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幻想世界の放浪者  作者: 紫貴
第十章
100/122

10-8




 俺とカイトの初撃は技術もクソも無い力任せの一撃から始まった。補助魔法で筋力値を上昇させていたとは云え、当然力負けして弾かれる。

 その弾かれた勢いを利用して腰を中心に柄を回転させて反対側から武器をぶつける。カイトはハルバードの柄で受け止めて後ろに下がった。

 俺の今の状態は補助魔法全乗せで、着ている防具は金属と布の複合防具なのだが、前者の比重が多い物に変えた。所謂決戦装備で、万が一逃げ切れない場面に遭遇した場合に装備する為に用意していたものだ。

 今までは悪運が強いのか何だかんだで逃げれたから、こうして実戦で装着するのは初だ。普段から着ろって話だが、これ重いんだよ。

 そして武器だが、奇しくもカイトのハルバードと似ていた。長いポールの先端には中型武器:刀剣に入る程の長い刃があり、根元には幅広で分厚く急なカーブを描くS字型の斧刃が。斧部の反対側には鎚頭、ハンマーがついている。石突部分にも穂先と同様短いながら刃がある。

 元はクウガが調子付いた結果生まれた武器で造った本人は浪漫とかほざいていたが、中学生の思考よりもただただ痛々しい。小学生が考えたカッコいい武器の方がまだ実用的だ。

「オオォオォォォォッ!」

 カイトが雄叫びを上げて突進して来る。

 似たような武器を操っている手前、優劣は単純な力量によって決まる。つまり俺が負けるという結論が成り立ったりする。

 突進して来るカイトに向けて俺は鎚部で当てるように武器を大上段から振り下ろす。タイミングは合っている。だが、カイトは背中の甲皮を開き翅を震わして急加速した。

 頭上から落ちる鎚部を潜り抜け、ハルバードを横向きに柄の部分を受け止めそのまま滑らせ前進を続けてくる。

 このままでは懐に入り込まれる。しかし、カイトは突然前のめりに姿勢を崩した。まるで背中から予期せぬ衝撃を受けたかのように。

 そうなるであろうと予想していた俺はカイトが態勢を整えるよりも速く動き、その顔面に蹴りをくれてやる。

 体術スキルではなく投擲スキルによって蹴り飛ばす。ノックバックではなく投げると云う特性上、カイトは派手に吹っ飛んで壁に激突してその紅い体をめり込ませた。さっきの仕返しだボケ。

 流石にボス格だけあって今の程度では大したダメージにはなっておらず、カイトはすぐに壁から身を離す。そして俺が手に持つ武器を怪訝そうに見た。まあ、怪人面のせいで実際表情なんてさっぱりなのだが。

 俺が持つハルバードにも似たこのポール。その柄の部分が直線のポールではなく、鎖で繋がれた三節の棒になっていた。

 カイトはその事実を認識こそすれ、特に驚く様子も見せずに再び突進して来た。相手の武器の特徴を再認識して戦術に修正を加えただけで、感情的な部分は俺を消す方向しかないようだ。本当に虫かって話だ。

 俺は向かって来るカイトに向けて三節棍となった武器を振り回す。三節が六節、六節が十二節と更に分解してそれぞれ繋ぐ鎖の分だけリーチが伸びた。

 それを斜め上から振り下ろす。カイトは跳んで避け、頭上から飛びかかって来る。俺はすぐに多節棍を引き戻し、元のポールに戻して降下してくるカイトに向けて再び振り抜く。先端にあった斧部外れ、鎖に繋がった状態で飛んで行く。

 カイトはハルバードで斧を弾くが、その衝撃で別の場所に着地する。俺は更にポールを振り、今度は鎚部が外れて鎖をジャラジャラ鳴らしながら着地した瞬間のカイトを襲う。

 カイトは翅を使い横に飛び避けるが、俺はそこに向かって走り、斧部と鎚部が鎖に繋がれた槍を持って突きを連続して放つ。

 冷静に対象し受け流されつつ、俺は槍の根元を掴んでもう一方の手で反対側の短い刃がついた石突の根元を握る。

 ポールを再び多節棍に変え、それに繋がれた両刃の剣と短剣による二刀流へ戦闘スタイルを変える。その変化にカイトの動きが鈍った。

「こっちばかり見てていいのか?」

 僅かな動揺を突く形で、左右から斧と鎚がカイトを襲う。二つは両刃剣の柄と変わらず鎖で繋がれている。俺の動き次第で操り続ける事が可能だ。

 クウガが造ったこの武器は各パーツを分解する事で多様な武器に変化し、それぞれ鎖で繋がれているので手元から離れる事は無い。明らかに鎖の長さが物理を無視しているが今更か。

 このネタ武器、装備するのに必要なスキルが多い。まず大型武器関連だと斧に鎚、槍、棍。中型武器では刀剣に鞭、小型武器は刀剣。計七つのスキルの熟練度が一定以上無いと装備出来ない。こんなもの需要は無いだろう。だが、複数のスキルが必要なだけあって単純なスペックは高い。

「もう一本!」

 両刃剣の刃部分だけを外す。それも勿論鎖で繋がっており、下に垂れ落ちたそれを俺は投擲スキルを使って蹴る。

 三方からの攻撃に、カイトは頭上でハルバードを回転させる。その回転に合わせて突風が吹き、カイトを中心とした竜巻が発生して斧と鎚、剣をそれぞれ弾き返した。

 弾かれたそれぞれのパーツを鎖で引き戻しながら短剣と複数の柄を一つに繋げ槍とし、竜巻が切れるタイミングを狙って突きを放つ。

「おいおい、俺を殺すんじゃなかったのか?」

「グ、ヌッ――オオオオォォーーーーッ!!」

 硬直を狙われ幾つも刺突されながらカイトがキレたようにハルバードを振る。雄叫びと荒々しい動きは無造作に振り回しているように見えるが、こちらの槍をしっかりと迎撃した上で反撃に繋げている。

「オ前ダケハ、オ前ニダケハ負ケルモノカッ!」

「ハァ? 俺に対抗心燃やすぐらいならとっととタカネに告ってれば良かっただろうが!」

 槍を三節棍に変形させながら鎖を手繰って剣、斧、鎚を引き寄せる。槍の穂先として先端にあった短剣も三節棍から離して蹴り飛ばす。

 四つの飛来物と俺。それでようやくカイトと五分だ。

「独リヨガリナ満足ヲ得タイ訳デハ無イ! 俺ハタダ彼女ガ幸セナラバソレデ!」

「そんな面して純情か。お前は少女漫画の脇役かよ。つうかお前の考えなんて知るか!」

 魔法の風でも乗せているのか重量感あるハルバードはそのデカさと打って変わって非常に速い。カイトの動きも合わさって正に竜巻だ。いちいち考えている暇はなく反射神経と勘、ついでに勢いでハルバードの刃を打ち払いながら鎖を手繰り続ける。

 ハハッ、もう自分でもどうやって動かしているのか分かんねえ。というか一瞬でも雑念(しこう)が混ざれば破綻する。

 だからもうただ身体を動かすしかない。耳に飛んでくるカイトの声も鬱陶しく、反射的に言い返してしまった。

 頭の中が段々と真っ白に染まって行く。不純物としてその白模様の中に中心へ向かって伸びる黒い線が外側から伸びてくる。

 俺はその黒い線を潰して行く。その作業は身体の動きに連動――身体が動くのが先なのか判断が先かは分からない――する。

 頭の中を白一面に染め上げるこの作業が俺の戦いだ。

 そんな時、大量の黒い線が一斉に横から伸びてきた。

「邪魔だ!」

「引ッ込ンデイロ!」

 計った訳でもないのに俺とカイトの攻撃が重なって障害(カラス)を退け、すぐさま()り直す。

「というか殺すってなんだよ。はいそうですねって首差し出せる訳ねぇだろボケが! だいたいお前隠すならもっと上手く隠せよ。タカネを見る時の顔がバレバレ過ぎんだよ!」

「オ前ニ指図サレル謂レハ無イ! 鉄砲玉ノ様ニ一度飛ンダラソノママデ、逃ゲテバカリデ向キ合オウトモセズイタ男ガ!」

「真っ正面から見たら殺しちまうだろうが! お前それが嫌だから喧嘩売ってんじゃねえのか!?」

「我慢ガ足リテイレバ異常者デモ真ッ当ナ人生ヲ歩メル筈ダ! ソレヲオ前ハフラフラト。ダイタイ、目移リガ過ギテイルンジャナイノカ!」

「良い女がいたら目で追っちまうのは当然だろうが純情一途な精神童貞には分からないかも知れないけどなぁ!」

「ソレガ不義ダト言ッテルンダ甲斐性無シノ下種男ガ!」

「うっせえ! 死ねテメェ!」

「消エルノハオ前ダ!」




 ◆


「ハッ、いい様だな。(バカ)の喧嘩に割り込もうとするからそうなる」

 クゥとカイトの戦い。それに介入しかき混ぜようとして逆に弾き飛ばされ地面に転がったプリムラを見て、マステマは鼻で笑った。

「身体のデカい子供と変わらん。力尽きるまで放置して置くのが吉だよ。人生経験の浅い小娘には経験ないか?」

 罵詈雑言を並べ立てる二人の戦いは第三者から見れば呆れるほかなかった。これがまだ一人の女を取り合っての喧嘩ならば演出によっては笑い話か愛憎劇になっただろう。しかし、聞こえる会話で察してみれば片方は既に身を引いてもう片方は距離を置いている。

 一体何がしたいのか。さっぱり意味が分からない。

 マステマの後ろにいるエルなど笑いを堪えている有様だ。

「だからこそ割って入りたいと云う乙女心、貴女にも分かるんじゃありませんか?」

 身体を浮かせて姿勢を戻すプリムラ。変わらず得体の知れない微笑を浮かべつつ、その周囲には旋風が発生していた。

「生憎とそんな純情、気が付いたら無かったな」

 マステマもまた誰からも愛される可憐な容貌に獰猛な笑みを張り付かせて杖を振るう。

 火属性の魔法、<ファイアショット>が杖の先から放たれプリムラに襲いかかるが、彼女は身体を横に回転してそれを避けると反撃とばかりに周囲に渦巻く旋風を放つ。

 迫る小型の竜巻に、マステマは手に持っていた塊を投げた。それは未だ気絶しているリュナであった。

 流石に人を投げて盾にするとは思わなかったのだろう。場違いな猫のような悲鳴を上げて竜巻に全身を刻まれるリュナに目を奪われ、プリムラが動きを止める。

 唖然とするプリムラの頭上から炎の槍が三本落ちる。咄嗟に後ろへと跳躍するプリムラの横から剣と盾を持った男が突進した。

 大きな身体でどこに隠れていたのか、姿を消していたエルバは盾を正面に構えて盾スキルの<シールドアタック>でプリムラと激突する。

 猛牛のようなエルバの突進はプリムラを盾に貼り付けたまま壁をぶち抜き広間と隣接していたのであろう通路にまで及んだ。

 壁との衝突の反動で拘束に僅かな隙が生まれた瞬間にプリムラは自ら後退して翼を羽ばたかせ通路の奥へと飛行する。

 通路側の壁にぶつかったエルバはすぐさま堕天使の後を追った。

「よくやった。後で飴玉くれてやる」

 気絶していた間に盾にされ全身の痛みに首を傾げるリュナにそう言い残しながら彼女の頭に使い魔の猫を乗せると、マステマもエルを従えプリムラの後を追って通路へと飛び込み走り出す。

「このまま離れても良かったので?」

「雑魚の掃討はメイドと子供で十分だろう。使い魔を置いて来たからデータ取りも問題ない」

 広間には少数ながらまだモンスター残っているものの、シズネとリュナがいれば十分だと判断した。それよりも厄介なのがプリムラだ。受けたダメージを倍にして返す能力は勿論、何を仕出かすか分からない。それと私怨もある。

「奴のスキルの特徴は掴んだ。欠点もな。このまま追い詰め、出来るならデータを取る」

 レヴィヤタンの城での戦いの際にはエル達もおり、その時に使用されたプリムラのスキルの範囲内に勿論いた。そして解脱したプリムラを観測すると同時に彼女のスキルの特性まで検証した。

 結果、推測の範囲ではあるが、あのスキルは一撃で一定以上のダメージを受けないと発動条件を満たせず、一度使えばリセットされてまたダメージを受け直さなければならない。

 そう予測を立て、違った場合での計画を含んでマステマはプリムラに勝てると踏んだ。元々プリムラは天使型NPCで通常のモンスターと比べ高いステータスを持っているが、天使の中では下級の方に位置している。ボスクラスとしてベルフェゴールの城を守る役割を持っていたカイトと比べ基礎ステータスは低い。

「――マステマ。通信妨害のレベルが下がったようです」

 地下都市で見つけたチャットやメールを阻害するクリスタル。同じ物が城の中にもある事は容易に想像でき、今までは他PLと連絡がつかなかった。

 しかし、誰かが壊したのか多少ノイズ交じりでも通信が可能になっている。

 プリムラを追い詰めながら行き交うチャットやメール確認すると、PL達は都市で激しく戦闘を繰り広げている者と城内部で戦う者に二分されているようだ。都市の方は共に落ちた物資を回収しながらゆっくりと城に向かって前進している。そして城の内部では<イルミナート>と<ユンクティオ>が既に魔王であるベルフェゴールと戦闘しているらしく、<オリンポス騎士団>もボス部屋にもうすぐ行き着くらしい。

「…………<鈴蘭の草原>は?」

 エルからの報告を聞き、使い魔と共有する視界の一部からクゥとカイトの戦いを一瞥したマステマが残る四大ギルドの一つの居場所を確認する。

「<オリンポス騎士団>よりも遅れているか…………。エル、全体チャットでクゥの様子をリークしろ。少しでいい。僅かな情報でもあの女は気付くはずだ」

「……何を企んでいるんです?」

 疑問を口にしながら戦況報告の行き交う全体チャットに情報を流布し始めるエルの問いに、マステマは薄く笑うだけであった。





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