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・魔王軍、人類を救う

「宇宙、人……? いや宇宙人にしては、俺たちにずいぶんと似ている顔をしているが……」


「おっ? 宇宙人って概念を知っているってことは、それなりに技術が発展した時代から召喚されてきたな、お前さん?」


 忘れがちだが、英雄たちはこの世界の人間ではない。この宇宙には存在しない別の次元、様々な時間軸からこの惑星ファンタジアに召喚されてきた存在だ。


 俺とニューフロンティア・コロニーのみんなは、その中でもレア中のレアケースってわけだ。


「魔王、まさかお前もなのか……?」


「おう、俺っちは宇宙船が恒星系から恒星系へワープする時代の人間よ」


「え、SFか……っ!?」


「そうよ。行き着くところまで行き着いちまった時代の人間なのよ、俺っちはよ」


 青の英雄ピルグリムには宇宙時代に憧れる青年の目で俺を見た。どうも俺が生まれた宇宙時代はある種のロマンらしい。


「俺のいた世界は、有人飛行は月までがせいぜいといった時代だった。なぁ、魔王、宇宙戦艦はあるのか? 大型の人型戦闘ロボは?」


「ロボはいるがまあ小型だな。大型化させる理由がねぇ。宇宙戦艦は存在するぜ。俺っちもコルベット船を1隻持っている」


「ま、魔王が宇宙船をっっ!? いったいどんなファンタジーだ!」


「ははははっっ、どうだ、すげぇだろ!! 自分の宇宙船を持ってるやつなんて、宇宙でもなかなかいるもんじゃねえんだぜ!!」


 ってところでアースガル王国の都が見えてきた。コイツを助けたのは咄嗟の判断だったが、ちょうどいいし外交のカードに使ってしまおう。


「待て、ちょっと待て!」


「いいや待たねぇな! このままこの国の謁見の間に突っ込むぜ!」


「しょ、正気か……っ!?」


「おうさっ!!」


 迎撃の弓と魔法をマジックシールドではじき返し、宣言通りに俺はバルコニーから城内部に突入した。

 王は謁見の間で公務中だったようだ。突然の乱入者に、槍と剣と弓が向けられることになった。


「ま、待てっ、彼は敵ではない!」


 満身創痍の英雄が俺をかばった。それが青の英雄であると王たちが気付くと、無礼なおっさんの正体を探ろうとこちらをうかがいだした。


「彼は天に民をさらおうとする船の舵を壊してくれた! その際に、捕らえられた私を助け出してくれたのだ!」


「そんで隠す気はねぇしぶっちゃけると、俺っちは先代のクソ野郎の代わりに召喚された――」


「お、おいっ、待て止めろっ?!」


「新しい魔王、バーニィ・ゴライアスだ」


 たちまち繰り出された弓と槍と魔法の嵐を全て弾き返した。先代の魔王は己の役割と破壊衝動に逆らわない、好戦的なアホだったからな、無理もない。


 俺は両手を上げて敵意がないことを示した。それでもやつらは攻撃を繰り出してくるのだから、魔王への敵意は相当のものだ。


「待ってくれっ、彼は他の魔王とは違う! 極めて理性的で、どうやら、破壊の衝動に全く囚われていないようなのだ……っ!」


 破壊の衝動。それに歴代の魔王は苛まれ続けてきた。しかし俺っちにはないようだ。

 俺が半サイボーグだからか、穏やかな魔王を望むデスが召喚の際に何か手を打ったのか、まあなんだっていい。


「俺っちのことなんてどうでもいいからよ。んなことよりよ、空からきたあの連中の正体、知りたかぁねぇか?」


「魔王よ、あれは貴様の尖兵ではないのか……?」


 ようやく王が口を開いた。老齢の彼は俺に対して懐疑的だ。まあ状況を考えれば無理もない。


「魔族が空に穴を開けて、そこから巨大な船に乗って降りてきたことがあったか? ありゃ魔族じゃねぇ、あいつらはルプトニクツ神聖略奪団だ」


 さらに詳しく説明してやった。科学技術はルネサンス前期ほどしかない彼らにわかりやすくだ。


「魔界側もアレに襲われたか……」


「おう、だが返り討ちにした」


「やつらに、勝っただと……?」


「警告の使者を送っただろ? 俺たちはやつらがくることを知っていた」


 残念ながら使者の言葉は王に届いていなかった。しかし魔王と戦っている場合ではないと王も理解してか、次第に柔軟になっていった。


「今だけでいい、停戦しないか? そちらに装備の援助をしたい」


「魔王が我らに、援助だと……!? そんなことは前代未聞だ……!」


「何か問題あんのかい? 魔王がこの星を守っちゃいけねぇか?」


「信じられぬ……。魔王バーニィ、そなたは、我らヒューマンまで守るというのか……?」


 当たり前の質問に俺は笑い返した。この星は俺の星だ。俺が見つけて、俺が見守ってきた星だ。その星の民をやつらになど奪われてたまるか。


「この星に俺に守らせてくれ。アンタたちを守らせてくれ。その証にコイツを青の英雄に貸し出そう」


 ビームシールドをデスに持たされていた。『貴方様に死なれたら魔族は――』なんとやらと、緊急手段として持たされた物だ。

 それを俺はデモンストレーションとして起動して見せた。


 たちまちに槍と弓と魔法が撃ち込まれたが、槍も弓も赤熱して、魔法と一緒に弾かれた。

 驚く彼らの前でシールドを解除し、それを青の英雄に持たせた。


「これがあればやつらの光の弓も弾ける。青の英雄もようやく対等にやつらと戦える、ってわけだ」


「おおおおっっ、ビームシールド!! 子供の頃から憧れていた!!」


「ははは、男の子はいつの時代もかわんねぇなぁ!」


 青の英雄は俺の前を離れ、国王との密談を始めた。国王は繰り返し肯き、やがてこちらへの警戒を解いた。


「不思議な男だ……。そなたは本当に魔王なのか……?」


「おう、だが俺は魔王である前に、この惑星ファンタジアの守護者だ。……停戦してくれるかい?」


 王が前に出た。護衛を押し退けて、青の英雄だけを従えて魔王の前に立った。先代魔王はとんでもない野郎だった。あの姿を見ていると、大した胆力だと賞賛できる。


「なんだ、ただの中年男ではないか。お腹は空いているかな、若いの?」


「ああ、魔力を使い込んじまって腹ぺこだ! なんかご馳走してくれるのかい!?」


「用意させよう。……皆の者、喜べ。今世代の魔王は平和的で話のわかる男のようだ。それにどこからどう見ても、その辺で飲んだくれているおっさんにしか見えぬではないか……!」


 そんなことはない。俺にはカリスマがあるんだ。魔界ではみんなが俺のことを尊敬してくれている。

 ……はずなんだが、謁見の間の連中は納得しやがった。


「魔王よ、この戦、勝てるか?」


 王が宿敵である魔王に問う。それに俺は堂々と答えた。


「無論、勝たせてやるよ。俺っちと一緒に戦おうぜ、アースガルの勇者ども!!」


 デスにも言っていないが援軍のあてもある。勝てなくても時間を稼げば、やつらをこの星から追い出すチャンスがやってくる。


 アースガル王が出してくれた遅い昼食には毒なんて入っていなかった。



 ・



 それから俺は拠点を転々としながら抗戦の日々を続けた。全てではないが多くの国が魔王軍との共闘を選び、半数が魔族の援軍を受け入れてくれた。


 デス、ヴィオレッタ、タンタルス、赤の英雄ドキルマ。多くの将が人間の領土に踏み入り、彼らと共に異星の人攫いと戦った。

 だが俺たちにとっての1ヶ月は、衛星軌道上の彼らの15時間だ。彼らが撤退を決断するには少なくとももう1ヶ月は必要と思われた。


 当然、あてにしている援軍の到着なんて1年後になるかもわからない。それでも俺たちは戦い続けるしかない。

 そう思っていたのだが、ステルス状態のコルベット船から突如通信が入った。


――――――――――――――――――――

警告:

 恒星系内にコモンウェルス星団・辺境警備隊が到着

 巡洋艦1 駆逐艦4 コルベット8

提案:

 彼らの戦力では敵艦隊の撃退は不可能

 増援要請を推奨します

――――――――――――――――――――


 援軍のあてはヨアヒム討伐隊だ。そのヨアヒム討伐を命じられた辺境警備隊は、惑星ファンタジア軌道上に宿敵ルプトニクツの艦隊を発見した。


「待っていたぜ、ヨアヒム討伐隊さんよ」


 我らコモンウェルス星団はやつらに800万人の民を誘拐された深い恨みがある。やつらはコモンウェルスが庇護するファンタジアに降下し、民の誘拐を企てている。


「さあこの状況、お前さんたちはどう判断する? 庇護すべき未開惑星を見捨ててここで逃げ出すなんて情けねぇ判断、してくれるわけがねぇよな?」


 ここで惑星ファンタジアを助けなければ、保護なんて嘘っぱちだ。ゴードンが言う通り、やつらは若い文明が力を付けるのを恐れているだけということになる。


 いや、撤退なんてさせてやるものか。必ずこの戦いに巻き込んでやる。俺はコルベット船を介して、俺を討ちにきた討伐隊に通信を入れた。


 惑星ファンタジアにはニューフロンティア・コロニーの魂が根付いている。同胞を見捨てて逃げるなんて、絶対にさせやしない。

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