・新都ウンブラ、恵みの流星が降り注ぐ
通常、木材建築を行うには接着剤がいる。それと釘。金槌。ノコギリやカンナも欲しいところだ。伐採をするなら斧もいる。
「は、星を降らす……? どういうこと?」
「あのね、パイアちゃん、ヨアヒムお兄ちゃん、お星様を落とせるの……」
お側付きの二人と、昨日意気投合したミノタウロス族の男を連れて丘の上に移動して、軌道上のコルベット船に物資の投下を命じた。
「ガハハハハッ、ワシはまた酒が飲めるならなんだっていい!」
「おう、いつかたらふく飲ましてやるぜ。けどその前にあの空を見上げてみな」
俺が空を指さすと、そこに合計7つの流星が現れた。流星は青空に赤々と輝き、音もなくこちらに近付いてきている。
「ガ……ガハッッ!? な、なんじゃありゃぁっ、おいバーニィッッ!?」
「ちょっちょっちょっ、え、危なっっ、ひ、ひぇぇぇぇーーっっ?!!」
「私っ、今度は気絶しませんから……!」
その7つの流星は万有引力の法則に従い、指数関数的な加速を果たした後に、200メートルほど先の岩石地帯に墜落した。
暴力的な爆発音が辺りにとどろき、麓のあちこちから人々の悲鳴が響き渡った。
ニナ――じゃなかったな。ステラはまた気絶してしまった。
「パイア、悪ぃがニナを頼む。タン、お前は俺に付き合え」
「お、おう……っ! こ、この程度でっ、ミノタウロス族がビビるわけねーしよ……っ、ガ、ガハ……」
墜落地点には7つの赤熱するクレーターそれぞれに、7つのポットが突き刺さっていた。
俺はそれらにブリザードの魔法をまとめてぶっ放して、1つ目のポットを解放した。
中身は斧の頭が1ダースだ。これに握り手となる木材を押し込めば、伐採労働者が1ダース生まれる。
「ほ、星の中から、斧の先が出てきたべ……!?」
「お前さんには7つのポットの中身のうち4つを持って帰ってもらう。じゃ、次行くぜ」
「おめぇ人使い荒いべよぉーっ!?」
もう3つのポットを巡ってノコギリを18個、カンナを6個、鉄釘の詰まったビニール包装の大袋をタンナルスことタンに抱えさせた。
「うっし、戻ってそいつをデスに届けろ。残りは俺たちで持って帰る」
「わ、わかったべ……っ。家と酒のためと思えば、このくらいなんでもねぇべっ、ふんっぬぅぅっ!!」
タンを見送って次のポットを開封すると、ステラとパイアが後を追ってきた。
このポットの中身はノコギリが2本に鉄釘のビニール包装だった。
「ごめんなさい、私足手まといで……」
「あんなの驚いて当然だからっ! 心臓が止まるかと思ったよー!」
「ようパイア、よくきたな。お前さんはこいつを頼む」
「私がそんなに持てるわけないでしょっ! というかなんなのアンタッ!?」
「だから神様だっつってんだろ。じゃ、任せたぜ」
「ふぎゅっ!? お、重い……っ」
パイアは文句を言いながらも抱きつくようにビニール包装された荷物を抱えて、コウモリの翼を生やして麓へと戻っていった。
ステラと俺は6つ目のポットに向かった。6つ目のポットの中身は接着剤の詰まった缶だ。バケツのように握りが付いている。
「私、それ持ちます!」
「え、これをか? お前さんは無理しなくていい」
「大丈夫です……っ、私、足手まといになりたくありません……っ!」
「そうか? じゃあ任せるが……きつくなったら下ろして戻ってこい?」
「はい……っ、私も、みんなのために、がんばらないと……っ」
妹にそっくりの黒髪を揺らして、シルフ族の少女は接着剤の缶を両手に吊すと必死で羽ばたいた。
「おい、ニナ、やっぱそれは俺っちが――」
「ステラですっ! バーニィさんにはこんな重たいもの持たせられません……っ!」
いや俺なら余裕なんだが。
ステラはまるで蜂のように翼を高速で羽ばたかせて、麓へと下っていた。
見てられなかったが俺は残りのポットに向かった。さっさと回収して後を追うためにだ。
最後のポットに入っていたのはさっきの接着剤の缶が2つに釘の大袋、それに虫かごに入った色とりどりの繭だ。
こっちの繭をステラに運ばせるつもりだったんだが、後を追って交換を求めても聞かないだろう。ツーステップで25メートルの我ながら気持ち悪い足で後を追った。
「よう、がんばってるじゃないか、兄ちゃん感心したぞ」
「あ、お兄、ちゃ……っ、う、うぅっ、お、重……っ、くないよ……っ!」
「これ、何かわかるか? これと交換しないか?」
「しないっ! 私、もう、足手まといはイヤだから……っ! ぁ……っ」
サイボーグ化している左手に缶の取っ手を2つひっかけて、釘の入った包みを脇に抱えた。それから右手でステラの持つ缶を底から軽く押し上げる。
「お前さんは十分がんばってるよ、ステラ。けど少しは兄ちゃんを頼ってくれ」
「私、タンタルスさんみたいなムキムキがよかった……」
「それは兄ちゃんが泣くから勘弁してくれ、ステラ」
麓で指揮をするデスのところまで、俺たちは兄妹で荷物を運んだ。ステラはがんばり屋で、俺の妹とは少し違った。
俺の妹のニナは生まれ付きの筋肉の病気で、こうして外で一緒に荷物を運ぶなんてできない身体だった。
当時は深宇宙からの探検から帰ったら、成功報酬でニナの身体を治してやるつもりでいた。だがその夢は叶わなかった。
「ニナ……?」
「ぅ、ぅぅ……っ。あ、はい、なんですか……っ、お兄ちゃん……っ」
その時、記憶領域の片隅に残されていた古のメールがなんの不具合か独りでに開かれた。
『ニナね、もし転生したら、お兄ちゃんと惑星ファンタジアで暮らしてみたい。転生して、元気な身体に生まれ変わりたい』
ニナが暮らしていたコロニーはあの日、星に落ちた。ずっと苦しんできた弱い身体から解放され、今では天国で幸せにしている。
「手伝ってくれてありがとうな、ステラ。こっから先は、やっぱ自分の力で運ぶか?」
「うん……っ、私、そうしたい……! 足手まといはイヤ……!」
「よし、ならソイツは任せたぜ!」
あるいは、ニナはステラに転生して、俺の隣で……。
いやそんな非科学的なことがあるはずがないよな。
自由に空を翔るステラを見ていると、もっと彼らを助けてやりたくなった。なぜならばこの星に立つことがニナの夢だったことを思い出したのだから。
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