・惑星攻略型モンスター部隊VS魔王軍レーザー装備部隊
・語り部X
ゼノモンスター。それは深宇宙探検隊が発見した異星生物から生まれた【悪意の結晶】である。探検隊の手により採集された異星生物たちは首星アークトゥルスに送られ、そこで医療・産業・兵器への利用が研究された。
騎士ヨアヒムのこの分野への貢献は著しい。彼はその勇敢さと注意力でおびただしい数の異星生物を発見し、首星で待つ研究者の元に送り届けた。
どんなに危険な個体も、上手く応用すれば人類を守る力に変わると信じて、彼は星から星へと渡って冒険を続けた。
しかしコモンウェルス星団の科学者たちは彼ら探検隊の貢献を悪夢の兵器に変えた。
体躯は熊ほどだが、調査船の装甲を爪で引き裂いた哺乳類型の個体。強力な酸を吹き付けて生きたままの調査隊を食らった昆虫型の個体。鞭のようにしなる触手を背部を持ち、獲物をからめ取る軟体生物型の個体。
それら一体だけでも危険極まりない異生物のDNAを、無邪気に継ぎ接ぎして造られた狂気の生命体が――ゼノモンスターという最悪の生物兵器なのである。
「ダ、ダメだ、このままでは……っ、救援は、救援はないのか……っ!?」
魔界中央部に位置する【ヘズンの牙】は、武闘派のデーモン型魔族が支配する小都市だ。気に入らなければ魔王にすら反旗を翻すこのロックな勢力は今、陥落の窮地にあった。
「なんなのだあの怪物は……! あんな凶悪な生き物、魔界深部でも見たことがないぞ……!」
「家に火をかけろ、ヤツは炎に怯――ゲガッッ?!」
「警備隊長ぉぉぉーっっ?!!」
都市の正門は剣のように伸びる爪にいともたやすく切り裂かれた。その爪の前には鉄の防具ですら意味をなさず、しかし距離を取れば銃弾のように飛ぶ触手に捕まり、死を招く酸を吹き付けられる。
体毛は一本一本がワイヤーのように硬く、皮膚の下は分厚い脂肪の盾に守られている。
そんな怪物たちが今、ヘズンの牙の内部に20体近くも入り込んでいる。
弱点は刺突武器と炎だ。だが槍は折られ、炎魔法の使い手も今や煙草を点ける炎すら生み出せない。
「立てよ、バーチャン! 一緒に逃げようよ……っ!」
「ありがとう、けどアタシもデーモン族の端くれ、最期は戦って散ることにするわ……」
ヘズンの牙の壊滅はもはや時間の問題だった。ただし――
「そんな足でどうするっていうんだよっ! あ、ああ……っ?!」
ただしそれは『我らが魔王バーニィの一癖ある人柄の下に集う【新生魔王軍】の救援がなければ』の話だ。
今まさに、逃げ遅れた市民にゼノモンスターの触手が伸びようとしている。生きたまま孫が丸飲みにされる運命が訪れようとしている。だが――
「あ、ああっ、あ、貴方様は……っ!?」
「無理が過ぎますよ、お孫さんとすぐにお逃げなさい、お嬢さん」
黒い疾風が駆け抜け、剣をも跳ね返す強度を持つ触手をゼリーのように切り裂いた。
「デス様ッ!! アタシたちを助けにきて下さったのね……っ!!」
「ソード・オブ・デス!! バーチャンを守ってくれてありがとうっ!!」
最古参たる魔剣デスからすれば、老婆もまた立派な乙女。デスは魔王バーニィより与えられたレーザーシールドを起動し、カカシの身体で魔剣である自らを構えた。
「じきに我らの仲間が到着します。お下がりなさい、貴方方デーモン種にこれ以上個体数を減らされては困ります」
そう告げると、デスは異常再生した敵の触手をビームシールドで受け止めた。すると瞬く間にその肉の塊は黒煙を上げて炭化した。
「星より来たりし悪魔よ、我が刃の下に消え去れ!!」
剣と盾を持ったただのカカシは再び黒い疾風となった。迎撃の酸はビームシールドに阻まれ、魔剣が鉄城門すら破る爪と激突した。
「我が名はソード・オブ・デス! 歴代の我の所有者の名にかけて、星の世界の生物になど、負けぬ!」
魔剣デスの刃は爪を両断し、返す刃でゼノモンスターの首を刈った。頭部と肉体を引き離されては、いかに最強の生物兵器であろうと絶命は避けられなかった。
コモンウェルス星団がこの時の映像をもし手にしたら、血眼になって魔剣デスを手に入れようとするだろう。魔剣デスを構成するこの金属は、艦船の装甲に革命を引き起こすかもしれない説明不可能物だった。
一方、正門付近では同じく先行していた魔将ヴィオレッタが奮戦していた。
「あのスケベめ……っ、気を許した某が愚かだったっ! 見たいなら見たいと言えばいいのにっ、コソコソと覗くなど男らしくないっっ!!」
「キ、キィィィィッッ?!!」
「そなたらもだっ!! それだけの力を持ちながら、星の世界の民の道具に成り下がるとは情けないっっ!!」
ヴィオレッタのレーザースピアはゼノモンスター討伐に最適だった。砦さえ飛び越える彼女の身体能力はサイボーグ兵すら超越しており、彼女は迫る反撃を身のこなしだけでヒラリとかわすと、必殺の突きを放つ。
「あ、あれが魔将ヴィオレッタ……」
「なんだ、あの妖しく輝く槍は……? まるでゼリーでも突くかのように敵に突き刺さってゆくぞ……!?」
「いけるっ、ヴィオレッタ様の武勇とあの輝く槍があれば、やつらなど敵ではない!! みんな、ヴィオレッタ様を支援しろ!!」
正門には出遅れたゼノモンスターたちが迫っていたが、ヴィオレッタの救援で形勢が逆転していた。
「くっ、かくなる上は某が導くしかないのか!? スケベなところさえ矯正すれば、まさにあの男は理想の王……!! ええいっ、某の考えの邪魔をするなっっ!!」
彼女はスケベ魔王への怒りを戦意に変え、次々と異星からの殺戮者を狩っていった。
また一方、出遅れたタンタルスたちはヘズンの牙の郊外にて、ゼノモンスターとの遭遇戦となった。
「ドキルマッ、そいつはテメェに任せたぜっ!! やられやがったら沼に沈めてやるからよっ、せいぜい気張っていけやぁぁっっ!!」
「そりゃひでぇよぉっ、タンタルスの兄貴ぃぃっっ?!」
そう情けなく叫びながらも、腐ってもその男は赤の英雄だった。プラスチール製の剣を握ったそのスケルトンは達人の刃で触手を切り払い、結果的に後方の仲間を守った。
「助かったワン、ドキルマ! クズだけどお前いいやつワン!」
「クズは余計だろこのクソコボルトどもっ! ち、畜生、こんな身体じゃなかったら人間の世界に帰れたのによぉぉ……っっ!!」
なんだかんだ文句を言いながらも、帰る場所のないドキルマはコボルトの火矢の援護を受けながら奮戦した。
「ガハハハッ、こんなもんでワシの動きを封じたつもりかぁ!? しゃらくせぇべっ!!」
タンタルスはゼノモンスター2体を同時に相手にしていた。彼は大斧使いというその性質上、隊列を組んで戦うことができない。
だが有り余るそのパワーで、タンタルスは拘束をものともせずに突撃した。
酸の攻撃がくることは映像で既に学習済み。彼は逆にこちらから触手を引っ張って、自らの間合いにゼノモンスターを引き寄せた。
「何もかもが、軽過ぎんだよぉぉっっ!!」
そして魔王バーニィより授かったレーザーアックスを振るった。斧頭がエネルギーでできているその斧はタンタルスにはあまりに軽く、だが片手で振れる上にあまりにも強力無比だった。
ゼノモンスターのうち1体を巨木のように真っ二つにすると、タンタルスは残りの1体に飛びかかった。
振り下ろされたレーザーアックスは左右均等に怪物を焼き払い、大地を黒く焦がした。
「バーニィの兄貴ぃ……っ、強ぇけどこりゃぁ、どうもしっくりこねぇべよ、おぃぃっ!!」
タンタルスはレーザーアックスをオフにすると、舎弟と激闘を繰り広げる残りの1体に拳で襲いかかった。
それで最終的には狩ってしまうのだから、この星の知的生命体ども恐るべし、だった。