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【無気力系鈍感聖女×腹黒王子の隠れ溺愛】辞めたい聖女は王子に嫌われることにした  作者: 藤 ゆみ子


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第10話 聖女失格

 私が意識を失ったあとすぐに応援が到着し、一緒にやってきたイーディアが治療をしてくれたので一命を取り留めたそうだ。


「イーディアの到着が遅ければ死んでいたかもしれなかったんだよ。どうしてあんな危険なことをしたの?」

「レオルド王子が、危ないと思いまして……」

「だからって、無茶なことしないでよ」

「すみません。でも、王子も無事でよかったです。あなたの代わりは他にいませんから」


 レオルド王子が危ない、そう思った瞬間勝手に体が動いていた。

 彼を失ってはいけないと、全身が逸っていた。


「シエルの代わりだっていないよ」

「聖女の代わりはいくらでもいますよ。今はイーディアがいますし、きっとこれからも優秀な治癒師は現れます」

「僕はそんなことを言っているんじゃない。シエルは、たった一人の大切な女性だよ」


 レオルド王子は横になったままの私の手をそっと握った。

 “女性”なんて言い方初めてだな。

 いつもは聖女だから、とか聖女として、とかばかり言っているのに。

 なんだか、調子が狂う。

 

 どうして、さっきからそんな泣きそうな顔をしているの。


「私だって別に庇おうとか守ろうとかそんな大層な事思ってたわけじゃないんですけどねえ」


 自分でも、なぜあんなことをしたのかよくわからない。

 本当にバカなことをした。

 私が出ていったって、足手まといになるだけなのに。

 魔力の使いすぎで疲弊していたし、判断力が鈍っていたのかも。

 

「とにかく、今後あんなことはしないで。心臓が止まるかと思った」

「それは大変ですね。すみませんでした」

「本当に反省してる?」

「してますよ。それより、レオルド王子の怪我は大丈夫ですか?」


 応援部隊が到着し無事討伐は終えたようだけれど、あのときたしかに王子は足を怪我していた。


「イーディアが治療してくれたから大丈夫だよ。シエルの言う通り、彼女は優秀だね」

「そうですか。良かったです」


 良かったはずなのに、なぜか心がぎゅっとなる。

 微笑みながらイーディアを褒めるレオルド王子に、どこか寂しさを感じる。


 私は同行で迷惑をかけただけだった。

 

 聖女としての誇りとか、名誉とかそんなものはどうでもいい。

 だけどやるべき仕事はちゃんとやる、そう決めていたのに。

 私は本当に聖女失格だ。


 今レオルド王子のベッドで寝ていること自体早くどうにかしたいのに、身体がダルくて起き上がれない。


 そんな私の体調がわかっているのか王子は優しく微笑む。


「今日はここでゆっくり休んで。僕はそこのソファーで寝るから」

「え、だめですよ王子がソファーで寝るなんて。私がそっちに……」


 起き上がろうとするけれど、体がふらつく。


「何やってるの。怪我はイーディアが治してくれたけど、ほとんど魔力切れの状態なんだよ」

「すみません……でしたら私、ちょっと寄るので王子もベッドで寝てください」


 あれ? 私何を言っているんだ。

 一緒にベッドで寝ようだなんてどうかしている。

 でも現時点での最善策が浮かばない。

 私が自分の部屋に戻ればいいだけの話なんだけれど、動けそうにない。


 レオルド王子は少し驚いたような表情をしたあと、ベッドに入ってきた。


「本当にいいの?」

「むしろ、なんかすみません」

「シエルは何も謝ることなんかないよ」


 そっと頭を撫でられ、その手が心地よくてまた意識が遠のきそうになる。


「レオルド王子……私、もっと頑張らないといけないですね。今さらですけど」


 王子は困ったように私を見ている。

 顔が近い。けど、触れ合うほどではない距離。

 

「シエル、ごめん……」


 何に謝っているのだろう。

 私が怪我をしたことかな。

 それは自業自得だから謝る必要なんてないのに。

 魔力切れだって仕方のないこと。

 治癒魔法を使うことが聖女の役目なのだから。

 そう伝えたくても、もう話すことができなくて私はまた意識を手放した。



 ◇ ◇ ◇


 まだ日が登りきる前、薄っすらと明るくなってきたという頃に目が覚めた。

 

 まるで、眠る前の記憶が嘘だったかのように体がすっきりしていた。

 けれど視界に映る豪勢な部屋とふかふかなベッドの感覚で、ここがレオルド王子の部屋だとわかる。

 ということは全て嘘ではなかったということ。

 討伐から帰った私は王子のベッドで爆睡し、あろうことか一緒に寝ようだなんて提案までした。


 おそるおそる横に顔を向けると、眠っているレオルド王子。

 同じベッドで眠っているものの、かなりの広さがあるので思わず体が触れ合う、なんてことはない。


 それにしても、よく眠っている。

 王子も随分とお疲れみたいだな。

 それもそうか。あんなに大きな魔物を倒してきたんだ。


 そういえば、私の魔力でよく眠れると言ってたよな。

 眠っている王子の額にそっと手を当て、ゆっくりと魔力を流し込んだ。


「しっかり休んで、疲れをとってください」


 小さく呟いてから、ベッドから下りる。

 部屋を出て、伸びをしながら自分の部屋へと向かう。

 

 もう魔力も回復したみたいだし、いつも通りの仕事をしよう。

 夜中呼ばれたときのネグリジェのままだったので聖服に着替え、礼拝堂に行き、お祈りをして医療所へ行った。


 私を見たイーディアは駆け寄ってくると、ぎゅっと抱きしめてくる。


「シエルさん、無事でよかったです」

「イーディアありがとうね。あなたがいなかったら私死んでいたかも」

「本当ですよ! びっくりしたんですから。突然呼ばれて現場についたらぐったりしているシエルさんがいて、レオルド王子は見たこともほど取り乱していて」


 王子、そんなに取り乱していたんだ。

 改めて申し訳ないことをした。


「ごめんね。イーディアは大丈夫だった?」

「私はひたすら負傷者の治療をしただけで怪我などはありませんでしたよ」

「初めての現場が大変なものになっちゃったね」

「たしかに大変でしたが、いかに自分の持つ力が重要か、どれだけの役割があるかを実感することができました」


 イーディアはすごいな。

 本当に大変な現場だったし、危険とも隣り合わせだ。

 こわかっただろうし、一人で負傷者の治療もしてかなり疲れもあるだろう。

 やっぱり私とは大違い。


 彼女なら、いつ聖女になっても大丈夫だな。


 そんなことを思いながら医療所での仕事をした。


 診療時間も終わり、いつものようにイーディアと二人で片付けをしていると、ヴァイザー様がやってきた。

 私たち二人に話しがあるというので、片付けの手を止め向かい合う。


 そしてヴァイザー様は、なんでもないことのように淡々と告げた。


「本日をもってシエル様は聖女を引退、明日からイーディア様に引継ぐことになりました――」

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