8.邂逅
どうして、こうなった?
私は一体何をしているんだろう。
「美しい庭ですね」
「ソウデスネ」
私はなぜか、勇者に庭を案内している。ガルンシアの提案で。
いや、元勇者だけどさ。
庭を散策しながらエルディルを観察すると勇者だった時の面影はゼロだ。
まぁ、それはお互い様か。
見た目も、性格も前世の要素は皆無だ。
「閣下は」
「エルと呼んでください。シアと呼んでも?」
「好きにお呼びください」
随分と優しく、甘い顔を見せる。これが、あの人間嫌いで有名な冷酷無慈悲の公爵?
どんなにオルテンシアの記憶を辿っても彼と何かあったというものはない。
間違いなく、初対面だ。
「閣下は」
「エル」
「・・・・・エルは今回どうして私に求婚したんですか?一目惚れなんて嘘ですよね」
「嘘ですないですよ」
引っかかる言い方をする。やはり、何か裏があるのか?
好みの問題かもしれないけど、私自身、オルテンシアに一目惚れされる要素はない気がする。
まぁ、容姿はさすが魔王の器というだけあって美人だし、スタイルもいい。
でも、彼は容姿に惹かれて求婚するようなタイプに見えない。
むしろ彼みたいなのは容姿が良くても中身空っぽの令嬢を嫌うタイプだろう。
オルテンシアの中身が空っぽとは言わないけど、自分がなく流されるだけの無能であったことは事実だ。
守ってあげたくなるような、そう思わせる令嬢ではあったけど。
だからこそ人気があったのだ。オルテンシアは気づいていなかったみたいだけど。
「人嫌いで有名なあなたにそのようなことを言われても全く信用できないのですが。それに、私たちは初対面ですよね」
「いいえ、厳密に言えば初対面ではありません」
初対面じゃない?
でも全然記憶にないんだけど。オルテンシアが忘れているだけ?
忘れるか?こんな迫力のある男のことを。有象無象の男なら分かるけど。
それとも、魔王としての記憶が蘇った弊害で記憶の一部に障害でも起きたか?
「オルテンシア・レイアード伯爵令嬢とは確かに初対面です」
「?」
足を止めた私に合わせてエルディルの足も止まる。
心臓が嫌な音を立てる。
全身の血が沸騰して駆け巡っていく。
見つめ合うその姿は側から見れば思い合う恋人同士のような美しさがあるかもしれない。
だけど、事実は違う。
向かい合うは、かつて命の奪い合いを繰り返した仇敵
「オルテンシア様っ!」
その証拠に異変に気づいたソカルが私とエルディルの前に飛び出た。
ソカルが見ていたことに気づいていたのか、エルディルに驚く様子はなかった。それどころか、薄っすらと笑みさえ浮かべている。
「あなたは、正しかった。魔王」
「・・・・・勇者、レオン・クロウェル」
記憶はあったのか。もしくは、どこかで思い出したのか分からないけど、どちらでも構わない。
私の正体を知った上で勇者として求婚して来たのならこの婚約には当然裏があるはずだ。
私が魔物を救おうとしていることに気づいて阻止するつもりか?
生まれ変わっても人の奴隷とは愚かにも程がある。
「ソカル、下がりなさい」
「なりません、陛下。この男は」
「ソカル」
「っ」
渋々下がりながらもソカルはいつでも勇者に斬りかかれるよう警戒をする。
一度は私を殺した相手で。今の彼は恐らく勇者だった時よりも強い。
対して、人間に生まれ変わってしまった私は彼どころかソカルよりも弱くなった。それを考えるとソカルの過保護さは仕方がない。
でも、どんなに弱くなっても私は魔王だ。
臣下を守るのは主人たる魔王の務め。
「あなたは変わらないな、魔王。安心しろ、俺にあなたを殺す意思はない」
彼の言う通り、全く信用できない言葉だな。
ポイント、お願いします。




