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・惑星監視官、大工になる

 魔王バーニィ・ゴライアスは率先して伐採に加わり、西の森で歌いながら斧を振るった。


「俺は宇宙の冒険家っ、銀河の果てを巡ってたっ! それが今では木こりになってっ、大工もこなす魔王様っ! あどっこいしょ~っ、よっこいしょ~っ、いっちょ上がりっとっっ!!」


 俺の美声と能率のせいかね。伐採担当、運搬担当、みんなが口を開けっぱなしにして驚いていた。

 必要数の原木が集まると俺は一番太いヤツを肩に背負い、製材所まで大股で闊歩した。


「ガハハハッ、バーニィの兄貴はやっぱ面白ぇべや!」


「何言ってんだ、俺っちは自分が楽しいって思うことをしてるだけだぜ」


 タンのやつも伐採と運搬を手伝ってくれた。巨体のミノタウロス族と並んで歩き、でかい声で笑い合った。タンは牛にしておくのが惜しいくれぇ気持ちのいい野郎だ。


「魔王様、もう少しふんぞり返っていて下さると、この魔剣めは助かるのですが……」


 製材所――といってもまだノコギリとカンナくらいしかない製材所予定地に到着すると、そこにカボチャ頭が待っていた。


「何言ってやがる、言い出しっぺの俺が働かねぇで誰が働くよ」


「それはそうなのでございますが、他の一派には、権威を深く重んじる者も多くおりまして……」


「権威な、ソイツは俺っちのきれぇな言葉だ。んなもん犬に食わせちまえよ」


 俺は製材所の男どもにノコギリを掲げて見せた。さっき空から降らせた12本の斧は今、西の森で屈強なミノタウロス族が樹木に叩き付けている。


「おらお前らっ、この先何週間も寺院の床で寝起きする生活をしたくなかったらよっ、今だけでいいから俺っちに従えやっ!!」


「ガハハハハッ!! おめぇらっ、バーニィの兄貴を手伝うべっ!!」


 ノコギリとカンナを手に製材のイロハを教え、ソイツが済むなり住宅建築を始める魔王がいたとすればそいつは俺だ。


「通常は乾燥させるんだが今は時間がねぇ! コイツと同じ板と角材をガンガン作ってくんな!」


 俺は製材担当のウッドエルフたちに原木から角材・木板を作る方法を教えると、タンと材料を担いで次の目的に向かった。


 俺が暮らす寺院から東にしばらく歩いたところで天然の平地がある。整地の手間が省けるそこにこれから住宅街を築く!


「ドゥゥゥオリャァァァーッッ!!」


 ってことで俺は赤黒い魔界杉を建設予定地に突き立てた。データベースによるとハンマーで杭打ちをするらしいが、魔王の力を振り絞ればそんなもん一発で十分だ!


「ほれ兄貴っ、おかわりだべ!」


「おうよっ! みんなちゃんと見とけよっ、これが魔王式基礎工事よっ!!」


 長方形の角と中心核に合計5本、俺は柱を突き立てた。柱の底には天然のタールを塗ってあるので直ちに腐食する心配はねぇ。


 続いて柱と柱を角材で繋いで基礎を作って見せた。仕上げたばかりの板で床と屋根を張って、内壁から外壁へと手を広げてゆけば、リビング付き6部屋の仮設住宅が完成する。


 言っとくが俺の手柄じゃない。全ては大工仕事のノウハウをデータベース化してくれた偉大なる先人からの賜り物だった。


「あらよっとっ、作業時間30分で6人住まいの完成だ!!」


 作業効率の決め手は接着剤だ。さっき軌道上から投下させたコイツは、艦船の応急処置にも使われるブツで、その接着効果は地球型惑星で10世紀保つとされている。


 つまりこいつがあれば大工役に高度な技術は必要ない。塗って、くっつけて、間違えないように組み上げるだけだ。


「な、なんという方だ……」


「魔王自ら汗水を流し、我らのために家を建ててくださるとは……!」


「素敵っっ、こんな魔王様見たことないわっ!」


「うおおおおおおーっっ、魔王様ーっっ!!!」


 建築に加わった者、遠巻きに見守っていた者、デス派の魔族たちは興奮の叫び声を上げた。

 彼らの誰もが寺院の冷たい床で寝起きしていたからな……。


「アンタ最高だっ、魔王様っ!!」


「デス様が正しかった!! 魔王バーニィッ、貴方こそが魔族に未来をもたらす方だよ!!」


「カッコイイ……!! 俺、大きくなったらバーニィ様みたいになりたい!!」


「へへへ……ありがとよっ、お前らっ! 悪ぃ気分はしねぇぜっ!」


 歴代の魔王はその力を破壊や恫喝に使った。自ら築くのではなく、誰かから奪い取る道を選んだ。


 だが俺は腐ってもコモンウェルス星団所属の惑星監視官だ。銀河に跋扈する海賊どものような生き方はごめん被る。労働、それこそが我らコモンウェルス星団の美徳だ。


「うっしっ、見てたなステラッ、パイアッ、ここの現場はお前らに任せた!」


 ステラとパイアは伐採からずっと空から俺のすることを見ていた。俺は空に浮遊するシルフとサキュバスを見上げて、豪快に笑ってやった。


「えっ、えぇぇ……っっ!? わ、私……っっ!?」


「ちょっと何勝手に決めてるのさっ!? あたしらの意見はーっ!?」


 見る限りこの一派で頭が回りそうなやつは限られている。魔族と分類される者たちは良くも悪くも支配者に対して盲従的だ。

 その点、ステラとパイアには自己主張と好奇心がある。新しい物事を受け入れられる柔軟性がある。


「悪ぃが頼んだ! 俺っちは木材の運搬を手伝ってくるっ、どうもそこがボトルネックみてぇだ!」


「ええええーーっっ!? で、でもあたしら、こういうのやったことないしー……っ!」


「ははは、普段の減らず口はどこいったんだよ、パイア! お前らならできるっ、保証するぜ!」


 そう空に叫ぶと黒髪をなびかせてステラが俺の前に降りてきた。一人で浮いているのも居心地が悪いのか、遅れてパイアもそれに続いた。


「わ、私……私……っ、お兄ちゃんがそう言うなら、がんばってみます……っ!!」


「えっ、ええっ、ステラ……ッ!?」


 今のステラは新人探検隊員みたいなものだ。先輩たちの足を引っ張らないように必死に背伸びをして、しくじったりしながら成長してゆくものだ。


「おうっ、ならステラが建築主任で、パイアが副主任だ! 任せたぜ、ステラ!」


「はい……っ! 私、もう足手まといにはなりません……っ! 立派なお家を建ててみせます……!」


 妹のニナも家族を頼らずには生きられない自分自身に悩みを抱えていた。そのニナにそっくりなステラが足手まといを脱却しようと、不安を胸にあがいている。


「なぁに、パイアがサポートしてくれる。そうだよな?」


「はぁぁぁ……かったるい……。けど非常事態だしー……しょうがないしサポートしたげるー……」


 若手に現場を押し付けることに成功すると、俺は伐採地へと跳躍した。

 俺は胴体より太い原木を肩に背負い、あれほどまでに憧れたファンタジアでの地上生活を謳歌した。


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