・惑星監視官、星の民に全てをぶっちゃける
玉座の間には魔剣デスと魔将ヴィオレッタ、タンタルスとその舎弟の元英雄ドキルマ、それに新生魔王軍の指揮官クラスたちが集結していた。
彼らは7つのマニュピレーターを生やすスパイドローンに驚きながらも玉座への道を開いた。
それに対し俺はドローンを引き連れて玉座の前に進み、頼もしい仲間たちへときびすを返した。
「な、なんだぁっ、その鉄の塊、いったいなんなんだべよ、バーニィの兄貴ぃっ?!」
「ようタン、今日も声がバカでけぇな。まあ説明するより見た方がはええ。まずはコイツを黙って見てくれ」
まずは先ほどの偵察映像を見せることにした。宇宙からの襲撃者が人間の長城を空から襲い、制圧し、こちらへ進軍を始める一部始終をだ。
「ナッ、ナンジャコリャァァッッ?!」
このドローンにはホログラフ映像投射機が内蔵されている。ドローンは七色の光を22センチのメインカメラから放ち、あの戦いをそこに再現した。
タンたちからすれば、空中に突然流星が降り注いだかと思えば、流星から人間が姿を現し、同族相手に戦争をふっかけたって映像になる。
コボルトたちは尻餅を突き、タンは映像相手に拳を身構え、一際過激なやつに至っては映像を槍で鋭く貫いていた。
「落ち着け、ヴィオレッタちゃん。これは1時間ほど前に起きた過去の出来事だ」
「ならば、その単眼のタコのような鉄の塊は……?」
「コイツはスパイドローン、俺のもう1つの目だ」
「ほぅ……そのタコは、そなたの目であったか」
ヴィオレッタは槍を引っ込めない。その切っ先を俺の大切なドローンに向けていた。
「大丈夫だ、コイツに害はねぇ。コイツは目標を監視して、その映像を俺に送るだけの平和的な機械だ」
「そうか。どんなところにも透明になって入り込み、必要ならば至近距離から対象を観察するというわけか……」
「よくわかったな! そう、コイツなら相手が室内だろうとどこであろうと、その気になりゃ鼻の穴の中まで盗み見れるってわけよ!」
「ありがとう、やっと合点がいったよ」
「おう、んじゃ映像の続きをゆっくり――」
ん? なんでヴィオレッタはドローンのステルス機能まで知っているんだ?
説明、してねぇよな……? あ…………。
「この覗き魔がぁぁーっっ!!」
「ンゲホハァァァッッ?!!」
あ、ああ……思い、出したわ……。
そうだ、半年前のあの日、俺はスパイドローンを使ってヴィオレッタの水浴びをのぞいたんだった……。
だがその時にドローンのステルスを破られて、目撃されちまってたわな、ははは……。
「す、すまん、スケベ心に負けてつい……。その件は重ねて後で謝るからよ、今は映像に集中してくれ……」
「ヨアヒムッッ、このドスケベがッッ!!」
「め、面目ねぇ……悪かったから今は勘弁してくれぇ……っ」
そんな顛末はあったが、黄の英雄がレーザーピストルの一撃で倒される映像が流れると、一瞬にして玉座の間から言葉が失われた。
「今のは……今のはいったい、いったいなんなのでございますか、魔王様……っ?」
デスですら動揺した。長城の守将である黄の英雄には、今日まで煮え湯を飲まされてきたようだからな。
「ウソ、だろ……。俺たち英雄を一撃で倒せるなんて、そんなやついるわけねぇ……!」
元赤の英雄も顔面を真っ白にした。ま、スケルトンなんだからそこは当然なんだが。
「あれは小型・X線レーザー照射装置、俗に言うレーザーピストルだ。アレを防ぐすべはねぇ」
「れ、れぇざぁ……? とにかくヤベェべなっ、こりゃぁっ!?」
「ヤベェのはそれだけじゃねぇ。とにかく続きを見てくれ」
そううながすと、彼らはどよめきながらもホログラフ映像に意識を向けた。
映像が進み、空からきた謎の第三勢力は難攻不落の大長城を制圧した。そして魔界にあたる西側へと進軍を始めるのを見ると、彼らはここに招集された意味を理解した。
極み付きはゼノモンスター軍団だ。再び空から降り注いだポットから、豚のような顔をした毛むくじゃらの醜い怪物が姿を現し、魔界の都市に迫る映像が流れた。
都市の防衛隊は甚大な被害を出しながらもゼノモンスター1体を倒したが、そこにゼノモンスターの増援が現れる。その後は――ステラとパイアが顔を覆うほどに酷いスプラッター動画となった。
「すまない、こんな重大な事態が進行しているのに、何も考えずに殴ってしまった……」
「どー考えてもそこは魔王様が悪いでしょー……。あん時、目つぶってニヤニヤしてたのって、そういうことだったんだねー、はー、この人チョーサイテー……」
「お兄ちゃんっ、覗きはいけないと思います……っ!」
タンを中心とした野郎どもは俺は笑い飛ばしてくれたが、女性陣の目には冷たいものが混じっていた。
「そ、その話は後な、後でいくらでも説教してくれや……。問題はこいつらが俺の身柄を狙っていて、魔界中を荒らし回ってるってとこだ!」
「魔王様、その口振りからして、貴方様はこの者たちの正体を知っているように聞こえなくもないのですが……」
それはいい質問だ、デス。俺はスパイドローンをステルス状態にして再び偵察に出した。
よし、ぶっちゃけちまおう!
この日がきたらこうすると俺は決めていた!
「やつらはコモンウェルス星団のサイボーグ部隊だ。俺っちもここに召喚される前は、コモンウェルス星団の人間だった」
「え、それって、アンタの言う星の世界のこと……? あれ、アンタのホラ話じゃなかったんだ……」
「不覚、このデスめも明るい貴方様の壮大なる冗談かと……」
「某は信じていたぞ。……このドスケベ」
色々と言い返したいところが、今は非常事態だ。俺は玉座の裏に回り、足元のでかい石畳をひっくり返した。