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おかしなおかしな後輩くん

作者: ひろ
掲載日:2026/01/30

※本作はフィクションです。実在の法律・人物・団体とは一切関係ありません。

 「先輩、子供って何人欲しいです?」

 「えーと、何を言ってるのかな?」

 「先輩、僕と結婚するじゃないですか?」

 「そんな約束してないよ?」

 「そんなバナナぁ〜…」



 彼は服部幸多くん。部員たった二人の、ここ文芸部の後輩だ。

 『幸せが多い』と書いて幸多くん。その名の通り、彼は毎日をとても楽しく生きている。



**********


 4月


 服部くんが、私の所属する文芸部の部室にやって来たのは、入学式の数日後のことだった。


 「新入生だね。入部希望かな?見学かな?」

 そう私が声をかける。


 「昨日、エントリーグレードのνガンダムを買ったんですよ。」


 …はて?予想外の答えが返ってきたぞ。


 「エントリーグレードはファンネルが付いてないんですけどね。ハイグレードより、ちょっとマッチョでカッコいいんです。ほら見てくださいここ。違うの。」


 そう言うと、彼はカバンから作りかけのロボットの模型を出して私につきだした。

 近い。目にツノ刺さるからちょっと離して。


 「ええと、模型はいいんだけど、君は何か用事があって、ここに来たんじゃないの?」

 そう私が問いかけると、彼は思い出したように辺りをキョロキョロ見渡した。


 「ここ、たくさん本がありますよね。」

 「文芸部の部室だからね。」

 「ガンプラの本は無いですか?」

 「え?無いけど。」

 「そんなバナナ…。」


 そう言うと、しかし彼は、さして落ち込んだ様子も見せず、模型を作り始めた。


 自由すぎないだろうか?


 「ちょっと待って。ここは文芸部の部室。君は部外者。駄目だよ勝手に入ってきちゃ。」

 「俺、文芸部に入部します。」

 「え?文芸に興味あるの?全然なさそうだけど。」

 「俺、本読みますよ? 魚とか昆虫とか危険生物の図鑑でしょ。それから『図解お城』とか『ドラゴン最強決定戦』とか、それと…」


 なんか違う。


 「小説は読むかな?文芸部は小説やエッセイが中心だよ。」

 「子供の頃、怪傑ゾロリ好きでした。あと、教科書読みますよ。」


 小説には興味が無いらしい。


 そして、話し終わるとまた模型作りを再開する彼。出ていく気配がない。



 困った。変な子が来てしまった。


 とはいえ、この文芸部、現在部員は私一人。存続の危機であった。部員は欲しい。

 少なくとも活字アレルギーでは無いだろう。そう思うことにして、彼の入部を認めたのだった。



**********


 5月


 服部君、今日はお城のプラモデルを熱心に組み立てている。


 文芸部なのに。


 「このお城は何かな?」

 「赤瓦と言ったら鶴ヶ城じゃないですか。」

 「そうなんだ。」


 常識だったのか。


 「♪ 鶴ヶ城〜、鶴ヶ城〜。蒲生92万石〜。」


 謎の歌まで歌い始めたぞ。


 「君は、本は読まないのかな?」

 「昨日先輩の前で読みましたよ?」


 ああ、魚の図鑑ね。

 名前、体長、生息域•水深、等々、を延々と聞かされた。

 お陰で深海魚に詳しくなったが、そうじゃない。


 うーむ。…ちょっと歩み寄ってみようか。


 「…ねえ。それ、そのプラモデル、もう少し綺麗にしてみない?

 枠から部品を外したときの切れ端、綺麗にするの手伝おっか?」 

 「バリですか。」

 「バリっていうんだそれ。君、部品を手でむしるじゃない?

 それを、ニッパー?でキレイに取ったら、もっと綺麗に仕上がると思うの。

 貸して……こんな感じで。」

 「凄い!!プロだ!」


 それから、私たちの城製作はぐんぐん捗った。

 やっぱり違う、そうじゃない。


 芝生を生やす作業は楽しかった。


**********


 6月


 お城の一件以来、私は後輩くんにすっかり懐かれてしまった。

 外で会うと、いつも大声で『留守せんぱ〜い』と言って駆け寄ってくる。そして引っ付いてくる。近い。


 因みに、留守というのは私の苗字だ。

 『留守鏡花』

 これが私の名前。



 兎も角。そんな感じで、ところ構わずくっ付いてくるものだから、私たちの姿は当然色々な人に目撃される。

 私はクラスでちょっとした噂の的になっていた。


 ある日のこと、昼食を終えて自分のクラスに戻った私は、後輩くんがクラスメイトに囲まれて泣いている場面に出くわした。


 「え、何やってるの!?どうしたの服部君!?大丈夫?」

 「うぉぉぉん…ぜんぱぁいぃ。」


 一体何があったの?視線で周りに説明を求める。


 「鏡花。いや別に大したことじゃないんだよ。あのね。」

 友達の美羽が言うところによると、昼休み、私と入れ違いに後輩くんが来たそうだ。私に会いに来たらしい。

 しかし、たまたま近くにいたラグビー部の高橋君を見るやいなや、

 『マッチョかっけぇ!!』

 と盛り上がり、その勢いで何故か腕相撲勝負を挑みだした。


 その後、次々と勝負を挑んだ彼を中心に、いつの間にかクラスの全男子と一部の女子を巻き込んだ腕相撲大会に発展した、とのこと。


 凄いな、後輩くんのコミュ力と突破力。

 しかし、それと後輩くんが号泣している今の状況と、何の関係があるのだろう。


 「うううぅ、3人に、負げだぁぁぁぁ。」


 なるほど、負けて泣いていたのか…。

 それにしても3人だけか。意外と強いのね後輩くん。


 「ほらほら、泣いてないで。3人にしか負けなかったなんて、十分強いじゃない。」

 「でも、ぐやしぃ〜。」

 「そんな直ぐに勝っちゃったら、つまらないでしょう?

 今は負けていても、トレーニングしていつか勝つ。そういうの、カッコいいじゃない?」

 「かっこいい…俺マッチョ目指します!!」


 あっという間に元気を取り戻した後輩くん。

 「マッチョー!!」と雄叫びをあげながら、クラスを出ていった。

 何の用だったんだろうな?

 そして、また文芸部から遠のいたな。


 「面白いね〜彼。『小2系男子』?それか『ハスキー犬男子』かな?」

 美羽が言う。

 なんかしっくりきた。



 放課後、後輩くんは私にも腕相撲を持ちかけた。私は弱いので指相撲にしてもらった。


 結果、私の三戦三勝。

 後輩くん号泣。


 泣き止むまで、危険生物図鑑を読み聴かせてあげる羽目になった。

 


**********


 7月


 「トンティキリンゴン トンテケテン、トンティキリンゴン トンテケテン…」


 謎の掛け声と共に、私の隣で制作活動に勤しむ後輩くん。

 今日も絶好調だね。


 今日彼には文章を書かせている。

 

 文芸部は、秋の文化祭で部誌を発表する。今は部員が少ないので、OBやOGからの寄稿文頼りではあるのだけれど、現役部員が載せないのでは格好がつかない。

 なので、そろそろ彼にも文章に慣れてもらう必要がある。


 …のだが、何故か彼は今、絵を描いている。

 

 挿絵だそうだ。ドラゴンの絵だ。上手。

 しかし、一枚の紙に収まりきらず、その度に新しい紙をセロテープで継ぎ足している。

 伊能忠敬の『大日本沿海輿地全図』みたいになっている。掲載サイズを考えて欲しい。

 因みに、文章は絵をイメージして考えるそうだ。斬新。


 なお、彼が言うには、これが第二弾で、第一弾は完成したとのこと。

 この前読ませてもらった、あれだろうか?


 彼が書いた文章は、唐突に魚の名前から始まっていた。

 『ハゼ 14cm』

 『アジ 22cm』

 といった具合だ。

 この前釣りに行ったときの結果だという。


 やがてそれが終わると、次は

 『アオイソメ 大きさランキング』

 とデカデカと書いてある。

 原稿用紙のマスは無視である。

 アオイソメというのは、釣りの餌で、足の生えたミミズみたいなものらしい。やめて。


 つらつらと『1番 8.5cm』といった具合に書き進められていて、どうやら一番大きかったらしい個体の後ろに『優勝☆』と書いてある。

 何を見せられているんだろう私は。


 その後、アオイソメの『挿絵』を描こうとしたので、それは全力で止めた。



 「トンティキリンゴン トンテケテン、トンティキリンゴン トンテケテン」


 私の隣で、お尻を合わせた状態で絵を描き続ける後輩くん。はたから見たらイチャイチャカップルだ。でも、彼にはその認識は無い。


 「トンティキリンゴン トンテケテン、トンティキリンゴン トンテケテン」


 犬や猫が飼い主に体の一部を付けて寛ぐ、あれの要領だ。自由で人懐こい。美羽の言った通り、小学生やハスキー犬みたいだ。

 ちょっとかわいい。


 「トンティキリンゴン トンテケテン、トンティキリンゴン トンテケテン」


 とはいえ、この子のパーソナルスペースはおかしい、

 …って


 「トンティキリンゴン トンテケテン、トンティキリンゴン トンテケテン」


 「うるさいっ!!」

 「トン…」

 「ちょっと静かにして!読書に集中できない!」

 「ひいいいぃ…ごめんなさぁい…。」


 ふぅ、大きな声を出しちゃった。怖がらせたかな?ごめんね。でも君が悪いんだからね。



 「………」

 「………」

 「………」

 「……ゴ……リ…」

 「………」

 「………キ……ケ…」



 静かに言ってる!!


 もう面白すぎて駄目だった。

 あ、踊りだした。

 今日は部室での読書は諦めよう…。



 腕相撲大会は続いている。後輩くんはランキング3位に浮上した。



**********


 8月


 夏休み。文芸部は特に活動日を決めていない。

 ただ、私は習慣として部室に来ていた。勉強をするのにちょうどよい環境でもあったからだ。


 「夏休み中も鏡花にベッタリなんじゃないのぉ、後輩くん?」


 という美羽の(そして私の)予想を裏切り、後輩くんは一度も学校に来なかった。


 後輩くんは、虫取りに、釣りに、城めぐりに、模型作りにと、とぉ〜っても忙しかったそうだ。

 夏休み明け。こんがり日焼けした後輩くんが、夏休みの思い出を楽しそうに話してくれた。

 ちょっと悔しい。


 学校は嫌だぁ〜、と夏休みが終わってしまったことを嘆く後輩くん。

 そうですかそうですか。


 「先輩は何してたんですか?」

 「私はお盆以外は大体部室にいましたよ。」

 「夏休みなのに部室に来てたんですか?」


 ん?…ああそうか。誤解、氷解。

 

 「先輩が居たなら来ればよかったなぁ」

 そうなの?


 「一緒に虫取りに行けたのに。」

 行かないよ?


 「めっちゃカナヘビがいる場所があるんです。カナヘビ王国。」

 尚更行かないよ?



 そして、ひとしきり話し終わると私の隣に座る後輩くん。相変わらずお尻を合わせてくる。暑い。


 「先輩に言われた夏休みの宿題、読みましたぁ。」

 心底疲れた表情を作って報告する後輩くん。


 夏休み前、私は後輩くんへ3冊の本を渡し、夏休み中に読むよう宿題を課していた。

 きちんと読んだんだね、えらいえらい。


 「で、どうだった?」

 「赤シャツの戦闘力ってどのくらいですか?」


 夏目先生に聞いてもわからないと思うよ。



 8月も残り僅かだ。



**********


 9月



 「先輩って、身長何cmですか?」

 「んー…170cm。」

 「いいなぁ〜〜〜っ!!」

 「君もすぐじゃない?」


 夏休み明けから、後輩くんは私と一緒に下校するようになった。並んで歩くと彼のつむじが見える


 私と後輩くんの家は反対方向である。

 初めて誘われた日、ちょっとドキリとしたのは内緒だ。

 美羽が、

 「そろそろ後輩くんに告白されちゃったりするんじゃない?」なんてからかうから。


 しかし、早々に理由は判明した。

 帰り道の途中にある公園が、件の『カナヘビ王国』だったのだ。

 カナヘビを片手に、

 「勢力拡大してますよ。王国じゃなくて帝国にしましょう。」

 と、興奮する後輩くん。


 ちょっとでも意識してしまった時間を返してほしい。


 

 それにしても驚いたのが、この子の交友範囲の広さだ。

 道々すれ違う人に「やあ!」とか、「こんちは!」と声をかける後輩くん。老若男女幅広い。

 すると相手も、「おう」とか、「今日も元気だねぇ。」などと返してくる。

 今日などは、家庭菜園を営む年配の方に声をかけられ、スイカを貰っていた。後輩くん曰く、友達なのだそうだ。


 なお、スイカは私もついでに貰ってしまった。

 帰宅後に家でそのことを母に話すと、母はコロコロ笑いながら、

 「すごい子だねぇ。」

 と言った。本当にそう思う。


 後輩くんは、どんな相手にも初対面からグイグイいくのだ。ちょっと引かれても気にしない。そのうちに相手も気を許す。

 彼の中では、他者は善性でできているのだろう。そして彼に絆された人が、善性でもって彼に返す。優しい世界だ。

 いつも上手く行くわけではないはず。でも彼はへこたれないのだ。

 本当にすごい子だ。


 でも、彼を受け入れてくれる世界ばかりとは限らない。社会に出たらなおさらだろう。

 彼を拒絶するような社会。あまり考えたくないな。



 彼が大きなカナヘビを捕まえて戻ってきた。大きいな…大きすぎないか?

 いや違う、アレはヘビだ。来るな、寄るんじゃない。



**********


 10月


 文化祭が終わった。


 文芸部は一冊の部誌を刊行した。

 後輩くんの作品も、なんとか掲載にこぎ着けた。

 “十二支を決めるレースで、龍がその身体能力にもかかわらず5位に甘んじたのは、兎の尻を追いかけていたから“という評論。

 彼は頑張った。

 私も、なんとか彼の興味を引き出し、励まし、尻を叩き、宥めすかしと、全力でサポートした。


 私のほうが頑張っていないだろうか?



 兎も角、物書きという苦行から解放された後輩くん。生き生きした顔を部室で見るのは久しぶりだ。

 相変わらずお尻を合わせて座ってくる後輩くん。


 「トンティキリンゴン トンテケテン、トンティキリンゴン トンテケテン」

 お小遣いで買ったアンモナイトの化石を石膏で固めて掘る。化石発掘遊びに精を出す後輩くん。

 文芸部がまた遠くへ行ってしまった。


 

 最近、どうにも困っていることがある。


 「ねえ先輩、結婚しましょう。」

 「はいはい。」

 何度目だろうこのやり取り。


 文化祭という大きな山を二人で乗り越えるうち、私は彼にさらに懐かれるようになった。

 ただ、『好きです』とか『付き合って』とか全部すっ飛ばして、いきなり『結婚しましょう』である。どこまで本気なのか分からない。

 …いや、彼の性格からして冗談ではないのだろうけど、どうも一般的な認識とは分けて考える必要がある。


 とにかく、いま私は後輩くんに熱烈なラブコール?を受けている。


 それを軽く流せる私も、ずいぶん彼の扱いに慣れてしまったものだ。そんな気持ちで、無邪気な後輩くんとのやり取りを、ただただ楽しんでいた私。

 後日それで痛い目に遭うことになるなど、その時は全く予想していなかった 。

 


**********


 11月


 私のクラスの腕相撲ランキング1位の座を奪取し、その勢いのまま隣のクラスに遠征していた後輩くんが、久しぶりに帰ってきた。昼休みに私のクラスに来るのは久しぶりだ。

 私の隣に座る後輩くん。当たり前のようにぺったりくっついてくる。

 誰も気にも留めなくなっているのが凄い。

 大型犬とその飼い主みたいな扱いである。


 「あったけぇ〜。」

 私で暖をとるな。

 

 周りも、何より私も、彼の存在を当たり前のもののように受け入れていた。


 そこに油断があった。



 「先輩、子供って何人欲しいです?」


 クラスの視線がこちらに集まる。

 時を止める魔法が発動した。


 「えーと、何を言ってるのかな?」

 「先輩、僕と結婚するじゃないですか?」

 「そんな約束、してないよ?」


 「そんなバナナぁ〜…。」

 号泣。



*****

 「ねえ先輩、結婚しましょう。」

 「はいはい。」

*****


 そうだった。


 この子は、ふざけているように見えても、常に大真面目なのだ。その時その時を、ノーブレーキで生きているだけなのだ。

 彼の行動に慣れた、なんて、何をうぬぼれていたんだ。『私の言葉をどう受け取るか』なんて、分かりきっていた事じゃないか。

 完全に私の落ち度だ。どうしよう。


 …とりあえず部室だ。私は後輩くんの手を取ると、部室へと駆け出した。

 黄色い声を上げるな女子。


  •

  •

  •


 「ごめんなさい。これまで君の気持ちに対して、誠実に向き合っていなかったね…。」

 「酷いぃ!!」

 彼が珍しくプリプリ怒っている。


 「真面目に!これから、真面目に考えるから!

 その…この件は、しばらく保留にして、もらえないで、しょうか?」


 「…NOではない?」

 「NOではない!」

 「やったぁ!」


 両手を上げ小躍りする後輩くん。あらかわいい。

 良かった、取り返しのつかない事態は防げた。


 「ではでは。」

 彼はそう言うと、私の肩を押さえて長椅子に座らせた。

 なんだなんだ?ここでドキドキイベントか?


 ……そして、自分も隣に座る。

 おもむろに始めたのは、アンモナイトの発掘作業をだった。

 分かっていたよ…。


 「トンティキリンゴン トンテケテン、トンティキリンゴン トンテケテン」

 いつものリズムが響き出す。


 「…ねえ、服部君?」

 「ん〜、なんですか?」

 「午後の授業、始まってるんだけど。」

 「あ〜…。」



**********


 12月


 部室の大掃除を終え、一息つく私たち。明後日から冬休みだ。

 服部くんは、姫路城の芝生にサボテンを植えている。最近のブームは植物図鑑らしい。


 「服部くんは、クリスマスの予定は何かあるの?」

 「8歳の時。イブの夜に目を覚ましたら、お父さんがプレゼントを持って枕元に立っていたんです。」

 あー、サンタバレイベントか。切ないよね。


 「そしたら、『幸多くんだね。私はサンタ。忙しいので、君のお父さんの体を遠隔操作しているのだよ』、って言ったんです。」

 …なんか思ってたのと違う。


 「バレてしまった以上、もう君のところには来られない。来年からはご両親にプレゼントを買ってもらいなさい、って。酷くないですか?

 だからサンタ野郎を捕まえるんです。窓から外を見張って、現れたところを捕まえます。今年こそ捕まえます。」


 これは流石にどこまで本気なのだろう。迷うところだ。

 ただ、一つ確信した。この子がこうなったのはお父さんが原因だ。

 製造者責任、取ってくださいね?




 「じゃあまた。冬休み明けにね。」

 「冬休みが短いぃ〜!!学校は嫌じゃあ〜。」

 毎日楽しんでるじゃない。



**********


 1月


 2日の午後。私は、美羽と近所の神社へ初詣に来ていた。列に並び参拝の順番を待つ。

 

 「りんご飴、うんめぇ〜」

 知った声だ。

 屋台の前でりんご飴をほおばる服部くんだった。横で、両手に持った大判焼とアメリカンドッグを交互に食べているのは、お父さんだろう。

 お母様は多頭飼いでいらっしゃったのですね。

 私には無理です。尊敬します。


 美羽は笑いを堪えてすごい顔になっているし、家族で来ているところに水を差すのも何なので、声はかけなかった。



 参拝を終えて戻ると、服部くんは未だ屋台の前に居た。

 「べっこう飴、うんめぇ〜」

 おかわりしてた。


 美羽が限界だ。早く帰ろう。



**********


 2月


 「はい、チョコ」

 「おおぉっ!!」


 バレンタインデー。

 服部くんにモラトリアムを頂いているとはいえ、これは外してはいけないだろう。

 色々考えたが、彼には色気より食い気と面白さだろう。きのこ型チョコを自分で作れる知育菓子をたくさん買ってみた。

 予想通り大喜びだ。良かった良かった。



 …モラトリアム。何時まで許されるだろうか。

 そして、この子のことを、私はどう思っているのだろうか?まだ良く分からない。


 「トンティキリンゴン トンテケテン、トンティキリンゴン トンテケテン」

 きのこ型チョコ作りに励む服部くんの隣で、パソコンを開く私。 


 「先輩、犬飼うんですか?」


 『ハスキー 飼い方』と検索エンジンに打ち込むところを見られた。

 他意は無いよ。ホントだよ。



 「見て見てこれ!」


 服部くんの方を見ると、机の上には巨大なエリンギが鎮座していた。見ればチョコの箱が二つ開いている。使われず打ち捨てられたきのこの型が、哀愁を漂わせている。

 型を無視してオリジナルを作ったのか。流石。


 「超デカ〜い(笑)」

 「超でかいねー(笑)」



**********


 3月


 「これはなぁに?」

 「ホワイトデーのお返しです。」

 ガンダムの食玩(ガム1枚入)ですね。

 

 「君が作りたいだけじゃないかな?」

 「一緒に作りましょう!」

 やれやれ。


 でも予想はしていたの。だから私はあらかじめ自分用のチョコを買っておいたのですよ。

 これみよがしに、カバンからチョコの箱を取り出す。


 「あーっ!食べたい!!」

 あげないよ。

 「そんなバナナー!」

 少しは反省しなさい。


 反省したら、カバンの中のもう一つをあげよう。



 「それにしてもね。」

 「なんですか?」

 「君の物、増えたよね?この部室。」

 模型、化石、図鑑、虫取り網に虫かご、カブトムシの幼虫…。


 「もうすぐ4月。入学シーズンです。新しい部員が来ます。」

 「来るんですか?」

 来てほしい。

 

 「ここ文芸部。新入生がこれを見たら驚いちゃう。なので、私物は家に持って帰ってください。」

 「そんなバナナぁーっ!!」


 期限は春休み明けだよ。



**********


 4月


 春休みが明けて、久しぶりに一緒に下校する私たち。


 「来ますかね?新入部員。」

 「きっと来るよ。君も頑張って部室を綺麗にしたんだもの。」

 「来なかったら、化石とかまた戻しても良いですか?」

 駄目です。許しませんよ。



 「俺、今日身長測ったら、遂に170.1cmでした!」

 そういえば大きくなったなあ。もう私と目線が同じ高さだ。


 「よっしゃあぁ!勝ったぁぁっ!!」

 「私も伸びたかもよ。」

 「そんなバナナぁ!!」


 大きくなったけれど中身は変わらないな。でも、それがこの子の良いところだと思う。

 いつも楽しいことに真っしぐら。見ているこちらも楽しくなってくる。だからこの子の周りではみんな優しくなるんだ。


 「トンティキリンゴン トンテケテン、トンティキリンゴン トンテケテン」


 しかし、そんなこの子も社会に出たら、そうはいかないことも増えるだろう。。

 

 「トンティキリンゴン トンテケテン、トンティキリンゴン トンテケテン」


 モラトリアムはなおも継続中だ。この子に対する私の感情は、まだ言語化できていない。


 ただ、将来この子の笑顔が曇るような時があったとして、その時に隣で寄り添える存在でありたいとは、思うのだ。



 「トンティキリンゴン トンテケテン、トンティキリンゴン トンテケテン」

 「トンテキ?」

 「トンティキ」

 「トンティキ?」

 「トンティキリンゴン」

 「トンティキリンゴン」

 「トンティキリンゴン トンテケテン」

 「トンティキリンゴン トンテケテン」

 「「トンティキリンゴン トンテケテン、トンティキリンゴン トンテケテン、……」」


 ああ楽しい。

 おかしなおかしな後輩くん


 今年もよろしくね、後輩くん…いや、


 「今年もよろしくね。『幸多くん』。」

 「え…それって…!」

 気が付いた?


 「前に俺があげたガンダム、ツノ折れてるじゃないですか!!」



 …しーらない。




おしまい。


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