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・宇宙の蛮族、惑星ファンタジアに降下する

 あの晩を境に暇と余裕が消えた。寝る間も惜しんで準備に奔走した。

 ヒューマンの国を含む各地への警告。迎撃体制の構築。スパイドローン対策。ビームソードとシールドの配布。やるべきことが無限にあった。


「ちょっ、ソイツ……ッッ、外に出したんすかぁっ!?」


 苦渋の決断だが奥の手も出した。危険な男だがこうなっては致し方なかった。


「ククク……しばらくだねぇ、ジャックくん。おっとっ、私に手を出したら我らが魔王バーニィが容赦しないよ」


 猫の手も借りたい俺は手柄泥棒のクソ上司ことゴードンの手を借りた。


「は、はぁぁーっっ?! コイツを自由にさせるとか正気っすかっ!?」


「悪ぃな、ジャック。だが手段を選んでいられる状況じゃねぇ」


 30年ほど前、ルプトニクツ神聖略奪団にコモンウェルスの軌道上コロニーが襲われたことがあった。

 結果は最悪だった。やつらとの艦隊戦で巡洋艦4隻と小型艦17隻を失った上に、コロニーの住民800万人が誘拐された。


 コロニーに残されていたのはロースクール以下の子供と老人だけで、ありとあらゆる貴重品が略奪された後だった。


「サイテーの状況っす……」


「ジャックくん……仲直りをしよう。同じ男に惚れたよしみで、私を許してくれたまえ」


「な、何言ってるんすか、コイツ……」


 ゴードンにとってはこの展開は追い風だ。牢獄から解放された上に、魔王バーニィがこのファンタジアに宇宙時代の技術を与える決断をした。


「ゴードン、プラズママスケットの配備、任せたぜ。やつらの推定到着時刻は半月後だが、当然速まる可能性もあり得る」


「ククク……野蛮人の啓蒙もあながち悪くない。既に技師どもは私を智の神と呼んでいるよ。研究部門長と呼ばれるよりも気分がいい……」


 人格はともかく、ゴードンの軍事関連技術への造形の深さは本物だ。


「プラズマって……。けどどうやって動力を確保する気っすか?」


「ニューフロンティア・コロニーの動力を使う。お前さんは引き続きスパイドローン狩りを頼む」


 いったいこのアンドロイドはどこからきたのやら、ジャックのセンサーはコモンウェルスの技術力を超越していた。

 彼がいなかったら敵のスパイドローンを満足に排除できず、こちらの動きが筒抜けになってしまっていただろう。


「任せるっす。アンタならこの星を救えるっす。アンタは宇宙最強の戦士っす」


「おうっ、やつらに泡吹かせてやろうぜ!」


「ククク……潤沢なシルバークリスタルを利用した最強のプラズマ・マスケットを保証しよう」


 ルプトニクツ略奪団の手口は必ず奇襲から始まる。高機動の船で強襲し、主力艦隊が到着するまでに全てを奪い取る。

 だがここは惑星ファンタジア。時が50倍で流れるこの星の俺たちに奇襲は通じない。


 ありったけのリソースを割いて、俺たちは迎撃体制を整えていった。



 ・



 それから16日間が経った朝方頃、惑星ファンタジアの空に爆音が轟いた。それは惑星シールドを破るために、ルプトニクツの軍艦が対艦魚雷を叩き込んだ衝撃音だった。


 魔王必死の警告を笑い飛ばした諸々のあん畜生どもは、警告が真実となって天に穴を生み出したことに今頃はさぞ肝を冷やしているだろう。


「ひっ、ひぃ……っ、普通に怖いんですけどぉー……っ!?」


「本当に星の世界から、私たちを誘拐しにきたなんて……」


 パイアとステラは自宅から天を見上げ、恐怖に張りつめた顔で震え上がっていた。見上げた空の穴から数え切れないほどの流星が世界に降り注ごうとしていた。


「ウンブラにいりゃ安心だ。外のやつらはみんな俺っちがやっつけてやる」


「う、うん……でもさ、死んだらやだよ……? 家族に死なれるのは、もう嫌……」


「安心しろって、お前さんのパパは左半身を失っても生きてた不死身の男だぜ。うおっとぉっ!?」


 不安そうに抱きついてきたパイアをやさしく抱き留めた。ステラにも手招きをして、同じように勇気付けた。


 二人が落ち着くと魔王殿の謁見の間を訪れた。集まった閣僚たちの前で、スパイドローンのリアルタイム映像を配信した。


 流星に見えた物は大型の輸送艦だった。そこから全身をバトルアーマーで包んだフルフェイスヘルメットの宇宙人がヒューマンの都に現れて、軍兵舎への銃撃を始めた。


 襲撃があるとこちらが警告してやったのに、防衛隊は奇襲により一方的に殲滅されていった。すぐに大型ドローンを駆使した民の拉致が始まり、人々は逃げまどった。


「これがやつらの戦い方だ、今のうちに頭に叩き込んでおけ」


 拉致された民は異星に運ばれ、奴隷労働者として売り飛ばされる。当然、そこには希望なんてない。捕まれば二度と母星に帰れない。未開惑星行きの便なんて、この宇宙に存在しないのだから。


「命じてくれ、ヨアヒム!! こんなもの見ていられない!!」


「おっと、ヒューマンが嫌いじゃなかったのかい、ヴィオレッタちゃん?」


「それとこれは別だ!! そなたは正しかったっ、やつらはこの世界の敵だ!!」


 魔将ヴィオレッタがそう叫ぶと意識が一つにまとまった。魔王バーニィの警告はあくまで警告。だがこれで全て現実となった。俺たちは敵を倒し、我が身と家族を守らなければならない。


 覚悟が決まったところでドローンがアラート音を響かせて映像を切り替えた。第二波の地上降下だ。

 流星となって輸送艦が降り注ぎ、そのうちの1つが魔界東部のある都市に降下した。


 そこはヒューマンの存在抹消を是とする大派閥【血と生け贄】派の中枢都市カースウィ市だった。


「うしっ、第二軍から五軍、およびサイボーグ部隊はカースウィ市の救援に迎え! 残りは待機! 俺っちに代わり、カリストレスとデスの指示をあおげ!」


 命令を下すと隊長とジャック、タンタルスが配下を従えて魔王殿を出て行った。

 しかしヴィオレッタちゃんは穏やかではない。彼女率いるアルブケルケ軍は出撃を命じられなかった。


「ヨアヒムッ、なぜ某を外すっ!! 某は留守番などお断りだ!!」


「おう、そう聞こえたか?」


「まさかそなた、某を女扱いしているのではあるまいな!? だとしたら許さぬぞ!!」


「おいおい、何言ってやがる。お前さんほど頼もしい相棒がいるかよ」


「ならば――なぁぁっっ?!」


 ヴィオレッタに浮遊魔法をかけた。彼女は初めて無重力を体験した動物のように驚き、空中で手足をばたつかせた。


「デス、ここの防衛は任せたぜ」


「御意に」


「カリストレス、バックアップを頼むぜ」


 俺は逆さになって浮いているヴィオレッタちゃんを抱き寄せると、大地を蹴って窓に飛んだ。


「魔将ヴィオレッタ、お前さんには俺っちの護衛を任せる」


「そうならそうと最初に言えっっ!!」


「悪ぃ。さあ、やつらを魔界から追い払うぜ、ヴィオレッタちゃん!!」


「人前でその呼び方を止めろと言っているっっ!!」


「ハハハーッ、んじゃ、いってくんぜ!!」


 ステラとパイアにはカリストレスのサポートを任せた。俺と一緒に暮らしているのもあって、宇宙時代の技術に慣れてきている。


 大切な家族に俺は手を振って空を翔た。


「飛ばすぜ、ヴィオレッタ!!」


「ああっ、某らで守ろう!! そなたがくれたこの槍と盾で、やつらをバラバラにしてくれる!!」


 俺たちもまた1つの流星となって、決戦上へと駆け抜けた。ヴィオレッタは戦いを前にすると別人のように凛と鋭くなる。

 男だ女だなんて関係ない。これ以上に頼もしい相棒なんて他にいるはずがなかった。

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