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・惑星監視官、外来生物を育てる

宇宙暦241年――


 お兄ちゃんっ、ニュース見たよ!

 今度はお兄ちゃんが七色の魔法のカイコさんを見つけたんだって! それですごい服が作れちゃうんだって!


 コロニーのみんな、お兄ちゃんのこと宇宙一の英雄だって言ってる!

 お兄ちゃん、ニナ寂しくないよ。全然寂しくないけど、次の休暇いつ……?


 私、遺伝子の手術、受けることにしたよ。ヨアヒムお兄ちゃんと会ってから。

 私、がんばるね、お兄ちゃん。



 ・



宇宙暦315年――


 昔々、あるサバンナ型惑星で俺はこの不思議なカイコを見つけた。このカイコは様々な色合いの繭を作る。

 特筆すべきなのはその繭の強度で、有機物由来の成分でありながら炭素繊維を超える頑丈さを持っている。


 運命の糸を紡ぐ神々からモイライと名付けられたこのカイコは、本国の生物学者によりさらなる品種改良が施され、現在では高級衣料や白兵戦闘員の服として利用されている。


 俺っちがあの日、この星に降らせた繭はコルベット船の培養施設で遺伝子データから作らせた、モイライの原種だ。


「わぁ……っ、かわいい……っ」


「ええー……微妙にキモくなーい……?」


 そのモイライが繭を破って出てきたと聞いて、俺たちは夕刻の建設現場を離れて寺院に戻った。


 モイライはふわふわとした産毛に包まれた白いイモムシだ。成虫にもなるが、ハエのように幼虫のまま繁殖することができるのが大きな特徴だ。


 発見者びいきと言われてしまうかもしれないが、イモムシの中では宇宙一の美人と言えるだろう。

 繭から出てきたそいつらに俺は餌になるやわらかい葉っぱをくれてやった。


「こいつらは宇宙カイコのモイライだ。雄と雌で一つの繭を作り、その中でゆっくりと生殖して卵を繭の中に植えると、こうして繭を破って出てくる」


「うぇっ、やっぱキモ……」


「この子、成虫にはならないの……?」


「極端に乾燥した暑い環境に置かれると、正常に成虫となる個体も出てくるが、この星の環境ではまずないだろうな」


 地球のカイコは繭を作って成虫になろうとするところで、繭ごと煮殺される。しかしモイライは自分から出てくる。


 俺たちは美しく強靱なこの繭をいただき、増やしたい分だけ中の卵を孵す。コイツは人間に極めて都合のいい理想的な家畜だ。


「糸紡ぎができるやつ、知ってっか? あとその糸を使って服を作れるやつも必要だ」


「糸紡ぎなら、パイアちゃんたちサキュバス族さんたちが得意だよ……」


「えっ、それ、アタシが触るの……っ!?」


 サキュバス族はその性質から何かと器用な種族だった。


「やってくれねぇか? 服、ボロボロになってる仲間にプレゼントしてやりてぇだろ?」


「残念、アタシはそんなお人好しじゃないから」


「んじゃ、今夜着いた連中に頼むか」


「は? 別にやらないとは言ってないしー。アンタがどうしてもって言うなら、やってあげてもいいけどー?」


 青い繭から卵を取って、ひねくれ者のパイアに渡した。虫が苦手な彼女は眉をしかめて歯を食いしばった。


「どうしてもお前に頼みてぇ。パイア、コイツを紡いでくれ」


「首、治るまで現場の仕事をしない。そう約束するなら特別にしてあげる……」


「わかったわかった、約束する。いっちょ頼むよ、パイア!」


 パイアは不信の目を俺に送ってから、一目で絹糸の終点を見抜いて糸を紡ぎ出した。魔法の力で繭を浮かばせ、木の枝を回してクルクルとそこに巻き付けていった。


 2匹のカイコが作った鶏卵のように大きな繭を、1分もしないうちに絹糸の原糸に変えてくれた。

 それは空のように青く、光沢を持って艶やかに輝く、それはそれは美しい絹糸だった。


「アンタ、わかっててあたしたち連れてきたでしょ……?」


「ん、なんのことだぁ?」


「シルフ族が魔法の力で糸を編めるの、アンタ知ってるでしょ……?」


「え……っ、わ、私っ!?」


 シルフ族は非力だが精霊魔法が使える。その精霊の中には糸を編み、服を織ることを得意とする者たちがいる。

 初代の惑星監視官がこれを発見して、それが一般公開された時は銀河中が驚いたもんだ。


「ははは、なら話が早ぇ! もう5つ、絹糸を用意してくんな」


「はいはい、ちょっとまってねー」


 パイアは同じ青色の繭を2つ浮かばせて、2つの枝を両手で回して絹の原糸を作った。

 それから俺がオーダーするまもなく、彼女3つの原糸を宙に浮かばせると、それを寄り合わせて太い絹糸を作ってゆく。


 それが済むとパイアは同じ手順でもう1つ太い絹糸を作ってくれた。


「はい、次はステラの番ねー」


「わぁぁ……っ、綺麗な糸……。あ、何を織りましょうか……?」


「糸の量からするとー、んー……スカーフとかいいんじゃない?」


「悪かねぇな、ならそいつを頼む」


 外交使節をやってくれているデスに身に着けさせれば、いい広告塔になる。それにカカシに絹のスカーフというのもしゃれた冗談だ。


「で、では……がんばってみます……っ。風の精霊よ……少しだけ……私に力を貸して……っ」


 ステラから緑色の美しい光があふれると、彼女の前に三角帽をかぶった精霊が3体現れた。


「あ、珍しい糸!」


「何織るの!?」


「スカーフッ!? 誰へのプレゼント!?」


「わかった、彼氏だーっ!」


 映像で見た通りの陽気な精霊たちだった。ステラは精霊の勘違いに恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。


「違うの……そこの、えっと……ヨアヒムお兄ちゃんにあげるの……」


「お兄ちゃんって顔かよっ、コイツおっさんじゃん!」


「なっ、んなぁぁっっ?! く、口悪ぃな、おいっ!?」


 俺は98歳ではあるが、コモンウェルス星団の中ではまだ中堅くらいの歳だ……。

 つまり中年ではあるわけなんだが、憧れの精霊さんに面と向かって『おっさん』と言われるのは、きっついわ……。

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