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・惑星監視官、サイボーグ部隊を迎え撃つ 2/2

「隊長ぉぉーっっ、あのクソ野郎捨てて逃げましょうよぉーっっ!!」


「だがジャック、逃げてどうする……? あの男を捕縛しなくては、我々はファンタジアを出ることができないのだぞ……」


「貴様ぁぁっっ、私を見捨てるなど許さんぞ!! ヨアヒムを殺せ!!」


「殺したら帰れなくなること忘れてるっすよねぇ、アンターッッ!?」


 内輪もめは大歓迎だ。片目を閉じて確認すれば、仕込みの発動準備完了まであと90秒。90秒待てば全て片付く。


「ああそのことなら俺っちも知ってるぜ。船を失って、未開惑星に着陸。頼みの綱は標的の俺っちってわけだ、えらくついてねぇなぁ……?」


 隊長と呼ばれている指揮官は苦い顔をした。ジャックもこればかりは遊び半分では受け止められなかった。


「悪ぃが俺っちは、アンタたちを星の外に返してやるこたぁできねぇぜ。討伐隊は磁気嵐に遭遇して全滅した、ってのが俺っちの新しいシナリオだ」


 戦いを中断して落ち着いて話すと、隊長とジャックは現在の状況をすぐに理解した。

 反逆者ヨアヒムは倒せない。倒せない以上は星の世界に帰るのは夢のまた夢である。


「聞こう、我々に致命傷を与えようとしなかったのは、なぜだ……?」


「クソ上司の頭と動力も吹っ飛ばせたけど、やんなかったっすよね。舐めプっすか……?」


 戦士としてそこは腹が立つところだろう。誰も笑っていなかった。


「悪ぃと思ってんだよ。俺が反乱を起こさなければこんなことにはなってねぇ。お前らの命なんて取れるかよ……」


「ならば、なぜ反乱を……?」


 隊長が重々しい声が聞いてきた。こちらもジャックと同じく話のわかりそうな男で助かった。


「おう、行き掛かり上、仕方がなかったんだ。何せポテチ食いながら観察を続けていたら、一瞬にしてファンタジアにワープしていたんだからなぁ……」


 仕込みの発動まであと30秒。この場に引き止めるために俺はぶっちゃけた。


「ワープ? 研究用コルベットから、この地上にっすか……?」


「ああ、そういう仕組みがあることは俺っちは知っていた。ただ、その仕組みが衛星軌道上の俺を対象にするとは、夢にも思っていなかったぜ……」


 そこで隊長の顔色が変わった。どうやら真面目で優秀な指揮官のようだ。惑星ファンタジアについての資料をしっかり読み込んでいた顔だ。


「まさか、そんなことが、起こり得るのか……?」


「おう、起きちまったもんはしょうがねぇだろ」


 これにて時間稼ぎは完了、切り札はいつでも発動可能な状態となった。


「どういうことっすか、隊長?」


「魔王だ……」


「……へっ?」


「長城での戦いで、敵が『魔王バーニィ』と叫んでいたことを覚えているか?」


「バーニィ? あはははっ、ウサギちゃんっすかぁっ、かわいい名前っすねぇ!」


「おいおい、照れるぜそりゃ」


 隊長が俺の顔を指さした。そうだ、ソイツが魔王バーニィだ。俺のミドルネームまで覚えていてくれて嬉しいぜ。


「ヨアヒム・バーニィ・サンダース……。魔王、バーニィ……」


「え……ええええーーーっっ?! こ、このおっさんが魔王っすかぁーっ!? いやそういう顔じゃないっしょぉーっ!?」


「ほっとけ! 顔はおいといて、俺っちはこの星の魔王にされちまった。俺っちが魔王を止めちまったら、こちら側の魔族(ヒューマノイド)は人間に蹂躙される。それがこの星の予定調和だ」


 隊長はプラスチール製の剣を腰に戻した。力では従わせることができないとわかってくれたように見える。

 ジャックの野郎はまた遊び半分の顔になって笑ってやがる。コイツ、いい性格してやがるぜ……。


「行き掛かり上、祖国を裏切る他に道はなかった」


「ま、国に知られたら実験動物よろしく捕獲されて、あちこち切り刻まれて、よくて最期は動物園行きっすねー!」


「おう……ソイツを人に言われると泣けてくるぜぇ……」


 話のわかる男が指揮官でよかった。切り札は使わずに済みそうだ。


「――ッッ!? 避けろ、ヨアヒムッッ!!」


 その時、隊長が俺を突然突き飛ばした。何事かと思えば隊長の腕の下、俺の胴体のあった辺りに閃光を放つX線レーザーが通り抜けた。


「敵を庇うとは何事か、貴様ァァーッッ!!」


「お、おいっ、ゴードンッ、止め――」


「無能は死ねェェーッッ!!」


 ゴードンはX線ピストルの補助バッテリーを持っていた。やつは2発目のそれで隊長の胸部を横から打ち抜いた。


 ジャックが報復に出るが、再び閃光が走る。X線レーザーは彼の頭部をかすめ、思わぬその正体を暴き立てた。

 ジャックは頭部まで全てが機械仕掛けの存在、人工生命体(アンドロイド)だった。


――――――――――――――――――――

ヨアヒム:

 ジャック、仲間を連れてここを離れろ。半径200メートル、そこまで離れたら通信を送れ。

ジャック:

 あの野郎! せっかくイケメンにしてもらったのに、俺の顔ぶっ壊しやがって! ムカつくっす!

ヨアヒム:

 いいから言う通りにしろ、俺がゴードンに裏切りのツケを払わせてやる。お前らをここに招いたのは、ダンスパーティのためじゃねぇ!

ジャック:

 了解、状況を把握。10秒以内に待避するっすから、後は勝手にどうぞ。

――――――――――――――――――――


 アンドロイドは鋭いセンサーを持っている。さらには頭の回転や察しが早過ぎるため、会話の脈絡が狂うことがある。

 ジャックは瞬時に状況を分析し、離脱の決断を下した。


 サイボーグ白兵部隊の強みは通信網のリンクだ。ただちに俺の提案は承認され、ゴードンを除く全ての者が大地を蹴り、やられた仲間を抱えて離脱を始めた。


「待て貴様らっ、私を置いてゆくゆもりか!? 待て、撃つぞっ、貴様らあああーっっ?!!」


「そりゃ、部隊のトップを撃ちゃこうなるだろ。後の始末は俺っちに任せるそうだ」


 俺はそこで足下の床板をひっぺ返して、切り札を上司に見せてやった。ジャックは鋭いセンサーでこれに気付いたのだろう。


「な、な、なぁぁぁぁ……っっ?!!」


 なんのことはない。そこにあったのは俺が自作した電磁パルス発生装置だ。稼働すると半径200メートル以内の機械は機能障害を起こす。もし爆心地にいればサイボーグ化した者が生き残るのは難しいだろう。


「コイツの出番が消えなくてよかったぜ。さ、一緒に天国行こうや、クソ上司殿」


「や、止め、止めろっ、それはダメだっ、なんでそんな物をっ、貴様まで一緒に死ぬぞ、あ、ああああっ、止めろ、あああああああああーっっ?!!」


 俺は電磁パルス発生装置を起動した。


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まさかの自爆エンド?
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