7.これは、殺すべきだろう。
「旦那様がお呼びです」
昨日の今日で何の用よ。
ソカル、「サクとっく殺して来ましょうか?」と今にも言いたそうな顔はやめましょう。しかも、笑顔で。
というか、誰もソカルの存在に触れない。
特に何も指示はしていないけど、既に魔法で対処済みなので。
私の専属執事という立場を手に入れているようだ。
「取り敢えず、行ってくるわ。部屋で待っていて」
「かしこまりました」
さて、今度は何を言ってくるのよやら。
と、投げやり的な感じで思ってると「あら、婚約破棄された女が脳天気に廊下を歩いているわ」と嘲笑と共に声をかけられた。
赤い髪をツインにした少し吊り目のそばかす女、容姿は人間の中では中の下といったところね。なんか、見覚えがあるわね。オルテンシアの記憶かしら?
・・・・・ああ、ガルンシアに謹慎を言い渡された後ね。部屋に戻る途中で声をかけきて女だわ。あの時は頭に血血が登っていたから思わず殺気を向けて怖がらせちゃったのよね。
ええ、彼女は誰かしら。
オルテンシアとしての記憶を辿ってみるとこの女の姿は確かにあった。
名前はリリアーヌ。
オルテンシアと同じ妾子で、魔法の腕を買われて地下から出された。
自分よりも強い人間には何も言えないくせに、オルテンシアのように弱いと判断された人間には容赦がない。
現に大人しく、気弱なオルテンシアは彼女によく虐められていた。
使用人にも虐められていた彼女を馬鹿にもしていたわね。しょうもない女。
「ちょっと、無視をするんじゃないわよ」と周囲をブンブン飛び回ってうるさい。
「私にそんな態度でいいの?有能な私が無能なアンタのことをお父様に告げ口をしたら、アンタみたいな無能なんてあっという間に地下に行かされるのだから・・・・・・ちょっと、聞きなさいよ」
相手にする価値もないので無視して私はガルンシアの部屋に入った。
さすがのリリアーヌもガルンシアの部屋へ突撃をかましてまで私に文句を言うほど馬鹿ではなかったようだ。
ガルンシアの部屋には見覚えのない若い男がいた。
黒い髪に赤い目、左目には眼帯をした精悍な顔立ちの男
見覚えはない。見覚えはないが、それでも知っているこの男のことを。
オルテンシアの記憶ではない。
魔王の記憶、魂が彼が何者かを理解する。
「彼はエルディル・オーウェン公爵だ」
は?嘘でしょう。ガルンシアは何を言っているの?
オルテンシアの記憶が正しければエルディル・オーウェンは冷酷無慈悲な公爵として社交界で有名な男だ。
どうして、彼がそんな人間になったのだろう?
だって、彼は・・・・・・。
「オルテンシア、お前の新しい婚約者だ」
「は?」
動揺する私をよそに男が動いた。私の手を取り、恭しくキスをした。
お前、誰の手にキスをしたか分かっているの?
私と彼が婚約?結婚してゆくゆくは夫婦になる?
いや、有り得ないでしょう。
だって、お前は前世で私を殺した勇者じゃないか!?
ソカルの言った意味がここに来てよく分かる。
たとえ姿形が変わろうともその魂が同じであれば、分かるのだ。
彼は間違いなく勇者だ。かつて、奪われ、奪い合いを繰り返した仇敵。
愚かで哀れな勇者
人に担がれるまま勇者になり、奴隷のように魔物(私たち)を殺しにきた男
”善”が人の姿になって現れたような男だった。
そんな男がどうして冷酷無慈悲な公爵になっているかは分からない。
所詮、前世は前世。魔王の魂を持つオルテンシアが気弱令嬢だったように。
前世の性格が今世に何の影響もしないのならば、有り得る話だ。
それでも、だ。これはないだろう。
勇者(お前)と魔王の婚約は。
「これは公爵が望まれたことだ。婚約破棄をされ、使い道がなくなったと思ったが」とガルンシアは喜んでいる。
所詮、彼にとってオルテンシアなどただの道具だ。それも使い捨ての。その未来に何が待ち受けているかなど興味もないのだろう。
さて、私はどうすべきだろうか?
ガルンシアと目の前の仇敵を今ここで始末すべきか?
「オルテンシア嬢、一眼見た時からあなたに恋焦がれていました。どうぞ、末永くよろしくお願いします」
よし、殺そう。
仇敵からの求婚など鳥肌ものだ。
ポイント(☆)、お願いします。




