・星からきた同胞、新生魔王軍に下る
ヘズンのの牙を離れて、また一方――
「アンタ、半サイボーグっすよね……? 電磁パルスの直撃を受けて、なんでピンピンしてるんすか……?」
「おう、俺っちは魔王様だからな、色々抜け穴があるのよ、種も仕掛けもねぇ魔法ってやつがよ」
ヘズンの牙の戦いが新生魔王軍の快勝で終わったその頃、電磁パルスから待避したジャックたちの前に魔王バーニィが現れた。
爆心地にいたもう1人、手柄泥棒のゴードンは仮死状態。バーニィが引きずってここまで運んできた。
センサーによると電子パーツの損傷が著しく、どうにか生命維持機能だけが動いている酷い状態だった。
「ソイツを俺に近付けないでほしいっすっ!! 近付くだけで回路にノイズが走ってたまんねぇっすよぉっ!!」
「ああ悪ぃ、お前さんアンドロイドだっただな……。しかしまぁ、変わり種がきたもんだ、完全に騙されたぜ」
バーニィはこう思ったことだろう。
コモンウェルス星団にもアンドロイド労働者はいるが、こんな個人主義を極めたような変な個体は見たことがない、と。
「はははーっ、まあその話は後ほどゆっくり……。それより、マジでどうやって生き延びたんすか……?」
「あ? んなのライトニングシールドの魔法を使っただけだぜ」
「ま、魔法……っすか……?」
「おう、この魔法を使うとな、電気や磁気的な影響を無効化できる」
ジャックの社交モジュールがプチフリーズした。極めて非論理的な方法で、目の前の半サイボーグは電磁パルスの大爆発を生き延びたという。
「は、はぁっ、そんなのアリっすかぁっ!? アンタデタラメっすっ! 存在自体が科学の全否定っすっ!」
「おう、元科学者として俺っちも笑っちまうぜ! だけどよ、この惑星ファンタジアでは大昔から、理屈より奇跡が上にあんのよ!」
「ま、いいっす……。それよりアンタと話し合いたいことがあるっす。ここにいるみんなで決めたことっす」
決戦場で電磁パルスの嵐が吹き荒れる中、ジャックたちはコルベット船の船員たちも交えて話し合った。……これからの身の振り方を。
「単刀直入に言うっす。このままじゃ隊長は動力切れを起こして死ぬっす、助けてやってくれねぇっすか……?」
「何言ってんだ、その人は俺っちを庇って大怪我したんだぜ? 死なせるかよ、ぜってー助けてやるから安心しな」
ジャックは取引のつもりで話を持ちかけたのに、ヨアヒムはなんの代価も請求してこなかった。ジャックはますますヨアヒムに興味を持つようになった。
「ありがとう、騎士ヨアヒム!」
「悔しいが我々の負けだ、お前はとてつもなく強い」
「宇宙に戻れないのは残念だが……。私たちは今や、この未開惑星に墜ちた遭難者にも等しい……。この先は生き残ることを優先したい……」
ヨアヒムは討伐隊の切り替えの早さに驚いていた。まんまとやられてしまったジャックたちにとっては、その驚く顔がせめてもの慰めだった。
「ここにいるのはみんな捨て石っす」
「へ……?」
「自分たちは、実験的亜空間航法を使ってここにきたっす」
「な、なんだそりゃ……?」
目を点にするバーニィに軍用コルベットのセンサー担当が答えた。
「貴方が知らなくて当然です。これは最近になって考案された極秘の技術で、この航法を使うと高速で目標の宇宙に移動できるのです」
「そ、そんなのずりぃぞっ!? 俺っちは時間稼ぎのために茶番劇を演じたってのに……そんなの聞いてねぇぞ、おぃぃっ!?」
「しかし残念ながらノーリスクではないのです。ジャンプの成功率は57%、残りの43%は行方不明となるのです」
そう、彼の前にいるのは裏切り者のヨアヒムを止めるために、57%の賭けに挑戦したギャンブラーたちだった。
驚き、自分たちを見る目が変わるのがジャックたちは心地よかった。
「そのセンサー担当は仲間を誤射した罪で、軍法会議にかけられてた人っす。自分たちはいわゆる捨て石の懲罰部隊っす」
「騎士ヨアヒム、私たちを雇ってはくれませんか? この星の勢力で最も信頼できるのは貴方です」
「できるなら宇宙に帰りたいけど、この星の技術力じゃ脱出は不可能だ。いやできる人間がいるとすれば、ヨアヒム・バーニィ・サンダースだけだろう」
ヨアヒムが討伐隊に致命傷を与えなかったのは、最初から全員を麾下に入れるつもりだったからだ。それは少し考えれば誰にでもわかることだった。
「自分ら全員っ、アンタの仲間にしてほしいっすっ! まあ他に選択肢がないのもあるっすけど、アンタについた方が絶対面白いっす!」
「おい、ジャック、遊び半分でとらえてんのは、さすがにお前さんだけだと思うぜ……?」
「いや最高じゃねーっすかーっ!」
「は、はぁ……っ!?」
「これこそ我が身で体験する最高のリアリティショーっすよ! 自分、こういう人生を待ってたっすぅー!」
「いや普通そうならねぇだろ……。どんな設計者に作られたんだよ、お前さん……」
その問いの答えはジャック本人にもわからない。ジャックは元々、自我に目覚めたはぐれドローンだった。運命に流され、巡り巡りってここにいる。
「未開惑星に降りて、その星の民と肩を並べ、神と崇められたり、恋をしたり、アルコールという原始的なドラッグに恍惚する!! この生活に憧れねぇ者は宇宙にいねぇっす!!」
ジャックが歌うようにそう叫ぶと、捨て石部隊たちはその言葉に賛同した。『騎士ヨアヒム、自分だけこんな贅沢をするなんてずるいぞ』と、陽気に文句を言う者まで現れた。
「けどよぉ……本国の連中は俺っちを許しゃしねぇぜ……? そんとき同胞と戦うことになるんだが、お前さんたちそれでいいのか……?」
「自分は面白い方の味方っす!」
「え、映像を見たぞ……! ケ、ケモ、ケモ種族と僕、お知り合いになりたい……っっ!!」
「ぶっちゃけますと、あれは誤射ではありませんでした。銃を向けられたので、こちらが先に撃ち殺したのです。後悔はありません」
「隊長はいい人だ。隊長を直してくれるなら俺はお前に忠誠を誓う」
「自分らはぐれ者を人間扱いしてくれんの、隊長だけっすからっ!」
かくしてヨアヒム討伐作戦は失敗に終わった。コモンウェルス星団はこれを磁気嵐による不幸な壊滅と判断し、嵐が収まり次第第二波を送ってくるだろう。
「お、お前らなぁぁ……っ!? 言っとくが惑星ファンタジアはお前らの遊び場じゃねぇぞ!?」
「そーっすかぁぁー……? そっちこそ魔王の立場使ってやりたい放題やってるんじゃないっすかぁー?」
「し、してねぇよっ! 節度ある魔王だよ、俺っちはよぉ!」
未来のことは誰にもわからない。だが一つだけ確かなことがある。騎士ヨアヒムのその場限りのこの虚勢は、今夜の凱旋パーティの場にて暴かれることになる。
語り部Xはその時、『やっぱ嘘じゃねーっすか、ギャハハーッ』と、存分に笑い飛ばしてやるつもりだった。
さてさてでは皆様、それでは名残惜しいところですが、このたびのエピソードはここまで。
お楽しみいただけたようならば、観測者として何よりでございます。
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それではごきげんよう。次回もお楽しみに。