3.オルテンシア・レイアード
オルテンシ・レイアード、レイアード伯爵家の妾子
彼女の父親、ガルンシアは好色家で何人もの愛人と妾子がいる。
ただし、引き取られるのは人よりも秀でるものがある子供だけ。
オルテンシアは容姿が優れているから引き取られた。
だが、今回の婚約破棄でそれもどうなるか分からない。
伯爵家にとって不利益になれば地下に行かされる可能性は高い。
地下、無能を収納する場所になっている。
人身売買に出されるか、ガルンシアの玩具にされて死ぬかの二択
どっちも御免だな。
「旦那様がお呼びです」
邸に帰ってすぐ、出迎えてくれた執事のメイナードにガルンシアの書斎に連れて行かれた。
「よくも、この俺の顔に泥を塗ってくれたな」
私が塗ったわけではないが、一応謝っておくか。
「申し訳ありません」
ガルンシアが手を振り翳した。ああ、殴るつもりなのだろう。彼は短気で、すぐ暴力に訴えるから。
でも、この程度ならば避けられ・・・・・なかった。
えっ
バシンっと、いい音がしたなと思った。
思ったら、私の体は床に倒れていた。
・・・・・・えっ
いたい、痛い?
嘘でしょう。この程度も避けられないの、この体は。
しかも、この程度の衝撃にも耐えられずに倒れちゃうの?しかも、かなり痛いんですけど。
軟弱じゃない。軟弱すぎるじゃない。
あり得ない、あり得ない、あり得ない。こんなのあり得ないっ!
魔王たる私の入れ物がこんな軟弱なんて、冗談でしょう。
最悪、最悪すぎる。
「暫く謹慎だ。お前の容姿ならば、傷物でも貰い手はつく。それに、夜会での立ち回りは見事だった。一方的にこちらが断罪されたわけではないどころか、非が向こうにあるという印象を与えたのだからな。これに免じて一週間の謹慎で許してやる」
なんか、人間が頭の上で喚いているけど、私は今それどころではない。
「退出を許す」
お前如きに許されなくても勝手に出ていくわよ。
私の行動に指図できるものなんていないのだから。いなかったのだから。
「馬鹿なオルテンシア、聞いたわよ。婚約破棄されたんですってね。キャハッ、かっわいそぉう」
「黙れ」
「ひっ」
記憶を辿りに自分の部屋へ戻る。
「伯爵家ならばこんなものか」
魔王城の時に比べれば質素な部屋だ。装飾品も何もない。
ただ、ただ広いだけの部屋。
普段使いする上で問題はないので、まぁいいか。とりあえず、今は記憶の整理を優先しよう。
***
オルテンシア・レイアード
母親は没落した子爵家の娘で、伯爵家には使用人として働いていた。
元子爵家の令嬢ということと美しい容姿のせいで、使用人仲間からはイジメを受け、加えてその美貌に目をつけたガルンシアに手籠にされた。
結果としてオルテンシアを妊娠、そのせいか使用人仲間からのイジメは過激になり、心労が重なった結果早逝した。
「ちょっと、グズ。さっさと仕事をしなさいよ。じゃないと、今日もご飯は抜きよ」
「うっ」
休憩時間ではないにも関わらず、菓子と紅茶を嗜み、雑談に興じる彼女たちは足元に這いつくばりながら床を掃除していたオルテンシアの腹部を蹴り飛ばす。
幼い上に、栄養が足りていない彼女の体は簡単に吹っ飛ばされた。
痛みに呻く姿を使用人たちはゲラゲラと笑いながら菓子を摘む。
オルテンシアは使用人に誰よりも早く起き、休憩時間は一切なく、誰よりも遅い時間まで仕事をしている。それでも、仕事は終わらない。多くの使用人が彼女に仕事を押し付けているからだ。
それに、彼女はガルンシアの妾子。使い物にならなければ地下に送られ、売られるのを待つだけの日々になる。
いつ、地下に送られるだろうかと怯えながら過ごしていると十二歳の時にガルンシアから声がかかった。
「お前の見た目は役に立つだろう。失望させるなよ」
白銀の髪に薄水色の瞳はとても珍しく、神秘的だ。それに人間の中でも、いや魔物の中でも上位に入る美貌を持っている。それがガルンシアの目に止まったのだろう。
オルテンシアは正式にレイアード伯爵令嬢となった。
しかし、それに納得できないのが使用人連中だ。
今まで馬鹿にし、こき使っていた相手が自分たちよりも立場が上になるというのは簡単に納得できるわけもなく、すぐに言動を改めることも、立場が変わったということを理解することもできない。
いや、理解に関してはできないというよりも、することを心が拒んだのだろう。
伯爵家の正式な娘になったとはいえ、ガルンシアが愛情を持っているわけもなくただ役に立つことのみを重要視している。だからこそ、普段は関心がない。
使用人が伯爵家の娘に不遜な態度を取ろうが、イジメようが気づかない。
オルテンシアも言わなかった。
使用人に虐められるような娘は伯爵家にふさわしくないと言って地下に送られるのではないかという恐怖から言えなかったのだ。
それが使用人連中をつけあがらせ、自分たちの方が立場が上なのだと錯覚させた。
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