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・惑星監視官、嵐の丘に地下隧道を掘る

 遺物都市アルテマ。ドローンに潜入させ、レポートを何度か本国に送ったことがある。古代遺跡がもたらすインフラを頼りに成り立つ、謎深き交易都市だ。


 ウンブラとの距離は約11キロメートルの隣町であるが、先述の通りその間に嵐の丘がそびえている。

 俺の勝手な推測だが、嵐の丘は自然現象としてはあまりに局所的で不自然だ。アルテマの古代遺跡となんらかの関連があると思われる。


「てぇことでよ、これ以上バカなことするやつが出てこねぇ前に、ちょいとボランティアをしようと思うんだが、手伝っちゃくれねぇかね?」


「某たちが、そなたを? そんなこと言って、また隙あらば某にスケベなことをするつもりだろう……」


「魔王様が悪いワン!」


「そうワフ! 交尾したいなら交尾したいって言うワフ! キャィンッッ?!!」


 今、ウンブラは労働者が足りていない。ヘズンの牙の復興にリソースを割いている間は、金も労働者もカツカツの状態が続く。

 だから俺はコボルトたちとその大将のヴィオレッタを頼った。


「お、おうっ、ぶっちゃけると交尾してぇ!! ゲホハァァッッ?!!」


「は、恥を知れっっ、この変態魔王っっ!! くぅぅっ、やはり、某がそなたを正しい方向に導かなければならないようだな……っ!!」


 ヴィオレッタは奥行きのあるおっぱいを弾ませて魔王の注意力を奪うと、鮮やかな延髄蹴りで相手を壁まで吹っ飛ばした。


「はー、バカ過ぎ……」


「お、お兄ちゃんっ、そういうのは……っ、えと、結婚してからすることだと思いますっ!」


「同感だ。……ふぅっ、それでヨアヒム、某らに何をさせるつもりだ?」


 壁際ではいつくばる俺に、ヴィオレッタは胸の前で腕を組んで不機嫌そうに見下ろした。しかしその頬は赤く、エロいことに免疫のないその様子がかわいらしいったらない。


「嵐の丘の下にトンネルを掘ろうと思うんだが、知っての通り労働者が足りていねぇ」


「あそこにトンネルだと……? とんでもないことを考える男だな……」


 ヴィオレッタの手を借りて立ち上がった。ずっと触っていたいくらいにやわらかい手だった。


「さっき、お兄ちゃんがキャラバン隊を助けたんです……。アルテマから嵐の丘を命辛々越えてきたって、言っていました……」


「魔王様が口を開くと脱線するからー、あたしらが説明するよー。なんかさー、よくわかんないんだけどさー」


 代わりに説明してくれるというので玉座に座って俺も説明を受けた。


「というわけで、この人……アルテマ市までのトンネルを自分で掘るって言ってんの……。バカじゃないの……」


「おう、たまには肉体労働しねぇと身体がなまっちまう! お前らには土砂の搬送を頼みてぇ!」


 コボルトたちはちょっと嫌そうだったが、その親分のヴィオレッタは好ましそうに俺に笑った。


「それならば跡地がある。古のウンブラの民が造ろうとして諦めた物らしい」


「おお、そりゃ助かる! そこから掘っちまおう! 古代人から夢のバトンタッチってわけだ!」


「某はスケベなそなたが大嫌いだ」


「うぐぉっっ?!! そ、そりゃねぇぜ、ヴィオレッタちゃん……」


「ざまぁーっ♪ そりゃ嫌われるっしょ~♪」


 キッパリと言われておっさんなりに傷つく俺に、パイアが追い打ちをかけた。ステラの方は心配そうに様子をうかがってくれた。


「だが、率先して行動し、自ら前に立とうとするその姿は好ましく思う。喜んで我らアルブケルケ軍はそなたに協力しよう」


「へへへっ、ほら聞いたかパイア? ヴィオレッタちゃんは俺っちのことが好きだってよ!」


「ふんっ、そなたなんて大嫌いだ」


 照れくさそうにそっぽを向くヴィオレッタの可憐な姿に、俺のテンションはうなぎ登りだった。今なら軌道上のコルベットまで泳いで行けそうな気分だ。


「うしっ、んじゃ説明するぜ! ここに取り出したるプラスチール製のつるはし、掘削道具はこれ1本だ!」


「え、ええ……っ!? いくらなんでも、お兄ちゃんでもそれで11キロメートルは……無茶じゃ……」


「常識がないんだよねー……星の世界の人たちってさー……」


「フッ、面白い、ならばやってみせろ! 見事成し遂げたときは、某がどんな頼みも聞いてやろう!」


「よっしゃっ、その話乗ったぜ!!」


 コルベット船の設備がなくても俺はやれる。最悪、コルベット船が戻ってこれなくても、ちゃんと魔王様をやれるようにならないといけない。

 俺はコモンウェルスの技術を使わずに、ツルハシ1本で奇跡を起こしてみせる。


「ただし、いかがわしい要求は当然拒む」


「な……っ、なんだよそりゃぁぁ……っっ!?」


 天に昇った俺の心は大気圏で燃え尽きた。


「そんなに残念がるやつがいるか……っ! まったく学習しない男だ!」


「はー、ホントどーしょもないエロ魔王……」


「あの、お兄ちゃんがごめんなさい……っ! えと、きっとっ、冗談で言ってるんだと思います……っ!」


「そなたはやさしいな……。わかった、ここは冗談ということにしておこう」


 しばらくグタグタのやり取りが続いたので割愛する。

 とにかくその後、ステラとパイアに無理を言ってモイライ絹の増産を頼んだ。今日きたキャラバン隊に安く提供してやって、俺が築いたトンネル経由でお帰りいただくためだ。


「いいよ、やっておいたげるー! まったくスケベでお節介なんだからー!」


「急いで仕上げますね! 私、お節介のお手伝いができて嬉しいです!」


 話がまとまると二人は天使のように謁見の間から窓の外に飛んでいった。


「泥は毛が汚れるから嫌いだワン……」


「ワフはがんばるワフ。ヴィオレッタの姉御の恋路のためワフ!」


 俺はヴィオレッタの案内で古いトンネル建設現場へ歩いてゆき、モチベーション低めのコボルトたちの音頭を取った。


「おいお前らっ、テンション低いぞーっ! アルテマは交易都市っ、トンネルさえ作れば魔界中の美味いもんが流れてくるんだぞっ!」


「ほ、本当ワフッ!?」


「当たり前だろっ! ウンブラも賑やかになってみんなが喜ぶ! さあがんばろうぜっ!」


「ワォォォーンッッ、ちょっとだけがんばってみるワンッッ!!」


「ああ、そなたの頑張り次第では、こちらもご褒美を譲歩してやってもいい……。某もアルテマ商人であふれる往来を見てみたいからな……」


 いける。このあふれるスケベ心があれば俺は起こせる。力業の奇跡を。

 古のトンネル建設予定地に入ると、俺は岩盤質の岩壁にツルハシを叩き付けた。


「魔王の力をこんな方法に使う者など、そなたが初めてだ。だが、いけるな、これは」


 一撃で岩盤を1メートル弱ぶっ壊せた。


「へへへ、つまりあと1万回振れば、向こう側にたどり着けるってわけだ!」


「大き過ぎる塊は我が砕こう」


「おお、そりゃ助かるぜ!」


 モッコでは搬送できない塊をヴィオレッタが拳で砕いてくれた。砕かれた岩はコボルトのペアがモッコに乗せて、トンネルの外に担いでゆく。


「ふぅ、案外こういうのも楽しいものだな……」


「俺っちは最初から楽しくなるってわかってたぜ」


「疲れたら言え、代わってやる」


「おう、助かるぜ!」


「……むぅ。やはり、スケベ過ぎるところ以外は好ましい……」


 小声でヴィオレッタがそうつぶやく。すまねぇが機械化している俺の左耳はそれを聞き逃さなかった。


 ヴィオレッタとは気が合う。歯に衣着せない真っ直ぐさも俺には好ましい。交際してほしいと頼むのは、さすがにお願いの限度を超えているかね……?


「つるはしを貸せ!」


「お、おおっ!?」


「代われ、見ていたら某も無性に掘りたくなってきた!」


「はははっ、いいぜ!! 1人で掘るより断然楽しいってもんだっ!! マイトマジックッッ!!」


 掘削能力のからくりはこの【マイトマジック】の魔法だ。筋力強化魔法も魔王が使うとその効果は絶大となる。


「余計なお世話と言いたいところだが――これはいい! 気に入った、疲れるまで某が掘ろう!」


「おいおい、そりゃねぇぜ、ヴィオレッタちゃん……」


 俺たちは粉塵まみれになりながらも、互いに笑い合いながらどこまでもどこまでも掘り進めていった。


 またガチの蹴りを入れられちまうから口には出さねぇけど、ツルハシを振るうヴィオレッタちゃんの姿は……そりゃもういい眺めだったしな、うへへへ……。


 未開惑星万歳! 保護条約なんてクソ喰らえだ! コルベット船なんてなくても俺はこの星でやっていけると確信した!

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