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【無気力系鈍感聖女×腹黒王子の隠れ溺愛】辞めたい聖女は王子に嫌われることにした  作者: 藤 ゆみ子


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第7話 お見合い

 翌日医療所へ行くと、イーディアや他の治癒師たちが昨日の酒場での騒ぎについて話していた。


「ロイド伯爵、やっぱり何かあると思っていたんですよ」

「あの酒場、最近ガラの悪い男たちが溜まってたって噂になってたしね」


 みんなはここで仕事をしていたはずなのに、やたら詳しいな。


「よく知っていますね」

「かなり騒がしかったそうね。街の人たち噂好きだからすぐに話が耳に入ってきたわ」


 たしかに騎士団が制圧したあとは野次馬が集まってきていた。

 噂の広まる速さはおそろしい。


 でも、ロイド伯爵の二日酔いだと思っていた体調不良が今回の事件に関係していたのならばもっと色々と知っておくべきだったのかもしれない。

 本当に二日酔いだったのか、他に症状がなかったのか。

 ただ治療するだけではいけなかったのかも。


「シエルさん、同行は大丈夫でした?」


 イーディアが心配そうに尋ねてくる。


「重症を負ったのは数名でみなさん問題なく治療できたよ」

「怪我人もそうですけど、シエルさんは危ない目にあいませんでしたか?」


 私の心配もしてくれているけど、ゆくゆく聖女になる上で気になるというのもあるのだろう。


「私は安全な場所で待機していたから大丈夫。今まで同行で危ない目に合ったことはないよ」

「でしたら良かったです」


 安心したように微笑むイーディア。

 早く彼女に聖女を引き継ぎたいな。

 どうにかできないものか。


「結婚でもしたら、サクッと辞められるのにな」

「え? 結婚するんですか?」


 いけない。無意識に口に出してしまった。

 

「しないよ。でもそろそろしたいなーって。相手すらいないんだけどね」

「なるほどです。もしよろしければご紹介しましょうか?」

「誰か良い人いるの?」

「いや、実は最近婚約破棄になった訳ありのご令息なのですが……」


 イーディアの婚約者の友人らしいが、ひどく落ち込んでいるらしい。

 なんだか不憫な人だな。

 でも、 こんなチャンス滅多にない。


「性格に難ありでなければ訳ありでもなんでもいいよ!」


 後日、イーディアの口添えでお見合いをすることになった。

 お見合いといっても堅苦しいものではなく二人でお茶でもということで、街で人気のカフェで待ち合わせをした。


 お店へ行くと、一番奥の個室席に案内された。

 けれど、お相手らしき人はいない。

 というか……


「なんでここにいるんですか」


 席に座っていたのはレオルド王子だった。


「シエルとお茶しようと思って」

「私、約束があるんですけど」

「彼なら帰ってもらったよ」

「はい? どうしてですか」

「お見合いするつもりだったんでしょ? そんなことする必要ないよ」


 真正面から邪魔してくるんだな。

 ずっと聖女でいろって言っていたけれどここまでする?

 王子って暇なの?


「そもそも、なんで知ってるんですか」

「僕の情報網をあまくみないでよ」


 情報網なんて言っているけれど、きっとイーディアから聞いたんだろう。


「ですがお相手に失礼だと思うんですけど」

「心配しないで。悪いようにはしてないから」


 悪いようにって何? 私には悪いと思わないの?

 まあ、この王子に何を言っても仕方ない。

 後でイーディアと話をしよう。


「お相手がいないようでしたら私も帰ります。それでは」


 座ったままのレオルド王子に背を向けて帰ろうとしたとき「ねえ」と呼びとめられた。

 

「マムアンパンケーキを頼んであるんだけど」

「え……」


 マ、マムアンパンケーキだって?!

 このお店の看板メニューであり、一番高価でかつ、いつ入荷するかわからないマムアンをふんだんに使ったマムアンパンケーキ。


「食べたくない?」


 食べたい。食べたいに決まっている。

 こう見えて甘いものには目がないのだ。


 私は黙ってレオルド王子の向かいに座った。

 クスクスと笑われたけれど、気にしてなんていられない。


 ソワソワしながら黙って待っていると、パンケーキが運ばれてきた。

 するとレオルド王子がスッと手を上げる。店員は王子の前にお皿を置いた。

 そして私の前にはコーヒーが置かれた。


 パンケーキ頼んであるって、自分が食べるためだったの?

 たしかに私にくれるとは一言も言っていない。

 でも、私が食べていい雰囲気だったよね?

 目の前に置かれたコーヒーをじっと見つめる。

 なんか、腹立つ。

 帰ろう。


 そう思った瞬間、スッとパンケーキの乗ったお皿が視界に飛び込んできた。

 代わりにコーヒーが引かれていく。


「僕、甘いもの苦手なんだよね」

「はい?」

 

 じゃあなんでさっき手を上げたんだ。

 フッと顔を上げると、レオルド王子はニヤリと笑っていた。

 もしかして私の反応を見て楽しんでた?

 なんて意地悪なんだ。この腹黒王子。


「食べないの?」

「食べますよ!」


 いくら腹を立てたって、目の前の甘い香りを漂わせるパンケーキには勝てない。

 私はナイフとフォークを手に取り、パンケーキをカットしてマムアンと一緒に口に入れた。


 マムアンのとろっとした食感とパンケーキのふわふわの食感が相まって美味しさを引き立てている。


「美味しそうだね」

「食べますか?」

「見ているだけでお腹いっぱい」

「そうですか。では全部いただきます」


 さっきまで腹を立てていたことがどうでもよくなるくらい美味しい。


「ところで、どうしてお見合いなんてしようと思ったの?」


 コーヒーを飲みながらじっと見つめてくる。

 お見合いする理由なんて聞かなくてもひとつしかないでしょう。


「結婚相手を見つけたいからですよ」

「そんなに焦らなくてもいいんじゃない?」

「お相手がいる人は余裕でいいですね」


 誰、とは言っていないけれどレオルド王子の目つきが変わった。

 王子にも婚約者がいる。もちろん政略結婚だ。

 もう何年も冷戦状態の隣国の姫と、停戦の条件として婚約を結んでいる。

 国家間の問題は複雑で、王子も頭を悩ませている。

 この話は禁句だったかもしれない。


 少し反省しながら黙ってパンケーキを頬張る。

 

「もし、僕の婚約がなくなったって言ったらどうする?」

「え、なくなったんですか?」

「なくなってない」


 びっくりした。

 レオルド王子の婚約がなくなるということは、隣国との関係が婚約がなくとも良好になったか、逆に悪化したかだ。

 どちらにせよ、国として大きな変化になる。


 まあ、今の婚約がなくなっても他の同盟国のどこかの姫か、国内の然るべき身分のご令嬢と結婚するだけだろう。


「私、国家情勢のことはよくわからないので……」


 あ、でもロイド伯爵のこともあったし今回の事件について知りたいと思ったんだった。

 聞いてもいいだろうか――

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