溶けてしまう
目が覚めた。
夏休みも終わりに差し掛かった朝早く
どうやら私は、何もかけずにカーペットの上で寝てしまっていたようだ。
何だか体がいたい。
まだ気温はそれほど上がってはいないが、なんだかけだるい。
頭がいたい。
なんだかすごくだるい。
何にも変わらない朝。
ああそうか、思い出した。
私は昨日、好きな人に振られたんだ。
何にもない。
別に何かがさして変わったわけじゃないのに。
何だろう。
私の身体の中で、何か大事なものが抜き取られてしまった感じがした。
のそのそカーペットから立ち上がる。
うわあひどい寝癖。
全然疲れが取れてない。いやむしろ疲れた。
もうカーペットで寝るのはやめにしよう。
私はそれから朝シャンした。
しまりの無い顔。
なんなの、もう。
シャンプーをすすいだら、寝癖が多少良くなった。
わけもなくイライラしたり、悲しくなったりした。
…………。
ああ…。
何だか、死にたい。
夏休み中も、私は一日も休まずに学校へ行った。
そして、今日も休まない。夏休みなのに。
私はダラダラと朝ごはんを食べた。
割と普通に済ませた。
ゆっくりと着替え、準備を済ませ、自転車にまたがる。
漕ぎ出した。
…あ、
日焼け止め塗り忘れた。
私は一瞬引き返そうか迷ったが、時間も時間だった。
何より、今更日に焼けても焼けなくても、関係ないよ。
どれだけ気を使っても、努力しても、無駄だよ。
もう終わってしまったのだ。
再び漕ぎ出す。
日差しがギラギラと容赦なく照り付ける。
私は体中から汗が吹き出すのを感じた。
田舎の田んぼの中の道路を漕ぐ。
暑さでおかしくなりそうだ。
風邪が吹き抜ける。
…………はあ
思わずため息が漏れた。
目の前が霞む。涙が流れてきた。
……ああお願いだ。
こんな悲しい気持ちにはなりたくないんだ。
お願いだから。
時間が巻き戻ればいいのに。
私は自分に酔っているのだろうか、間違いない。
感傷的になって、何が楽しいの。
そういう所が嫌い。
20分ほど漕いだら、一番大きな坂だ。
ここが中間地点。後はだいたい下り坂。
本当は、市外から来る生徒の自転車通学は禁止されている。
でも、夏休みということで、私は教職員の目を盗んで、この一ヶ月近く自転車で学校に行っていた。
息を荒げ、坂を超えた。
後は身を任せるだけ。
…………もう、だめだ。
なにをしても、思い出してしまう。
考えないようにしたって、思い出してしまう。
鮮明に蘇る、昨日の出来事が。
……………ごめん
うっすら笑顔を浮かべた後に、苦い表情をした、あの人を、思い出してしまう。
………………本当にごめんなさい。
謝らなくていいのに。
謝らなくてよかった。
謝らないでよ。
謝るのは私だよ
だから、あなたに謝られたら、私が言うことがなくなっちゃうよ。
ごめんなんて言わないで
決してドラマみたいに充実していなかった。
端から見たら、特に何も起きてなんかいなくて、私がただでしゃばっただけなんだと思う。
ずっと好きでした。
目なんか見れなかった。
あの人が、こんなこと言われてどう思うかなんて分かりきっていた。
…付き合ってください…
思っても無いようなことを。
付き合えるなんて、微塵も考えなかった。
ただ、あの人に断る逃げ道を作っただけだ。
…………
でも
でもでも
でもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでもでも…
好きだすごく
すごくすごくすごくすごくすごくすごくすごくすごくすごくすごく!!!!!!!!!!!
もう一度言ったら、あの人は分かってくれるのかな
なんて、そんなことを考えた。
無理だよ
……………
……………
……………
学校に着いた。
やはり、校門に教師はいなかった。
私は、約一ヶ月間そうしてきたように、駐輪場まで自転車に乗る。
じりじりと気温があがってくる。
私の顔は濡れていた。
まるで、水でも浴びたようだった。
手元にタオルがなかったので、自分の腕で拭った。
もう…気にする必要なんかない…
体育館へ向かった。
扉を開く。
誰も来た気配はない。
私が一番乗りだったようだ。
ただ、暑く蒸した古い校舎
私はただ、死んだかのように沈黙し、
立ち尽くし、
そして私から水滴が落ちた。
着替えることにする。
いい加減、制服はつらすぎた。
朝の誰も来ていない学校
じょじょに、活気づきはじめる。
そして、あの人がくる。
いつも目で追う。
でも今日は
今日からはもう
……………
今日からはもう、追っちゃだめだ。
あの人は、私を見ると、気まずそうに顔を背けた。
元々挨拶なんてしないもの。
元々会話なんてしないもの。
元々お互いに必要としないもの。
だから、いつもと変わらない毎日が続くだけ。
ただ、ちょっと辛いだけだ。
ごめん、やっぱり好きだ
私の目から吹き出たそれは、噴水のように。
その場から逃げ出した。
誰も助けはしないし、誰も咎めない。
好きだ、好きだ好きだ好きだ好きだ、好きだ
好きだ好きだ好きだ…好き…
何にも変わらなくなんかない。
世界から、色がなくなった。
こんな世の中に、私が存在する意味なんかあるのか。
ないわ。
あの人に焦がれていたときと、ここは同じ世界なのか
違うよ
もう、私は死んでもいい。
ああ、もう
ああ…
ばっかみたい。
倦怠感しかない。
疲れたよ、もう。
ああ
なんなの、もう、なんなの。