午後の紅茶タイム
昼下がりの陽射しは、絹のようにやわらかかった。
中庭の薔薇が香り立ち、淡いピンクと白が風に揺れている。
テラスには白いクロスのテーブル。
ティーポットから立ちのぼる湯気が、光をまとってきらめいた。
「今日の紅茶は、アールグレイでございます」
レアは静かにポットを傾け、カップへと琥珀色の液体を注ぐ。
その手つきは、まるで儀式のよう。
お嬢様はスプーンでひと混ぜし、香りを吸い込むように目を閉じた。
「……レアの淹れる紅茶って、どうしてこんなに落ち着くのかしら」
「お嬢様のお心が穏やかだからでございます」
犬面のメイドは変わらぬ調子でそう答え、そっと微笑む。
鳥のさえずりが、遠くで響いていた。
風が薔薇を揺らし、花びらが一枚、テーブルに落ちる。
お嬢様は紅茶を一口飲み、ふと思い出したように尋ねた。
「ねぇ、レア。あなたって、夜はどこで眠ってるの?」
少しだけ、レアの動きが止まった。
けれど、答えはすぐに返る。
「私は館の西の塔にございます、控えの間で。
お嬢様がご入眠されるまでは、そこに控えております」
「ふふ、きっとそこでも静かにしてるんでしょうね」
「はい。静寂は、心を整えます」
その答えに、お嬢様は笑う。
「なんだか、修道女みたい」
レアは首を傾けた。
「もしそうなら、お嬢様は天使さまです」
ふいに、お嬢様の頬が赤く染まる。
「もう……そういうの、ずるいわ」
午後の光が二人を包み、時間が止まったように穏やかだった。
──そして、ティーカップを置いたレアの指先に、
ほんの一瞬、小さな黒い煤がついた。
風が吹き抜け、それはすぐに消えた。
お嬢様は気づかない。
レアは微笑んだまま、そっと手をひざの上に戻した。
「おかわりをお入れいたしますね」
「ええ、お願い」
湯気の向こうで、二人の影がゆらゆらと重なる。
穏やかな午後。
けれど、静けさの底には──まだ、言葉にならない何かが沈んでいた。




