参加する意志のあるギルドはないのか?」

 キリタニさんがゴールドに振り返って聞く。

「中小ギルドならいくつか。ただ、魔王討伐や防衛戦の中核だった<オリンポス騎士団>と<イルミナート>から参加は辞退するというメールがあらかじめ届いている」

「………………」

 東地方の地の魔王討伐では優等生が死に、南地方の侵攻では火の魔王が自ら出張って多くのPLが、ユリアが死んだ。

 俺はタカネとシュウを目だけ動かして見る。タカネは無表情のままで、シュウは浅く目を伏せる。

 <オリンポス騎士団>の副団長である優等生は現実世界で俺達の知人、というか腐れ縁だった。その付き合いの長さは二人と同じ。それなのに一緒に連まなかったのは単純に合わなかったのだろう。

 自他共に認めるほど俺と優等生の仲はよろしく無かったが、タカネとシュウは普通に交流を持っていた。ゲームサークルに所属してはいなくとも、互いにアドレスも交換していてメールのやり取りも普通にしていたとか。

 だから、俺と違って優等生の死を他の死と違い、重く受け止めている。やはり、こういうのは親密な人間が死ぬほどそれに比例して悲しみの度合いも普通は大きくなる。

「仕方がないか。あれでどのギルドも少なからず傷を負ったからな」

 やや残念そうであると同時に言葉通り仕方がないと言った様子でキリタニさんが沈痛な面持ちで小さく溜息を吐く。

 アスモデウス討伐成功から、<オリンポス騎士団>は分裂の憂き目にあっていた。規模をどんどん拡大していったツケが回ってきたのだ。

 元βテスターが中心となった有力ギルドはその実、副団長の優等生が全体をまとめていたのだ。元々委員長気質で冗談でもネタでもなく社会的にリア充だった奴は相応の組織運営能力があった。

 その優等生がいなくなって、<オリンポス騎士団>の統率が乱れた。ネットゲームも身内としかやらない俺でも大規模なギルドは歪みが生じると立て直すのは難しいと聞いているので、少なくとも規模縮小、最悪は解体も有り得る。

 だけどまあ、掲示板やアールの話からすると、団長のアレスが頑張っているようなので大丈夫だろう。多分。所詮は第三者の適当な感想だからおざなりなのは仕方がない。

 そして、最も被害の多かった<イルミナート>。正確にはその傘下に収まっているギルドも含まれているが、多数の死者が出、その中にはレーヴェの妹であるユリアもいる。

 <イルミナート>は<オリンポス騎士団>のようなギルド崩壊の兆候は一切見せていないらしいが、火の魔王アモンを倒した事で未探索だったフィールドと魔王城を探索するのに忙しいらしい。

「レヴィヤタン討伐の為の話をする前に、ボスについてまとめておきたいんだけど、いいかな?」

 あくまで食事中の雑談という体で、ボス攻略についての話が進んでいく。


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