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・魔将ヴィオレッタ、宇宙時代の最強防具を授かる

「よかったですね、コボルトさんたち……」


「こんなサイテーの魔王様でごめんねー……。調子がいいところだけがこの人の取り柄なの……」


 パイアに腰をぶっ叩かれて魔王様は甲高い悲鳴を上げた。


「こう見えて俺っちは98歳なんだぞ……っ、もう少しご年輩にやさしくしろ……っ」


「はい注目。新しい魔王様はついでにホラ吹きなのー。みんなこの人の言うことを真に受けないようにねー」


 パイアに文句を言ってから、俺は荷台から大きく平たい木箱を取ろうとした。やさしいステラがすぐにそれを察して代わりに木箱を取り出してくれた。


「そういうつもりで破いたんですよね……?」


「お、おう……っ、誓ってスケベ心はないぜっ!?」


「はいはい、嘘ばっかー」


 その木箱は魔将軍ヴィオレッタへと寄贈するつもりで胸元の調整をさせたものだ。俺はその木箱を、裸体を隠しもしない堂々たる彼女に手渡した。


「ヴィオレッタ、そいつはお前さんのために用意させた、最強の防具だ」


 それは手首から足首までを包むピッチリとしたウェアだ。色は紫。絹糸の美しい光沢がスパンコールドレスのように輝いている。


「こんな布切れが最強の防具だと……?」


「コイツはモイライ絹という素材でできている。なんとこの布は刃を通さねぇんだわ」


 証明のために絹糸を用意しておいた。それを俺は指先の間に張り、そこに刃を滑らせた。絹糸は弦楽器のような不協和音を響かせるだけで、傷一つ付かなかった。


「それねーっ、アタシが糸にして、このステラが精霊の力で編んだんだよーっ!」


「わ、私は別に何も……。精霊さんたちががんばってくれた、だけですから……」


「そうか……。それはなんというか、とても嬉しい! 素晴らしい贈り物だ、ありがとう!」


 戦ってよくわかったが、ヴィオレッタは真っ直ぐな女性だ。真っ直ぐな感謝の言葉にステラとパイアは照れくさそうに笑った。


「い、いえ……っ、喜んでもらえてよかった……」


「アタシら弱いからサポートくらいしかできないけど……。これでちょっとでもヴィオレッタ様の助けになれたら嬉しいですっ!」


「ああ、君たちのためにも粉骨砕身の働きをすると約束しよう!」


 ヴィオレッタが最強の服を身に着けた。想像した通りだ。豊かな肉体にピッチリと絹の服が張り付いてそれはもう絶景だった。

 そうこれだよこれ、俺はこれを見るためにここにきたんだよ!


「ん……っ、す、少し、生地がよすぎて、くすぐったいな……っ」


「なぁに、すぐに慣れる!」


「そうか……? だがこれはいい……この軽さで刃を通さない防具かっ! ああ、そうだ、もう一戦どうだ、魔王っ!?」


「いやいやいや、腰いわした後だっての……っ、勘弁してくれ……っ」


「そうか、残念だ……。なら腰が治ったら再戦だな」


 俺が嫌な顔をするとステラとパイアに爆笑された。


「ソイツの上に打撃を防げるチェーンアーマーでも着れば、お前さんは正真正銘、魔界最強の武将さ!」


「ならば一つ聞く。まさか、これも人間に売るつもりではないだろうな……?」


「何言ってんだ、当然ぼった値で売るに決まってんだろ?」


「その点だけは承伏できない。正気か……?」


 敵を大幅強化することになると、彼女は俺を鋭く睨んだ。


「そもそも俺っちは人間と戦争する気はねぇ。この戦いに終わりがねぇってことを俺ぁ知ってんだよ」


 俺が惑星ファンタジアを見つけたのが約70年前。コモンウェルス星団が観測を始めてより、この星では3500年が経っている。歴史を含めれば4000年間、どちらも滅びず、戦いは今も続いている。


 永劫に続くこの均衡は惑星を包むシールドを張った何者かと無関係ではないだろう。外部からの介入を防ぐためにシールドを張ったと考えるのが自然だ。


「お前たちはこの戦いを4000年以上続けている。4000年続けて決着が付かなかった戦いに、終わりなんてくるわけがねぇよ」


「はぁー、またホラ吹いてる……。なんでアンタがそんな昔のこと知ってるのさー?」


「おう、見たんだよ、この目で、3500年前のこの世界をな」


「アンタさっき98歳って自分で言ったでしょっ! この大ボラ吹きーっ!」


「おう、嘘は言ってねえんだが、確かに矛盾しちまってんな……」


 とにかくこの戦いを停滞に持ち込んで、後は面白おかしく余生を生きられたら俺はそれでいい。


「某は信じよう」


「えーっ、ヴィオレッタ様、正気ーっ!?」


「この男は武人としては真っ直ぐで尊敬に値する。星の世界で戦っていたという話も、もしかしたら本当なのかもしれない」


「わ、私も……信じてます……っ、お兄ちゃんはお星様の向こうからきたって……っ、言ってました……!」


 ニナそっくりのステラに信じると言われると、何もかもをぶっちゃけたくなった。

 だがそれは後のお楽しみにしよう。遅かれ遠かれいずれ、星の世界からきた敵と戦うことになるのだから。


「あの、お兄ちゃん……質問が、あるのですけど……」


「おう、なんだ? なんでも教えてやるよ」


「あの空の先には、何があるのですか……?」


 ステラが天を指さした。そこには果てしない青空と、やわらかそうな白い雲があった。


「おう、あの空の先には星の海があるんだぜ。星の海の中には人が暮らす星が何千とあって、俺っちはそこからきたんだ」


 だが俺はもうその星の海には帰れねぇ。俺は荷台に飛び乗り、昨日の夕方に収穫したばかりのブドウを袋から出すと、コボルトたちの頭上に投げた。


「ゴゴゴゴッ、ゴアンだワァァァァンッッ!!」


「ははははっ、お前ら俺っちのとこにくんだろ!? ならこの物資はケチケチしねぇで今食ってもかまわねぇよなぁ、そうだろ、魔将ヴィオレッタッ!?」


「フッ、デスが惚れ込んだのはコレか。いいだろうっ、宴を始めるぞ、我が愛しきワンワンたちよっ!! 某がみんなに――美味い料理を作ってやるぞぉっ♪」


 ヒャンヒャン、キャウンキャウン、クゥンクゥンと、コボルトたちは犬になって駆けずり回った。

 ヴィオレッタはコボルトたちを猫撫で声で甘やかし、コボルトたちは尻尾を振って最高のご主人様を取り囲んだ。


「なんか、お兄ちゃんと気が合いそうですね……っ。あ、お料理、手伝ってもいいですか……?」


「ステラが手伝うならあたしも手伝うよっ、アンタは抜きね!」


 かくしてこの日、満腹に腹を抱えたコボルト兵たち400名と、魔界最強の魔将がウンブラに加わった。

 ヴィオレッタは落ち着いて話してみるとただのコボルト好きで、趣味が合ってか彼女とは話題が尽きなかった。


 あの星の彼方にはもっと沢山の品種の犬がいると特徴を説明してやると、一緒に行ってみたいと、叶わぬ夢を彼女は俺に語ってくれた。


 俺はあの星の海からきた。俺はいつか、あの星の海からきた同胞を迎え討たなければならない。


「上司!! くる!!」


「あ……?」


 唐突に下ったバブリンの予言は、断片的で要領を得なかった。


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