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・惑星監視官、本国に宣戦布告する

 コルベット船を月に派遣してより3日が過ぎた晩、ようやくこのファンタジアの軌道上に船が戻ってきた。


 船の船倉は鉄を中心とする鉱物資源で満杯だ。コイツを原材料にして複製機で加工すれば、原始的な精錬など行わずに金属に加工できる。


 そしてコイツを各種道具や金属パーツ、ワイヤー運送システムの原材料にする。

 俺っちは古の玉座に座り込み、目を閉じて精錬、複製の指示を出した。


 で、ここからが本番だ。俺はスパイドローンを謁見の間に呼び、自分自身にカメラを向けさせた。

 船が戻ったらコモンウェルス星団に連絡を入れることに決めていた。


 俺たち惑星監視官は本国への定期連絡が義務付けられている。この連絡が宇宙嵐なりで滞ったせいで、研究プロジェクトが凍結されてしまった例もある。


 通常、定期連絡が滞れば査察が入る。

 査察はまずい。具体的な情報を収集されてしまう。そうなったら俺の勝ち目はない。


「やれやれ、腹くくって道化を演じるしかねぇか……」


 誰もいない古の魔王の玉座で、スパイドローンに向けてふんぞり返った。

 これからやるのは茶番劇だ。身の程知らずの狂人を演じて、録画データを本国に送信する。まずは挨拶から始めよう。


「我は神なり」


 俺はカメラの前で足を組んで、ブドウジュースを片手に増長し切った支配者を演じた。俺は気の狂った惑星監視官だ。原住民に崇められるうちに、己を神と勘違いした愚かな男だ。


「親愛なるコモンウェルス星団、および手柄泥棒と名高きクソ上司ゴードン・ハインツ殿。我、ヨアヒム・バーニィ・サンダースは惑星ファンタジアの神となることに決めた」


 何度これを妄想の中で繰り返しただろう。自らが未開惑星の神となり、本国の政策に苦言を呈する日を。

 全ては演技とはいえ、口にするだけでもコイツは快感だった。


「テメェらは未開惑星の住民たちを、実験動物としか見ていないクソ野郎どもだ」


 食料危機、種族の滅亡、災害級隕石の墜落。介入できたのに歴代の監視官は介入を許されなかった。


「テメェらは未開惑星保護条約とかいう体裁のいい言い訳を盾に、知恵を盗むことしかしない泥棒野郎どもだ」


 少数の惑星監視官が乱心を起こすのも無理もない。正常な進化とはそこまで大切なものなのかと、疑いたくもなるだろう。


「だが我は違う。正しい方向に彼らを導いてやれる。彼らの幸せのために我は神となることに決めた」


 スパイドローンへ挑発的に笑いかけた。これで本国の連中は勘違いをするだろう。この事態は銀河でよくある惑星監視官の乱心であると。


「今や我は魔王の摂政、絶大な奇跡を起こす神なり。魔界の実権は我、ヨアヒムが握っている」


 もし査察を受ければ、俺が魔王となった事実を本国にいち早く知られる。だからこうしてこちらから通信を送り、偽りの情報をやつらに信じ込ませることにした。


「テメェらの軍事介入が賢明でないことはわかるな? 我は神。空からきた軍勢が神を殺めれば、それこそ彼らの正常な進化を歪めることになる」


 乱心した一人の惑星監視官を倒すだけなら、2~3隻のコルベットにサイボーグ軍団の輸送艦を護衛させるだけでいい。

 それ以上の戦力を本国が割くことは絶対にない。軍を動かすだけで莫大な金がかかる。宇宙はあまりに広すぎるのだ。


「あえて宣言するが、我はコモンウェルスの先端技術を彼らに与えるつもりはない。あくまで文明の発展を後押ししてやるだけにする」


 やつらは俺の前に立ったとき、謀られたことに気付くだろう。魔王の力を宿したサイボーグを相手に戦うことになるだろう。


「諸君らがするべきことは、新しい監視官を派遣して、我という道化がもたらしたこの新しい社会を研究することだ」


 必ず勝てる。そしてその緒戦に勝ってしまえばこっちのものだ。


「我は惑星ファンタジアを救う神なり。一度も手を差し伸べなかったテメェらに、我を裁く大義はない。未開惑星保護条約なんてよ、そんなもん……クソ食らえだっっ!! ……以上、通信終了、あばよ、みんな!」


 もう引き際を越えちまっている。この星に召喚され、魔王となったあの日から俺はこうする他になかった。

 本国への宣戦布告と何も変わらない定期連絡を、俺は衛星軌道上のコルベット船にワープ通信で送らせた。


「はぁぁぁ……っっ、どえりゃぁ疲れた……! だがこれでいい、これでやつらは俺が仕掛けた罠にかかる……!」


 気付いた頃には手遅れだ。やつらは討伐隊の敗北をもって、この惑星の再調査を行い、それから追加戦力を送ることになる。


 宇宙は広い、討伐隊の到着まで長い時間がかかる。そしてこの星は50倍の速さで時が流れている。

 要するに一度だけやり過ごせば、後は俺が寿命をまっとうするまで逃げ切れるってことだ。


 スパイドローンがいなくなった玉座で疲れを癒していると、奇妙な影が床を跳ねて俺の前にやってきた。


「宇宙!!」


 そいつは甲高い声でおかしなことを言った。

 宇宙。その概念を知っているやつがこの星にいるとは驚きだ。どんなやつなのか注目すると――そいつはなんとまん丸かわいいスライム族だった。


「お前さんどこからまぎれ込んだんだ? まあいい、ちょっとこっちこい」


 膝を叩いて見せると、膝に乗せるにはちょいとデカいポヨンポヨンの塊がそこに飛び乗った。


「ん、お前……まさか、タンをかばったあのスライムか……?」


 メロンソーダみたいなその色合いと気泡に見覚えがあった。


「うん!!」


「おおっそうかそうかっ、そいつはよかったっ!! 無事生き返ったんだなっ、はぁっ、今日はいい夜だ!!」


「宇宙!!」


「ははは、どこでその単語聞いたんだ? 宇宙について詳しく俺っちに教え――うっ、うぉぁっっ?!!」


 その時、メロンソーダみたいなスライムの額に第三の目が現れた。大きなその目は爛々と輝き、俺のことを見つめた。


「魔王様、宇宙人!!」


「な、なんだとぉぉーっっ?!!」


「宇宙人、宇宙人、魔王様は、宇宙人!!」


「ま、待てっ、なんでわかったか知ねぇがっ、その話は黙っていてくれっ!!」


 反逆により永久の冷凍刑が確定したようなものだったが、俺にも元惑星監視官としての良心があった。健全な彼らの成長のためにも、俺は宇宙人であってはならない。


「成功する!!」


「…………は?」


 輝く第三の目が閉じると、スライムは俺の膝からポヨンと跳ねて謁見の間から跳ね去っていった。


「な、なんだ……ありゃ……?」


 俺に答えをくれる者はどこにもいなかった。惑星ファンタジア、そこはまさに宇宙一の神秘の惑星だった。



 ・



 翌朝、俺はデスから答えをもらった。


「先日魔王様がお助けになられたスライムですが、どうやら魔王様の使徒となったようです」


「使徒……。なんだそりゃ……?」


 知っているが、知らない振りをしてデスに聞いた。


「使徒とは魔王との接触で目覚めた特別な魔族。使徒を生み出さなかった魔王もいれば、百も生み出した魔王もおります」


「まあ特別としか言いようのない個体だったが……」


「は、まさに特別、その力は絶大。戦闘型なら英雄と張り合うことができるほどです」


「でもスライムだろ? 何ができるんだ、あれは?」


「は、少なくとも、枕として最高級にございます。手を入れればシュワシュワしてよきにございますぞ」


「……お、おう?」


 よくわからないがシュワシュワのスライムが覚醒して俺の使徒となった。最高級らしいので、今度見かけたら枕にしてみることにした。


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