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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第六章
55/122

6-2


 討伐隊との合流地点は現在行ける東方地方の端、地の魔王が住む魔王城を目視できる距離にある。目視できると言っても城がバカデカいので遠くからでも見えるというだけだが。

 合流地点、渓谷の中にある細い川側の比較的広い空き地には多くのテントが張られており、到着してすぐに俺達は持ってきた物資(回復アイテムやアクセサリー)を下ろした。

 他のギルドも自前で用意しているだろうが、やはり消費アイテムはいくらあっても良いらしく喜ばれ、群がられた。まるで飴に群がる蟻だ。

 アイテムも嬉しいんだろうが、明らかにアヤネが衆目を集めている。ロボ娘でメイドなシズネを傍に侍らせている事もあって大人気だった。まあ、クウガ達をはじめ<ユンクティオ>のメンバーが警備員よろしくPLをガードしていたから大丈夫だろ。

 だが、人手が向こうに取られたせいで荷下ろしの負担がこっちに返ってきた。まあ、現実世界と違ってステータスがそこそこ高めなので大して辛くはないが、やはりやるせ無さを感じる。ミーハー共が手伝えやクソ。

 アヤネを囲む人混みは荷を全て下ろし終えた後も続いた。どこかへ避難しようにもここはフィールドだ。テントを張り終えるまではあのままだろう。

「少しいいか?」

 あの人混みに向けて貫通するスキルや魔法を使ったらどうなるんだろう、とか岩に座って妄想しながら休んでいたら声をかけらていた。

 アヤネの叔父であり、日本の対サイバーテロ課のジンさんだった。

「隣に座ってもいいか?」

「どうぞ」

 ジンさん達対サイバーテロ課の人達も向こうの騒ぎを余所に荷を運んでいたからか飲み物を持って固まって休んでいる。しかし、ジンさんは部下達から離れてわざわざこっちに来た。

 なんだ、あれか? うちの姪っ子がお世話になったようで的な笑顔を向けながらの脅しでもするつもりか?

 とりあえず、このまま黙っているとおっかなくて指一本動かせそうにないので口を開いてみる。

「姪っ子が客寄せパンダみたいな感じになってますけど、いいんですか?」

 いきなり嫌みっぽくなってしまった。

 アヤネへ集まっている連中には――本物だ、とか――握手して下さーい、とか寝ぼけた事言ってる阿呆もいる。

 俺に話を持ってきたゴールドはアヤネが必要だと言い、<オリンポス騎士団>もアヤネと繋がりの深い<ユンクティオ>に連絡をとってアヤネの参戦を強く希望していた。

 アヤネと言えば<ユンクティオ>にいた時の歌スキルを使った支援が有名で、その清楚な外見から歌姫と言われてアイドルのような扱いになっている。

 だが、荷を運びながら魔王城攻略に参加するPLを見て歌スキルの使い手らしいのが何人か発見できた。確かにアヤネの歌スキルの熟練度は全PL中一番高いだろうが、周囲が何故アヤネの参戦を強く願ったのか。

現実世界うえでも父親の仕事の関係で色々な社交場に出てた子だ。利用される事を理解した上でいる筈だ」

 社交場とかなにそれ。たまにあいつがお嬢様だと納得させられる単語が出るから油断できない。

 広告塔という認識は多分正しい。現実でも死ぬエノクオンラインで、死亡する可能性が高いボス戦にはどのPLも及び腰だ。それは掲示板を見ても明らか。それに地の魔王は東の大鍾乳洞で多数のPLを石にして殺した実績もある。

 最初、有力ギルドである<オリンポス騎士団>が協力者を募っても集まりが悪かったらしいが、それもしょうがないと言えた。だが、掲示板にアヤネが参加するという噂が流れた時点で参加者が増え始めた。

 人間、特に男なんて単純なもんだ。それに人が増えれば恐怖は薄らぎ勝てるような気がしてくる。それが参加の敷居を低くする。さすがにステータスなどは考慮されてはいるが。

「自分の意志であそこにいるのなら、あのような扱いされる事も納得済みだろう。それに、本当に嫌ならちゃんと断れる子だ」

「心配になったりしないんですか?」

「叔父として心配なのは確かだ。だが、私の立場として私事を優先する訳にはいかない。姪の力が必要とされているのなら尚更だ。それに、身内は率先して切り捨てるべきだとも思っている」

「………………」

 なんと言うか面倒な人だった。

「…………こんな話をした後に言うのもなんだが、君に礼を言いたい」

「は?」

 座りながらも頭を下げられた。

「彩音から聞いた。君に助けられたそうだな」

「あー…………そんな事もあった気がします」

「その後も君の世話になり続けているらしいな。遅れたが、ありがとう」

「たまたまですから。それに、世話云々で言ったらユンクティオの方がよく面相見てましたよ」

 途中で置き去りにした俺よりも感謝されるのは彼らの方だろう。一部、変態(露出女とか)はいるが。

「彼らにも勿論――と言いたいところだが、あまり私と彩音の関係を知られたくない。君は美恵さんから聞いているのだろう」

「ええ、まあ。他に知ってる人は?」

「ゴールドとアールには知られた。後は私の部下達だけだ」

 あの二人は何を個人情報探ってんだよ。

「それと、彼女との関係は当事者も知らない。ここで知っているのは私と美恵さんだけだ」

 成金馬鹿ゴールド犯罪者予備軍アールの顔を思い浮かべていると不意にそんな事を言われた。

 彼女、というのはおそらくタカネの事だ。そして、タカネとアヤネの複雑? な血縁関係の事を言っているのだと予想できた。

 顔を上げたジンさんと目が合う。

 そういえば、ミエさんが言っていた。ジンさんは防衛省と自衛軍で情報を取り扱う仕事をしていたそうだ。情報を扱うと言っても色々あるわけで、中には人と人との繋がりを内外問わず調査している人間もいるだろう。

「君は…………ミエさんとはどういう関係だ?」

 多くの人間を見てきたであろうジンさんから若干の憐れみと同情が混じった視線を向けられた俺は笑って誤魔化すしかなかった。


 日が沈み、キャンプ場で夜襲に備えての人員配置が終わった頃に魔王城攻略について確認の意もある最後の打ち合わせが行われた。

 いかにも、偉い人がいます、夜討ちするならどうぞ、と言っているようなデカイ八角形のテントに皆が集まり、プロジェクターのように拡大表示されたマップウィンドウの前に集まる。

 つーか何で俺も参加してるんだ? おかしいだろ。

「君、例によって単独行動だろ? なら、全体の動きを知っておけば動き易いじゃないか」

 俺をここまで引っ張ってきたミノルさんがわざわざ小声で教えてくれた。ご親切にどうも。

 打ち合わせの場には大中小様々なギルドのギルドマスター達が集まっている。俺みたいなソロ――登録上はもう<鈴蘭の草原>のギルドメンバーではあるが――で来てる奴は少ない。まあ、ソロと言っても俺みたいにどこかのグループと繋がりあってそこに協力しているのが多い。だから言葉通りのソロプレイヤーはいない。

「集まった事だし、そろそろ始めたいと思う。まずは改めて自己紹介を。俺はオリンポス騎士団の団長、アレスだ。そしてこっちが副団長のカイト」

 PL達の前の進み出た二人は今回の魔王討伐の主導をしているギルドの団長と副団長だ。というか、副団長の方はモロに知り合いだった。そういえばあの優等生、大鍾乳洞で会った時点で副団長やってたな。

「さっそくだけど、ボス攻略に向けての概要を副団長から説明してもらう」

 団長様に言われ、優等生が頷きを返すと一歩前に進み出てわざわざ指し棒まで取り出した。まるで会議室で説明会をする企業戦士のようだ。というかあいつ、こんな世界でも委員長属性引き摺ってるのか。

「まず、皆には大きく分けて三つの役割を分担してもらいます。詳しい説明は事前に渡した計画書に書いてあるので省きますが、一つ目はボス戦担当、二つ目は――」

 ……………………………………………………。

「クゥ、寝たら駄目だ」

「――寝てませんって」

 小声で注意されたので顔を上げる。優等生の説明がいつの間にか進んでいた。早口な奴め。

「目が虚ろだから。それに体が揺れてたよ」

「あの、何なら私に寄りかかりますか?」

「いらない」

 アヤネからの意味不明な提案を却下しながら、改めて正面に向き直る。マップだけでなく、わざわざ図を交えながらの説明は確かに分かりやすいがユーモアがない。学生時代にあいつが委員長してた時はまだ愛想はあったが、今回のは戦場に行くようなもんなんだから、こんなもんか。

 ちなみにボス攻略、エノクオンライン脱出の鍵となる魔王討伐においてまず問題になったのがザコモンスターだった。

 俺は詳しくないが、MMORPGでのボス戦と云うと、複数のパーティーでボス部屋に突入して袋叩きにするのが定石だと思う。だが、エノクオンラインはちょっと違ったようだ。

 <オリンポス騎士団>が探りを入れるために何度かボス部屋に突入して分かった事なのだが、まず魔王のいる玉座の間には地の魔王であるアスモデウスが一体だけ。取り巻きもいない。だけど戦ってる最中に入り口からダンジョン内のザコが乱入してくる。

 なにそれって感じだが、実際にあった事らしいのでしょうがない。

 どうやら魔王城のダンジョンにいるモンスターがボスの援軍として来るようになっているらしく、倒してもダンジョンのどこかで再出現してボス部屋に戻ってくるのだとか。しかも、魔王城にいるモンスターだけあってフィールドにいるザコよりも強く、状態異常の石化を使うのもいる。

 なので、PLが集中して魔王に挑む為にザコ掃討と玉座の間での防衛を担当する枠を別に作らなければならなくなった。本命が魔王を倒すまでの間、地属性モンスター特有のタフネスたっぷりのザコと延々と戦い続ける足止め部隊。当然、長期戦になるのでアイテムも尽きる。結果、それを補充するために安全圏のフィールドから魔王城へと往復する役割も増えてしまった。

 今、優等生がよくまとめられた説明を行って誤魔化しているが、実際は結構グダグダだ。

「今の説明で不明点がある人はいますか? いないようなら次は各部隊に割り当てを確認したいと思います。まず、ボスと直接対決する第一部隊はオリンポス騎士団から二パーティー、ユンクティオから一パーティー、曙の団から――」

 優等生がボス戦に参加するギルドの名を言っていく。

「それと、現在歌スキルの熟練度がプレイヤー一のアヤネさんが第一部隊の補助をしてくれます」

 アヤネの名が出た事で全員の視線が小柄な少女へ集中する。人に注目されるのが苦手な俺はさりげなく目立たないようテントの端へと移動した。

「ソロプレイヤーなのに無理を言って申し訳ない」

 果たして、魔導人形に守られたPLをソロと言っていいのだろうか。当のメイドは今テントの外にいるけど。

「いえ、私こそ返事が遅れてしまってごめんなさい。どこまで皆さんの期待に応えられるかはわかりませんが、ボス攻略時には最大限助力させていただきます」

 ミーハー連中に囲まれていた時とは違う、しっかりとした態度でアヤネが頭を下げた。その言動からして、本当に広告塔に使われることを理解しているようだった。

 人混みの中から、ミノルさんとジンさんの表情を窺う。

 ミノルさんは肩の力を抜いて<オリンポス騎士団>の二人を見ていた。その目には諦観の色がある。

 アヤネへのオーダーは<ユンクティオ>に来ていた。それを口止めして本人伝えなかったのがミノルさんだった。

 そして、ジンさんはと言うと相変わらずの無表情だった。眉一つ動かさないその様子は一見すると平然そうに見えるが、僅かながら話して人となりを知った俺には、逆に触れると爆発しそうでおっかない印象を持つ。

 アヤネの健気さに白々しい拍手が起きる中で、優等生が誰にも気づかれないよう老けた溜息を小さく吐くと、拍手をやんわりと止めさせて話を元に戻した。

 魔王討伐部隊が終わり、順に掃討部隊、そして輸送部隊と続く。

「輸送部隊は対サイバーテロ課の皆さんが担当してくれます」

「おかげで僕達は戦いに集中できます。周囲の援助があったとはいえ、途中ログインにも関わらず輸送を任せられるほどの熟練度を短期間で得たのは大変な苦労があったでしょう。改めて、ご協力感謝します」

 優等生、そして団長のアレスが隅の方に立っていたジンさんの方へと顔を向ける。自然と、その場にいたPL達の視線が彼へと移動する。

「気にしないでくれ。むしろ、本来なら私達が矢面に立たなければならないのに、一般人である筈の君達を前に出す事を心苦しく思う」

「時間がなかったのだから仕方がありません。ステータスは過信できませんが、同時にバカにもできない。現実世界の技量だと尚更です。次の魔王を倒す時は肩を並べましょう」

 アレスとジンさんは友好的に言葉を交わす。表面上は。

 …………帰りたい。なにこの会議。打ち合わせが主目的じゃないだろ絶対。目に見えない応酬が正直言って怖い。

「――っ」

 このまま<隠遁>でテントから抜け出そうかと考えていた時、手首を掴まれテントの布の隙間から外へと引っ張られる。

 大型のテントはマトリューシカのように大きいテントの中に小さいテントがある構造になっているので、打ち合わせが行われているテントを一周する道のようになった場所にまで引きずり出された。

「………………」

 そして腕を絡めてきて歩き出したので、仕方なく従う事に。

 逢い引きするカップルのように腕を組んだままテントを出ると、周囲でキャンプしているPL達に目立たぬようそこを離れる。

 しかし、どこぞの犬の彫像のように外で待機していたうちのシズネにはばっちり見られてる訳で――。

「………………」

 無言で手帳を取り出して何メモりだしてんだよ。

 特に効果の無い睨みつけを行いながら俺は引きずられるようにして、キャンプ場を横切っていく。

「チッ――」

 舌打ちしてシズネから視線を逸らし、向き直ると隣から小鳥が鳴くような声が聞こえた。

「フフッ、面白いメイドさんね。私も欲しいなぁ」

「強請らず自分で口説けよ、セティス」

 腕を絡めているのは東の大鍾乳洞で会った褐色の肌をした少女セティス、またの名前をマステマだった。

「で、何か用?」

 腕を組んで体重を僅かに預けてくるセティスを見下ろす。

 アヤネやエリザよりも小柄な癖に、肌を触れさせ温もりと少女特有の柔らかさをさりげなく男に伝えるその手腕は男が女をどう見てるか分かっている女の攻撃方法だった。わざとらしいリムあたりに見習せたいほどだ。

 そして厭らしさは微塵も感じさせない。外からではただの可憐な少女としか見えないだろう。

「子守がないんだろ。私の手伝いをしろ」

 外面は花も恥じらい、男ならつい顔を赤くしてしまう微笑を浮かべ、純潔の中に淫蕩を交えた色気を出しながら、セティスが鳥が鳴くような声でいきなり命令してきた。

 今日はどうやら、怖い人やおっかない雰囲気に遭遇する厄日のようだった。


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