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・惑星監視官、チート作物を魔界に植える

 話し相手には事欠かなかった。

 死んだ妹にそっくりのシルフ族が鱗粉を輝かせながら、ずっと隣を飛んでいてくれた。


「私、誤解してました……。パイアさんがエッチだから気を付けろと言うから、危ないおじさんかと、思ってしまって……」


「お、おう……そりゃぁひでぇ誤解だな……?」


「あの、びにーる、の中、種と言いましたけど、なんの種なのですか……?」


「おう、俺が創った種だ。この辺りの土地にしか順応しない、魔法の種だ」


 それは地表での実験を本国に提案したものの、許可が下りなかった無念の植物だ。


「わぁ……なんだか、楽しみです……。お、お兄ちゃん、面白い人、だと思います……」


「おう、期待していいぜ。ステラ、お前さんも素朴で裏のない感じがいいぜ」


 ステラはやっと名前で呼んでもらえてホッとしたようだった。


「空からきた俺から言わせるとよ、この星は妙だ」


「星、ですか……?」


「世界のことだ。前にこの世界の土を空に持って行ったことがあるんだが、そしたら魔法が解けちまった」


 土だけではなく何から何までそうだった。魔法の杖をコルベット船に持ち帰れば、それはただの真鍮の棒きれだった。


 この星固有の、祖国コモンウェルス星団に貢献してくれるはずの資源、技術、生物は、星から離れると魔法が解けて利用価値がなくなってしまう。


「ごめんなさい、私バカだから、よくわかりません……」


「ははは、俺もわかんねー話だから大差ねーよ」


 だから俺はこの惑星の地表に、この魔界に点在する特殊な土壌にこの種を蒔く実験を本国に提案した。

 そんでクソ上司に計画を凍結させられた。『結局持ち帰れないなら意味がない』と切り捨てられた。


「よしっ、夜明けまでかかると思ったがもう終わっちまった! 種を蒔くのを手伝ってくれるか、妖精さん?」


「私、足手まといではありませんか……?」


「んなわけねーだろ。辺りを照らしてくれて助かった。次は空から種を蒔いてくれよ」


「私……頭が悪くてどんくさいから……そう言ってもらえて嬉しいです……」


 腰から農具を外すと、空に浮かぶステラが俺の両肩に後ろから手をかけた。すると気持ち身体が軽くなったような気がした。


「戻りましょう……! びにーる、下さいね、びにーる!」


「いや、まあいいけどよ……? もっといいもの作ってやるぜ……?」


「私、びにーるがいいです……」


 ステラにガイドされて大地をまた駆けた。彼女の浮遊の力がさらに俺の身体を軽くして、一瞬で目的地まで運んでくれた。

 震動ナイフでビニール包装を解き、包装から袋詰めされた種をステラに渡した。


「わ……っ、これ、ツルツルしてます……! これも不思議っ、これも欲しいです……っ!」


「それもビニールの仲間だ。欲しいならやるけどよ……」


 どう見たってゴミじゃねぇかなぁ……。


「貰いますっ、全部下さい、全部!」


「いらねぇし全部やるよ……。袋の中の種を3メートル刻みで蒔いてくれ」


「3メートル……そんなにですか?」


「そんなにでかくはならないはずだが、実験だし念のためだな。実ったら驚くぜ」


 袋の開け方がわからないステラに開け方を教えてやると、作付け作業が始まった。


 羽根を持つステラと、地べたをバッタみたいに飛ぶ俺では作業効率が段違い。役立たずなんてとんでもない。彼女がいなかったら作付けだけで昼になっていたかもしれなかった。



挿絵(By みてみん)


 ・



 作付けが終わると、あくびを上げるステラを丘の耕作地から帰した。

 やはり彼女には寝床がなかったようで、魔王の部屋の絨毯で寝たいと言って帰って行った。

 男のベッドはさすがに抵抗があるようだった。


「おっと……なんだ、今度はアンタか」


 仕上げに入ろうとすると思わぬ邪魔が入った。


「魔王バーニィ・ゴライアス様、貴方は歴代の中でも相当の変わり者ですな……。言って下されば、カカシはカカシとしてお手伝いしたというのに」


 それは歴代魔王に仕えた最古参、カカシ男こと魔剣デスだった。


「んじゃ、鳥にほじくり返されないようにカカシになってくれ」


「は、ご命令とあらばなんなりと」


「冗談のつもりだったんだが、まあ……食糧事情を解決したいなら案外それもありかね」


 西の空が明るくなってきた夜明け前、魔剣を腰に吊したカボチャ頭のカカシに首を傾げられた。


「ステラから報告を受けたのですが、どうも要領を得ません。魔王様が農耕馬のようになって丘の上を耕していると聞いたときは、頭が空っぽになるかと……」


「元から空っぽだろ、そのカボチャ頭……」


「私、十八番のジョークでございます」


「はは、俺もカボチャ頭になる機会があったらソレ使わせてもらうぜ」


 俺は目を閉じ、ある魔王の動画データをロードした。それは俺にとっては数年前、この世界にとっては遙か昔の魔王様だ。


 説明が小出しになって申し訳ないが、この星は外から観測すると50倍の速さで動いている。

 俺が着任して8年の間にこの星では400年が過ぎていた。


「なんと、その術はまさか……そんな、あり得ない……っ!」


「豊穣の魔王クルトベレェ。歴代の中で最もおっぱいのでけぇ姉ちゃんの術を拝借するぜ」


「な、なぜ貴方がクルトベレェ様を知っているのです……!?」


「見てたからに決まってんだろ。我は天空に座す神ぞ、ってな、はははっ、いくぜっ!!」


 彼女が使った豊穣の魔法【ゴールデン・ハーヴェスト】を発動すると、金色の小雨が辺りに降り注ぎ、すぐに降り止んだ。


「正しくこれは、おやさしかったクルトベレェ様の術……おお、おお……っ、この術があれば困窮する我らは……っ!」


「んじゃ、カカシ役を頼んだぜ、最古参」


「はっ、承りました! カカシとして、近付く鳥獣を亡き者としましょうぞ!」


「まあそこは、ほどほどにな?」


 未開惑星に承認されていない遺伝子改良植物を根付かせれば、もはや過失がなかったは通らない。禁固50年は固いだろう。


 まあどっちにしろ本国にこの肉体を知られれば解剖ルートなんだ。それまで隠蔽しながら好き放題に余生を楽しむしかないな。


 俺は伝説上の怪物のように大地を跳ね回り、天高く飛翔して、与えられた寝床に戻った。


「ビニールを掛け布団にして寝るやつ、初めて見たわ……。本当に絨毯で寝てんのな……」


 暖炉の前の絨毯でステラが眠っていた。その寝顔はいくら見つめても、コロニーごと消えちまった妹そのままだった。

 掛け布団をかけてやって、俺は毛布一枚で遅い眠りについた。

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