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5.消えない過去と憎しみ

「・・・・・・」


ああ、腸が煮えくり返るというのはこういうことなのかと初めて実感した。

生前、勇者に言ったように人間を全て殺し尽くした方が世のためになるのではないかと、つくづく思う。


あらゆる場所に転移をし、情報を集めた。

そこで分かったのは、魔物が奴隷として売買されていること。尊厳はない。

魔物には何をしても許される。暴力を振るおうが、殺そうが罪に問われることはない。


「私が、負けたから」


私の敗北が彼らの未来を奪った。


「早々にガルンシアを何とかして、奴隷商を潰そう」


それに、あいつも救い出してやらなければならない。

私はあいつがいるであろう場所が書かれている部分を破って、再び転移した。

転移は行った場所にしかできない。箱入り娘のオルテンシアは殆ど邸から出たことがなく、本来なら転移で行ける場所はなかった。


しかし、記憶が戻ったことで、魔王時代に行った所ならば転移できるようになった。ただ、魔王が生きてきた場所の景色は随分と様変わりしているので記憶と現在の地図を照らし合わせる必要がある。

そのため、すぐに転移できないのが面倒だが仕方がない。


場所を把握し、私は魔王時代に最も信頼を寄せていた部下が封印されている場所、魔王城へ向かった。

まさか、魔王城に封印されているとは思わなかった。

それに、魔王が死んでからかなりの年数が経っているからか今にも崩れ落ちそうだ。


栄華を誇っていたとまではいかなくてもそれなりに立派だった魔王城は見る影もなかった。



『魔王様』と楽しそうに魔王城を駆け回る子供たち

『おはようございます』と声をかける臣下

裏庭では戦士たちが訓練をしていた。その声は執務室に届くほど大きなものだった。


目を閉じれば今でも思い出す。今にもその光景が繰り広げられるのではないかと思うぐらいに鮮明な記憶なのに。


壁も天井も崩れている。いつ倒壊してもおかしくはない状況だ。

子供たちが走り回っていた廊下にも所々大きな穴が空いている。戦士たちが訓練していた庭は雑草が生え、荒れ放題だ。


目を塞ぎたい光景だけど、これは私の罪だ。

私は今の光景を目に焼き付けながら側近が封印されている地下へ向かう。

私の側近、ソカル。灰褐色の髪、冷たさを思わせる灰色の目は閉じられているがあの頃と変わらない姿のまま、まるで眠っているようだ。

ただ、一つ違うのは左目に縦の傷跡があること。きっと勇者との戦いでついたのだろう。


「ソカル、私が不甲斐ないせいで面倒をかけた。今、解放してあげる」


私はソルカに触れ、全力で魔力を投入した。すると、ズキンっと鋭い痛みが心臓に走り、吐血した。鼻血まで出るし、息をするのも辛くなった。

どうして、こんな状況になっているのかまるで分からない。

だが、止めるつもりはない。早く解放してあげたいからだ。だって、既に何百年も待たせている。


遠のく意識を何とか保ちながら魔力を注ぎ続けると彼を覆っていた封印の石にヒビが入る。

あともう少しだ。

更にこめる魔力を強めると心臓を襲っていた痛みが全身に広がった。だが、大したことではない。


生粋の貴族令嬢であるオルテンシアは知らないが、魔王として多くの戦場を駆け抜けた。戦いに怪我はつきもので、瞬時に回復はするものの手足をちぎられたこともあった。だから痛みに対しての耐性はかなりあるのだ。


「ソカル」


封印石が完全に割れ、ソカルの目が開かれたと同時に私の意識は途絶えた。


***


「・・・・・ここは」

「お目覚めですか、陛下」

「・・・・・ソカル」

「はい、陛下」


ああ、そうか。封印の解除に成功したから。

起きあがろうとしたら全身に痛みが生じた。


「無理をなさってはいけません。体の容量を超える魔力を使った影響です」

「容量を超える?」

「はい。陛下は今、人間です。どれだけ魔力を多く保有していようとも以前のように使うことはできません。人の体は陛下が思っている以上に脆いのです」


つまり、魔王の時と同じ感覚で魔法を使えば体に負担がかかり命に関わるということか。

どうにもやりづらい。


「ソカル、私が誰か分かるの?見た目が全然違うけど」

「当然です。見た目が変わろうとも、どれほどの年月が経とうともあなたの魂に私が気づかないことはあり得ません」

「そうか」


いつものソカルだ。あの時と何も変わってはいない。

何もかも変わってしまったと思った。でも、変わらないものもあるのだと知って嬉しかった。


ソカルは私が殺された後、目に映る全ての人間を殺し続けたそうだ。私を殺されたことへの憎しみをそのまま人間にぶつけ続け、やがては力尽きたところを勇者により封印された。


殺されずにすんだのは、私との戦闘で勇者に殺すだけの余力がなかったのと、ソカルの抵抗が凄かったからだろう。あくまでソカルの予想だが。


「すまない。私のせいで」

「いいえ、それは違います。陛下。全ては人間どものせいです。自分たち以外を異端か下等のどちらかでしか判断できない。排除か搾取のどちらかしか選べない傲慢な人間のせいです」


ソカルの中にはまだ人間に対する憎しみが消えていないようだ。消えることはないだろう。それは、私も同じだ。

私たちは忘れない。

味わった絶望も、抱いた憎しみと怒りを。たとえ、この身が憎しみの炎に飲まれ灰となろうとも消えることはない。


でも、考えないといけない。

同じことを繰り返さないためにも。どうすれば魔物たちが生きていけるのか。

共存は無理だ。流した血の量が多すぎる。

それに、今なお虐げられている魔物に人間を受け入れろなんて残酷すぎる。


人間だってそうだ。自分たちよりも下だと思っているものを対等に扱えと言われてそれができるわけがないのだ。

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