4-13
硬直で動けない男の腹を蹴って引き離し、ちょうどいい間合いに入ったのを見計らって背から大型武器:斧を振り下ろす。通常攻撃としてではなく、現在俺が斧系で使用できる最大攻撃力のスキルを選択する。
せっかくの好機――ではあるが、元より基礎ステータスに差があり単発威力の高い斧スキルを使っても確実に倒せない。本来なら回復するなりすればいいのだが、俺は硬直時間の長い、相手の硬直時間を無駄に見逃しかねない一撃を放つ。
「オラァッ!」
先の斬られた仕返しにと、斧を袈裟に叩きつけられた男の胴は俺と違い高い防御力のある金属鎧で守られている。なかなか手痛い一撃をお見舞いしたとは思うが、やはり致命傷では無い。
男もその事に気付いており、苦痛に顔を歪ませながらも目は笑っていた。
「………………」
スキル発動後の硬直で体が動けなくなる瞬間、俺は斧を手放す。そして、地面に落とした棍を蹴り上げて掴んでスキルを続けて発動させる。
横へと大きく振った棍が男の脇腹にめり込み、吹っ飛んだ。
男は足で地面を引きずり、突き刺さった俺の斧の柄の部分に背をぶつけて止まる。
「なん、だと……」
硬直無しで続けたスキルの使用に、男が先程とうって変わって驚愕の表情へと変わっていた。
「さっき言っただろ」
棍を捨て、今度は腰から二本目の中型剣を抜き出して<スラッシュ>を発動。奴の顔面を横一閃に斬り裂く。即座に剣から手を離すと、刃が木の方へと飛んで突き刺さる。
「ボコるってよ」
斬られた勢いで横へと僅かに仰け反りガラ空きになった脇腹へと、今度は麻痺毒を予め塗ってある短剣を取り出して突き刺し、手を離して傍に転がっていた鎚の柄を掴む。
肩と腕を使い斧を振り回して男の腕へと振り下ろす。骨が折れる音がし、<情報解析>が視界に写る男の腕が骨折ダメージを負ったことを知らせた。
左腕が折れても男は反撃に移ろうとするが、まだ硬直時間と先程の麻痺毒で動けない。このまま、一気に畳みかける。
斧から手を離し、盾に弾かれ転がっていた剣を足で跳ね上げ掴み、そのまま刺突属性のスキルで男を突き刺す。
武器からまた手を離し、今度は地面に突き刺さる二本の槍の一つを掴んでスキルを発動させる。
相手の腹を貫通して突き刺さった槍から手を離し、硬直時間なしで弓を胸、矢を背のそれぞれの収納ベルトから取り出して番えると同時にスキルを発動して三本の矢を同時に相手の顔へと至近距離からぶち込んでやる。
俺の熟練度はスキルの連続使用を覚えるほど高くは無い。だけど、スキル使用直後に武器を手放し別の武器を装備する事でスキル使用による硬直が発生しない事を俺は知っていた。
持ち手部分から完全に手を離し、即座に武器を切り替える。アイテムボックスから取り出してからでは遅く、収納ベルトのスロットから抜き出しながらスキルを発動させて、ギリギリだ。
だがまあ、準備は出来ているので問題ない。
「もう一周といくか」
「グ……き、きさ――」
弓を捨てると同時に、その動作の流れそのままで地面に突き刺さっていた二本目の槍を掴み、範囲攻撃でノックバック効果のあるスキルを発動。大きく円を描いていく槍の柄に、男の脇腹に突き刺さったままの短剣の柄頭が命中する。
「ィ――」
男が苦痛を通り越した、ただの反応として顔を盛大に歪めた。
「もう一周いっとくか」
まだまだ余裕そうだからな。
吹っ飛んだ男は木の幹に背を打ってそこで停止する。そこは、俺が目を串刺しにされた場所だ。そして、その傍には斧が地面に突き立っている。
斧を掴み、斬り、捨てる。よろめいて位置を変える男を追いながら棍を蹴り拾い、殴打し、捨てる。木に突き刺さった剣で、地面に転がる槍で、ポールハンマーで、戦場で俺がばら撒いた武器を使って、それが周囲に無ければ収納ベルトから新たに凶器を取りだして、斬り、刺し、叩く。時折短剣スキルによる疑似麻痺も忘れない。
絶え間無く、徹底的に、宙に白刃や分厚い凶器を回転させ、攻撃を受ける度に衝撃で体を移動する男を追いかけ、命を削っていく。
もうそろそろだ。
<情報解析>によって視認できる男の体力バーがもう少しで尽きようとしている。
俺は四本目の槍で男の胴を後ろにあった木ごと刺し貫いて固定し、槍から手を離して大剣を掴み、男の右腕めがけて振り下ろす。
思っていたとおりダメージが溜まりきっており、青い粒子をまき散らしてまだ辛うじて剣を握っていた男の右腕が宙に舞う。
振り抜いた勢いをそのままに俺は体を回転させながら剣を放り捨て、腰の後ろからザリクの短剣を素早く取り出して短剣の機能を使用する準備を行う。
体が一回転し、男に向き直る頃には準備が終わっていた。同時に、切断と骨折で両腕の機能を失っていた男が木と自分に突き刺さる槍を支えに蹴りを放っているところだった。
大した男だ。今までの攻撃で全身に痛みが襲って普通なら思考すら難しいのに、最後まで反撃の機会を伺ってそれを実行に移している。
こんな奴がどうしてPLやNPCの女共をさらって性的欲求を満たし、電子ドラッグで腐敗をばら撒いているPKギルドに入っていたのか。
まあ、どうでもいい。問題は俺の腹に食い込もうとする足だ。おそらく格闘スキルによる吹き飛ばし効果付随のものだろう。
「読めてたけどなァ!」
迫る足に短剣を突き刺し、魔力を消費して魔法武具の効果を発揮させる。
今や腐敗仕切ったヴォルトの街に巣くっていた暗殺者から手に入れた短剣は、獣の牙のような刃から風を発生させ、風は獣の顎となって男の足を内側から抉り刻んだ。
「――ああ?」
地面に散らばった武器を回収していると、少し離れた森の向こうから光と共に轟音が鳴った。雷だ。
そういえば、レーヴェの属性は雷だった筈。だとすると奴の魔法か魔法剣によるエフェクトだろう。
火と風の上位属性である雷関連の武具、魔導書の類は店で売られていない。ただ、南西の見えない壁に阻まれたフィールドから時折彷徨い出てくるモンスターのレアドロップから雷属性のスキルを覚える事ができると云う話を掲示板で見たことがあった。
多分、向こうも決着が着いたんだろう。派手に現在地を示してくれた訳だし、行くか。
武器をあらかた回収し終えて、辛うじて生きている男の襟を掴んで光った方角へと引きずりながら進んでいく。
男は全身に槍と矢、ナイフなどを突き刺したまま気絶状態になっている。これだけやって死んでいないのは、俺が弱いのかこの男がタフなのか。
森の中をしばらく進んでいくと、レーヴェがちょうどPKからアイテムボックスであるポーチを回収しているところだった。
「派手にやったな」
俺の接近に気づきと同時に引きずる男の姿を見て、レーヴェは回収したポーチを俺へと放り投げながら言った。お前にだけは言われたくない。
動きを封じて捕虜にする為に俺は男の手足を集中的に狙った為、右の腕と足に切断ダメージと左腕に骨折ダメージを与え、槍や剣だって突き刺したままであれこれ言われてもしょうがないとは思う。
だが、レーヴェに足下でうつ伏せになっているPKの姿も大概だ。雷属性の攻撃を受けたからかコゲ臭いし白い煙が出てるわ、四肢が見事に切断されてるわで――うわぁ、という感想しか出てこない。
「私が最後のようだ」
ポーチを受け取り男をレーヴェが倒した手足の無いPKの隣に放り投げたその時、別の場所からゴールドが姿を現した。その後ろには縄で胴体をグルグル巻きにされた老人がおり、そこから伸びる一本の縄をゴールドの手が掴んでいる。
「手間取ってしまった。生かして捕らえるというのは結構難しいものだ。ああ、それとクゥ、彼のアイテムボックスを外してくれないか。自分でやろうとしたんだけど、上手くいかなくてね」
「お前な……」
仕方ないので、両腕を切断された老人のポーチをこっちで回収しておく。その際に凄い目で魔術師風の老人(確かクラインとか言う電子ドラッグ作ってた奴)に睨まれた。
この手の輩の眼力はホラームービーさながらだ。特に血走っているあたりが。
ジジイと芋虫と男のアイテムボックスを回収し、部位損失で戦闘力と行動を大きく削がされた彼らを一カ所に集める。で、どうすんのこいつら?
ぶっちゃけ、こいつら生かしていてもしょうがないよな。
「聞きたい事がある」
レーヴェが三人の前に立つ頃には気絶していた男も目を覚ましていた。クラインとPK(こいつはマンセマトと言うらしい)は怒りに満ちた視線をレーヴェにくれているが、俺が倒した男の方はと云うともう諦めたのか静かにしていた。
「マステマという人物を知っているな。お前が演じていたテロリストだ」
「――っ」
マンセマトが僅かに反応を見せた。
「彼女の別名を語って仲間を集めていたのならよく知っている筈だ。そう、例えば居場所か連絡先などな」
「…………彼女?」
マンセマトがレーヴェの言葉に訝しげな表情を見せた。
「まさか、マステマが女だと知らないのか? ……なるほど、やる事が雑だと思ったらそういうことか。当てが外れたな」
そう言いつつも意地の悪い笑みを浮かべたぞこいつ。
というかどういう流れだ? 会話にいまいちついていけん。暇だから奪ったポーチのアイテム欄を確認しながら指先で振り回す。
「何を言っている。マステマは男だ」
「――アラブ系の中年男性。中肉中背の濃い肌に顎髭を蓄えている、か? だがそれも電脳世界での姿。実際の彼女の正体は知らないだろう」
「………………」
電脳世界での姿は現実世界と同じ姿でなければならない。だが、違法ではあるが違う外見を取る事ももちろん不可能ではない。例えば、脳足りんな男共を魅了する褐色系美少女がターパン巻いたどこの魔術師かと言いたくなるアラブ系のオッサンに姿を変える事だって。
「おおかた彼女の行動に感化されての一連の犯行だろうが、彼女の本質を分かっていない。彼女は確かに国際的テロリストで目的の為に手段を選ばないが、世の仕組みというのを理解している。貴様と違ってな」
「な、なんだと!」
「知らぬ以上は無駄だな」
喚くマンセマトを無視し、レーヴェが視線をあの男へと向ける。
「………………」
「………………」
僅かな間視線を交わすと目を細め、今度は俺へと視線を移した。
「なんだよ?」
こっち見んな。
「ゴールドからは何かないか? クラインとは同業者だろう」
俺の願いが通じたのか、レーヴェはすぐに視線を外した。ただし、意味ありげに口の端を僅かに釣り上げてはいたが。
「ははははっ、薬と金の区別がつかない三流と話すことはないかな」
「フッ、それもそうだな」
お前ら、喧嘩売りまくりだな。
「なあ、もう用は済んだのか?」
三人のPKから奪ったポーチをブンブン振り回しながら聞く。とっとと帰りたいんだが。
「マステマと連絡を取りたかったが、今は無理そうだ。ならもうここに用はない。戻ろう」
踵を返して背を見せるレーヴェとそれに続くゴールド。
俺は奪ったポーチから瓶型のアイテムを取り出す。それは誘魔香というモンスターを誘き寄せるキャンドルの素材アイテムだ。
「お、おい、まさか…………」
意図に気づいたらしいマンセマト達を無視して、MPK用として大量にあったそれらを彼らに投げつける。
「や、止めろ!」
もう遅いよ阿呆が。
瓶が空中で勢いよくぶつかって割れ、中に入っていたモンスターを引き寄せる蜜が大量にマンセマトへと降り注ぎ、割れずに残った他の瓶もいくつか彼らの周りに転がった。
「これでようやく帰れる。そういえば、お前が乗ってた馬はどうした?」
「戦ってるうちにどこかへ行ってしまった」
「レンタルしたものだからね。一定時間乗っていないと勝手に帰ってしまうんだよ」
「帰りは歩きか。面倒だな。ワープ系の魔法とかないのかよ」
後ろから聞こえる喧しい声が聞こえてくるが、無視してヴォルクの街へと戻る為に森の中を進む。
「これだけ働いてやったんだから、ちゃんと見返りはあるだろうな?」
「用意している。後でジョセフから受け取るといい」
途中、視界の隅でいくつかの黒い影が森の中で蠢き、俺達が歩いてきた方向へと駆けていくのが見えた。
「そういえばクゥ。ヴェチュスター商会の魔導人形から連絡がさっきあって、用が終わったら城に戻ってきてほしいそうだ」
「えー」
「君が壊した魔導人形について話があるそうだ」
「知った事じゃないな」
獣型モンスターの鳴き声が後ろから聞こえてくる。直後に、悲鳴のようなものも。
「ヴォルトはもう泊まる所もないのだし、今夜は私の城で休んだらどうかな。そのついでに、彼女に会えばいい。それにアヤネという彼女、君についていくのだろう。彼女も疲れている筈だからゆっくりと――」
「………………」
「もしやと思うが、アヤネ君達の事忘れてたのか?」
「…………うん」
ゴールドが溜息をつき、何か呟いたようだったがモンスターの声よりもうるさい悲鳴でかき消されて聞こえなかった。
「レーヴェの目的は空打った訳か」
「最優先事項はPKギルドの壊滅と電子ドラッグ流通の阻止だ。だからもう十分な成果を出している。それにマステマの居場所は分からなかったが、私が彼女と接触したがってる事は向こうに伝わるだろう」
「ふうん…………」
話している間に、今まで散々うるさかった声がいつの間にか止んでいた。




