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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第六章
61/122

6-8


「広場の準備が整った! 入ると同時に全員左右に逃げるんだ!」

 走りながらも大広間で防衛線を引いていたPL達と連絡を取っていたアレスが叫ぶ。走りながらなので微妙に声が揺れてて少し面白かった。

 大広間に集まってきたモンスター達が突然逃げ出したという情報が既に入っている。タイミングはアスモデウスが第二形態に入った時だ。おかげで広間のPL達が迎撃の準備を整える事ができたらしい。

 優等生がアスモデウスに追われながら立てた作戦は、このままボスを玉座の間よりも広い大広間へと誘導し、モンスターの援軍を抑える為に分散させていた戦力と合流して総攻撃を加えるというものだ。まあ、いいんじゃないの? あそこ何でか柱いっぱいあって、盾代わりにできるだろうし。

「こっち来んなよ。お前が狙われてるんだから囮になれ囮に!」

「ふざけんな! こっちは一撃でも喰らえばほぼ即死なんだよ。お前がミノルさんの代わりに盾になれ!」

「俺鎧つけてねーもん」

「じゃあ、トルジ!」

「俺は先頭で露払いの真っ最中だ!」

 それにしても懐かしい掛け合いだ。開拓隊時代は相手を罵り合って互いに鼓舞(という名の煽り)をしていたものだ。

 女衆には馬鹿を見るような冷たい目で見られていたが、中には乗ってくる奴もいた。

「クゥ様は逃げ足しか得意なのがないのですから、ここは一つ私達の盾になってください」

「主人を盾にしようとすんなメイド!」

「あのっ、大丈夫ですか? クゥさん」

「アヤネさん、クゥさんの事は放っておけばいいんですよ。人の事を散々酷い目に合わせた罰です。というか私この状況にデジャヴを感じてます」

「そうですねー。それに、開拓隊時代は囮特化だったらしいので別にいいのでは?」

「そしてデッドエンド」

 小娘どもが。人の事を好き勝手に言い過ぎだろ。

「いい加減にしろお前達! 今の状況を考えろ!」

 ほら、とうとう委員長気質の優等生がキレた。今まで我慢していたようだが、生真面目なこいつにはやはりこのノリは無理があったか。

「つっても、助けにも行こうにも下手な事すればかえって邪魔になるし」

 ――なあ? と同意を求めるクウガに<ユンクティオ>のギルドメンバー達が頷く。実際の所、こんな狭い通路で不用意に立ち止まろうものなら後ろを走るPLとぶつかる上、変な行動を取れば殿を務めてくれているミノルさんの足を引っ張りかねない。

 狭いと言っても、玉座の間前の通路と比べて狭いというだけで俺達が走り抜ける事は余裕で出来るほどに廊下は十分広い。だが、追いかけてくるアスモデウスがデカ過ぎるのだ。

 アスモデウスは床を数階分踏み抜いて、羊と牛の双頭が丁度俺達のいる階の高さに合わせたまま追いかけてくる。奴が動く度に床が崩れ落ち、通路全体が揺れる。クッキーに噛みつくように双頭の口が床や壁を粉砕し、時々尾の蛇が廊下の下から突き貫いて襲い掛かってくる。

 ミノルさんが殿として保っているのは、彼の持つ武器がフィールドボスが一つしかドロップしなかったレア装備の大剣を強化し、使い続けてきたからだ。幅広で耐久値が異常に高い大剣は平らな鍔部分で受け止めるだけで上位の盾同様の防御力がある。当然ダメージを受ける事はあるが、ずっと前線で戦って武器として防具として大剣を扱ってきたミノルさんの技術は巧みだ。

 だが、やはり巨大なアスモデウスの牙や爪、尻尾の蛇の猛攻には俺達に攻撃を通さないのが精一杯で余裕が無い。ドーピングで一時的に増やした筈の体力バーもかなり減っている。

「もう少しだ! 頑張れ!」

 曲がり角を壁にぶつかって無理矢理カーブし、アーチを潜ったところでアレスが叫ぶ。

 途端に広くなった通路の先には松明の光が差し込む一際大きなアーチがあり、その先が林のように柱が並ぶ大広間がある。

 後ろから大量の瓦礫と土砂が落下し砕ける音が聞こえた。さっきから<気配察知>のスキルで鳴り響くアラームと視界に表示されまくっている警告ウィンドウを手で振り払って後ろを振り向くと、遅れて通路のアーチを抜けてきたミノルさんの後ろで周囲にある物全てを破壊しながらアスモデウスが俺達のいる階に、下の階の壁を階段代わりに登ってきていた。

 構造上、比較的頑丈になっていたのか、無理に壊してこのまま進むよりも追いかける事を選んだようだ。

「ミサトさん、聞こえてると思いますけど間もなく広間に着きます。魔術師に魔法の準備を。特にミノルさんがダメージ受けていますので回復も」

 一人だけモモの後ろで虎に乗って楽をしているヘキサがボイスチャットで待ち伏せしているミサトさんと連絡を取っていた。

 大広間なら十分なスペースがあるし、数多く柱で身を隠すことも可能だ。防衛隊と合流し、一度後方に回って回復するのが今の所のプランだった。

「――ッ!? ミノルさん!」

 もうすぐ広場に着くという所で、アスモデウスの尻尾が本体の横を通り過ぎながら伸びて来る。造形通り蛇同様の蛇行を見せながら、その体から岩を次々と生成してリーチを伸ばしていく。

 一度床で跳ね、今まで薙ぐような動きから直進するような突進へと変わってミノルさんに襲いかかる。

 避けれない。そうしてしまえば後ろにいる俺達は背中からあれを喰らうことになる。

 だからか、ミノルさんは足を踏みしめ無理矢理動きを止めて振り返り、剣を構えて真っ正面から岩蛇の突進を受け止めた。

 尾である蛇の頭だけでもPLの身長を超えるそれを受け止めて、ミノルさんが派手に吹っ飛ぶ。

「うわああああぁぁっ!?」

 既に広場へと足を踏み入れていた俺達にミノルさんの体がボールみたいにぶつかった。

 先頭と真ん中辺りにいた集団はすぐに左右へ分かれたが、後ろにいた俺達は避けきれずに前へとドミノのように倒れる。

「く、そッ」

 勢いをぶつかった衝撃で弱めながらもミノルさんが俺達を飛び越えて広場の向こうに転がっていくのを肌で感じながら、前のめりに床に倒れた俺は慌てて体をひっくり返して後ろを振り返る。

 アーチ部分を頭でぶつけて壊しながらアスモデウスが広場へと入ってきていた。

 大広間で待ち伏せているPLを威嚇しているのか、咆哮を轟かせながら前進する。その勢いはもつれて転んだ俺達を踏み潰しかねない。

 出来るかどうか分からないが、頭上から迫るアスモデウスの前脚に向けてつっかえ棒代わりに棍を急いで取り出す。

 脚が作る影に覆われるその瞬間、細長い竜巻がアスモデウスの周囲に現れた。

 現時点において風属性最強の魔法、ハリケーンだ。対象の周辺に現れ、連続的にダメージを与える魔法。その数は四つ。

 竜巻によって岩の体が削れていくせいか、アスモデウスの動きが止まる。その間に俺は足下から抜けだし、他の倒れていたPL達と共に急いで離れた。

「ミノルさんは!?」

 言いながら、クウガは大広間の奥へと走る。それについて行くと、先頭を走っていたトルジ達を含めて防衛隊のPL達がいた。

 そこへ駆けつける途中で、防衛隊の近接タイプのPL達が柱の影からアスモデウスに駆けていくのが見えた。

「ギ、ギリギリ大丈夫だ。クゥからのドーピングが無かったら死んでたかな…………」

 大広間の入り口近くに防衛隊の魔術師達とミサトさんがおり、痛みと疲労でミノルさんが横になった状態で回復魔法を受けていた。

「クウガ、クゥ!」

 ホッとする暇も無く、一足先にトルジが俺達に回復アイテムを投げ渡してきた。防衛隊が最後に受けた残りの補給物資だろう。

 見れば、魔王討伐を担当していた戦士系のPLは脱ぎ捨てた防具の代わりを新たに装備しながらアイテムで回復を行っていた。

「回復が終われば、すぐに攻撃を仕掛けるぞ! アヤネさん、歌で支援を!」

「待って! 広くても敵があんなに大きいと狙われやすくなるわ!」

「歌スキルは動きながらでは使用できません。代わりに補助魔法で支援します」

「わかった。風属性の魔法が得意じゃない魔術師は戦士系に補助魔法の支援を頼む。――行くぞ!」

 と、<オリンポス騎士団>のアレス団長様がミサトさんとアヤネの提案を受け入れて、気合いの入った声と共にギルドメンバー達と共に再びアスモデウス向かって突進していく。

「クゥさん、大丈夫ですか?」

 アヤネが俺の袖の端を掴んで見上げてきた。

「全然大丈夫じゃねえ。あいつらタフだよな」

 スタミナ回復のドリンクをグビグビ飲みながら他人事のように言う。どうでもいいけど、お前何で俺に補助魔法掛けてんの?

「よし、私達も行くわよ! 後衛タイプは魔術師の護衛と周辺の警戒をお願い。またモブが出てこないとは限らないから」

 硬い敵に対して射手は不利だ。玉座の間には参加していなかった彼らを護衛に割り振りながらミサトさんが中型武器:刀剣である両刃の西洋剣を鞘から抜き、小盾を持ち直す。

「的は大きくなったが、相手は未知の部分が多い。欲張って大技は出さず、最初は様子見で隙を窺いながら少しずつダメージを与えるんだ」

 瀕死だったミノルさんも回復が終わると立ち上がり、大剣を肩に担ぐ。

 ようやくアスモデウスを振り切ったというのに、もう前線復帰する気満々だよ。

「よっし。巨大化は負けフラグだって教えてやる」

「散々追いかけ回されたからな。その仕返しもだ」

 装備を着直したクウガとトルジもやる気満々だ。とりあえず、がんばれー、と気のない応援を送ってやる。

「お前もだよ!」

「はぁ?」

「何言ってんのこいつ、みたいな顔されてもな。お前もボス攻略のメンバーだし」

 肩に置かれたトルジの手を叩き落とす。俺はただの野次馬であってそんな大層な集まりの面子違うから。何より攻撃力が足りない。魔法だってハリケーンは覚えているが、熟練度不足で威力が落ちている。

「いやいや、お前にしか出来ない任務があるじゃないか。開拓隊の時だってそうだったろ?」

 今度はクウガが肩を掴み、反対側ではトルジが再び手を置いてくる。

「えー」

 両サイドに置かれたそれぞれの手は俺の肩をがっしりと掴んでいる。

「一人だけ楽しようなんてそうは行きませんから。スタミナ多くて足速いんですからしっかりと餌になって下さい」

 エリザが背中を押す事で俺の体はズルズルと前進させられる。

「私は後ろから魔法をバンバン撃つ役目なんで。ほら、はりけ~ん」

「頑張ってください、クゥさん。私がしっかり補助魔法サポートをしますんで」

 ヘキサが間の抜けた声で魔法を放ち、俺の袖から手を離したアヤネが胸の前で握り拳を作ってみせる。お前もちゃっかりしてるよなー。

 怒る気にもなれない俺は仕方なくミノルさん達の後ろについていく。

「クゥ様、私はどうすれば?」

「好きにしろ。あと、魔法で攻撃するつもりないから遠慮する必要はない」

 魔導人形の固有スキルは魔力を消費する。普段は俺がいざという時の為に使用できるようシズネはスキル使用を控えている。

 ――分かりました、と一礼を返すシズネから視線を逸らして再びアスモデウスを見る。

 周囲に渦巻く竜巻の効果が切れたのか、それとも無理やりに竜巻を粉砕したのか、ともかくアスモデウスの身は自由となって先に攻撃を仕掛けていたPL達に向かい、前脚で踏み潰そうとしたり、爪や蛇の尾で攻撃していた。その度に周囲の柱が破壊されて倒れていく。

 ……あの中に飛び込むのか。正直おっかない。

 だが、他の連中が走り出して一人だけ残されるのも恥ずかしいので遅れて俺も動き出す。

 アスモデウスの第二形態は予想の内だが、前情報がないため対処の仕方はアドリブだ。相手の属性と体格、攻撃方法、そして自分のプレイスタイルを瞬時に考慮した上でそれぞれのPLが最適と思われる行動を各々の判断で実行する。さすが、ボス攻略に参加するだけあって的確だ。素人見解なので多分だが。

 アヤネやヘキサなど魔術師タイプは後衛から弱点属性の魔法で攻撃、PLの回復や補助に努め、弓矢を使う射手はその護衛をしながら牽制程度の矢を放つ。

 盾持ちの前衛は壁となって後ろに攻撃を通さず、大型武器を使うミノルさんやクウガが積極的に攻撃を加える。ミサトさんやトルジのようにバランスの取れたPLは攻撃と防御を繰り返してどちらの穴も埋める。

 俺? 俺はまあ………………。

 アスモデウスが前脚を強く地面に叩きつけた。するとそこを起点として床から直線に石の杭がいくつも生えてくる。

 他のPLが横へと跳び退く中、一番後ろにいた俺は近くにある柱の真ん中に向けて中型武器:鞭のアイススネイクを振って巻き付ける。

 ジャンプして石の杭を避けると同時に、柱に巻き付いた鎖を引っ張る事で自分の体を柱に向けて引っ張りあげる。

 柱へと着地し、鎖を解くと同時に<壁走り>で柱を登り、天井近くまで来てから柱を蹴って隣の柱へと跳ぶ。それを繰り返し、皆が下から攻撃を仕掛ける中俺は上からアスモデウスへと飛びかかる。

 羊の頭部がこちらに気づき、威嚇するように鳴いた。

「そう怒るなよ。怖いだろ」

 ――ふざけるな、と言わんばかりに羊の口が開いて喉奥から丸い岩石が吐き出された。


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