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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第三章
29/122

3-6


 俺は、メイドを抱きしめたまま外へと飛び降りた。ほんと、字面通りの展開なら良かった。

 メイドロボは相変わらずの無表情で、城から落下しながらもザクザクと人の背中を刺してきやがるし。果物じゃねえんだぞ俺は。

『クゥ!?』

「先行け! んでとっとと始末してこい!」

 アールからのボイスチャットにそう答え、俺は落下によって下から生じる風を感じながら、メイドの肩越しから段々と迫ってくる地上を見据える。

 高い所から落ちるのは嫌々ながら慣れている。後はこのメイドロボをどうするかだけだ。

『君の犠牲は無駄にはしないとも!』

 頭上と耳飾りから馬鹿ゴールドの声が重なった。フラグすっ飛ばして死亡扱いかよあの野郎。

 怒りを感じながらザリクの短剣を抜き、俺の背中を刺してくるメイドの右腕、その伸縮機能の骨のような機工に刃先をあてがい、魔力を込める。最大まで魔力を込めたおかげか、風の刃が吹き荒れ、メイドの右腕が切断されて宙に舞う。

 ボディは硬くても、さすがに仕掛けのある部分は弱かったようだ。クリティカル判定で切断できた。そして、発生した風の勢いによって落ちる角度がずれ、落下地点も変わる。

 メイドの左腕にある銃口が俺の眼前に突きつけられる。

 だが、それよりも早く、木板で出来た小さな屋根がメイドの背中に直撃する。それは、厨房の裏口前にあった井戸の屋根だ。

 落下の勢いで俺達は屋根を破壊、そして井戸の暗い穴へと直行する。寸前、俺はメイドから手を離して収納ベルトから鞭を取り出して屋根の支柱となっていた二本の柱の一本へと巻き付け、落下を止める。

 対してメイドは井戸の壁を掴もうとするが落下の勢いは凄まじく、片腕で、肝心の左手は銃身を出しているためかまともに動いていないようだった。

 宙吊りになった俺が見つめる中、石壁との摩擦による火花を散らしてメイドは大きな水音を立てて底の水たまりへと落ちた。

「………………」

 魔法媒体である指輪を顔の前まで持っていき、魔法の詠唱開始する。

 暗闇の底、水の中からやはりと言うかメイドが立ち上がる。無機質な瞳が俺を見上げ、銃身を収納した左手が壁の隙間を掴もうと水の中から出す――瞬間を狙って魔法を発動させる。

「アイスコフィン」

 井戸の水が凍り付く。相手を氷付けにして動きを止める魔法だ。ちなみに寒いだけでダメージ効果は無く、水の中か相手が水を被った状態でしか効果が発揮されない。ぶっちゃけあまり使えない魔法だ。

 メイドは力付くで胸から下を凍らせる氷を砕こうとし、そのパワーに氷が割れるような音を立てる。やっぱり長くは保たないな。

 鞭を伝って俺は井戸の中からはい上がり、井戸から地面に落ちる。そのまま井戸の石壁に背を預けてポーチからアイテムを取り出す。

 空き缶みたいな筒が二つ。開拓隊時代にトラップやらで使った爆弾だ。調合レシピはその時に手に入れたが、材料が入手し辛いのと調合スキルの熟練度の高さもあって生産が難しく、今ある二つが全てだ。

 立ち上がって井戸から数歩離れ、左の腕輪で導火線に火をつけ、

「くたばれ」

 時間差をつけて爆弾二つを井戸の中へと投げ入れる。

 数瞬の間を置き、井戸から光と爆音が轟いた。

「おお~…………」

 音の波がビリビリと肌を叩き、音が鼓膜(まで再現されているのか知らないが)を揺する。

「……さて、と」

 口から濛々と爆煙を立ち昇らせている井戸から目を離さず、アールとボイスチャットを繋げる。井戸の中は見る気になれない。

「そっちはどうなってる?」

『順調かな。今ゴールドが領主の部屋のドアを力づくで壊してるとこ』

「お前は?」

『NPCの足止め。NPCはモンスターと違ってファイヤーウォールに無闇に突っ込まないから、こういう時楽だね』

 馬鹿な分、モンスターには躊躇と遠慮がないからな。

『クゥの方は? スゴい音がしたけど、もしかして倒したの?』

「知らん。とりあえず見張ってるから早く領主をブチ殺してこい」

『過激だねえ』

『フハハハッ、任せたまえ。今から部屋の隅でガタガタ言っている領主の首をズンバラリンしてやるとも!』

「なんだアレ」

 とうとう頭おかしいのが表に出たか。

『戦闘の余韻ともうすぐ領主の首を取れる喜びでテンションがアップアップしてるみたいだね』

 迷惑な。これで上手くいかなかったらぬか喜びだろ。というか、兵士達も集まっているのにどう収拾を付ける気だ?

「あ、あの~……」

 厨房の裏口から、突入前に俺達の世話をしたまともな方の侍女がドアを僅かに開け、そこから恐る恐ると言った風に顔を出していた。

「水」

「え?」

「喉乾いた。水」

「は、はい!」

『いきなりパシらせてるね。亭主関白系? それともただの子供?』

『人を顎で使うのも才能の一つさあはははははっ!』

 ボイスチャットがオンのままだった。言葉を発するか笑うかどっちかにしろ。

「どうぞ、お水です」

 侍女が水を入れたコップを両手で持って戻ってきた。

「ありがと。ところでこの水はどこから持ってきたんだ?」

 井戸はあの様だ。

「普段から水瓶に入れてあるんです」

「ふうん」

 侍女の姿を見下ろしながら、飲み干して空になったコップを返す。コップを回収する為に伸びてきた両手を観察していると、何か引っかくような音が、それも井戸の方から聞こえた。

 早い復帰だ。

 ポールハンマーを取り出して侍女の手首を掴んで背後に移動させる。

 井戸から、白い手が生えて井戸の縁を掴み、己を引っ張って上半身を露わにした。

 半壊した魔導人形だ。服は焼け落ち、体の至る箇所の装甲が剥がれて内部を外に見せ、顔の右半分もヒビが入っている。

 見た目からして結構な大ダメージを受けたのは間違いない。

 一人でやれるか? 上にいるアールの援護させるにしても、上は上でNCの相手をしているようだし期待できない。なら、一人で頑張るしかないな。

 メイドロボが、左腕の力だけで井戸から外へ出ようとしたのを見て、俺は腰の収納ベルトから槍を取り出し、<強投げ>でメイドの顔面を狙い放ち、硬直が解けると同時にポールハンマーを構えて走り出す。

 槍はメイドの顔面に直撃し、貫きはせず弾かれて宙に飛びはしたが顔の装甲を剥がしていた。同時に、衝撃でメイドの頭が後ろに下がり顎が上がる。

 俺は上がった顔めがけ、棍や槌で使用できるスキル<クラッシュ>を発動させる。大上段からポールハンマーが唸りを上げてメイドの顔面に命中――したかと思えば左腕で受け止められていた。

「ああ?」

 受け止められた後も力を抜かず、押し合いの格好になったまま俺は井戸の中に視線をやる。

 メイドロボは足を前後に伸ばして爪先を壁にめり込ませていた。

「おいおい」

 不安定の体勢のまま満身創痍の体で片腕だけで人のスキル受け止めるとか、どうなってんだ? ゲームだからか? いや、電脳空間だとアクション性が強く、エノクオンラインほどリアルティのあるゲームはないと身を持って知っている。NPCだからそんな制限受けない可能性もあるが、単純に筋力値で負けている。

 しかもこのメイドロボ――

「自己修復機能付きかよ」

 剥がれた顔の装甲をはじめ、体の各所の装甲がムービーの逆再生のように直り始めていた。なにこれ。もう別ゲーじゃね? てか、普通に中身見えたり再生したりで怖いよ。ホラーかロボかどっちかにしろ。

 なんて考えていると視界の隅、井戸の中で後ろに伸ばしていたメイドの足が動いた。

 とっさにポールハンマーを手放し、顎を上げ背を後ろに反らしてバク転する。顎先を、壁ごと地面を抉って放たれたメイドのハイキックが素通りした。

「あっぶね!」

 頭部はクリティカル箇所だ。顎でも、結構なダメージを食らってしまう。

 俺が距離を離すと、メイドロボは自分が蹴り壊した井戸の壁から外へ悠然と出てきた。外見は完全に元通りになっており、切断した右腕も再生していた。せっかく削った体力バーまでもが回復していた。

 これ、詰んでねえか?

 無敵のマッシーンとのタイマンとか、どうしろと言うのだろうか。

 メイドの右腕が変形し、中から鋭い刃が再び生えた。うっわ、やる気マンマンだし。ならば、仕方がない。俺は後ろに手を伸ばして、唖然としていた侍女の腕を掴んで引き寄せる。

「え? あ、あの…………?」

 メイドロボからの視線に身を隠すように侍女を俺の眼前へと背中を向かせて立たせる。

「これは、一体?」

 前方のメイドロボと後ろにいる俺の顔を交互に見やり、侍女が疑問の声を上げる。疑問は最もだ。なので、俺は分かりやすく大声で言ってやる事にした。

「ズバリ――人質だッ!」

「ええええぇぇーー!?」

 良いリアクションだ。どこぞの店員とは大違いだ。

『ゲスいね。クゥがそんな事をする人だとは…………するタイプだったね。アヤネちゃんの事もあるし』

『アールさん、そっちで写真撮れます? 撮れたら売って下さい。色々と使えそうなので買いますよ』

 そして声だけでもこいつら鬱陶しい。

 奴らの事を無視してメイドロボの方を注視すれば、ポーズ取りに失敗したマネキン人形のように固まっていた。かと思うと時おり挙動不審に体を揺らす。

 これと似たようなものを、先ほど上で戦っていた時に見ている。

「やっぱり、城の人間には攻撃できないか」

 確証も何もなくただの勘、というか当てずっぽうだが、味方は攻撃できない仕様なのだ。もし違っていても、本当に盾にすればいい。

『サイテー』

 外野うるさい。

『それよりも、さっきからモニターしてたんだけど、セルフヒーリングを使用したみたいだね。あれだけあった魔力がもう残り僅かだよ』

 どうやらアールの<情報解析>だと、魔力バーも見ることができるようだった。

『私達魔導人形は魔力が切れれば、まともに動けなくなります。何とか残りの魔力を消費させればクゥ様の勝利ですね』

「別にこのまま助けを待ってもいいんだけどな」

 むしろそうしたい。このおっかないメイドロボと一人で戦うなんて嫌だ。他の誰かに押しつけたい。なので、このまま膠着状態が続けばいい。心底そう思う。

 なんて考えていると、上の方から知らない声が聞こえてきた。見上げると、城の一室の窓が開いており、肥満体型のオッサンが身を乗り出すようにして窓から顔を外に出していた。

「何をしている。そんな奴ら早く殺して、とっとと助けにこんか! 侍女ごとやってしまえ!」

「あー…………」

 言っちゃったよ、あの領主。

 視線を元に戻せば、主人の命を受けて人形が既に走り出していた。

「チッ――やるか」

 人形が刃を伸ばした右腕で突きを放つ。侍女ごと俺を串刺しにするつもりらしい。

 ついでにと言わんばかりに兵士達を罵倒する領主の声を聞きながら、俺は掴んでいた侍女を横に突き飛ばし、その反発力を利用して俺達は左右に離れる。

 結果、人形の突きは俺達の間を素通りした。

 前のめりになって地面に転ぶ侍女と違い、俺は倒れかかる体を後ろに足を伸ばす事で支えとし、ポーチから魔法媒体を二本取り出す。

 魔法媒体である液体の入った試験管のような瓶をそのまま足下へと投げ捨て、俺は人形の背後へ回り込む。

 すぐさま、人形の右腕が間接を無視して俺を振り払おうとする。

 俺は右腕の一撃を篭手で受け止め、人形の背にタックルをかまして押し倒す。同時に俺も人形の上に倒れるが、それで構わない。

 人形の左腕が間接を逆に動かし、俺の首を掴んで締め上げ始める。

「っ……か、あ…………」

 そのまま押し潰されそうなほどの力が首を襲うが、銃を使わないことから魔力が残り少ないのは本当のようだ。

 あとは通じるかどうか。通じても間に合うかどうかだ。

「ぐ、ひゅ…………」

 首を絞められている苦痛の中、スキルを意識し発動させる。

 直後、地面に叩き落とした事で割れた瓶から魔法媒体である液体が地面を高速で這い、俺を中心にして円陣を描いてその内側に幾何学模様を描く。

 図形を描き終わった魔法媒体の液体が、光を放ち始める。下から照らされる光の中、人形の体からもまた、似たような淡い光が、霧か靄のようなものが現れた。


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