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・魔王バーニィ・ゴライアス、遷都する

宇宙暦241年――


 おめでとう、お兄ちゃん。ニュースで見たよ。


「我らコモンウェルス星団に希望の双星が誕生!!

 新人騎士ヨアヒム・B・Sが魔法の惑星ファンタジアを大発見!!

 騎士ヨアヒムとファンタジアは我らの技術を支える星となるだろう!!」


 だって! すごいよ、お兄ちゃん! 街中の人たちがお兄ちゃんの話をしてるよ!

 ニナ、お兄ちゃんが宇宙に出てずっと寂しかったけど、もう寂しくないよ!


 だってお兄ちゃんが何かを発見するたびに、コロニーのみんながヨアヒム・バーニィ・サンダースの話をするようになったから。


 何万光年離れていても、お兄ちゃんは私のすぐそこにいるんだって、やっとわかったの。

 へへ、ニナ、大人になったでしょ。


 剣と魔法の世界、ニナも行ってみたいなぁ……。

 ニナね、もし転生したら、お兄ちゃんと惑星ファンタジアで暮らしてみたい。転生して、元気な身体に生まれ変わりたい。


 その時はお兄ちゃんが魔王で、ニナが勇者ね。

 最初は敵同士だけど、兄妹だから最後は仲良しになって一緒に暮らすの。

 前世の記憶が目覚めて、普通の兄妹に戻るの。


 そうだったらいいなぁ……。

 そうなったらいいのになぁ……。


 あ、そうそう、それはそうとこの間お母さんがね――それでね――それからね――


 お兄ちゃん、探検がんばってね。

 騎士ヨアヒム・バーニィ・サンダースの大活躍を楽しみにしています。


  ニナ・バーニィ・サンダース


 ・



74年後、宇宙暦315年――


 魔王バーニィ・ゴライアスに服従する魔族はそう多くない。何せ俺を召喚した彼らはソード・オブ・デスを臨時リーダーとする温厚な一派で、訳あって今では少数派閥だった。


「このデス……貴方のような魔王を長らく待っておりました!」


「お、おう……」


「正しく貴方こそがこの魔剣めの理想……! おおっ、バーニィ、我らが魔王バーニィ・ゴライアス!」


「ありがとよ。で、話進めてもいいか?」


「はっ、このデス、耳を皿にして静聴させていただきます」


「いやお前さん、耳とかねーだろ」


「なれば本日より皿をこのカボチャ頭めに取り付けましょう」


「奇怪なことすんなっての……」


 まず昨日の話をしよう。俺達はこの寺院に収まり切らないほどの作物を収穫した。

 すると炊事場に歌声が広がり、夕方にはサツマイモとほうれん草とネギのスープや、蒸した小麦をトマトスープに入れた物、ブドウのジュースが振る舞われた。


 楽しい一晩だった。見上げるほどにでかいミノタウロス族と並んで意味のわからん歌を歌って、綺麗どころのお姉ちゃんにブドウジュースを注いでもらった。


 そんな夜が明けて、俺は魔剣デスをここ【魔王の玉座】に誘った。


「単刀直入に言うぜ。ここにある食料、ここのままにしても腐らせるだけだ、近隣の連中にくれてやれ」


 魔界深部に落ち延びてきたのはデスが率いる一派だけではない。様々なリーダーの下、様々な魔族たちがこの地で今も飢えている。

 これは他でもないスパイ・ドローンが仕入れてきた現在進行形の事実だ。


「まさか無償とはおっしゃられますまい。くれてやる条件は?」


「物事には順序ってものがある。今回は無償でくれてやれ」


 俺の判断にそのカカシは黙り込んだ。他の派閥との軋轢は俺も知っている。数え切れないほどの種族が生きるこの地では意見が一致することの方が珍しかった。


「……クククッ、なるほど。タダより高い物はない。そういうことですな?」


「まあそんなところか。一度受け取らせちまえばこっちのもんだ」


 すぐに食い尽くして、すぐにおかわりが欲しくなる。飯は永遠には飾っちゃおけねぇ。交渉のテーブルに招くのはおかわりの一声を聞いた後だ。


「おお……やはり貴方は私がずっとお待ちしていた方のようだ……!」


「先代魔王みたいに、いきなし身内と戦争起こすバカじゃないってだけだ」


「はっ、主君にするのも汚らわしい傲慢な男にございました」


「それともう1つ提案がある。人間どもに陥落させられ、お前らが落ち延びてきた首都なんだが、奪還を諦める」


「な、なんですとっっ!?」


 玉座の間に響き渡るほどにデスの声は大きかった。


「遷都する。今日からはここウンブラを新たな首都とする」


「な……なっ、なっ、なぜでございますか、魔王様!? 我ら一派は貴方のお力で都に戻れるとばかり……!」


「取り返しても民を支える食い物がない。俺が植えたマ・イハは魔界深部の限られた土壌でしか育たないんだ」


 さらに地政学的に言うと、魔王城のあるあの都は前線に近すぎる。人間が築いた大長城から10キロメートルも離れていない。

 そんなところに都を置いていた今までがおかしかった。


「一理……いえ、二理も三理もございます。昨日スケベづらでサキュバス族に囲まれていた時も、魔王様は考えておられたのですね」


「はははっ、何言ってんだ! あんときは100%スケベなことしか考えてなかったって保証すんぜ!」


 デスは歴代の魔王に仕えてきた頭脳派の魔剣だ。しかし悲しいかな、歴代の魔王たちはどいつもこいつも内政に興味がなかった。あっても力に目覚めた者はその力に溺れていった。


「では、民に家が必要でございますね」


「それと倉庫もだ。ブドウも腐る前に果汁をタルに詰めてワインにしねーと」


「魔王様の方針に皆驚くでしょうが、説得はこのカボチャ頭めにお任せを」


「助かるぜ、ソード・オブ・デス。お前が武闘派の脳筋でなくてよかった」


「些事は私にお任せを、失礼!」


 片足で跳ねるカカシを目で追って、それからまぶたを閉じてデータベースにアクセスした。

 口惜しいが無圧縮特大サイズのパイアちゃんの乳揺れデータを圧縮して、俺は俺の頭に大工仕事のデータをインポートした。


「うしっ、これで俺は魔王バーニィにして、大工ゴライアスだ」


 未開惑星の民に家を建ててやってはいけないなんて取り決めは銀河条約にはない。俺は魔王にしてただの大工として、このウンブラの地を新たな都に変えてやる所存だった。

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