最終章 読み取った先
この物語は、夢と現実、そして心の中の願いが交錯する、切なくも不思議な世界を描いています。日常の中で忘れがちな「本当に大切なこと」を思い出させてくれるかもしれません。願いが叶うということが、必ずしも幸せを意味するわけではないということを、この物語を通して感じていただければ幸いです。
あの日の夢から数カ月が経過した。
仕事も新しいことに挑戦することが増え、ますます忙しくなっていった。
なかなかあの写真の場所に行くことができず、もどかしい日々が続いた。
今日も仕事に行くため、準備をする。
あの写真を持って。
「行ってきます。」と、玄関の扉を開けようとした時、母から
「行ってらっしゃい。今日は夜ご飯が豪華だから頑張って。」
“豪華”と聞くと心が躍る。
「やった。」と張り切って家を出る。
職場に着くと、先輩たちが忙しなく働いていた。
年末だからといって、ここだけは特別な時間など存在しない。
「おはようございます。」
「汐原君、おはよ。ごめん、患者が熱発してて全然仕事が進まないの。」
「大丈夫です。俺、今来たばかりなので。」
そんなやりとりをしながら、忙しい1日はあっという間に過ぎていった。
気づけば夜勤の先輩が病棟に来ていた。
「汐原君、おつかれ。今日の患者はどうだった?」
「熱発者が1名いましたが、今は平熱です。」
「了解。……っていうか明日は元旦でしょ?なんで大晦日なのに夜勤なの。」
そこへ主任が明るい声で入ってくる。
「いいじゃん、お金いっぱいもらえるんだから。私と一緒に頑張ろう?」
「はーい……。そういえば汐原君、明日は?まさか仕事?」と、先輩がニヤつきながら聞いてきた。
「明日はお休みです。家族とご飯食べます。」
「いいなぁ。私も希望休出しとけばよかった。」とへこんでいた。
そんなやり取りをして、俺は病院を後にした。
後ろから、「いいなぁ〜。よいお年を。」という先輩の声が聞こえた。
家に帰宅すると、家族全員が揃っていた。
「おかえり、潤。手、早く洗ってらっしゃい。」
「はーい。」と返事をすると、妹が
「お兄ちゃん早くー、お腹すいた!」
「悪い悪い、すぐ行く。」と急いで洗面台に向かい手を洗う。
テーブルに着くと、様々なオードブルが並んでいた。
「いただきます。」と、家族全員で声を揃え手をあわせる。
オードブルはどれも美味しく、幸せだった。
「ごちそうさまでした。」
俺は部屋に戻り、机の上で今まで集めたQRコードの欠片をつなぎ合わせる。
「あと一部で完成か……。」
もし本当に願いが叶うのなら――そんな思いが、期待と怖さを混ぜながら胸に広がる。
もう一枚の懐かしい写真を手に取る。
その時、階下から父の声が響いた。
「年越しそばできたぞー!」
時計を見ると、日付が変わる直前。
「やべ!」
慌てて階段を駆け降り、家族とそばをすすり、新年の抱負を語り合った。
一年があっという間に終わったなと思いながら眠りにつく。
元旦。
布団にくるまっていると、ドアが激しく叩かれた。
「潤、起きなさい!いつまで寝ているつもりなの!」
母に布団をはぎ取られ、しぶしぶ起きる。
朝食を済ませ、母に伝える。
「今日ちょっと出かけてくる。」
「いいけど、今日は夕方からおばあちゃん家でご飯食べるから、遅れちゃダメよ。」
「分かってるよ。」
すると妹のすいが目を輝かせて言う。
「お兄ちゃん、私も行く!」
「いいけどつまらないかもよ?」
「大丈夫!」
車に乗り込み、向かうのは――あの写真の場所だ。
「どこ行くの?」と妹は興味津々に聞いてきた。
「着けばわかる。」
不満げに頬をふくらませる妹を横目に、車を走らせる。
辿り着いた。
夢に出てきた家具屋。
古びた看板、乾いた風にきしむ木造の壁。
胸の鼓動が速くなる。
インターフォンを押すと、健の母――
一緒にカレーを食べた看護師が現れた。
「お久しぶりです、健のお母さん。初めて会った時に、健のお母さんですと言ってくださいよ。」
「やっぱりバレてたか!潤くんのお母さんに頼まれていたのよ。バレないようにってね。ほら、寒いし中に入りなさい。……すいちゃん、大きくなったね。」
すいは覚えていないように、小さく頭を下げた。
部屋に入ると、夢で見た光景がそのまま広がっていた。
ただ、ひとつだけ違う点があった。
――仏壇。
そこには、健と健のお父さんの写真が並んでいた。
「健のお母さん、手を合わせてもいいですか?」
と尋ねると、
「もちろん。喜ぶと思うわ。」と微笑んでくれた。
俺は仏壇の前に座り、手を合わせた。
すると妹が隣に来て、「私も」と言って一緒に手を合わせた。
その後、三人で話していると急に強い揺れが襲った。
地震?揺れがどんどん大きくなっていく。
家が大きく揺れ、立っていられないほどだ。
「大丈夫か?すい!」
「私は大丈夫……でもお兄ちゃん、この家、傾いてない?」
遠くで建物が崩れる音が聞こえる。
「すい、逃げるぞ!」
家具が散乱した床を踏みしめ、玄関へ走り出そうとした時、健のお母さんがいないことに気が付いた。
「あれ、健のお母さんは?」とすいに聞く。
「一緒だったはずだけど…分かんない。」
二度目の揺れが来た。
ゴゴゴ……家がさらに傾く。
「キャー。お兄ちゃん怖いよ。」
「大丈夫だ、すい。行くぞ。」
外へ飛び出すと同時に建物が崩れ始めた。
「すい!」
妹を抱き寄せようと腕を伸ばした瞬間、妹が誰かに背中を押されたように俺の胸へ飛び込んで来た。
「すい、大丈夫か。とりあえずここから離れるぞ。」
土煙が舞う中、すいと一緒に走り出す。
俺は、走りながら誰が妹を助けてくれたのか振り返らなくても分かった。
胸の奥で「ありがとう!助けてくれて。」と呟く。
走っている時、一枚の紙が空からひらりと舞い降りた。
今まで俺が集めていたQRコードの欠片だった。
家具屋の方を見ると、三人の親子が笑顔で手を振っていた。
鳥肌が立つと同時に、俺は嘘であってくれと強く願った。
だって…健のお母さんを助けられず見捨ててしまったから…
光に溶けていくようなその姿は、どこか現実離れしていた。
避難所に着くと、両親が泣きながら抱きしめてくれた。
「潤、すい……無事でよかった……!」
「どうしてここに…?俺、出かける場所伝えてないよな?」
「私の古くからの友人が教えてくれたのよ…潤君が会いにくるって。」と泣きながら話した。
この言葉を聞き、俺はようやく今までの違和感に気が付いた。
俺は、QRコードのことや夢の話を全て母親に話そうと思った時、
「帰れる道が見つかったぞ。」と笑顔で父親が走ってきた。
「俺、どうしても行かなきゃいけないところがある。」
そう言って走り出した。
走っている最中に、クシャカシャと音が聞こえた。
俺は、何の音だと疑問に思いズボンのポケットに手を入れると、家に置いてきたあれが入っていた。
俺は疑問に思ったが、走り続けた。
再び北野の家へ向かい、足りなかったQRコードを組み合わせる。
1枚のQRコードが完成した。
俺は携帯を取り出し、読み込む。
《願い事を話してください。一度言った願いは絶対です》
北野さんが言ってたことは、本当だったのか…
驚きが隠せないまま、
「俺の願いは…」と話し始めた。
その時、
「そのQRコードは危険だ!潤、頼む、願いを言わないでくれ!」
と、どこからか声が響いた。
俺はこの声に聞き覚えがあった。
だがそのお願いを聞くことができなかった。
だって、俺は2人も殺してしまったのだから…
健は、俺のことを恨みもせず二度も俺とすいを救ってくれた。
「……健、いや、健の家族を蘇らせてくれ。」
携帯が強い光を放ち、視界が真っ白になる。
やがて光が消え、世界に色が戻る。
そこには――健がいた。
健は、健の家族に抱きしめられながら、泣いていた。
俺はその姿を見届け、姿を消した。
あれから数年が経過した。
俺の名前は、北野健。
今はとある病院で医師として働いている。
今日も、入院患者の回診に回る。
覚えることが沢山あるが、先輩が優しく、働きやすい環境だ。
病室に着いた時、女性の患者から話しかけられる。
「北野先生。QRコードを集めてください。
そうすれば、願いが叶うって神様からのお告げがあったんです。」
「そうなんですね。」と軽く流す。
彼女の名前は、汐原すい…
夢の中の出来事が、現実にどう影響を与えるのか。その答えは、この物語の中にしかありません。終わりが訪れたとき、読者の皆さんには少しだけでも心に残るものがあると嬉しいです。物語の中で潤が選んだ道が、あなたにとっても何かを気づかせてくれることを願っています。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




