3-5
逃げたら普通に追いつかれて背中をバッサリやられました、まる。
現実世界なら死んでいたがここは電脳世界のゲーム。泣きそうになる程痛かったが生きている。だがゲーム内で死ねばリアルでも死ぬので生命の危機には変わらない。
やむなし、古代より蘇った恐怖のメイドロボと戦う事に。つうか痛い。マジ痛い。
「ファイアショット!」
アールの持つ杖の先から放たれた炎の塊が飛来する銀色の筒を迎撃する。筒を破壊する事には成功するが内包していたエネルギーの差からか、爆発による炎が全部こっち側にくる。
「チッ」
余波である炎に巻かれて熱や痛みを感じ、体力バーを減らしながら俺はゴールドと共に前進し炎の中から飛び出して、左右から何度目か分からないメイドロボへの攻撃を仕掛ける。
盾を持つゴールドが機関銃の光弾を受け止めつつ中型剣で攻撃し、俺は柄が長く頭部分の鉄槌が小さな大型武器:槌を振り回してメイドロボの腕から伸びる刃物をいなしながら攻撃を叩き込む。
「硬ェ!」
鉄のオブジェクトに無為な攻撃を加えているような感じだ。開拓隊時代に戦ったフィールドボスを思い出す。実際こいつはアールのズルくさい<情報解析>によれば金属性、それに斬撃や刺突にも強い。だから打撃武器のポールハンマーを使っているんだが、相手の体力バーが少しずつしか減らねえ。
それに厄介なのが、相手は人型でも人ではないことだ。
「がぁッ!」
「ぐッ!?」
メイドの肩と腕の関節が逆に曲がり、背中に回って左の銃口が右側にいた俺へ、右の刃が左側にいたゴールドへと向いた。
伸縮機能までついていた右腕によってリーチが伸び、ゴールドの肩が貫かれ、俺は光弾の雨を胴にまともに受ける。クソ痛ェッ!
「フレイムッ!」
アールが魔法を唱えると、俺達の足下から炎が吹き出てメイドごと巻き込む。パーティー登録をしていたのでダメージはないが、炎に包まれているのはいい気分じゃない。
体勢を整える為に、俺達は炎の中メイドから離れ、近くにあった部屋へと逃げ込む。
「ああッ、くそッ、滅茶苦茶痛ェ!」
どうやら物置になっているらしいその場所に転がって、俺は自分の体を見下ろす。負傷を現す青い光で隙間無く埋め尽くされていた。
「ゲームで良かったな。現実だと挽肉どころか血溜だ」
「ゲームだとなんで連射できるのは低威力なんだろう」
そのおかげで俺が助かったというのに、銃社会の住人達は不満そうだった。
「それよりどうする。このままだと兵士が戻ってくるぞ」
回復薬を飲みながら問う。確かに硬くて時たまトリッキーな動きをしてくるが倒せない相手ではない。三人がかりなら倒せるだろう。
だが、俺達の狙いはあくまで領主。それにこう爆発とかしているとさすがに兵士達が戻ってくる。
「それはそれで表の守りが薄くなるから有りと言えば有りだ」
こいつ扇動しただけあってNPCを使い潰す気満々だな。
「よし、お前等囮な。俺がその間に壁上って首取ってくるから」
「囮は昔からクゥの役目だろう。それに、あの子が本当に機械的な思考で動いていた場合、領主を殺しても結局戦う可能性も」
「なんでだ?」
「命令する人間がいない、つまり止められる人がいない。多分命令出してるのが領主だろうから」
面倒だな。
「こんな事ならあのロボ店員も巻き添えに連れてくればよかったな」
ヴェチュスター商会のロボ娘も、あのヒャッハーしてるメイドロボも同じ魔導人形と呼ばれる種族だ。ここは一つキャットファイトもといロボットファイトで派手にやって俺に楽させてくれ。俺はSFアクションムービーでロボット同士がガチンコやってるのが好きだ。守銭奴ロボとメイドロボは対象外だがな。
「それだ」
と、アールがゴソゴソやり始めた。
「何やってんだ?」
「魔導人形の事は魔導人形に聞いた方が早いでしょ」
アールはメニューウィンドウを開き、アイテムウィンドウから遠声の指輪を選択。するとフレンドリストにも似たウィンドウが開いた。
「まさかそれ、NPCとも会話できるのか?」
遠声の指輪とはボイスチャットを使用する為のアイテムだ。指輪だったり首飾りだったりし、人から貰った俺の場合は左耳に付けた耳飾りだ。
「遠くの人と会話できるアイテムって扱いだからね。NPCからしてみれば電話みたいな物だよ。よし繋がった」
ロボ娘と通信が繋がったその時、廊下の方からもまたメイドの方の足音も聞こえた。
「あーあーあー、面倒だ。時間稼いでるから早くしろよ。行くぞ」
「私もか? もう少し休憩したいところなのだが」
「お前戦士系だろ。壁になれよ壁によ!」
時間稼ぎの為に、ポールハンマーを仕舞って小盾と中型の片刃剣を取り出す。
「俺が後ろに回るから、ゴールドは壁になって部屋に近づけさせるな」
「任せたまえ。しかし、後ろに回るとはどうやって?」
「走るだけ」
それだけ言って、俺は先に部屋を飛び出す。途端、光弾が飛来したが盾を構え身を低くして廊下に滑り込んだ為に直撃は避けれる。
勢いで壁に当たりながらもすぐさま足を動かして壁沿いにメイド向かって走る。左の銃口が光弾を連射しながら俺を追ってきた。
壁と銃弾に挟まれる寸前、俺は壁に足をかけ、そのまま昇りながら走る。走り続け、その間も大量のスタミナを消費する<壁走り>のスキル。だが、銃弾を避けつつメイドの頭上を越えるまではスタミナは持つ。
銃弾がカス当たりしながらも、そのままメイドの頭上を飛び越えようとして、視界の下に白刃の輝きが見えた。
「クソッ」
やっぱそう上手くいかないか。伸縮機能で伸びてきた右腕の刃物が俺を撃墜しようと迫る。とっさに壁を蹴って前転するように前のめりになる。
壁を蹴った方の足がメイドの刃によって裂かれ、その衝撃で俺は空中にて体勢を崩して床に落下し転がる。だが、メイドの背後に移動する事はできた。
足を見れば大きな負傷が青い光で再現されているが欠損ではない。なら、痛みさえ我慢していれば十分動ける。
俺は振り向くメイドに対し――背を向けて走り出す。
走りながら首と視線だけ動かして後ろを見てみる。
「………………」
一瞬硬直したメイドだが、すぐさま俺を追いかけはじめた。そりゃそうだ。こいつが守っていたのは領主の部屋に続く道なのだから、自分を無視して通ろうとする奴は放っておけないだろ。例え後ろからゴールドが迫っていようとだ。
メイドが、背中にゴールドによる刀剣スキルを受けてたたらを踏んだ。すぐに片足で踏ん張ったメイドの左肘が逆に曲がり、銃口が背後のゴールドに向く。
その瞬間、俺は床を強く踏みしめて走りにブレーキをかけ、逆走する。
メイドの刃がすぐに俺へと反射的に振り下ろされる。それを盾で防ぎ、片刃剣を相手の脇へと通してゴールドの方に向いていた左手を弾く。照準が乱れた光弾はゴールドの盾を掠めて後ろへと流れていった。
メイドの左腕が通常の間接への動きに戻りーーそのタイミングで俺はいつでも廊下の向こうへと走れるよう後ろに下がる。
メイドの動きが一瞬止まり、左手の銃口が俺を狙う。しかし再びゴールドの一撃がそれを邪魔した。今度は伸縮機能付きの右腕の刃がゴールドを襲うが、次は俺が邪魔する。
目標が俺へと戻ったところでまた数歩下がる。するとまたメイドの動きが止まり――ループ。
俺達は前後からメイドを攻撃し、互いをフォローする。突然だが、嬲るって漢字はエロいと思った。
「これはもしかしてハメと言うものか?」
「違うだろ」
入力された命令を遂行する為に、俺の動きに変わらずエラーを起こしたように挙動がおかしくはなるが、NPCよりも機械的な動きをしているメイドが学習機能でもあるのか段々とこちらの動きを読み、攻撃を当てるようになってきていた。
こちらもこの状況を維持する為に手を休める間がなく、回復手段が自然回復によるオートヒーリングしかない。
根比べに近いが、相手の体力バーが少しずつしか減っていない分こちらの負けは時間の問題だった。
『――魔導人形の弱点、ですか?』
耳元からヴェチュスター商会のロボ娘の声が聞こえた。アールがパーティーチャットのウィンドウを重ねて俺達にも聞こえるようにしたのだろう。
アールが電話だと表現したように、ロボ娘の後ろから激しい喧噪が聞こえた。
『実は今、領主の魔導人形と思われる敵と戦っているんだけど手強くて。同じ魔導人形の君のアドバイスが欲しいんだ』
そして、アールがメイドロボの武装を伝える。
『ああ、城の方から偶に爆発が起きてたのはそれですか』
どうやら外からでも目立っていたようだ。これだと、城館の兵士が戻ってくるのは時間の問題どころの話じゃない。とっとと、決着を着けないとヤバい。
『というか、まだ終わってなかったんですか。兵士の一部も城に戻っていたようですし…………』
その不穏な沈黙止めろよ。
『それで、何か弱点はあるかな?』
俺と同様ロボ娘から不穏な沈黙を感じ取りつつも、アールが忍耐強く聞く。
『そうですね。魔導人形の欠点はワーカーホリックなところです』
『………………』
「ニートったりヒッキーしたり、金に困って危ない仕事を引き受けたりする怠け者の人間と違ってそりゃあもう私達は働くのが大好きです。存在意義でもあります。世界中フラフラして好き勝手に自然破壊してる人とは違うんです。違うんです!』
だからどうしたうるさいよ。というか遠回しに俺の事ディスってねえか?
『えーっと、それで戦闘面に関してはどんな弱点があるのかな』
『さあ?』
もう笑うしかねえ。
『だいたい、型によって色々違ったりしますんで、今戦ってる娘が私と同型という保証がありません。それにおそらくですけど、その娘多分改造されていますよ。聞いてませんか? ここの領主の話』
ロボ娘曰く、領主は学者肌で特に滅んだ古代文明に対して熱心で、その時代に誕生したと言われる魔導人形も同様に金を集めて日夜研究しているらしい。
「……おい、アール」
『えっと、今度ばかりはホントにごめん…………』
本当にテキトーだなお前。つうかこっちは今マジで死闘中なんで早くしてくれませんかねェ?
『ただ、強いて言うならエネルギー切れですか。日常では大気のマナを吸収してるだけ十分なんですけど、さすがに戦闘になればエネルギーが多く消費してしまいます。空になればまともに動けませんから私達』
「通訳」
『通常のPLやNPCと違って魔力がゼロになれば少なくとも停止するみたいだね』
俺の言葉にアールが分かりやすく説明する。
『だとすると、このまま魔力切れを起こさせればいいわけだね』
メイドの左手から発射される光弾は実弾ではないようで、おそらく魔力を消費して撃っているものだと思われる。なら、ゴールドの言う通り敢えて光弾を無駄撃ちさせて消耗させる方法がある。今まで散々撃っていたのだ。相当減っている筈だ。
『無理でしょう』
だが、ロボ娘が否定する。
『たった数度の戦闘で切らしてたら欠陥品もいいところです。皆さんがまる一日中戦っているなら別ですが』
えーっと…………どうするよおい。
「いたぞ! 侵入者だ!」
ゴールドの背後、通路の先から複数の兵士達の姿が見えた。アールが部屋から飛び出して来て火属性の魔法を放つが、続々とNPCが集まってくる。
あー、これは詰んだか? NPCを切り抜けるのは簡単だが、このメイドがいる以上上手くいかないだろう。
ボイスチャットの向こうから――投資失敗かぁ、などと小さく呟くロボ娘に若干破壊衝動が起きつつも、無視して今の状況を思考し、俺は後ろに下がる。メイドの挙動を止めるためのフェイントではなく、後ろに下がりながらも領主の部屋へとすぐに駆け出せる距離にまで離れようとする動きだ。
今までと違う動きに、メイドは銃撃を加えるでなく逆にゴールドへ左手を向けながら走りつつ、右の刃を構えて俺めがけて突進してきた。
牽制として背後を乱雑に撃ちながら、確実にしとめる為に近接武器による攻撃。こいつ、本当に学習してやがる。
俺は足を止め、突きとして放たれた刃を盾で受け流す。頬が僅かに裂けた。
構わず前進して片刃剣を手放しつつメイドの懐に入り襟首と腰を掴む。そして格闘スキル、ある程度任意の方向と距離を調節できる<投げ下ろし>を発動させる。
――って、重ッ! こいつ、とてもじゃないけどそう簡単に投げれるような相手ではない。そのせいでスキル発生が遅い。
「――ぐっ!?」
そうこうしてる間に、右の刃が後ろから俺の背中を貫く。激痛が走るが、残り体力バーは四分の一未満。まだギリ行ける!
「オ――ラァアアアッ!」
俺は<投げ下ろし>の発動を中止し、そのままメイドを抱えて壁へと突進する。そこには、今までの戦闘ですっかり壊れてしまった窓ガラスがあった。
そして、俺はメイド諸とも外へと身を投げた。




