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黒薔薇の牙 ―忠義を纏うメイド―  作者: 櫻木サヱ
霧に潜む影

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16/18

午後の紅茶タイム

昼下がりの陽射しは、絹のようにやわらかかった。

中庭の薔薇が香り立ち、淡いピンクと白が風に揺れている。

テラスには白いクロスのテーブル。

ティーポットから立ちのぼる湯気が、光をまとってきらめいた。


「今日の紅茶は、アールグレイでございます」

レアは静かにポットを傾け、カップへと琥珀色の液体を注ぐ。

その手つきは、まるで儀式のよう。

お嬢様はスプーンでひと混ぜし、香りを吸い込むように目を閉じた。


「……レアの淹れる紅茶って、どうしてこんなに落ち着くのかしら」


「お嬢様のお心が穏やかだからでございます」

犬面のメイドは変わらぬ調子でそう答え、そっと微笑む。


鳥のさえずりが、遠くで響いていた。

風が薔薇を揺らし、花びらが一枚、テーブルに落ちる。


お嬢様は紅茶を一口飲み、ふと思い出したように尋ねた。

「ねぇ、レア。あなたって、夜はどこで眠ってるの?」


少しだけ、レアの動きが止まった。

けれど、答えはすぐに返る。


「私は館の西の塔にございます、控えの間で。

 お嬢様がご入眠されるまでは、そこに控えております」


「ふふ、きっとそこでも静かにしてるんでしょうね」

「はい。静寂は、心を整えます」


その答えに、お嬢様は笑う。

「なんだか、修道女みたい」


レアは首を傾けた。

「もしそうなら、お嬢様は天使さまです」


ふいに、お嬢様の頬が赤く染まる。

「もう……そういうの、ずるいわ」


午後の光が二人を包み、時間が止まったように穏やかだった。


──そして、ティーカップを置いたレアの指先に、

ほんの一瞬、小さな黒い煤がついた。


風が吹き抜け、それはすぐに消えた。

お嬢様は気づかない。

レアは微笑んだまま、そっと手をひざの上に戻した。


「おかわりをお入れいたしますね」


「ええ、お願い」


湯気の向こうで、二人の影がゆらゆらと重なる。

穏やかな午後。

けれど、静けさの底には──まだ、言葉にならない何かが沈んでいた。


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