1.最期の置き土産
「ガハッ」
腹部に深々と刺さった忌々しい聖剣
その聖剣が放つ忌々しい聖なる気が毒となり全身を駆け巡っていく。
最早、これまでのようだ。
別に生に執着があったわけではない。
魔王として長い悠久の時を生きてきた。
人よりも遥かに長寿ゆえに長く共にいた者たちもいた。
しかし、それでも私よりは短い生であり、何度もその顔ぶれは変わった。
繰り返すうちにそういうものだと理解すると、周囲の者に関心を向けることさえ止めた。
それでも慕ってくる連中を受け入れていたら、気がつけば魔王と呼ばれるようになった。
人と似通った姿をしながら、しかし、人とは異なる種族
ただ、それだけなのに人は我らを人ならざる者として、魔のもの、魔物と呼ぶようになった。
それは神から見放された生物だと侮蔑を込めて。
馬鹿らしいことこの上ない。
弱者の戯言と切り捨てていたら、やがて冒険者なるものが我々を、特に弱い連中を狩りと称して殺し始めた。
その素材は武器を作るのに良いらしい。
我々は生物という認識すら持たれていなかったようだ。
人の方が余程、魔物らしいではないか。
弱い連中は群れを作り、人に反撃した。
すると人は魔物を人に危害を加える、害ある物として完全なる排除に動き始めた。
人と魔物による動乱の時代が幕を明けたのだ。
たくさんの血が流れた。
人も魔物もたくさん死んだ。それでも戦いは終わらなかった。
魔物の中で一番強く、一番長く生き、彼らを束ねる私を殺すまで人間は止まらないだろう。
戦いの原因すらも忘れて。
人が魔物を殺すのは当然で、魔物が人を殺すのは悪だと断じる身勝手な連中だ。
能力、身体的な力でも魔物が圧倒的に強い。それでも人間は侮れない。人間は数で圧倒的に有利であり、しかも最期の瞬間まで足掻く。それにより、彼らの死に巻き込まれて死ぬ魔物も増えていく。
それに、勇者や聖女という特別な力を持った人間が現れた。これによって戦況は一気に人間側に傾いた。そして、ついにはこの魔王城への侵入まで許してしまった。
魔王城を守っていた者も、私の幹部も死んだ。残るは私のみだったが、私の腹部には勇者の聖剣が深々と刺さっている。
「当然の報いだ。お前たちのせいでどれほどの人間が殺されたことか」
ああ、人間というのは本当に身勝手だ。
「何がおかしい?」
思わず笑ってしまったが、どうやら気に障ったようだ。
「何も知らず、人間どもの神輿にされた道化を笑って何が悪い?」
「どういう意味だ?」
「先に手を出したのはお前たちの方だ。我らを生き物ではなく、自身の欲望を叶える道具として多くの同胞を殺していった。だから我らもお前たちを殺すことを決めた。因果応報だというのなら、お前たちこそだ」
本当に何も知らされていなかったようだ。驚き、戸惑っている。全く、哀れというか、能天気というか。実に愚かしい人間らしい。
「な、にを、言って」
「レ、レオン・・・・・レオンっ、騙されないでっ!」
後ろで死にかけている聖女が必死に勇者に呼びかけているが、彼の耳には全く届いていない。
それほど、私の言葉が衝撃的だったのだろう。
愉快だ。
最期の最期に、この男の心に芽吹かせてやろう。
まっさらで、綺麗な心
その心にドス黒い、負の感情を。
「お前のことは部下が調べているからある程度知っている。人のために生きることを強要され、戦うことを強要された哀れな存在」
「強要など、俺は自分の意思で」
「本当に?」
「くっ」
「痛いだろう」
怪我をいている勇者の肩に触れ、ほんの少し力を入れただけで痛みに顔を歪めている。まぁ、その肩は骨が砕かれているから大怪我ではあるから当然だけど。
「この痛みを他者のために負うことがお前の望みか?死の恐怖と向かい合うことをお前は望んでいたのか?そんなことのためにお前は生まれ、存在するのか?自身の心を押し殺してまで他者を優先しなくてはいけないのはなぜだ?」
「お、俺は、勇者で」
「勇者だから何だ?それはお前の心を殺していい理由にはならない」
ああ、愉快でたまらない。
あれほどまでに純粋無垢な色をしていたのに、濁っていっている。
「他人に犠牲を強要し、自身は安全な場所で平穏を享受する。実に残酷な人間らしい」
人は言う。
”魔物は悪の象徴だ”
”魔物を倒すことが平和に繋がる。平和のために殺し尽くせ”と。
「世界の平和?たかが魔王如きを殺した程度で?その程度で守られる平和なんぞありはしない。私がいようがいまいが、貴様らは勝手に殺し合い、奪い合い、平和を自らの手で壊しているではないか。本当に世界の平和を守りたいければ、どうすればいいか。簡単な話しだ。貴様ら人間、全てを殺し尽くせばいい」
「俺は勇者だ。人を守り、人の為に生きる勇者がそんなことするわけがないだろ」
そう憤るが、魔王城へ来たばかりの時とは違い彼の目には困惑と迷いが生じていた。
所詮はその程度なのだ。人から植え付けられた使命など。
「”できない”ではなく”してはならない”のか?」
勇者は答えない。答えを持っていないのかもしれない。
「人の為に生きるのが勇者か?哀れだな。そんなお前の為に生きてくれる奴はどれだけいる?」
「・・・・」
「いないのか?一人も?」
これは笑うしかないな。
ここまでやって、誰一人いないとは本当に哀れな奴だ。哀れな道化だ。笑わずにはいられない。
「お前は勇者ではない。人の為に生き、国の為に生き、世界の為に生き、そして死んでいく。己れを優先することを許されず、人々の語る”美しい生き方”とやらに当て嵌められた生き方しか許されず、そこから一歩でも踏み出せば断罪が待っている。そんなのは勇者ではない。ただの奴隷というのだ」
勇者の顔が歪む。それは初めて見る人間らしい表情だった。
それが見えただけでも良い冥土の土産になるだろう。先に逝ってしまった奴らに自慢ができると私は意識を手放した。
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