表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/46

・惑星監視官、天より救いの星を落とす

 話が前後するが俺は元々、深宇宙探検隊の騎士だった。7名ばかしの従士を従えて深宇宙を探検していた。

 騎士といっても貴族というわけではない。探検隊を束ねるために便宜上の地位や特権、肉体改造を受けただけの小市民だ。


 で、回りくどくなったが俺は肉体改造を受けている。そのうちの1つがこの脳内インプラント(・・・・・・)だ。俺の脳は衛星軌道上のコルベット船と繋がっている。


 意識して目をつぶると視界がコンソール画面に切り替わって、さっき盗撮したパイアちゃんのおっぱいが揺れるところを拡大して見れる、ってわけだ。


「ちょっと散歩してくる。寝るところがないなら俺っちのベッドを使っていいぞ」


「え……っっ」


「なんだ、兄ちゃんに甘えたいのか? 安心しな、夜明け前までには戻ってくるぜ」


「こ、困ります……っ、デス様に怒られてしまいます……っ」


「あいつはそんなやつじゃねぇよ」


 あのカカシ男は特異で優れた個体だ。そういった軍事利用できそうな個体は優先度の高い研究対象だった。


「一晩で食料問題を解決してやるから待ってろ、って伝えておいてくれ。……お?」


 空を見上げて歩き出すと、気の小さい彼女に背中からしがみつかれた。空を飛ぶ種族だからか、恐ろしく軽い身体だった。


「勝手ことされたら困ります……っっ」


「ははは、神様ってのは身勝手なんだよ! よっとっ!」


「キャァァァーッッ?!!」


 ニナを抱き上げて肩に乗せた。魔王の力の恩恵か、なんの負荷にも感じられなかった。


「しょうがねぇ、兄ちゃんと一緒に行くか!」


「えっえっえっ、ど、どこへ……ですか……?」


「あの丘の上だ」


 月明かりに照らされた魔界の丘を指さして、俺は大地を蹴った。たった4歩で50メートルを走り抜ける非常識なおっさんがいるとすれば、それはこの地上で俺だけだろう。


 悲鳴を上げるニナに笑いながら、俺は目標地点まで魔王の力と科学の融合の結果を検証した。

 俺の左半身と左目は機械だ。探検家時代に敵対宇宙人に船ごと吹っ飛ばされた。


 右足で5メートル、サイボーグ化した左足で20メートルも飛べる俺は歴代魔王の中でも最高の瞬発力の持ち主だった。


「すげぇな、魔王の力は! ……ありゃ? おーい、ニナ?」


 ニナは失神していた。羽根を傷つけないようにうつ伏せに寝かせて、それから空を見上げて目を閉じた。


――――――――――――――――――――

管制AI:指定の作物の培養が完了

管制AI:小型コンテナに梱包、指定の座標に投下

管制AI:推定到着時間、13秒後

――――――――――――――――――――


「ぁ……ここは……。え、流れ星……? えっえっえっ、星が落ちてっ、ひゃぁぁぁーっっ?!」


 ニナからすれば隕石が落ちてきたようなものだ。彼女は大地を揺らす衝撃に飛び起きて、兄の背中に戻ってきてくれた。

 落下地点には小さなクレーターができていた。コンテナは魚雷に似た形状で、今は高温になり辺りに陽炎を生み出している。


「心配ないぜ、こりゃ天空の城からちょっと荷物を落としてもらっただけだ」


「わ、わからないです……」


「結果だけ見りゃいい。ええと、氷の魔法、氷の魔法……」


 クレーターの底にあるコンテナに腕を突き出して、俺はデータベースから先代魔王が使っていたブリザードの魔法の動画データをロードした。


「ブリザード」


 大仰過ぎる先代の動作を模倣して、再び腕を突き出して魔法を唱えると、輝く冷気が赤熱するクレーターを急速冷凍した。


「う、嘘……先代の魔王様でも、覚えるのに一週間かかったって聞いたのに……」


「ちょっとズルしただけだ。おし、お宝回収といこうか」


「え、お宝、ですか……?」


「実はな、このお星様……」


 近付いて暗号キーを送り込むと、コンテナの平らな底部に継ぎ目が現れて、外開きの窓のように開いた。

 中には培養させたある植物の種と、家畜用の農具を複製したパーツが入っていた。


「種も仕掛けもあるんだわ」


 ビニール包装された種をニナに受け取らせると、どんだけ非力なのやらたった5キロほどの重さによろめいた。

 俺は農具のパーツを取り出し、クレーターの外でそれを組み立てた。


「さて、それをちょっと離れたところに運んでおいてくれ」


「お、重たい……けど、がんばります……っ」


「終わったら帰っていいぜ、さすがに長くなりそうだからな」


「よくわかりませんけど……私たちのために、してくれているのですよね……?」


「どうだろな。まあ結果的にそうなるか?」


 アリの巣の前に砂糖を盛ることは善行か?

 わからん、哲学の領域の話になっちまう。


「魔王様が何をするか、お空から見ています……」


「そうか。飽きたら帰って、暖かくして寝な」


 本来は馬や牛が引く農具を腰に装着した。コルベット船のレプリケーターに造らせた物だ。レプリケーターっていうのは――材料とレシピさえあればなんでも造れる複製機だ。


「よし、いっちょやるぜっ!!」


 理屈はいい。重要なのは結果だ。

 俺は前に進むだけで地面を耕せる農具を腰に大地を駆けた。


 農具が土煙を立てて大地をひっくり返し、耕作可能な土壌に変えていった。岩があれば岩ごとひっくり返し、大岩は蹴り飛ばし、大きな樹木は華麗にカーブして、丘の上に広大な耕作地を築いていった。


「私……魔王の力を、こんなふうに使う人、初めて見ました……」


「はは、俺も空飛ぶ女の子は初めてだぜ」


 ニナは帰らずに蝶の羽根を羽ばたかせて、月明かりの下を併走してきた。俺の本当の妹は空を飛んだりはしなかったな……。


「あの半透明の不思議な袋、いらないなら後でもらえませんか……?」


「ビニールを? まあ、そりゃ別にいいが」


「透けていて、やわらかくて、綺麗だと思います……」


 俺の居た世界じゃゴミ箱一直線のやつだぜ。なんて無粋なことを言うほどバカじゃねぇ。


「他に欲しい物があったらなんだって言え。なんだって兄ちゃんがお空の魔法で作ってやるよ」


「ありがとうございます……! 私、びにーる、大切にします……!」


 もっとマシなもんを後でくれてやるか……。

 俺はコルベット船が提供する地質データを照会しながら、適した土壌だけ開墾していった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ