表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

キイチゴ


「全然好きじゃないのにな。どうしようかな。」


ふわふわした雰囲気の琴子はそう言う。





もう付き合えよ。



いつまでえり好みしてんだっつの。




美穂はそうつぶやく。


「すごくメール来るの。もう嫌。アドレスだって勝手に聞かれたのよ。」



「返さなきゃいいじゃん。」

美穂は、出来るだけ平然を装ってみる。


「…」


琴子は一瞬考えて、


「出来ない。落ち込んで、ウチが悪いみたいにされるもん。」


と言った。




こいつはまた…美穂は歯ぎしりしたい気分だった。



そういう煮え切らない態度が、むしろ相手を燃え上がらせてんのよ。


わかんないの??




「だって好きじゃないもん」




…この女とこういう話するといっつもこんな気分だ。



「でも向こうは好きなんだよ??」



「…そういうのマジ困る」



…は?



「だってウチが好きじゃないもん。だからダメ。第一、顔が好きじゃない。」



「メールばっかしてきて、直接話さないんだよ。それで、ウチが返さなかったり、内容によっては落ち込んで男子全員に話してさ、ウチが悪いみたいじゃん。だから即レスしなきゃだし。」




………無限ループだ。


だめだこりゃ。



何言ったって私がいらつくだけ。






琴子と美穂が話しているのは、4月から琴子にメールしてくる加納という男についてである。


少なくとも週に一回、多くて毎日、加納はメールを送信し続ける。


琴子は、加納が自分に惚れていると気がついている。


美穂は、加納に一度も会ったことがないが、同情する。





琴子は確かにいい子かもしれない。

だけどね、好きになっちゃだめだ。

こいつは、女として、少なくとも女として見たら、私は大嫌いだ。






琴子は、美穂の思うにそれほど可愛いわけではない。

色が白い、身長が低い。

可愛いというのは、別に美少女という意味ではなく、マスコット的可愛さのことだろう。


一人が可愛いと言い出せば、全員が言い出す。

そして、琴子が可愛いというのは周囲が認める公理となる。


それに対して、美穂。


身長が高い訳でも、低い訳でもない。かといってくびれのある痩せた体つきではない。

どれだけ日焼け止めを塗ったところで、日に焼け、肌は白くはない。

左右の目は一重と二重でどっちつかず、琴子と一緒にいるせいか、男のように見られる。





私といると、琴子も更にモテて可愛い可愛い言われて、男子からアドレス聞かれて、メールいっぱいくるから都合がいいんだよね、そうだね。




…そうは思わないようにしている。

だがしかし





私だって、そういう恋愛とかに興味ないわけじゃないんだからさ…



止めてよ、悲しくなる。




この女と私の違いは何なの。


この女のどこがいいわけ。






あっ…いけないいけない。



少なくとも、私は琴子を友達だって思ってる。

琴子は知らないけどね…

だから、そんなこと思っちゃ…








琴子、私あんたにジェラシー感じるわ。









〜〜〜〜〜〜〜〜











数日して、






美穂は、初めて加納を見た。




「うわ…加納…くん…!」



琴子はそう言って美穂に隠れた。




こういうのが萌えポイントなのか。

私にはとても真似できない。今すぐそこから出ろ、琴子。恥ずかしくて隠れてるとか思われんぞ。



言わずにそう思った。



「美穂アレッアレッ、加納…くん!!」





美穂は、言われるがままに加納を確認する。




…確かに。




琴子の言う通り、琴子の好みではない。

というかそもそも、琴子の高邁な理想に叶う男など存在するのか。




特に取り立ててカッコイイというわけでもない。しかし、否定するような容姿ではない。

身長とスタイルの良さでカバーしてる感じの男だ。




中途半端でどっちつかず

私みたいだな。


…まあ、私よりずっといいよね…

友達多いみたいだし。




加納は、友達らしい男たちにからかわれている。

加納ははにかんで、じゃれていた。






「また加納からメール来た」





ああはいはいそうですか。


美穂はそんな顔をしていたに違いない。





「夏休み…一緒に遊びに行きませんか…だって!」




琴子は声高に言った。



美穂は恐る恐る琴子の顔を確認する。



いつもどおりの艶やかな肌。澄んだ瞳



怒っているとも喜んでいるともとれない表情をしていた。




「……」



「…嫌なの?」



「えー…うん」



「……そう」



「…じゃあ断りなよ。」



「…えーでもさー」



ああもう、何で私はイライラしてるんだ!




「…そうやって優しくしてるから…」



「そうやって曖昧な煮え切らない反応してるから分かってもらえないの!!嫌いなら嫌いって言わないと分からないの」




あっ…






つい感情的になったことを反省した。




琴子は驚いた表情をしている。




「……」




「なんかそれ、ウチが遊んでるみたいじゃん。」




…ごめん、私にはそうとしか思えない




とは言えない。





琴子、私はあなたが大好きだ。



でも、大っ嫌い。






「分かった…厳しく断る」



しぶしぶと言った感じ。

美穂には琴子の反応はそう映った。
















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

















「忙しいんでごめんなさいって断った。」





「いっそのことあなたが嫌いなんで行きませんって言えば良かったのに。」



「そんなこと言えるわけないでしょ!!」



琴子は頬を膨らませた。

無意識にやってるのか、この子は。



「そしたらね、じゃあ来年の夏休みだねって。」



「バカか、呆れる。来年とかこの人生の中で一番忙しい時だってのに。」



「ほんと、信じらんないよね。」




琴子が分かりやすく毒を吐いた。そんなこと思ってるなら、さっさと言えばいいのに。




琴子が突然携帯を開き、美穂を見た。





「ウチ、このあと提出物あるから。」



「あ、じゃあ先帰るね。」



「バイバイ」



「じゃね」





琴子が提出物…?

何だろう。




美穂も時計を見た。

今から帰ったら、ちょうどドラマの再放送でも見れそうな時間だ。




私も帰るか。







「…あの」




「え」





声をかけられた。


美穂は振り返る。





加納だった。



「あの…佐藤…琴子さんの」




…ああ




「琴子の事…?」





「お俺」




「加納くんでしょ。」




「!!し、知ってる??俺のこと!!やっぱり佐藤さんから…」




ああ、こんなに目がキラキラしちゃって…




本当に好きなんだな。私にまで何かしに来ちゃって。



「あの…佐藤さんってさ、俺のこと何て言ってるかな…」




「何って…」




「その…」




嫌がってたよ。だなんてとても言えない雰囲気だった。






決して整ってる訳ではないが、不細工な訳でもない顔。


ボサボサな眉毛にツンツンした黒髪。



細く長い肢体。




加納は、琴子について話していて、本当に優しい表情をしていた。本当に幸せそうだった。







…何で







何でドキドキしてんの。









「あははは…」



苦笑いしか出来なかった。




「…っていきなりごめん…なさい。迷惑だよね、知らない奴にこんな友達のこと聞かれても…」





「…ああ…ええっと…」






だめだよ




だめだって












何してんの、私は。




















あれだけ否定した加納が、私は好きかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ