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・惑星監視官、未開惑星保護条約の欺瞞を暴く

首都惑星アークトゥルス――


・語り部X


 惑星監視官ヨアヒムからのワープ通信は光速を超え、約1000万光年をたった51時間で駆け抜けて、コモンウェルス星団の首都アークトゥルス星で受信された。


 研究省はてんやわんやの大騒ぎ。あの英雄ヨアヒムが乱心を起こし、シールドで封鎖された惑星ファンタジアに降り立ち神を名乗った。


 彼はいったいどうやって惑星シールドを破り、五体満足な状態で大気圏を突破したのか。そしてなぜ、これだけの功績を上げた英雄が祖国を裏切ったのか。


 研究省は箝口令を布き、秘密裏にヨアヒム暗殺の部隊を派遣するように宇宙軍に掛け合った。だが――


「彼の方が君より一枚上手だったようだ。手柄泥棒のゴードン・ハインツ殿」


「なっっ、なぜ貴様がそのフレーズを……っっ!?」


「彼からの声明は全惑星、ならびに全銀河連邦構成国の星に送信されていた」


 だがとうに手遅れだった。ゴードン研究部門長はホログラム化された軍首脳部たちの前で、頭を抱えて円卓にうずくまった。


「大した演説だった。融和主義者の異星人や野党議員がヨアヒムに両手を叩いて同調を始めたほどだ」


「あ、あの時代遅れの老人がぁぁっっ!! 私への批判を全宇宙にっ、送信していただとぉぉっっ?!!」


「研究一筋の、政治には全く興味のない男と思っていたが、なかなかどうしてやりおる」


「反逆者を褒めている場合か、元帥ヤマシタ!!」


 コモンウェルス星団および宇宙軍は、ヨアヒムの暴走を止めなければならない立場だった。だがヤマシタと呼ばれた元帥は白髪頭をかきあげて爆笑した。


「き、貴様っ、何が笑っているかっ!!」


「ヨアヒムは半世紀以上も深宇宙探検隊を率い、瀕死に陥っては生き延びてきた男だ。甘く見るとまたしっぺ返しを食らうぞ、坊や」


「骨と皮だけの老いぼれが何を言う! 貴様の役目は1秒でも早く討伐隊を派遣することだろうっ!!」


「ならば聞くが、ヨアヒムはどうやってファンタジアに降りた? なぜ我々に宣戦布告同然の声明をした? 討伐隊を派遣されると、わかっているだろうに、いったいなぜ……?」


 不確定要素が多い。向こうの状況を綿密に調査してから討伐隊を送るべきだと、ヤマシタ元帥は考えていた。

 そこにゴードン研究部門長への通信が入った。ゴードンは目を閉じ、通信を確認すると、すぐに青ざめて頭を抱えた。


「殺してやる……」


「穏やかではないな、ゴードン殿。む、これは――」


 サイボーグ化していない元帥に秘書からの報告が入った。秘書は淡々と語った。


『大統領からのお達しです。ゴードン研究部門長は解任、今時刻もって宇宙軍に移籍。宇宙軍は直ちに討伐隊を編成し、ゴードンを相談役(オブザーバー)として同行させた上で、惑星監視官ヨアヒムを生け捕りにせよ。とのこと』


 元帥はその報告にしわ深い顔を歪める。慎重に動こうにも、大統領が迅速な解決を望んでいるとあっては、急ぎ討伐隊を編成しないわけにはいかなかった。


「たった二桁、手柄を奪っただけでこの仕打ち……ッッ!! 許さんぞ、ヨアヒムゥゥゥゥッッ!!」


「君、それは恨まれて当然の仕打ちではないかな……? むぅ、しかし、この流れは……いや、まさかな……」


 ヨアヒムは政治に興味のない冒険好きの研究者だった。それが突然政治を語り、活動家のように全宇宙に映像を送信したのは、別の意図があったのではないか。


 元帥はそう疑ったが、政府が事前調査を許すことはなかった。

 惑星ファンタジアは50倍の速さで時が流れる。そんな星に膨大な知識を抱えた研究者が降り立ったとなれば、一刻も早く潰さなければならない。


 最悪の場合は数年のうちに宇宙に進出して、銀河の驚異となる力を持つことにもなりうる。


 元帥が疑念を抱こうとも、コモンウェルス星団上層部はそう判断した。



 ・



辺境惑星ファンタジア――


 時は流れ、いつの間にやら半月が過ぎ去っていた。その間、俺がやったといえば家を建て、ワイヤーと支柱を各地に張り巡らせ、難民や移民を受け入れながらも夜な夜な星を降らせることだった。


 昨晩、俺は玉座でデスと二人だけで語り合った。


「お喜びを魔王様。ついに本日の移住者で――人口5000人到達にございますぞ!!」


「おお、そりゃめでてぇ!!」


 デスに従う一派だけだった頃と比較して、人口がこれで7倍。集合住宅の部屋数は2100室に到達した。


「また魔王様が考案されたブロッコリーのトマトパスタも大好評にございます」


「ああ、飯屋も屋台も増えてきたな! 美味い飯を作るやつには立派な店を建ててやって、将来的にはそこをグルメ街道として盛り立ててゆくか!」


「それはそれは、貴方様らしい楽しいビジョンですな。しかしそうなると、野菜や穀物の種類を増やしたいところですが……」


「おう、しょうがねぇな! ならマ・イハに続く魔法の作物、マ・ゴサを用意してやってもいいぜ」


 ニンニクとキャベツとナスとマッシュルームが生えるチート植物をもう1つ増やしたところで、ま、誤差、だろうと思った。


「旧都の繁栄にはまだ到底及びませんが、先代魔王の統治とは比較にならぬほどに、民の目が輝いております」


「そうか、そりゃよかった!」


「貴方の人柄と行動力の賜物でございましょう」


「はっはっはっ、そりゃおだて過ぎだ」


「いいえめっそうもない! これほどまでに希望にあふれた民を見たのは、最古参たるこのデスの目をもってしても初めてのこと! 貴方は歴際の中でも最も偉大な魔王!! 我らの太陽そのものです!!」


 とまあそんな感じで遷都は絶好調。人口が増えた影響で労働力が増え、以前よりも難民の受け入れが容易になってきている。


「つきましては魔王様、もう一つご相談が」


「おう、なんでも言え。聞いてやるかは内容次第だ」


 半月前に宣戦布告をしてから俺は迷わなくなった。無論、彼らを堕落させるつもりはないが、そこに道理があるなら叶えてやりたい。


「ここウンブラの東に、我々に従わぬ一派が潜む砦がございます。そこのリーダーがとんだ頑固者でございまして」


「ああ……? いや、けどよぉ? 俺っちに従いたくねぇなら、好きにさせときゃいいんじゃぁねぇかぁ?」


 無理に服従させたやつらとは長続きしない。結局は徒労に終わる。それが宇宙の歴史が語る真理だ。


「いえそれが、彼らは本心では貴方様に従いたいようなのでございます」


「お、おう……? なんかぁ……めんどくせぇ野郎だなぁ……? 男のツンデレってやつか?」


「いえ、リーダーは女性の方でございます。ああ、そういえば、あれは貴方様好みの、胸の豊かな美しい――」


「おいなんでその話を先にしねぇよっ!? よしその話、乗ったぜっ、明日すぐに出立しようっ!!」


「フフフ……ッ。貴方のように楽しい主は、貴方の他にございません。ご不在の間のウンブラの守りは、この魔剣デスにお任せを」


 まあそういったことが昨晩あったわけだ。

 俺は胸の大きい美人の女リーダーを説き伏せるために、荷台いっぱいの支援物資を引いて愛しのウンブラを出た。

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