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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
プロローグ
2/122

0-1


「旅行に行かない?」

 いきなりお誘いを受けた。男から。

「フンッ!」

「わーーーーっ!?」

 思わず大砲をぶちかましてしまった。

 二つ折りになって現れた砲口から吹き出た炎を受け、翔太もといシュウがザコモンスター共々盛大に吹っ飛んで地面に顔から――ベターッンって感じで漫画チックに着地(墜落)した。

 今、俺たちは電脳世界上のオンラインゲームをプレイしていた。

 モンスターを狩って、身を剥ぎ取り、武器にする。そんなアクションゲームだ。

「すまんすまん。ワザとだから」

「わかってるよ! うぅ……気持ち悪い」

 本当に気持ち悪そうに頭を押さえながら、シュウが起きあがる。

 視覚と聴覚が三次元と変わらぬ感覚で捉えることができ、自分の体を動かすのと大差ない感覚で動かせるヴァーチャルリアルティな世界ではこういったアクション性の高いゲームが自然と多くなる。

 だが、目の前に襲いかかるどころか実際に襲いかかってくるモンスターにビビったり、強制的に取らされる吹っ飛びモーションで3D酔いする奴がいたりと敷居が高い。

 俺らの年代から下は電脳世界にすっかり馴染んでいるが、それよりも年上やシュウみたいに非現実的なモーションが未だ馴染めない奴は結構いる。

 なんどこいつこんなゲームやってるんだろ。

「彼女持ちのくせに旅行に男誘うって、お前いつ間にソッチの気に目覚めたんだ?」

「言いながらログアウトする準備しないでよ。まあ、説明不足だったのはこっちが悪いけど」

 酔いが覚めたのか、起きあがってシュウが詳しく話し始める。

 今はゲーム中だが、このエリアのザコは倒した。別エリアからボスモンスターでも来ない限りは安全だし、ダベる時間くらいある。

「僕と君だけじゃなくて、みんなでだよ」

「みんなって、お前らサークル連中の?」

 シュウは現実世界(電脳世界でも)において数少ない俺の友人だ。

 そしてシュウはもう一人の俺の知り合いと共にあるサークルに所属している。そのサークルというのがまたゲーマー達の集まりで、ゲーム大会に出ては金と名声を掻っ攫っている。

「また遠征ってやつか?」

 サークル連中はゲーム大会に出るために遠征する。

 電脳世界は世界中に通じて、距離なんて概念は無いに等しいのだ。それなのにわざわざ自分から県外に出るとか、俺には理解できない。

「違うよ。エノクオンラインって知ってるよね」

「エノコンライン?」

「わざと言ってるでしょ」

 当たり前だ。

「ほら、もうすぐ新しいダイヴ端末が発売するでしょ? それに連動して新しいオンラインゲームも稼働するんだ」

「ふ~ん」

「最新型のスペックをフルに使用したRPGでリアルよりもリアルな体験ができたって、クローズβテスターの人達の話もあってね」

「ふ~ん」

「僕達はβテストに抽選に落ちちゃったけど、今回は――」

「ふ~ん」

 相槌を打つのも面倒になったので、要点だけをまとめると――

 最新の電脳世界専門ダイヴ端末とオンラインゲームが発売するよ(だからどうした)。

 初稼動キャンペーンとして、抽選に当たった人達に新型端末を体験しながらゲームさせてくれるそうだよ(あっ、そう)。

 僕達サークルメンバーは系列企業のゲーム大会優勝商品としてキャンペーンに参加できる事になったよ(また荒らしに行ってたのか)。

 サークルメンバー全員分枠を貰えたから君も行けるよ(勝手にメンバーにするなし)。

 だから、泊まりになるけどみんなで行こうよ(だから俺を数に入れるな)。

 ――と言うことらしかった。

「えー」

「えー、じゃなくて、どうせこの夏も何の予定も無いんでしょ」

「“も”って言うな」

 自分が彼女持ちだからってこいつ調子に乗りやがって。もう一発デカいのかまして吹っ飛びモーション酔いを味わせてやろうか。

「そう言わずにさ。タカネから頼まれてるんだよ」

「タカネがぁ?」

「うん。どうせ今年もまた家で引きこもっているだろうから、外に連れ出すって息巻いてて」

 遠出したとしても結局電脳世界に潜ってゲームするならどのみち引きこもるのと変わらないだろうに。

「何でそれをお前がパシッてんだ? 普通、言い出しっぺがまず言うもんだろ」

「タカネは何度もメールしたって言ってた」

「ああ……」

 小言がうるさいので奴のメールは受信しても総スルーなのだ。

「どうせ電話しても、直接行っても逃げられるから僕のところにお鉢が回ってきたんだよ。リーダー権限まで使ってきたんだ」

 タカネはシュウの所属するゲームサークルのトップだ。無茶の要求をする女ではないが、たまにアホな命令を下す。

 サークルが結成される以前からの付き合いでもあるので、シュウはあまりタカネの言う事を無視できない。

「はぁ、わかった。お前の顔立ててやるよ」

「来てくれるんだ! 良かったぁ。それじゃあ、日時なんだけど――」


「それじゃあ、また来週」

「ああ」

 シュウからキャンペーンの予定を聞き、少しゲームで遊んでから別れる。

 奴はこれから彼女と電脳世界のショッピングセンターでデートらしい。別に羨ましいとは思わないが、さすがに目の前で惚気られるとウザかった。

 俺はこのまま現実世界に帰っても良かったが、参加させられるオンラインゲームの事を多少知っておこうと思った。

 電脳世界内で疑似表現された日本サーバーの街並みの中で、俺はプライベートルームに跳ぶ。

「たしか、エノクオンライン、だったかな」

 誰もいなくなった青い球体の中で俺は検索機能を展開、宙に現れたウィンドウにキーワードを入力する。

 電脳世界は大まかに言ってしまうと、プライベートエリアと公共エリアの二種類がある。

 プライベートエリアは名前の通りに、誰か招待でもしない限り(不法侵入は別として)一人だけの空間だ。皆それぞれ容量が許す限り好きなようにカスタマイズできるので、現実世界の自室と変わらない空気を味わえる。

 そういう俺は初期設定の青い球体のままだ。変にイジって現実世界風にすると、現実世界の自室からログインして電脳世界の自室でパソコンに向かうとかよく分からん状態になってしまうからだ。

 公共エリアはバカでかいショッピングセンターとか思えばいい。一応、ビルの形をした企業や公共施設の公式ホームページも並んでいる。

 公式を歩いて探すのも面倒なのでプライベートルームから直接検索して、表示させる。

「えーっと」

 新型端末を開発した複合企業が同時に開発した、世界最高の技術力の結集されたオンラインゲームである、と。

「………………」

 いきなり誇大広告のようなものを目にしてしまったが、気にせず先を読む。

 要はよくあるRPGのようだった。というか、ゲームはやってもゲーム知識がさほどあるとは言えない一般ユーザーである俺が細かい文字で書かれた文章に目を通したところで、どれほどスゴいのかなんて分かるはずもない。

 とにかくスッゲー端末でスッゲーゲームが出来て、宣伝をかねてゲーム稼働に合わせた新型端末体験会が行われる。

 企画を行ったトコが金を出し、わざわざ宿泊先も用意してくれるそうだった。

 さすが世界に名だたる企業だけあって太っ腹だ。太っ腹過ぎて気持ち悪い。

 肝心のゲームシステムについては……まあ、サークルの連中に直接教えてもらえばいいだろう。

 俺はそう決めると、ウィンドウを閉じて電脳世界から脱した。


「……予定が埋まったのはよしとするか」

 脳波を読みとるヘッドギアを外し、専用のシートに寝転がったまま手を天井に向けて伸ばす。

 すると宙に、俺が先ほどまで電脳世界で見ていた公式ホームページを中に映す平面なモニターが投影された。

 トップページには、

「リアルよりもリアルな世界をあなたに」

 なんてどこにでもある愚直な謡い文句が書かれている。

 昨今、現実世界よりも電脳世界の方が生きている実感を感じる、現実よりもリアルだと宣う若者が増えたのだとか。

 それを考えると、この謡い文句は失笑を買っていると思うのは俺がひねくれているせいか。

「俺からすれば、どっちもどっちだけどな」


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