・惑星監視官、サイボーグ部隊を迎え撃つ 1/2
指定の座標で待つこと約1時間、やつらはようやく待ち合わせポイントである廃墟にやってきた。コルベット船のデータベースにはここが栄えていた頃の映像もあるが、今は誰も暮らしていない。
そういった場所でなければ決戦場に不適当だった。
ここはここの支配者が持っていた古いダンスホールだ。80名ほどの団体を迎えるにはちょうどいい。
「あ、どもーっす! アンタのクソ上司ならもうすぐくるんで、しばらく俺とお喋りでもどうっすかー!?」
まず様子身だろう。正規兵とは思えない長髪の赤毛がやってきた。
「お、おう……軽ぃな……?」
「俺、アンタのファンなんす。特にあの演説、面白過ぎだったった!」
「マジ軽ぃのな、お前さん……」
「俺はジャックっす! で、ヨアヒムさんはどうやってファンタジアに降りたんすか? 軍用コルベット2隻でやっとこさ破れるくらいの堅固な惑星シールドを、研究用コルベットでどうやって……っっ!?」
どうやらこの男は、全てを面白半分に受け止めて生きるたぐいの人種のようだ。少なくとも正規兵には見えなかった。
「おう、コルベットから地上にワープしたんだ」
「はははっ、生身でジャンプドライブ使ったってことっすかぁー!? 100億%死ぬっすよぉ、それぇーっ!」
「ま、知りたきゃ後で教えてやるよ。……後でな」
俺はこいつら同胞を星の世界に帰す気はねぇ。だからといって同胞を殺すのも忍びねぇ。だから後で、よーくわかってもらうつもりだ。
「あ、やっとくるみたいっすよ」
「重役気取りかよ」
「俺、アイツ嫌いっすぅー、ハハハハッ!!」
「気が合うじゃねぇか。ま、アイツが好きなやつなんて、そうそう――おっと……」
間の悪いタイミングでゴードンが現れた。ヤツはレーザーピストルを俺に向けたまま、青ざめた顔で足音を立てた。
「私は君が好きだよ、ジャックくん。君はこの男を殺戮してくれる優秀な戦闘員だからね……」
ダンスホールに白兵部隊がなだれ込み、俺は囲まれた。コルベットの軍属は外で待機しているようだ。
「カメラを回せ、バーニィ、私と一騎打ちをしよう」
「いやぁ、レーザーピストル握って一騎打ちって言われてもなぁ……?」
「ならば全員がいいかね?」
「わかったよ。けど後で『こんなバカな』とか言わないでくれよ?」
レーザーピストルはレーザー系武器やシールドがあれば防げる。分厚いプラスチール装甲でもいい。だが俺はそういった物は持ってこなかった。
「ヒヒヒッ、やめてくれたまえ。旧型のフレーム、旧型の動力しか組み込まれていない半端物の君が、私に勝てるわけがないだろう……?」
「使いこなせなきゃ意味ねぇよ。パーツの性能が戦力の決定的要因でないことを教えてやる」
ゴードンは短気だ。挑発の混じった声色で言ってやると、やつのレーザーピストルが閃光を放った。
「無言でトリガーを引くとかよ、正気を疑うぜ、さすがによぉ……?」
「ぅ……ぁ……ぁぁ…………っ?」
俺は惑星ファンタジアの監視官だ。科学の通じない奇跡の力・魔法にはよく精通している。その魔法の中にはあらゆる攻撃を歪め、反射させるものがある。
反射魔法リフレクトだ。俺はX線レーザーを奇跡の力で跳ね返し、いけ好かねぇクソ上司の腹に命中させた。
で、その結果、なんとも恐ろしい直径3センチもの風穴がヤツの腹に生まれていた。
「き、貴様……今、何をした……? な、なぜ……こ、これは……あ、穴……?」
「うおすげぇぇーっっ!? 今のなんなんだっ、ヨアヒムさん!? X線レーザーを跳ね返すやつとか、俺初めて見たっすぅー!」
「ははは、コイツぁ種も仕掛けもねぇ魔法だよ」
ゴードンは再びレーザーピストルをこちらに向けた。突然のことでまだ何が起きたのかわかっていないようだ。
「止めとけよ、それ以上撃つと命に関わるぜ」
「高い金を払って作らせた身体に、こ、こんな醜い傷を……っ、殺してやる……殺してやるぞ、ヨアヒムゥゥ……ッッ!!」
ゴードンはレーザーピストルを連射した。合計5つの閃光が走ると、その兵器は早くもエネルギー切れを起こした。
「ぐ……が……バ、バカ、な…………っ」
「言うなって言っただろ、そのセリフ。レーザーの出力を上げすぎたのが仇となったみてぇだな」
胸部に2発、わき腹に1発、右ふとももに1発、それにこめかみをかすめるように最後の1発。光の盾にそれだけ跳ね返されても、ヤツは死ななかった。
「隊長、なんか風色が悪かねぇっすかぁ……? これいったん退却しちゃいましょうよぉ……っ」
「貴様、寝言を抜かすな……っ! こ、殺せっ、ヨアヒムを殺せぇぇーっっ!!」
ジャックの判断は賢明だった。だが隊長の判断は攻撃だ。コモンウェルスのサイボーグ部隊が、プラスチール製の剣で一斉に襲いかかってきた。
ジャックか? ヤツはちゃっかり命令に従って斬りかかってきたぜ。
「ライトニングチェインッッ!!」
「ギャーーッスッッ?!!」
金属パーツだらけのサイボーグ部隊は雷魔法の餌食だった。この術は対象から対象へと連鎖するのが特徴で、密集状態の相手にもまた効果的だ。
「貴様ら気を付けろっ、ヨアヒムは惑星ファンタジアの猿どもと同じ超能力を持っている……!!」
「ははは、今さら気付いてもおせーよ」
「だが半分は生身っすっ! 首さえ取れば――うっげぇーっ?!」
「これはアイアンスキン。皮膚を鋼鉄に変える魔法だ」
「う、嘘だろぉっ、なんなんすかアンタァァーッッ?!!」
「お前こそやるじゃねぇか、ジャック。お前さん面白ぇし、俺っちの仲間にしてやってもいいぜ」
「それは惹かれるっすけど、俺にも契約があるっすから……残念っ!!」
俺はサイボーグ部隊を一体一体無力化していった。やつらはやたらに頑丈だ。それに後のことを考えれば、機能に影響するような深いダメージを与えたくない。なかなか手を焼かされた。