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【無気力系鈍感聖女×腹黒王子の隠れ溺愛】辞めたい聖女は王子に嫌われることにした  作者: 藤 ゆみ子


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第5話 現場同行

 レオルド王子は部屋に入ると私をベッドに座らせた。

 近くに寄ったことはあっても座ったことはなかったのでその感触に驚いた。

 思っていたよりもはるかにふかふかしている。

 毎日こんなベッドで眠れるなんてうらやましい。

 私のベッドとは雲泥の差だ。


 なんて考えていると王子が顔を覗いてくる。


「顔、すっきりしてるね。よく眠れた?」

「え……。はい」


 今日ずっと寝ていたことばれていたのだろうか。


「昨日、ずっと寝不足だって言ってたから」


 部屋でいろと言ったのは私を休ませるためだったの?

 わかりにくいな。でもけっこう優しいところもあるんだ。

 夢だと思って不満をこぼしてしまったけど結果的に良かったかも。


「おかげさまですっきりしました」

「一日しっかり休めば調子が戻るなら心配いらないね。たまにお休みを作るからこれからも呼び出し対応よろしくね」


 そのために休ませたの? やっぱり嫌な人だ。

 レオルド王子は微笑みながら距離を詰めてくる。


「で、どうして男と手を繋いでたのかな?」


 は? 男と手を繋ぐ?

 もしかして怪我を治した騎士と握手してたこと?

 お礼のためにしたことを手を繋ぐなんて飛躍してるでしょ。


「だから、怪我を治していたんですよ」

「不必要に仲良くしないでよ。君は聖女なんだから」


 聖女は男性と仲良くしてはいけないの?

 イーディアが聖女になるなら男性との交流は控えた方がいいのかと聞いていたけどその通りだったのかな。

 でもレオルド王子だって男じゃない。

 今の状況のほうが不必要だと思うけど。

 まあ、指摘したところで「王子だから」とでも言うのだろう。


「善処しますが、仕事として相手を安心させるために愛想や配慮が必要なときもありますのではいとは言えません」

「いつもやる気のないシエルがやけに意欲的な発言だね。だったら僕にももっと愛想をよくしてくれてもいいじゃない?」


 しれっとやる気のないとか言ってくれてるじゃない。

 私だって夜中に呼び出された時以外はちゃんとやってるんですけど。


「レオルド王子には安心させる必要ないでしょう」

「つれないなあ。でも、騎士たちもそうだけど緊急の怪我じゃなければ治癒魔法を使わなくていいからね」

「治癒師なのに怪我を見過ごしていいのでしょうか」


 かすり傷とかならともかく、今日の騎士は腕がかなり腫れていたし。


「戦火の中だったり魔物と対峙しているときにあの程度の怪我で引いてなんていられないからね。怪我をした状態でも戦えるように訓練するんだよ」


 そう、だったんだ。

 たしかに生傷が絶えない騎士たちを治療したことはあまりなかった。


「私、余計なことしてしまいましたね」

「いや、万全な状態でいるに越したことはないから。彼も治って喜んでいたしいいんじゃない」

「だったらレオルド王子も軽い怪我ならもう少し我慢してくださいよ」


 わざわざ夜中に呼び出すような怪我でもないのに。

 それがなかったら私だってもう少し愛想よくできるかもしれない。


 いや、できないかも。


「僕のは怪我を治すことが目的じゃないから」


 はい? それって怪我を治さなくていいってこと?


「どういうことですか?」

「どういうことだろうね?」


 こっちが聞いてるんだけど。

 でも言うつもりがないなら問い詰めたって仕方ない。


「とにかく、今日はゆっくり眠れてありがたかったです。今後も“夜”はゆっくり寝たいです」

「同感だね。睡眠は大事だよ」


 なんか癪にさわる返事だな。

 私はあなたのせいで寝不足だったんですけど。


「では、お休みなさい」


 私はふかふかのベッドから立ち上がった。

 レオルド王子はその場から動かず距離が近くなった。


「明日、街で大きな仕事があるんだ。怪我人がでるかもしれないから同行お願いできる?」


 久しぶりの現場同行か。

 仕事なら私に拒否権はない。


「わかりました」

「もちろんシエルには安全な場所で待機してもらうから」


 どの現場に同行してもいつも離れたところで待機して、さらに護衛までついているから心配はしていない。

 私は怪我をした人をひたすら治療するだけだ。



 ◇ ◇ ◇


 翌日、私は騎士団の馬車に乗って街の酒場へと向かった。

 どうして酒場? と思ったけれど詳しい事情は聞かないことにしている。

 こういった仕事はたいてい国内情勢が絡んでいる。

 知らなくていいこと、知らない方がいいことも多いのだ。


 馬車の座席の目の前に座るのはレオルド王子の側近であるヴァイザー様。

 目つきは鋭いけれど話せば穏やかな口調だし、何より腕が立って信頼できるとレオルド王子が言っていた。

 私が現場同行するときはいつも彼が護衛についてくれている。

 そしてレオルド王子は毎度最前線で現場に向かっていくので会わないこともよくある。


 目的地である酒場の近くの広場に馬車を停め、待機することになった。

 

「シエル様、状況によっては私の判断で撤退するかもしれません」

「そんなに危ないお仕事なのですか?」


 すでに何人かの騎士が潜入しているらしいけれど、中の様子がわからないため普通の酒場にしか見えない。


「相手がどのような手段をとってくるか不明なところがあるので」

「わかりました」


 その後、特に会話もなく待機を続けた。

 ヴァイザー様は張り詰めた様子で酒場を伺っている。


「今夜、レオルド王子から呼び出しがありましたら注意深く様子をみてください」


 鋭い眼光で小窓を覗いたままヴァイザー様が告げる。

 怪我をして帰ってくるかもしれないということだろうか。

 

「呼び出しがなくても怪我をしたならすぐに治します」

「重症を負えばそうしていただきますが、重要なのは治療ではありませんので」

「どういうことですか?」

「私からはこれ以上お伝えすることはできません」


 王子もヴァイザー様も肝心なことは何も言わない。

 わからないのに私にどうしろっていうのだろう。

 まあ言われたことだけすればいいか。


 ふう、と息を吐いたその時、酒場から大きな爆発音がした。

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