・ステラとパイア、宇宙カイコの絹を編む
「あはははーっ、言われてやんのーっ!」
「どうせおっさんだよ……。ま、とにかく頼む、試作して性能を確かめたいんだ」
「ごめんなさい……精霊さんたちに悪気はないんです……」
ともかく精霊たちはやる気だ。1人が縦糸を張り、もう1人が横糸を張ると、残りの1人が編み棒を取った。
ステラはそんな精霊たちに魔力ってやつを供給している。
「見てろよ、おっさん!」
「ステラの彼氏のためならがんばる!」
「彼氏っていうよりよー、お父さんって顔だけんなー!」
「ご、ごめんなさい……っ!!」
コルベット船が戻ってきたら、美容クリームでも合成させるかね……。
「働いてもらうのは俺っちの方なんだ、いっちょよろしく頼むぜ、精霊さんたちよ」
「おう、筋の通ったやつは嫌いじゃねーぜ!」
「じゃ、やろうよ、ステラ!」
「いいとこ見せてやろうぜ、おっさんみたいな彼氏によーっ!」
「彼氏じゃありませんっっ!! あ、ごめんなさいっ、ごめんなさい……っ!!」
ステラの精霊は口こそ悪いが織物の天才たちだった。織機のように縦糸と横糸が上下左右に踊り、瞬く間に編み合わされていった。
1つのスカーフの完成までに5分とかからない手並みの早さだった。
「完成っ!! すごいすごーいっ!!」
「見ろよ、ステラ!! キラキラしてっぜ、これーっ!!」
「おっさんにはもったいねーな! お前のにしろよ、ステラーッ!」
精霊たちは生き生きとしていたが、魔力供給をしていたステラは息を切らしていた。額には汗が浮かび、輝く絹のスカーフを誇らしそうに笑いながら見つめていた。
「感謝の気持ちを込めて編みました……。どうぞ、使って下さい……」
「お? おう、ありがとよ」
こりゃデスに持たせるつもりだったとか、剣で斬り付けて強度を確かめるつもりだったなんて言えない。
シルクを越える心地よい手触りが指先をくすぐった。
「わぁぁーっ、ホントにすっごーい……っっ!! これ、あたしもほしーい……っっ!!」
物欲しそうにしていたパイアに渡すと、彼女は心地よい手触りの絹に頬擦りをした。
ステラも一緒になって同じように絹へと身を寄せて、なんかやたらにテンションを上げていた。
強度はまだ検証していないが、商品価値は十分なようだ。
「ってことでよ、この美しい糸の原材料を生み出してくれる、モイライの卵を孵して増やそうと思う」
「賛成っ、賛成っ、あたし、この絹を使ったベッドシーツが欲しい……っ!!」
「わ、私はハンカチくらいでいいから……欲しいです……」
まったく惑星監視官冥利に尽きる連中だ。俺はこの言葉が聞きたかった。俺が見つけた奇跡の家畜モイライを惑星ファンタジアの民に褒めて欲しかった。
「アンタ、スカーフの結び方わかるー?」
「あ? いや……今はわからねぇな」
コルベット船が戻れば結び方を頭の中にインストールできるんだが、月に行っちまった。
「やってあげる。アンタがそれ身に着けてれば、みんな注目するし、欲しがるようになるでしょー。それって一石二鳥じゃない?」
「ははは、カカシに着せるつもりだったなんて言えねぇな……」
「え、デス様に? あはははっ、それはそれでうけるーっ♪」
「はいっ、デス様も、お似合いになると、思います……っ!」
パイアとステラは俺の前で楽しそうに笑いながら糸を紡ぎ、あのやかましい精霊を呼んで赤いスカーフを編んでくれた。
発見当時の俺はモイライの糸を使った絹の服を、故郷のニナにプレゼントしてやるつもりだった。だがその夢は叶わなかった。
「あはっ、まあまイケてんじゃん!」
「カッコイイですよ、お兄ちゃん……!」
ステラはステラ、ニナはニナだ。それはわかっちゃいるんだが、俺はステラが作ってくれた青いスカーフに感慨を抱かずにはいられなかった。
・
こうしてその晩、俺とデスは色違いのスカーフを身に着けて、サキュバス族たちの難民を謁見の間で迎えた。
特に器用な者にこの絹の糸を紡ぐ仕事を任せたいと伝えると、彼女らは涙ながらに喜んだ。
スケベ野郎と名高い魔王に、お水系の仕事をさせられると彼女たちは勘違いしていた。
いや、それも、俺としては惹かれるところなんだが、今のウンブラにそんな余裕はない。
モイライの管理、糸紡ぎ、ワイヤーシステムを使った運搬、収穫などを彼らに任せることになった。
「んじゃ、俺ぁもう寝るわ。明日はお前らの家を造らなきゃなんねぇ! 楽しみにしててくれよ!」
「あ、あの、魔王様……っ」
「おう、なんか要望があるなら言ってくれ」
「私たちに、夜伽をお命じになられないのですが……? 先代の魔王は――」
「惹かれる話だがその予定はないぜ。何せ俺っちは――神様に見張られてる立場なんだ」
腐っても俺は騎士ヨアヒムだ。コモンウェルス星団の英雄と呼ばれた頃もある。
ソイツが銀河条約に違反して未開惑星に降り、ハーレムを築いていたなんて知られた日には俺の名誉は粉々だ。
「ほ、本当はお前ら全員はべらせたいのは俺っちの本音よ……? けど立場上、そうもいかねぇのよ……っ、色々あんのよ、俺っちにもよぉ……っ!」
だから俺は1人で部屋に戻る。
絨毯の上で眠るステラに掛け布団をかけてやり、部屋に潜んでいたパイアに毛布を渡す。
「あはは、『本当ははべらせたい』ってところで爆笑しちゃったー♪ アンタ、ホントバカ」
「俺っちは神様だからな……。神様は神様に見張られてんのよ……」
「アンタの言うことよくわかんない……」
「おう、わかられても困るしそこはいいんだ」
シーツだけのベッドに横たわった。するとパイアが翼を羽ばたかせて俺の真上から影を作った。
「あのさ……もし我慢できなくなったら、アタシにしていいよ……。アタシなりに……お側付きの務めは果たすし……」
「ありがとよ、そん時は候補にさせてもらうぜ」
「遠回しにいらないって言われてる気がする……。それはそれで、サキュバス族として屈辱っていうかー……もーっ!!」
「うぉっ!? お、おいっ!?」
空から毛布とJカップのサキュバスが降ってきた。ソイツは俺に毛布をかけると、なんの気まぐれなんだか一緒に寝てくれた。
「仲間、助けてくれてありがとう……。仲間を人扱いしてくれてありがとう……。感謝してる……」
「へへへ……こりゃ最高の報酬だ。これからも頼りにしてるぜ」
「う、うん……。お父さんって、こんな感じなのかな……。サキュバス族にはいないから、わかんないんだけど……なんかそんな感じ……」
「なら今日から俺っちがパパになってやんよ」
「あ……アホーッ!! このアホ魔王ーっっ!!」
でけぇ娘もいたもんだ。もちろん色んな意味でな。
ムラッときたが娘には手を出せねぇ。その日はおとなしく寝た。