要領よく生きられたら嫉妬なんかしないよ
橋爪京介はエリート会社員である。
小学生の時から成績優秀、高校入試も大学入試もこけたことがない。
失敗したことがない。
だからエリートなんだ。
正直、自分でも自覚している。
俺はエリートだ。
俺は完璧なんだ。
その完璧なはずの俺は、
一浪してからの三流大学卒業の挫折野郎に
営業成績を抜かれた。
「………」
模造紙に印刷された、先月の契約数の棒グラフ。
橋爪など、比ではないくらいに数字が伸びている。
橋爪京介 契約数 32件
先月比 +6
田崎裕平 契約数 106件
先月比 +92
いや、おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい!!!!!
橋爪は、模造紙の前をうろうろする。
歩き回り、何度も見直す。
書いてあることは、何度見ても変わらない。
いや、おかしい。これは絶対に。嘘だろ。
…ぶっちぎりじゃないか。
信じられない。
俺だって、先月より契約数増やしたってのに。
それでも先月一番だったのに。
何で田崎は三桁を超えているんだ。
何で、何で何で何で
「!」
集団がやって来た。
「田崎、よく頑張ったな。」
橋爪の隣に、上司たちとやって来た田崎裕平がいる。
田崎は橋爪に軽く会釈した。
「……。」
今は、上司の前であっても返す気にもなれない。
「努力の賜物だな」
「いえ、そんな…」
田崎は、デレデレと品の無い表情をしている。
「偶然…運が良かっただけっすよ…」
上司は、橋爪に気がついた。
「おお、橋爪じゃないか。」
「…お疲れ様です」
「橋爪も…まあ、もっとこいつを見習って」
上司は田崎の肩を叩いた。田崎は照れ臭そうにしている。
「まあ、頑張れ。」
「………」
「我が社には田崎のおかげで、高度経済成長が再来しているよ。」
「いやそんな」
「橋爪も見習うんだ。お前ももっと努力しないとな。」
上司はそう言うと立ち去り、田崎は再び会釈して上司についていった。
俺が…………
田崎を見習う??
俺が??この俺が??
先月から6件契約数を増やすだけで、どれだけ俺が人より汗を流し、どれだけペコペコし、作戦を練り、どれだけ…
どれだけ…
俺が
…………
その努力も打ち砕かれたと言うのか。
俺は、俺は、
俺は何なんだ。
あいつさえ、田崎さえいなけりゃ、また俺は一位だったのに…!!
『出来る子だね、さすが京ちゃん。』
『さすがエリートだな』
『エリート』『エリート』『エリート』
俺はエリートなんだぞ…!!
こんなことがあってたまるか
俺は…
エリートなんだぞ!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌日、
橋爪は某企業の前に立っていた。
…大丈夫、アポは取れた。
いつも通り、ちゃんとやれば結果だってついて来るはずだ
今日から、契約数はリセットされた。
…今月こそ一位を…
田崎にだけは負けねぇ…!!
〜続く