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・惑星監視官、星の海に帰る

・語り部X


 その艦隊は惑星ファンタジアで暮らす知的生命体の命綱だった。遙か天空に救世主となる神代の船が現れたことも知らずに、星の民は明日を信じて異星の略奪者と戦い続けていた。


「最悪だ……報告にあったワームホールは、リプトニクツの星域と繋がっていたか……」


「指令、惑星ファンタジアの映像が入りました! どうやら……彼らは善戦しているようです……!」


「なっ!? こ、これは……プラズマ兵器ではないかっ!?」


 翼を持つ種族がルプトニクツ兵をレーザーマスケットを吹っ飛ばす光景が旗艦ブリッジに流れた。

 騎士ヨアヒムは禁を破り、未開惑星の民に宇宙時代の技術を与えていた。


「指令、これならばすぐに陥落することはないかと。引き続き監視し、増援を呼ばれては?」


 副官の提案に艦隊司令官は苦い顔をした。


「それまで彼らを見捨てろと言うのか?」


「はい、勝てたところで大きな被害が出ます。艦隊戦力を失えば、敵国に付け入る隙を与えることになるかと」


 戦略的に考えれば副官が正しかった。ファンタジアにはしばらく堪えてもらい、援軍の合流を待ってから艦隊戦に持ち込むべきだった。


 ルプトニクツ神聖略奪団の戦力は、ミサイル巡洋艦2隻、ミサイル艦12隻、コルベット船24隻、巨大奴隷船1隻の構成だった。

 正面から戦っては誘導ミサイルの飽和攻撃を受けることになる。


「致し方ない……。本国に通信を送れ」


 通信担当は司令の命令に従い、本国基地への通信回線を開こうとした。ところがそこに思わぬ通信が乱入してきた。


「よう、こねぇのかい?」


 それは彼らがこれから討伐するはずだった狂った科学者、ヨアヒム・バーニィ・サンダースからの通信だった。


「騎士ヨアヒム、苦戦しているようだな」


「ああ、戦いが長引いてみんな疲弊している。そこに我らが庇護者様の到着ってわけだ」


「すまないが救援は出せない。これから本国に状況を報告するつもりだが、司令部は現段階での交戦を承認しないだろう」


「はっ、未開惑星保護が聞いて呆れるね」


「……すまない。私も残念に思っている」


 そう答えると、騎士ヨアヒムから大量の映像データが送られてきた。さらわれてゆく民。宇宙時代の兵器で一方的に殺されてゆく民。必死で交戦する現地の勇敢な戦士たちの映像だった。


「こ、これは……っ!?」


 映像が切り替わり、ある男とルプトニクツの戦士たちの激闘が映し出された。副官およびブリッジの者たちはあまりの衝撃に声を上げた。


「やつらにバレちまったからな、今さら隠す必要もねぇ。見ての通り、俺っちはこの星の魔王になっちまった。裏切る気なんてなかったんだがな、結果的にこうなっちまったんさ」


「……なぜ、この映像を我々に?」


「これから俺っちが語る、奇襲作戦を承認してもらうためだ。この力と、伏せてある俺っちのコルベット、そしてそちらの艦隊の力があれば、やつらを倒せる」


 騎士ヨアヒムの言葉に迷いはなかった。歴戦の英雄が絶対の自信を胸にそう言い切った。


「この戦力差を、お前とコルベット1隻でひっくり返すだと……?」


「最初は遠距離からの艦砲射撃だけでいい。遠距離ならやつらのミサイルも迎撃できるはずだ。悪いが、囮になってくれねぇか?」


 続けてその討伐対象は言った。

 勝てないと判断したらその時点で撤退してくれていい。少しの間だけ注意を引き付けてくれ、と。


 その男は一時期はコモンウェルス星団の英雄と呼ばれた男だ。その大言壮語には多少の説得力があった。


「何をするつもりだ?」


「俺っちのコルベットのステルスシステムは最新式だ。やつらもいまだに気付いてねぇ」


「ふむ……見たところそのようだな……。だが、君の持つ戦力はたかがコルベット1隻だぞ?」


 現実を突きつけられても騎士ヨアヒムの自信は一片も崩れなかった。勝利への絶対の確信を胸に抱いていた。


「そちらに砲撃が向いたところで旗艦の腹に食らいつく。旗艦さえ大破させれば、そちらにも勝ち目があるぜ」


「自分の船を特攻させる気か?」


「ああ、話が早くて助かるね。大切な俺っちの船だが、他にねぇ。俺っちと一緒に、辺境宇宙の英雄にならねぇか……?」


 指令は考えた。騎士ヨアヒムを倒すにしても、彼のコルベットが目障りだ。同じ手口で奇襲をかけられてはたまらなかった。


「旗艦を大破させられなければ我々は撤退する。それでもかまわないか?」


「そこはゼッテー大破するから考える必要もねーぜ。俺っちの力、見ただろ? あの力はよ、物理法則を無視するデタラメの力なんだ」


「……よかろう。ならばこれからヤマシタ元帥に通信を入れる。決断はあの方の采配に委ねよう」


「ああ……。俺っちの奇策の裏をかいてくれた、あの爺様なぁ……。せっかく道化を演じたってのに、厄介なお人だよ……」


 騎士ヨアヒムのグチに指令は笑った。

 元帥からの判断と通信を待つことになり、一度通信が切られた。


 それからファンタジアの時間で1日が過ぎると、ようやく本国の元帥からの高速通信が帰ってきた。

 長距離の通信となると、一方通行のビデオレターが宇宙の常識だった。


 巡洋艦のブリッジと、戦地のヨアヒムの前に、骨と皮と白髪頭の老人がホログラム映像で浮かび上がった。


「久しいな、ヨアヒム。ワシの誘いに乗って軍にくればそんな苦労を背負い込む必要はなかったというのに、カッカッカッ、いい気味だ!」


「このクソジジィ……」


「そちらの提案だが――面白い、乗ろう。どちらにしろやつらを足止めせねば、近隣のコロニーも同じ憂き目に遭う」


 共同作戦が承認され、ヨアヒムは重い安堵のため息を漏らした。陽動がなければこの作戦は成功させようがなかった。


「だが艦隊を失うわけにはいかぬ。負けが見えれば艦隊はすぐに下げる。せいぜい死ぬ気で敵に食らいつけ」


「おう、元より俺っちはこの星の民を守らなきゃならねぇ立場だ。俺っちは惑星監視官だ。彼らを守り、導く義務がある。支援を頼む……決して悪いようにはしねぇ……」


 そのやり取りはデータ化され、通信担当により本国へと送信された。誰も騎士ヨアヒムを疑う者はいなかった。彼は惑星監視官として、国に任された星を必死で守ろうとしているだけだった。


「さて、と……。ずいぶん手こずらせてくれたが、決着を付ける時がきたぜ、人攫いども……」


 通信回線はまだ閉じられていない。その惑星監視官は己の姿をスパイドローンに撮影させたまま、天を見上げた。


「今いくぜ、ニナ」


 ブリッジの者はヨアヒムが遠隔操作でコルベット船に特攻をかけさせるつもりだとばかり、勘違いしていた。

 だがその男はあろうことか、とても信じられないことに、非常識にも――『生身で大気圏突破』を試みた。


 騎士ヨアヒムの身体が重力を無視して浮かんだ。それから反重力でも発生させているかのように、天空への加速度的な飛行を実現した。


 目指すは大気圏、その先の惑星シールドの向こう側。これから彼はコルベット船への帰還を試みる。

 命を賭けた戦いだ。一度星を離れれば、50倍の速さで彼は時から取り残される。ヨアヒムはヴィオレッタに同行させていたスパイドローンに緊急通信を送った。


「ちょいと星の世界に行ってくる。てかもう向かってる」


「な、何っ!? いきなりどういうことだ、ヨアヒムッ!?」


「生きて帰ってこれたら、俺と交際してくれ。俺の家にきてくれ。一緒に暮らしてくれ。俺ぁ、アンタが欲しい」


「待てっ、よくわからんが無茶は止めろっ! ヨアヒムッ、せめて某を連れて行け!!」


「悪ぃが星の世界に行けるのは俺っちだけだ。んじゃ、ちょいとぶちかましてくんぜ。もしかしたら、今夜は綺麗な流星が降り注ぐかもな」


 魔王はライトニングシールドで紫外線を防ぎ、地上の空気を包んで大気圏に持ってゆき、そして本当に生身で、両手を使って惑星シールドの網をこじ開けた。


「ハハハッ、行けんじゃねぇかっ、宇宙!! 帰ってきたぜ、俺っちのニナ号ッッ!!」


 ブリッジの者たちは驚愕した。騎士ヨアヒムと呼ばれたコモンウェルスの英雄が生身で大気圏を離脱し、ステルス状態のコルベットに潜り込み、通信を送ってきたのだから。


「軽く検証したらおっぱじめるぜ。準備しておいてくんな」


「夢でも見ているのか、我々は……。人が、船なしで宇宙に上がるなど、なんと非常識な……」


「しょうがねぇだろ、これちまったもんはよ」


 かくして惑星監視官ヨアヒムは自らの力で船へと帰った。彼の命をかけた特攻の結末やいかに。


 さあさあ皆様、今こそ山場。決してお見逃しなきようご注意を。

 これより始まるは、星を愛し愛された男の命がけの打ち上げ花火。果たして魔王バーニィ・ゴライアスは勝利して、同胞が生きたファンタジアの地を再び踏めるのでしょうか。


 視聴者の皆様、乞うご期待を!

 彼ならば必ずや、己の志を貫き通して下さることでしょう!


 あ、エネルギー通貨はまだ、まだ結構にございます。それは彼の勝利の祝砲といたしましょう。


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